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日本人の寄付意識と寄付行動

日本人の寄付意識と寄付行動

ふるさと納税からインパクト投資まで

※本稿は、SSIR Japan 編『スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版 02 社会を元気にする循環』より転載したものです。

大石俊輔 Shunsuke Oishi

2020年、日本の個人寄付総額は1.2兆円と2011年以来再び1兆円を超えました1。日本ファンドレイジング協会が『寄付白書』を初めて出版した2010年から、日本の寄付市場は緩やかに拡大してきました。また、この10年間で社会的投資など新たなチャネルも、共感型民間資金の流れに加わり多様化が見られます。しかし、寄付先進国で最大の寄付市場規模をもつ米国と比較すると、総額規模は1/30で、名目GDPに占める割合で比較しても6倍の開きがあるのが現状です。日本の寄付の実態はどうなっているのか、最新の『寄付白書2021』を元に全体を概観していきたいと思います2

最新の寄付統計データ(対象期間:2020年1~12月)では、日本の個人寄付推計総額は、1兆2,126億円と推計され、これは名目GDPの0.23%に相当します。

15歳以上人口の44.1%の人が寄付を行い、寄付を行った人は4,352万人と推計されました。前回調査(対象期間:2016年1~12月)と比較すると、寄付総額は前回の7,756億円から1.5倍の増加を示しています。

寄付白書の調査を開始した2009年からの推移で見てみると、2011年を境として5,000億円規模から7,000億円規模に増加し、今回の1兆円超の規模に至ることがわかります。2011年というのは東日本大震災が発生した年でした。この年は、通常の寄付5,000億円に加え震災寄付で5,000億円が集まり、約1兆円の個人寄付が行われました。このことから「寄付元年」ともいわれ、東日本大震災支援をきっかけとして、これまで接点のなかった層にも寄付が広がり一部定着したと見られています。

一方で、今回の1.2兆円の総額の内訳を見てみると、6,725億円と半数超をふるさと納税が占めていることがわかります。2009年当時100億円程度の規模であったことからすると急激な伸びを示しているといえます。ふるさと納税は、寄付額の3割程度までの返礼品を出すことが認められていることから、寄付と定義してよいのかという議論もありますが、災害時の寄付やガバメントクラウドファンディングなど特定の課題解決プロジェクトが見られるようになってきたのも事実です。総額全体に占める規模の大きさのわりに、ふるさと納税の寄付の詳細が明らかにできていないことは課題であり、寄付市場・寄付文化の成熟のためにも、今後丁寧に分析していく必要があるでしょう。

他にもこの10年間では、クレジットカードでの寄付が5倍に増え、インターネットを通じた寄付も2割程度となるなど、手段として定着してきていることや、遺贈寄付への関心の高まりなど、寄付を取り巻く環境も変化と進化を遂げてきています。

寄付に加えて、共感型の民間資金の流れにおいて近年、社会的投資が注目されています。共感的動機にもとづく投資のことで、大別するとESG投資およびインパクト投資に分けられます。環境・社会・ガバナンスへの配慮型のESG投資は世界で35.3兆ドルで、世界の投資総額の約1/3を占める規模であるといわれています。また、より社会的なリターンを積極的に評価するインパクト投資は、7,150億ドルで、市場規模も増加傾向にあるとされています。近年の特徴的な傾向は、このような「社会的リターンも経済的リターンも求める(ダブルボトムライン)」という投資行動を選択する人や組織が増えてきているということです。

2020年は、新型コロナウイルス感染症の拡大で、生活様式の変化を余儀なくされ始めた1年でした。誰しもが感染リスクを負いながらも、寄付を必要とする支援ニーズは多岐にわたり、支援先を絞り込みづらかった、という特異的な状況が生じた年でもありました。このような背景もあってか、阪神・淡路大震災、東日本大震災、熊本地震などの自然災害支援では、寄付した人は20~50%の割合でしたが、新型コロナ関連の寄付者率は8.7%にとどまりました。ただそのなかでも特徴的だったのは、20代の若年層の寄付者率が他世代と比較して相対的に高かったという点と、災害などで導入される義援金という仕組みがなかったことで、クラウドファンディングなどのインターネットを介したプラットフォームが寄付を促進したという点があげられます。また、コロナ禍を経験した人々には、身近な人や見知らぬ他者との助け合いの必要性を認める傾向が見られました。

直近ではウクライナ危機に関連して、寄付で支援したいという人たちの広がりも見られます。ウクライナへの直接寄付や、人道支援などを行うNGOへの支援など、ここでも支援先を絞り込みづらいところが、新型コロナ関連寄付と似ている点でもあるかもしれません。

10年の年月を通じて、自然災害支援などの経験やクラウドファンディングなどの寄付を促進するプラットフォームの出現と普及といった外部環境の変化も後押しして、日本では社会貢献の1つのかたちとして、寄付を行うことは特別なことではないという感覚が、特に若い世代を中心に広がっていると感じます。これからは、多様な社会課題への支援に対して、自身の価値観や関心に照らして、寄付先を調べて選択する、という寄付行為の成熟に向かっていくでしょう。私たちはいま、その変化のポイントに立っているのではないかと感じています。

1.日本の寄付市場の推移

この10年で個人寄付総額は約5,000億円だったものが7,000億円を超えるようになり、寄付者率も30%台から40%台へと増加しました。2011年の東日本大震災を契機として寄付が広まったとみられます。個人寄付総額の内訳を見てみると、55.5%がふるさと納税、22.9%が宗教関連及び伝統的慣習的公益団体、21.7%がいわゆるNPOなど公益団体となっています。年齢が上がるに従って寄付者率も上昇する傾向は各国に見られますが、日本では女性の方が寄付を行う傾向にあります。法人寄付では、NPO法人や社会福祉法人、公益財団・社団法人や、学校法人などいわゆる特定公益増進法人などへの寄付及び国や地方公共団体への指定寄付の比率は3割程度で、7割はその他一般の寄付となっています。

寄付に対する意識に関して、51.8%の人が「寄付は未来への投資だと思う」と回答している半面、77.2%の人は依然として「寄付したお金がきちんと使われているか不安」と感じています。個人寄付総額の日米英の3カ国比較では、アメリカが圧倒的に大きく34兆円規模、イギリスは1.4兆円規模で日本が1.2兆円規模となりました。名目GDP比でもアメリカは1.55%、イギリスは0.47%、日本は0.23%です。日本における寄付の伸びしろはまだまだあるといえるでしょう。

2.社会的投資市場

社会的投資は、一般的な投資から寄付までの間にある、「責任投資」「サステナブル投資」「インパクト投資」の3つの投資形態に分類されます。大別すると、投資先の企業が環境・社会・ガバナンスへの配慮をしているかというESG投資から、より積極的に社会的リターンを評価するインパクト投資に分かれます。

ESG投資は世界で35.3兆ドルとされ、世界の投資総額の1/3を占めています。日本でのESG投資は、2兆8,740億ドルとなっています。

3.クラウドファンディング

国内のクラウドファンディング市場規模は、2018年度で2,000億円超と推計されています。うち寄付型は7億円でした。全体の9割はソーシャルレンディングといわれる貸付型が占めます。購入型・寄付型を併せたプロジェクトでは、災害復興支援や地域活性化、飲食、宿泊施設、観光関連事業者等の応援など、社会貢献やコロナ禍支援の内容も上位に入っています。

4.NPOの現状

NPOへの寄付は、認定の有無で寄付額に大きな差が見られます。認定を受けていない場合、6割が個人寄付なしという結果ですが、認定を受けている場合は、約半数で100万円以上の個人寄付を受けていることがわかります。寄付受入額が多い団体ほど、SNSやクラウドファンディングの活用を行っています。

5.新型コロナウイルス感染症と寄付行動

新型コロナ関連の寄付は支援ニーズが、①感染者を支援するため、②感染拡大を防止する活動を支援するため、③感染症対策から経済的・社会的な影響を受けた団体や個人を支援するためなど、多岐にわたったことが特徴です。この点は、災害支援など支援先が明確な寄付とは異なっています。このような背景もあったからか新型コロナ関連寄付を行った人の割合は8.7%と過去の災害寄付に比べて低くなりました。

コロナ禍を経て、人々の社会意識・態度の変化も見られました。コロナ禍前に比べ、身近な人との助け合いや見知らぬ他者との助け合いが必要という意識が強まったという人が全体の約30~40%。また、自らの参加で社会を変えられるかもしれないという意識についても18%の人が強まったと回答しました。コロナ禍前後でこの意識が強まった人ほど寄付をしています。一方で政府への信頼は低下しています。

大石俊輔 Shunsuke Oishi

日本ファンドレイジング協会マネージング・ディレクター。学生時代より、まちづくり、文化芸術分野のNPOでのボランティアを経験。2008年4月より特定非営利活動法人せんだい・みやぎNPOセンターに勤務。2010年6月日本ファンドレイジング協会入職。2010年日本で初めての寄付白書の編纂で中心的な役割を担うとともに、次世代向けの社会貢献教育の実行責任者として活躍中。専門社会調査士。

  1. 2011年は通常の寄付5,000億円に加えて、震災寄付5,000億円が集まり1兆円を超えた。
  2. 『寄付白書2021』日本ファンドレイジング協会編(2021)
    *本記事は『寄付白書』(日本ファンドレイジング協会)に掲載された図・表・グラフを一部加工し再編成しています。
    https://jfra.jp/research
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