
利益優先のサステナビリティ事業からの脱却
企業のサステナビリティ事業は爆発的に成長しているが利益が優先されて実際のインパクトは見過ごされがちだ。その流れを変えるために重要な3つのステップを示す。
※本稿は、SSIR Japan 編『スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版 02 社会を元気にする循環』より転載したものです。
マイケル・L・バーネット Michael L. Barnett
ベンジャミン・カショア Benjamin Cashore
アイリーン・ヘンリクス Irene Henriques
ブライアン・W・ハステッド Bryan W. Husted
ラジャット・パンワール Rajat Panwar
ジョナタン・ピンクス Jonatan Pinkse
サステナビリティは、人類にとって最大の課題だ。地球の生態系は甚大なダメージを負っていて、存続の危機に直面している1。その責任の一端は企業活動にあるが、果たして企業はこの流れに歯止めをかけられるだろうか。
企業はこれまで、重要な環境問題に自主的に取り組み、膨大なリソース、グローバルな展開力、そして独自の能力をつぎ込んできた。今や、最大手のグローバル企業の90%超が、環境への責任を果たすと公言している2。サステナビリティ事業はどの企業でも見られるようになり、多くの企業では組織構造や文化にまで浸透し、専門性の高い幹部がマネジメントに当たっている。
では、なぜ私たちは未だに危機的な状況にあって、さらに悪い方向に向かっているのだろうか。当然ながら、企業だけが地球のサステナビリティに対する責任を負っているわけではない。政府にも果たすべき役割はある。一方で、環境問題に対してこれほど大きなコミットメントを企業が示しているにもかかわらず、その貢献の成果が不十分なことは証明されている。たとえば、多くの企業が温室効果ガスの過剰排出を止めようとしているにもかかわらず、こうした取り組みが激増した過去30年間の二酸化炭素排出量は、それ以前の250年間を上回った3。
長期にわたって取り組まれてきた、企業による膨大な数のサステナビリティ事業は、本来ならそろそろ環境悪化の進行を止めるか、せめてそのペースを抑制するなどの成果をあげていてもよいはずだ。しかし、多くの経営者自身が認めているように、企業は地球を救うために十分に取り組んでいない4。何かが変わらなければならない。その「何か」とは、サステナビリティに取り組む際の事業企画(ビジネスケース)主義のパラダイムだ。事業企画主義によって、企業のサステナビリティ事業の分野は大きく成長した。しかしながら、事業企画によってサステナビリティの取り組みがプログラムの効果を十分に発揮できないような方向に歪められている。私たちは、手遅れになる前にこの歪みを認識し、正さなければならない。
失敗の歴史
サステナビリティは世界最大の課題ではあるものの、大半の企業はこの課題を経営の中心に据えていない。むしろ企業は、自身の基幹事業を成長させるために環境を荒廃させてきた。企業だけが人類の危機的な状況の責任を負っているわけではないとはいえ、企業活動の影響は非常に大きい。たとえばクライメート・アカウンタビリティ・インスティテュート(Climate Accountability Institute)のデータによれば、1965年から2018年にかけて、全世界の化石燃料由来の排出の35%が、石油・ガス・石炭の最大手企業20社によるものだった。
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翻訳者
- 桑田由紀子