
大きなインパクトの生み出し方:社会を変える非営利組織の実践に学ぶ
社会を変える事業において一般的に広まってきた通説の1つが、「大きなインパクトを出すためには、まずは組織内部のマネジメントを確立すべき」というものだ。しかし、米国で大きなインパクトを出した12団体の研究から浮かび上がった意外な成功条件は、組織の外の力をいかに活かすかということだ。非営利事業、ビジネスに携わる多くの人に影響を与えた書籍のもとになった本論文では、インパクトの高い組織に共通する6つの原則に迫る。(2007年秋号)
※本稿はスタンフォード・ソーシャルイノベーションレビューのベスト論文集『これからの「社会の変え方」を、探しに行こう』からの転載です。
ヘザー・マクラウド・グラント Heather McLeod Grant
レスリー・R・クラッチフィールド Leslie R. Crutchfield
ティーチ・フォー・アメリカは、一介のスタートアップとして悪戦苦闘していた頃から、20年にも満たない期間で米国の教育改革をけん引する原動力へと生まれ変わった。
同団体が設立されたのは1989年、当時大学4年生だったウェンディー・コップが、わずかな資金をもとに小さなオフィス用の部屋を借りて立ち上げた。それが今では、米国内の最も優秀な大学新卒者が集まる団体にまでなった。新卒者たちは、ささやかな給料をもらいながら、2年間にわたって国内各地の教育困難校へ教師の一員として派遣される。過去10年だけでも事業規模は5倍以上に拡大しており、年間予算は1,000万ドルから7,000万ドル、派遣教師の数は500名から4,400名へと成長している。また、この先数年間で事業規模を倍増することを計画している1。
しかし、このような急成長は、ニューヨークを拠点とするこの団体の1つの側面でしかない。たしかに、派遣している教師の数や調達した資金などの計測可能な数値で、ティーチ・フォー・アメリカの成功を評価することもできる。だが、この団体の最も意義ある功績は、教育改革に向けたムーブメントそのものを生み出したことだろう。
一部の教育界のリーダーからは、同団体の教師養成プログラムや教育現場での滞在期間の短さを批判する声もある。しかし、このような評価基準は、ティーチ・フォー・アメリカが生み出してきた、より大きな次元での、数値には表れないインパクトを見逃している。それは、多くの米国人が教員免許制度に対して抱いていた常識を覆し、教育界の既得権益を揺るがしたことだ。さらに最も重要なのは、教育改革運動を支える熱意あるリーダーを、数多く生み出してきたことである。
こうした成果もあって、ティーチ・フォー・アメリカは今や、有名大学生のいちばんの就職希望先の1つとなり、マッキンゼー・アンド・カンパニーなどのエリート企業をも上回る人気を何度も得ている2。また、1990年代に同団体の教師派遣プログラムに参加した人々には、その後チャータースクールを設立した人、選挙に出馬した人、財団を経営する人、全米各地の学校で校長を務める人などがいる。このように、さまざまな立場から働きかけることによって、生徒やクラスごとではなく、学校、学区、州全体に広がるような、システムレベルの変化に貢献している。
ティーチ・フォー・アメリカが比較的短い間にこれほどの成果をあげてこられたのはなぜなのか。また、同じように大きな成功を収めてきたNPOは、いかにして驚くべき社会的インパクトを実現したのか。後者の問いに対して1つの答えを提示することが本稿の目的であり、2007年秋に出版予定の『世界を変える偉大なNPOの条件』(ダイヤモンド社、日本語版は2012年出版)の中心的なテーマである。
本記事はメンバーシップ登録済みの方のみ閲覧いただけます。
-
すでにメンバー登録がお済みの方
-
メンバーシップ(有料)がこれからの方
翻訳者
- 森本伶
- 7
- 5