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〈対談〉篠田真貴子×入山章栄: 日本の「社会の変え方」をどう変えていくか

〈対談〉篠田真貴子×入山章栄: 日本の「社会の変え方」をどう変えていくか

デザイン思考、システムリーダーシップ、Bコーポレーション、インパクト投資、そしてコレクティブ・インパクト……本書では、さまざまな「社会を変える」ための方法論や概念を語る論文を紹介してきた。それでは、世界中で見出されてきたこれらの知見を生かし、これからの日本においてはどのようにソーシャルイノベーションを実践していけるのだろうか。イノベーション研究の第一人者である経営学者の入山章栄氏と、さまざまなビジネス現場での豊富な知見を持ちNPOの理事も務める篠田真貴子氏を招き、本書の各論文のテーマと紐付けながら語り合ってもらった。語られた数々の国内事例から見える、日本におけるソーシャルイノベーションの課題と可能性とは―。

※本稿はスタンフォード・ソーシャルイノベーションレビューのベスト論文集『これからの「社会の変え方」を、探しに行こう』からの転載です。

入山章栄 Akie Iriyama
篠田真貴子 Makiko Shinoda

「1人のための解決策」が「みんなの利益」になる

入山 この本に収録された論文を通して学べるのは、「ソーシャルイノベーションで大事なのは社会的インパクト」だということですよね。営利企業にとってのインパクトが「売上」だと考えると、会社の大きさとインパクトの大きさがほぼ比例します。でも、ソーシャルイノベーションに関しては、「自分たちが単体で大きな成果を出すべき」というものではない。同じ方向に向かう動きが色々なところで起きて、最終的に世の中全体に対するインパクトが大きくなればよいわけです。

─ 今回、SSIRの過去の記事の中から10本を厳選して掲載しました。その総まとめとして最後を飾るのが「10 コレクティブ・インパクト─個別の努力を越えて、今こそ新しい未来をつくり出す」という論文です。各個人や組織が個別(アイソレーテッド)にではなく、いかに集合的(コレクティブ)にインパクトを生み出すかという内容で、まさに入山さんがおっしゃった内容に通じます。

集合的なインパクトの大きさをどうやって高めるか、その1つの解答が「社会を動かすカーブカット効果─マイノリティへの小さな解決策から生まれる大きな変化」という論文に示されています。この論文は、ある夜にこっそり、歩道の縁石(カーブ)にある段差に市民がゲリラ的にセメントを流し込んで、車椅子ユーザーが通れるように傾斜をつくってしまったエピソードから始まります。するとこの取り組みは、車椅子ユーザーだけではなく誰にとっても使いやすいことがわかり、全国に広がっていきました。このことを、この論文は「カーブカット効果」と呼んでいます。

篠田 これを読んで思い出したのが、ある大手企業の労働組合の方に伺ったお話です。コロナ禍で学校が休校になって「家で子どもを見ながら働くのが大変」という社員の声を受け、勤務時間中に仕事から離れて子育てに専念できる、「中抜け」タイムを持てる制度を会社に提案したそうです。

そのとき、「子どものいる社員だけが中抜けを許されるのはフェアじゃない」という話が出て、「だったら全員オッケーにしよう」ということになったんですね。在宅勤務の全社員にこのルールを適用したら、とても働きやすくなって子育て中の社員以外にも大変喜ばれた、というのです。これがまさにカーブカット効果ですよね。最初はマイノリティのために問題提起がなされるのだけれど、その課題解決が実はマジョリティのためにもなるという。

─ そうです。この論文では、「特定のマイノリティにフォーカスした政策は不公平だ」というゼロサムゲームの見方は思い込みで、実際はみんなのためになるし、経済的な効果も大きいのだと書かれています。これは、富裕層がより豊かになれば社会全体に富が広がっていくという「トリクルダウン説」とは逆の主張です。マイノリティや貧しい人を助けないで、どうやって社会全体が豊かになるのか、と問いかけています。トリクルダウン説を唱える政治家や、特定のマイノリティの困りごとをなんとかしたいという想いからスタートしているNPOの人たちにも、ぜひ読んでいただきたいですね。

入山 同性婚をめぐる問題もそうですね。同性婚と夫婦別姓は別々に議論されていますが、同性婚には「夫婦の姓をどうするのか」という課題も含まれています。同性婚をめぐる問題を解決することで、制度疲労を起こしている結婚制度全体へのインパクトも生まれるはずです。

─ そうですね。現状、世界が行き詰まっている感覚があるのは、選択肢がないように見えるからだと思います。いま、カーブカット効果の話をもとに、おふたりからいくつかの具体例が出てきました。このように「ある場所ではこんなことが起きている」「別の産業ではこういうアイデアがある」という議論が盛んになると、選択肢が増えたり新しい選択肢をつくるヒントが得られたりしますよね。

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