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従業員アクティビストたちの組織の動かし方

会社は社会的責任を果たすべきだという従業員からのプレッシャーはますます強まり、会社に対して実際に行動を起こす人も増えている。どうすれば従業員は効果的な変化の担い手となれるのか。そして、リーダーは従業員アクティビズムにどう対応できるのか。その戦略について説明する。

※本稿は、SSIR Japan 編『スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版 01 ソーシャルイノベーションの始め方』より転載したものです。

フォレスト・ブリスコー Forrest Briscoe
アビナーヴ・グプタ Abhinav Gupta

近年、アメリカの名だたる企業が新聞の見出しを飾るのは、新製品の発表ではなく、従業員アクティビズムで注目を集めたときだ。2019年にはアマゾン・ドット・コムの従業員4000人が、自社が気候変動を悪化させていることを批判し、対応を求める株主提案を行った。その前年にはグーグルの従業員2万人が、自社の甘いセクハラ対処方針に抗議するためにストライキを実施した。2020年にはウォルト・ディズニー・カンパニーの従業員が、新型コロナウイルスのパンデミックの真っ只中にテーマパークの営業を再開することへの安全面の懸念を表明するため、車で行進する抗議活動を実施した。さらに同年フェイスブックの従業員が、人種差別やヘイトスピーチが自社のプラットフォームで容認されていることに抗議するバーチャルストライキを展開した。

これらの出来事は、従業員が組織の内側から社会の変化を訴え、時には自社の批判も辞さないという、従業員アクティビズムの台頭を象徴している。このトレンドは、従業員と職場の両方にさまざまな影響を与えている。アマゾンの場合、2019年の従業員株主による提案を受けて、2040年までに自社の二酸化炭素排出量をゼロにすることを約束した。一方、グーグルは従業員のストライキに対してその要求をかわし、今後のアクティビズムを阻止するために従業員ハンドブックを改定した。その後、ストライキを計画した従業員の多くが職場から追い出され、45人の従業員が同社による降格などの報復を報告している。

企業の社会的責任(CSR)の向上に対する従業員の期待の高まりは、従業員アクティビズムの活発化の一因となっているが、それは従業員が、社会や環境に悪影響ではなく恩恵をもたらす企業で働きたいと考えるようになっているからだ。企業がCSR 活動にもっと力を入れるよう、多くの労働者が声を上げており、自らの雇用主に圧力をかける場合もある。実際、2019年にウェーバー・シャンドウィックが実施したアンケート調査では、アメリカの被雇用者の75%が「従業員には雇用主に声を上げて反対する権利がある」という意見に賛成した。「反対する」はわずか14%、「わからない」は11%だった。

従業員アクティビズムは、従業員の間では支持を広げているものの、多くの企業リーダーの間では物議を醸している。従業員は、自分たちが行動を起こそうとするとき、成功する可能性を高めるやり方とはどんなものなのか、理解を深める必要があるだろう。また、管理職側も、従業員アクティビズムの動向が組織運営において今後もますます重要になることから、どうすれば有意義なかたちで向き合えるのかを知る必要がある。

従業員アクティビズムに正攻法はないが、社内でのロビー活動から問題の周知啓発、さらには集合的に組織化してビジネスを妨害することで圧力をかけるなど、多様なかたちがある。本稿では、行動を起こそうとする従業員に向けて、現代における従業員アクティビズムの全体像を把握する手がかりを示しながら、リスクを考慮したうえで効果的な戦術とは何かを提供したい。また、従業員アクティビズムに直面し、支援したいと考えている管理職へのアドバイスも提供する。

従業員アクティビズムの台頭

ここでは、従業員アクティビズムを「自社とつながりのある社会課題の解決に向けて、従業員が協調的なアクションをとること」と定義する。これには、組織内の変化を促進または阻止する場合と、課題への関心を社会に広めるプラットフォームとして自社を活用する場合がある。

従業員アクティビズムには、工場労働者からホワイトカラーの社員、ひいては経営層まで、あらゆる立場の人が参加している。正社員とパートタイム社員に加えて厳密には従業員とはみなされない外部の業務委託先もアクティビズムに参加することがある(たとえばUberの運転手)。ウェーバー・シャンドウィックによる2019年のアンケート調査では、中堅・大企業の従業員の5分の2が、何らかの従業員アクティビズムへの参加経験があると答えた。具体的には、38%が「社会的影響があり、賛否の分かれる問題に対する(自身の)雇用主の行動を、支持または批判するために声を上げた経験がある」と回答したのだ。

現代における従業員アクティビズムの原点は、初期の従業員アクティビストのグループがアメリカの企業内で結成され始めた1970年代まで遡ることができる。多くの場合、女性やマイノリティーによって設立されたこれらの先駆的なグループは、雇用されている組織のなかでコミュニティを形成する方法や、差別を禁止する企業方針や平等な権利を主張するための新たな方法を模索していた。コーポレート・フュー(CorporateFew、当時のゼロックスの黒人管理職が中心となって活動)やウィメン・オブ・AT&T(Women of AT&T)などの従業員グループは、たいていは勤務時間外に集まり、会議や業界イベントの場でつながっていった。参加者の多くは、グループの存在を経営層が認めないのではないか、さらに悪い場合には、組合結成を目指す脅威だとみなして、参加者を解雇やキャリア上の懲罰の対象として報復するのではないかと不安を感じていた。

1990年代に入ると、従業員アクティビストのグループの多くにとって大きな変化が訪れた。経営層が従業員アクティビストを、扇動者ではなく、変化を目指す取り組みの第一人者としてみなすようになったのだ。

組織内で新たな正当性を得たことで、従業員アクティビストのグループは企業から資金援助を受けるようになり、「従業員リソースグループ」として再定義された。この動きと並行して、多くの従業員アクティビストがより強力な外部ネットワークを構築し始めた。業界をまたいで共通の目標を掲げるさまざまなグループを結集するため、全米女性情報技術センター(NCWIT)のように産業界を中心としたNGOや、エンバイロメンタル・ディフェンス・ファンド・クライメート・コープ(Environmental Defense Fund Climate Corps)のような全国規模のNGOと連携するようになったのだ。

従業員アクティビズムを定義づける特徴の1つが集合的〈コレクティブ〉アクション、すなわち、共通の目標を達成するために多くの個々人が協調的なアクションに参加するというプロセスだ。集合的アクションを通じて、従業員は個人単位の活動よりも大きな力を得ることができる。一般に、集合的アクションには同じ組織の従業員が参加するが、異なるセクターや独立系NGO、またコミュニティグループから色々な人が参加することもある。たとえば、アメリカ最大のLGBTQ支援団体であるヒューマン・ライツ・キャンペーン(HRC)は、あらゆる大手企業の従業員グループと協力し、LGBTQに対する企業の姿勢について情報を集めて発信しながら、よりインクルーシブな企業方針の採択を強く求めている。

従業員アクティビストは、雇用企業と関連のある社会課題を何とかしたいという思いによって突き動かされるが、これらの問題のほとんどが、主要なCSR課題とも関連し合っている(下の図「CSR課題の種類」参照)。職場のCSRには、女性、人種的マイノリティー、LGBTQの従業員など、これまで過小評価されてきたグループのダイバーシティ&インクルージョンに関する企業方針といったものがある。環境CSRは、地球規模の温室効果ガス対策から地域コミュニティでのリサイクル活動まで、幅広い課題をカバーしている。また、特定のサプライヤーや顧客との取引について問題視する従業員アクティビストもいる。たとえば取引先がCSR活動の実績に乏しかったり、自社の製品やサービスを利用して一般市民の権利を侵害したりするような場合だ。

従業員アクティビズムと労働組合に共通点はあるものの、後者は賃金や労働環境に関する企業の意思決定への交渉に特化している点で一線を画している。労働組合は労働環境以外の社会課題に取り組むプラットフォームにもなり得るが、従業員アクティビストはホワイトカラーのサラリーマンが多く、彼らはアメリカの伝統的な労働組合と連携することにはあまり関心がない。さらに、労働組合の活動は団体交渉権に関する法律や職場の方針による制約があり、たとえば、組織の労働者を代表する交渉団の結成方法、そのリーダーの決定方法、経営陣との交渉方法、抗議方法、苦情の処理方法、資金の獲得方法や使途などが規定されている。これとは対照的に、従業員アクティビズムはこういった規制を受けず、幅広い組織のかたちや戦術を採用して、すばやく活用することができる。

従業員アクティビストの多くは、雇用企業と関係のあるCSR課題に注力しているが、社会へメッセージを広めるためのプラットフォームとして自社を活用する従業員アクティビストも存在する。最近の例としては、プロスポーツ選手が人種間の不公正や警察の暴力行為への関心を高めるべく、所属チームやリーグの人気とメディアでの露出度を活用してブラック・ライブズ・マター(BLM)運動への支持を表明したことが挙げられる。このような事例では、組織内の変化というより、社会に構造的に存在する人種差別の問題全般に人々の関心を向けることを目指している。

戦術の宝庫

従業員アクティビズムは幅広い戦術を活用して社会課題への注目を高め、意思決定者たちを動かして自分たちが目指す変化を起こそうとするものだ。マスコミは多くの場合、労働者によるストライキといった目立つニュースに注目しがちだが、最近の研究によれば、従業員アクティビストは、リスクが少なく効果が高いと思われる地味な戦術を実行することのほうがはるかに多いことがわかっている。

下に示す図は、従業員アクティビストの戦術の幅広さを示したものであり、その行動が企業に与える打撃に基づいて体系的にまとめている。攻撃型の戦術は主に組織内の通常業務を不安定にすることと外部の評判を下げることを意図しており、企業の経営陣がアクティビストの要求に譲歩するよう圧力をかける。一方、説得型の戦術は、組織外からは見えにくいコミュニケーションツールやアプローチを使って、組織内の従業員や経営陣を動かすことを目指すことが多く、攻撃性は低いと言える。

攻撃型の戦術には、工場設備やウェブサイトといった企業の貴重な資産に損害を与えたり、自社に不利な内部情報を外部のNGOに提供し、ソーシャルメディア上で公開することで企業の評判を傷つけたりするといったものがある。説得型の戦術の例としては、企業のCSR活動を強化するメリットをうまく説明し、経営幹部に「問題を売り込む」といったものがある。なお、従業員によるストライキや座り込みのように、戦術によっては24時間稼働している製造工場や病院に破壊的な影響をもたらす一方で、現場に常駐する労働力をそれほど必要としない組織にはあまり効果的ではないものもある。

社会学者のダグラス・マカダムは、従業員アクティビズムの戦術を革新性で整理することも可能だと指摘している。「従業員アクティビストの戦術」の図において、縦軸の上の方に位置する戦術は、まだ一般的な手法にはなっていない実験的要素が強いものだ。革新的な戦術は、従業員アクティビストにとって有利に働く場合がある。企業の不意を打ち、メディアの注目を大きく集めることで、経営陣に対して自分たちの要求に沿った方針変更を求める圧力が増すからだ。アマゾンの従業員アクティビストが気候変動対策の行動を要求した事例では、革新的な戦術がとりわけ成功に大きく貢献した。従業員たちは、同社の株を所有しており、企業の姿勢を批判する株主提案を行うことができたのだ。

説得型寄りの戦術は、組織内での変化を促進したい場合に、より高い効果が期待できる。たとえば、2018年にナイキの管理職グループが、職場の風土についての認識に関する非公式な社内アンケート調査を実施した。職場で性差別と人種差別がまん延しているというアクティビストの主張を裏付ける非公式な結果が示されると、同社の経営陣は正式な調査を立ち上げるほかなかった。この調査は、幹部の交代につながり、職場内の偏見や違反行為の報告と処置に関する方針が変更された。この事例を主導したのは管理職であった。

従業員アクティビストが使うさまざまな戦術のうち、新しいものではツイッターやフェイスブックといったソーシャルメディアのプラットフォームを利用することがある。ソーシャルメディアは、強力なツールだ。なぜなら、従業員が簡単にすばやく集まることができるし、その過程で、顧客、将来の従業員となり得る人、その他のステークホルダーに、企業の慣行について速やかに周知できるからだ。一方で企業は、自社に対するステークホルダーからの好感度を上げるために、従業員が自社のCSR活動をソーシャルメディアで宣伝する「自社を支持するアクティビスト」になるよう促すこともある。たとえば、デルには従業員による発信促進プログラムがあり、社員を「ソーシャルメディア&コミュニティ・プロフェッショナル」として認定し、自社ブランドの関連コンテンツをインターネット上でシェアすることを奨励している。このプログラムを通じて、立ち上げから1年でデルのウェブサイトが15万回以上シェアされ、同社の事業への好意的な関心を高めたとして高く評価されている。

4つのマクロなトレンド

私たちは広範な戦術を見たうえで、今世紀の従業員アクティビズムの成長に貢献した、4つのマクロな社会的トレンドを特定した。これらのトレンドは、いくつかの点で互いに増強し合っている。たとえば、情報を拡散しやすくする新しいテクノロジーは、緊急性の高い社会課題の認知度を広め、企業にアクションをとってほしいという働き手の期待がますます膨らんだ。同様に、エンパワーメントの考え方が世界的に拡大したことによって、新しいテクノロジーを使って問題のあるビジネス慣行を公表しようと勇気づけられた従業員が増えている可能性もある。

1)働き手の期待の高まり
2016年にギャラップが実施した世論調査によれば、アメリカのミレニアル世代以降の若い働き手は、生計を立てる手段としてだけではなく、自分の仕事に意義や目パーパス的を見出したいと思っている。このような従業員が労働人口に占める割合が大きくなり、より影響力のある地位に就くにつれて、自分の仕事に意義や目的を見出したいという思いが自社にもっとCSR活動に取り組んでほしいという期待に直結するようになっている。さらにその世論調査によれば、ミレニアル世代や若年層の従業員は雇用主に対する忠誠心が低く、アクティビズムへの参加で生じる仕事上のリスクをいとわない人が増えていることが示唆されている。

2)経営理念としてのエンパワーメント
エンパワーメント、すなわち、従業員の権限を強化することで、従業員一人ひとりが自らの仕事を先導するとともに、組織の意思決定に意見を反映できるようにすべきであるという考え方の利点は、何十年も前からビジネススクールで教えられており、業界を超えて広く受け入れられている。1980年代の総合的品質管理(TQM)運動から、近年では組織内におけるイノベーションや起業家精神の文化構築への注目まで、労働者が声を上げられる環境をつくることは、常にマネジメント論の大きなテーマとなってきた。当然のことながら、事業改善のためのアイデアや懸念を周りと共有するよう促された従業員は、CSRに関するアイデアや懸念についても声を上げる可能性が高い。

3)緊急性の高い社会課題
気候変動、水不足、基本的人権といった問題に関してますます企業への注目が高まっているが、その背景には、企業は強さも能力も備えた変化の担い手であり、一方で政府は政治的な分断が大きすぎて効果を発揮できない、という考え方がある。このような背景から、自社がこれらの社会課題にどう関わっているか、また自社はどうすればより良い方法でその解決に取り組めるかという両方の側面について、従業員が注意深く考えるようになってきている。

4)新しいテクノロジー
この10年間で、さまざまなソーシャルメディアのプラットフォームが情報交換の可能性を広げ、アクティビストは戦術を簡単かつすばやく計画し、実行できるようになった。従業員たちは、自社の関連情報をシェアしたり、イベントを共同で計画して人を集めたり、これまではあり得なかったかたちで組織、業界、セクター、地理的条件をまたいでさまざまな活動を連動させたりできるようになった。しかも、ソーシャルメディアを使えばこれらが無料でできるのだ。また、こうしたテクノロジーによって、従業員は幅広く人々に声を届けられるようになっている。たとえば、フェイスブックの従業員が、SNS上の投稿を確認するコンテンツモデレーター職の低賃金と精神的トラウマについて訴えると、ソーシャルメディア上で広く拡散されてメディアの注目を引きつけ、同社と従業員の法的な和解につながった。

従業員アクティビストの戦略

こうしたマクロな社会のトレンドからソーシャルムーブメントの研究を整理してみると、組織の慣行や方針、意思決定の仕組みなどに対して、どうすれば従業員アクティビストが効果的な変化の推進力になれるのか、という洞察がいくつか得られた。以下、そこから導かれた手法について説明していく。これは従業員アクティビストとして成功を目指す人のためのガイドになるだろう。このプレーブックの中心的な考え方は、通常のビジネス改革を実現しようとする経営者や起業家に対して専門家がアドバイスするような内容と重複する部分もあるが、社会課題に特有の、明らかな違いもある。下に示した図では、主な手法の概説と、従業員アクティビズムを支援しようとする管理職レベルの協力者に対する提案を示している。

1)状況の分析
従業員アクティビストになりたいと考えているなら、いまが行動を起こすべきタイミングなのかをまず自問しよう。従業員アクティビストは、成功の可能性(成功すると通常は企業方針の変更を伴う)と、同僚や管理職など組織内の人々からの報復のリスクを慎重に比較して検討すべきだ。実際に報復のリスクはある。最悪の場合は職を失い、「厄介者」や「要注意人物」というレッテルを貼られてキャリアに傷がつくこともある。キャリアへのダメージは、遠回しなかたちで生じる場合もある。たとえば、昇進の検討対象から外される、社内あるいは業界内で仲間外れにされるといったケースだ。

また、個人としてどの程度リスクをとろうと思っているか、あるいは個人的信念がどの程度強いかとは別に、組織側の要素も活動の成果に影響し得るため、アクティビストはこれらを慎重に検討しなければならない。例として、アクティビストは自分たちの目標が組織のミッションや目的〈パーパス〉や価値観〈バリュー〉とどの程度同調しているか検討する必要がある。「人々の暮らしを改善する」というミッションを掲げている組織であれば、それと矛盾する証拠を握っているアクティビストとの対話に応じやすいかもしれない。同様に、差別についての個人的な体験を公の場で話したことのあるCEOなら、従業員のダイバーシティの問題に関するアクティビズムを受け入れやすいかもしれない。

従業員アクティビストは、組織が公表しているミッションや価値観といったものだけでなく、組織文化に関する要素にも注意を払うことが重要だ。イノベーションを重んじる組織なら、そのトップも自社のビジネスや社会課題に関連するイノベーションについて知りたいという意欲が高いかもしれない。アクティビストはまた、競合他社に意識が向かいやすい経営陣の傾向を利用して、業界のトレンドをリソースとして活用することもできる。ライバル企業がとらえている業界のトレンドを逃すことをトップが恐れていれば、自社を変えようと考えるかもしれない。最後に、従業員アクティビストは、自分たちが自社に対して持っている個人的な影響力について考えてみるのもよいだろう。たとえば、雇用主にとって失う(あるいは後任を見つける)代償が高い特殊な知識やスキルや能力を持っている従業員であれば、アクティビズムに関わることの弊害を受けにくいことがある。企業に欠かせない従業員が参加して連携すれば、経営陣に有意義な検討をしてもらえる可能性が高くなるはずだ。

2)問題のフレーミング
問題のフレーミングは、支持者や第三者から直接的なアクションを引き出せるような状況をつくりだすためには欠かせない能力だ。具体的にはアクティビストが解決策の提案とともに問題を明らかにしたり、組織のミッションやニーズ、そして利益に沿った表現を使って、組織が問題を認識するのをアクティビストが手助けしたりすることである。例として、LGBTQに関する問題である同性パートナーへの福利厚生制度についてアクティビストがフレーミングする際には、企業が「優秀な人材の争奪戦」を制するため、あるいは「評判の高い雇用主」として注目を集めるために福利厚生制度を導入する必要があると主張した。このように問題をフレーミングすることで、自分たちの目標を効果的に企業の利益と結び付けたのである。

当然のことながら、アクティビストは相手に合わせて問題をどうフレーミングするかを変える必要があるだろう。たとえば、職場におけるダイバーシティ推進活動では、優秀な人材を確保することの金銭的価値に焦点を当てた事業寄りの説明をするほうが響く経営者もいれば、公平性や公正性の問題に焦点を当てて、問題を道徳面から訴えるほうが響く経営者もいる。アクティビストにとっての難題は、特定の相手に対して効果の高いフレームであると同時に、経営トップの交代、新たな法律、新たな社会の論争といった、次々と変わる状況に対応できるような柔軟なフレームを選択しなくてはならないということだ。そのため、問題のフレーミングには常に、実験と調整が求められる。

3)既存のプロセスや場所の活用
従業員アクティビズムには集合的なアクションが欠かせない。しかし、作戦を練るために集まる場所として、必ずしも職場が適しているとは限らない。最初にぶつかりやすい課題の1つが、それぞれの問題意識を共有するために、自分にとっても他の人たちにとっても都合のよい時間を見つけることだ。そして、これよりもおそらく大きな壁になるのが、実際の場所であれバーチャル空間であれ、従業員が幹部による報復を恐れることなく自由に発言し、問題についての共通理解と有力な解決方法を考えるための場所を探すことであろう。

これまでも従業員たちは創意工夫をこらして組織内にすでにあるインフラを活用することで、自社が社会課題に取り組むための機運を生み出そうとしてきた。たとえば、1980年代にダイバーシティを推進する従業員グループが初めて設立された当初、あるアクティビストらは会社のメーリングリストを使って、大企業内で仲間を探した。また、勤務時間外の集まりやブレインストーミングのための打ち合せには、会議室や研究開発施設やオンライン会議ツールが利用された。さらに業界カンファレンスも、異なる企業のアクティビストが互いに情報共有できる機会として頻繁に活用された。

組織や職務上のインフラを利用して他の人と連帯すること以外に、従業員アクティビストが目標達成に向けて活用できるのが、既存の意思決定システムや、企業の意思決定の慣行に関する知識だ。ナイキでサステナビリティの向上を推進していた従業員たちは、既存のサプライヤー評価システムを活用した。納期の遵守、原価構成、品質保証といったさまざまな基準でサプライヤーを評価するシステムに、サプライヤーの事業におけるサステナビリティへの取り組みを評価する項目を加えたのだ。

4)組織についての知識の活用
組織についての知識は、ここまで述べてきたすべてのステップを円滑に進めるために役立つものだが、アクティビストがこれを活かす絶好の機会となるのが、組織内の政治的事情に関する知見を使って、影響力のあるインフルエンサーを巻き込み、セクター横断の協力体制を築くことだ。非公式な社風や社内政治をよく知る従業員なら、社内の誰であれば、協力者として自分たちの信念に共感してくれて、他の関係者を動かす力と政治的な抵抗を乗り越える力を持っているかを特定できるだろう。

たとえば、メディアおよび金融関連のデータを扱う複合企業ブルームバーグ・エル・ピーで働く、先進的な意識あるマネジャーが、ESG(環境・社会・ガバナンス)評価指標づくりを推進しようとしたとき、社内の一部の部門から懐疑的な反応があり、ESG評価指標はブルームバーグ全体の戦略との関連が弱いのではないかと指摘された。このマネジャーは怯むことく、従来の伝統的なエクイティを扱う部署の優秀なラインマネジャーに支援を求めた。このラインマネジャーは同社のサステナビリティやCSRの取り組みとは直接関係がなかったものの、彼の支持があれば同社の中心的な事業部の人々を動かしやすくなると考えたのだ。その読みは正しかった。ラインマネジャーの支援を得ることで、ESG評価指標づくりへの支持が十分に広がり、同社での採用にいたったのだ。

アクティビストはまた、組織内のあちこちから多様な従業員と管理職を集めて協力体制をつくることを検討してもいいかもしれない。組織改革に関する研究はこのアプローチを支持している。異なる地位や部署や地域からメンバーを集めたグループのほうが幅広く支持を得られるだけでなく、さまざまな視点や人とのつながりを提供してくれるので、より効果的に改革を進めやすくなるからだ。

組織についての知識をうまく活用するもうひとつの方法は、他の人たちを巻き込んだり、変革のメリットについて自社を説得したりするときに、どの外部指標が強力な事例になるのかを特定することだ。自社がさまざまな経営判断をする際にベンチマークとしてよく参照している組織を特定できれば、アクティビストは変化に向けた提案をする際の戦略として、それらの組織を引き合いに出すことができる。

このアプローチを実証したのが、1990年代に職場のダイバーシティ推進に取り組んだアクティビストたちだ。彼らはベストプラクティスのベンチマーク評価を行う事業連合体であるメイフラワーグループを活用すれば、他の組織の意思決定にも影響を与えることができるのではないかと考えた。

当時、メイフラワーグループには、ゼロックス、ジョンソン・エンド・ジョンソン、モトローラ、フェデックスコーポレーションなど、十数社のフォーチュン500企業が参加しており、これらの企業はさまざまな経営手法のリーダーやアーリーアダプターであるとみなされていた。各業界のライバル企業はメイフラワーグループの動向を注視していたので、数社の加盟企業がLGBTQ従業員のパートナー向けの福利厚生サービスといった、ダイバーシティを受け入れる新しい人事制度を採用すると、ライバル企業のアクティビストたちは、このような企業の動きは新しい人事制度のメリットを証明していると主張するようになった。もちろん、このアプローチが成功するためには、自社ではどの外部指標が説得力のあるベンチマークとなるのか、また、それに関して合意形成がどこまで進んでいるのかについて理解しておくことが必要だ。

5)ネットワークの活用
業界団体、サプライヤー、規制機関などが集まる外部ネットワークを管理したりそれに参加したりすることで営利企業が利益を得られるのと同様に、アクティビストもまた、NGO、業界団体、同業他社の従業員との関係性を築けばその恩恵を受けられる。

外部ネットワークの普遍的な恩恵のひとつが、戦術に関する情報交換ができるという点だろう。たとえば、他の組織で何がうまくいったのか、いろんな組織で共通する課題は何かについて知識を共有し、吸収することで自分たちの取り組みを強化することができる。こうしたアクティビズムに関する情報は、仲間のアクティビストや今後仲間に加わる可能性のある人たちを活気づけるだけでなく、経営陣の注目を集めるための強力なムーブメントをつくりあげるためにも役に立つ。

また、知識を単に共有するだけでなく、データを共有することで、それぞれの組織がどれくらい前進しているかを追跡した業界評価情報を蓄積することもできる。多くの研究が示しているように、企業は良い評判を求め、フォーチュン誌の「働きがいのある企業」のような有名なランキングで上位に入るために競い合っている。アクティビストたちは、自分たちのネットワークを利用して、組織の慣行に関する情報を蓄積し、関心の高い項目に基づいて企業を格付けするなどして、企業のこうした傾向をうまく活用できるだろう。

このアプローチの有効性を最も効果的に実証しているのが、ヒューマン・ライツ・キャンペーン(HRC)だろう。HRCは、自分たちのネットワークを活用して、アメリカの大企業の人事や職場環境に関するデータを蓄積し、企業平等指数(CEI)などの情報を年次報告書として公表している。データの情報源は、企業ウェブサイト、従業員ハンドブック、従業員調査、インタビューなどと幅広い。このデータは、LGBTQコミュニティ内のアクティビストや将来の従業員が、どの企業が中身のある取り組みを進めていて、どの企業が後れを取っているかを見つけるのに役立つだけでなく、企業間でより良い結果を生み出そうとする競争意識をつくりあげている。HRCは満点(100%)を得るために必要な新しい評価指標を続々と追加しており、アクティビストたちは企業間の競争を盛り上げようとしている。

従業員にとっては、同業他社のアクティビストと連携するだけでなく、取引先や顧客企業にいる同志とつながりを築くことも効果的だ。なぜなら、取引先や顧客企業は重要な収益源であり、企業トップは相当な配慮をするためである。たとえば、法律事務所など専門業種の企業に勤めながら人権問題など社会正義の実現に取り組む人たちはしばしば、組織の内側にも外側にも連動したメッセージを発信できるように、重要なクライアントと連携してきた。

管理職に対するアドバイス

今後、従業員アクティビズムは定着し、あらゆるセクターで事例も増えていくだろう。したがって、管理職はこの新たな現実に適応する必要がある。少なくとも組織に対して不要なコストやさらなる混乱が生まれるのを避け、理想的には、従業員アクティビズムが企業にもたらし得る新たな共有価値を引き出すという積極的な役割を担うべきだ。これから、管理職が従業員アクティビストとより効果的に関わるための、3つのステップを提案したい。

管理職がまず最初にできることは、現代の社会課題がどのように組織の目的〈パーパス〉、ミッション、価値観とつながっているのかについて理解を深めることだ。自社の収益事業が、CSR活動のさまざまな側面とどう関連しているかを十分に検討しなければならない。大企業であれば、関連する領域の責任者がこれに取り組むことになるが、小規模な組織であれば経営陣が自ら取り組んだり外部の専門家と相談したりする必要があるだろう。いずれにしても事前に取り組んでおけば、従業員から要求が噴き出したときに不意を突かれるという事態を回避できるし、今後登場してくるアクティビストの声に対応する際に役立つだろう。

次にできることは、非営利団体や業界団体、あるいは重要な社会課題の第一人者のような、組織内外のステークホルダーとの関係を深めることだ。関係構築に時間はかかるが、十分な見返りを得られるだろう。公式な関係も非公式な関係もあるし、従業員が率先して外部ステークホルダーとの橋渡し役になってくれるかもしれない。こうしたつながりによって、管理職は情報を得て、社会や業界の最新のトレンドに注意を払い、自分の盲点や先入観に気づくことができる。さらに、従業員アクティビストとの信頼関係を築いたり、アクティビストと経営陣をつなぐ重要な仲介者になれる可能性もある。

第三に、うまく対処できる管理職は、従業員アクティビストの声に耳を傾ける方法を学び、従業員それぞれの考え方や懸念を共有する場を提供している。オープンなマインドを持っている管理職は、従業員のアイデアが短期的には望ましくない妨害のように見えても、長期的には組織の利益になり得るということに気づく。耳を傾けることは、要求に屈することとは違う。むしろ、異なるステークホルダーの視点を理解しようとするための機会である。耳を傾けた後は、対照的な意見について、あるいは自社の事業がさらされているプレッシャーについて話したりするための、話し合いの場を設けるのもよいだろう。

管理職のなかには、従業員アクティビズムが目指す組織の変化を率先して助ける協力者になろうと考えてる人もいる。こうした協力者は、必ずしもアクティビズムに参加するとは限らないが、「従業員が用いる手法と管理職による支援」の図に示されるように、組織とそのトップに精通していることを利用して従業員を手助けすることで、アクティビズムの成功の有無に大きな影響を与えることがある。ほとんどの場合、管理職が協力者になることを選ぶ理由は、個人的な価値観と従業員アクティビストの目標が一致するからだ。しかしながら、協力者になることはビジネス面でも有益である。従業員アクティビズムとその取り組みは、新たな製品、サービス、顧客層およびビジネスチャンスを見出すためのきっかけとなることもあるし、ステークホルダーとの関係を改善し、場合によってはイノベーションの火付け役となることもあるからだ。さらにアクティビズムの取り組みは、優秀な人材を呼び寄せ、市場での良い評判を支える組織文化の維持に貢献することもある。

どのような状況や場合であっても、初めからアクティビストの従業員を見当違いのトラブルメーカーだと決めつけてしまうことは避けるべきだ。プロセス全体を通じて丁寧さと透明性を保つことは欠かせない。たとえ議論が過熱しても、管理職は丁寧さと透明性を示す模範となる必要がある。

社会の利益を共に生み出す

今日、ビジネスリーダーが直面するステークホルダーをめぐる状況は複雑さを増し続けているが、従業員アクティビズムはその1つである。従業員らによる「事業改善に関するアイデア」と「社会課題に取り組むべきだという要求」を経営層が明確に別の問題として捉えることができる時代は終わり、むしろこれらの境界が曖昧になってきている。

先見の明のあるリーダーは、このトレンドは従業員アクティビストたちの長所を活用できる機会だと捉えている。アクティビズムの利点としては、新しい製品やサービスやビジネスチャンスを見つける、創造的な人材を呼び寄せる組織文化を維持する、そして市場における組織の良い評判を支えることなどが挙げられるだろう。こうした利点を活用できれば、現在ますます危うくなっている「社会的利益への貢献者」の立場をビジネスリーダーが取り戻せるかもしれない。また、自社の収益に対する脅威を回避し、長期的にビジネスを続けていく可能性を高めていくことができるだろう。

【翻訳】友納仁子
【原題】Business Disruption From the Inside Out(Stanford Social Innovation Review, Winter 2021)
【写真】Alex Knight on Unsplash

フォレスト・ブリスコー Forrest Briscoe

ペンシルベニア州立大学スミール・カレッジ・オブ・ビジネスの経営学教授およびフランク&メアリー・ジーン・スミール研究フェロー。

アビナーヴ・グプタ Abhinav Gupta

ワシントン大学フォスター・スクール・オブ・ビジネスの経営戦略学准教授。

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