コレクティブ・インパクト : 個別の努力を越えて今こそ新しい未来をつくり出す

コレクティブ・インパクト : 個別の努力を越えて今こそ新しい未来をつくり出す

社会を変えるためには「コラボレーション」が必要だ―これは何十年も前から言われてきたことであり、さまざまな形のコラボレーションが模索されてきたが、多くの成果は出ていない。2011年に発表された本論文「コレクティブ・インパクト」は、従来の方法論と異なるコンセプトを提示し、大きなインパクトをもたらすアプローチとして反響を呼んだ。その後、各国でアクションが生まれ、毎年国際カンファレンスも開催されるなど、グローバルな実践と学習が続いている。複雑な問題の解決に向けて、個別の活動をそれぞれ追求するのでもなく、あるいは全員が同じ”集団的”な行動をとるのでもなく、互いの違いを活かしながら、共通の目標に向かって”集合的”なインパクトを生み出す5つの原則とは何か。

※本稿は、SSIR Japan 編『これからの「社会の変え方」を、探しにいこう。――スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー ベストセレクション10』より転載したものです。

ジョン・カニア John Kania
マーク・クラマー Mark Kramer

米国の公教育システムは、その規模と複雑さのために何十年もの間、改革に失敗してきた。アネンバーグ財団、フォード財団、ピュー慈善信託といった有力な資金提供者が、取り組みに進展がないことを認め、失意のうちにその多くを断念してきた。かつては世界をリードし、第二次世界大戦後には世界一の高校卒業率を誇った米国だが、今では先進工業国24カ国のうち18位となり、毎年100万人以上が中等教育課程*1で中退もしくは進学を断念している。無数の教師、学校運営者、非営利団体による英雄的な努力と何十億ドルもの寄付金によって、個々の学校やクラスの単位では大きな改善があったかもしれない。しかし、システム全体の進歩はほとんど実現していないように思われてきた。

この行き詰まった状況の中、オハイオ州シンシナティで注目すべき例外が生まれつつあるようだ。ナレッジワークス傘下の非営利団体ストライブ・パートナーシップ(StrivePartnership)*2は、シンシナティ広域都市圏からケンタッキー州北部の至るところで、地域のリーダーたちを巻き込んで、生徒の学業成績の危機に立ち向かい、教育を改善してきた。ストライブ設立からの4年間で、同団体のパートナーは3つの大きな公立学区において、数十の重要項目で生徒の達成度を改善している。景気後退や予算削減にもかかわらず、ストライブが追跡する53の成功指標のうち、高校卒業率、4年生の読解力と数学のスコア、義務教育を受ける準備のできた未就学児の数など、34の指標でポジティブな傾向が見られたのである。

多くの取り組みが失敗するなか、ストライブはなぜ成果をあげてきたのだろうか。それはコミュニティのリーダーから成る中心グループが、それぞれのアジェンダ*3を手放し、生徒の学業成績を向上させるための集合的〈コレクティブ〉なアプローチを取ることを決意したからだ。影響力のある民間財団や企業財団のトップ、自治体の担当者、学区の代表、8つの大学とコミュニティ・カレッジの学長、教育関連の数百のNPOやアドボカシー団体の代表者など、地元組織のリーダー300人以上が参加に同意した。

これらのリーダーたちは、たとえ一連の教育領域のある一点を修正しても(たとえば放課後プログラムを改良する)、すべての領域が一斉に改善されなければ大した違いを生まないことを理解していた。どんなに革新的、あるいは強力な組織でも、これを単独で成し遂げることはできない。集まったリーダーたちは、若者たちの人生の”あらゆる段階”で、つまり「ゆりかごから就職まで」を連携しながら改善するという、野心的なミッションを定めたのである。

このように始まったストライブが、新しい教育プログラムの開発を試みたり、寄付者に追加の資金提供を求めたりすることはなかった。その代わりに、入念に設計された協働プロセスを経て、教育コミュニティ全体の着目点を、同じ方法で測定できる一連の共通目標へと向けさせたのである。参加組織は、幼児教育や個別指導といった活動分野ごとに、15のスチューデント・サクセス・ネットワーク(SSN)にグループ分けされている。過去3年にわたり、各SSNはコーチやファシリテーターを交えた2時間の会合を2週間ごとに開催し、共通のパフォーマンス指標の開発、進捗状況の検討、そして最も重要なこととして、互いに学び合い、それぞれの取り組みを連携し、支え合った。

ストライブは、組織そのものとしても、協働を促進するプロセスの内容としても、「コレクティブ・インパクト」の見本である。コレクティブ・インパクトとは、異なるセクターから集まった重要なプレーヤーたちのグループが、特定の社会課題の解決のために、共通のアジェンダに対して行うコミットメントである。コラボレーション自体は特に目新しいものではない。ソーシャルセクターには、「パートナーシップ」や「ネットワーク」といった協働の事例があふれている。しかしコレクティブ・インパクトの取り組みには、それらとは明らかな違いがある。多くのコラボレーションと異なり、コレクティブ・インパクトは、中心となるインフラストラクチャと専従のスタッフを備えている。そして、「共通のアジェンダ」「共通の測定システム」「継続的なコミュニケーション」と、すべての参加者による「相互に補強し合う取り組み」をもたらすような、構造化されたプロセスがある。(後述の「コラボレーションの種類」を参照)

教育分野と同じく、複雑な問題を解決するために多種多様なプレイヤーの行動変容が求められる社会課題に取り組んだコレクティブ・インパクトの成功例は、他にもわずかながら存在する。1993年、マージョリー・メイフィールド・ジャクソンは、何十年も産業廃棄物によって汚染されてきたバージニア州南東部のエリザベス川の浄化をミッションとする、エリザベス・リバー・プロジェクト(Elizabeth River Project)の立ち上げに尽力した。彼女らは、バージニア州のチェサピーク、ノーフォーク、ポーツマス、バージニアビーチの各市役所、バージニア州環境品質局、米国環境保護庁(EPA)、米国海軍、何十社もの地元企業、学校、コミュニティグループ、環境団体、大学など100を超える利害関係者〈ステークホルダー〉に働きかけて、18項目の流域回復計画を策定した。それから15年で、エリザベス川流域の1,000エーカーを超える土地が保全もしくは回復されたうえ、汚染物質が2億1,500万ポンド減少し、最も危険な発がん性物質の濃度が6分の1に低下するなど、水質が大幅に改善した。川の完全回復までにやるべきことは多々あるが、回復した湿地帯ではすでに27種の魚やカキ類が繁殖し、ハクトウワシが巣作りのために岸辺に戻っている。

また、マサチューセッツ州サマービルが全市を挙げて小学生の肥満の抑制と防止に取り組んだ、シェイプアップ・サマービルもコレクティブ・インパクトのよい例である。同プログラムはタフツ大学フリードマン栄養科学政策大学院の准教授であるクリスティナ・エコノモスが主導し、疾病管理予防センター(CDC)、ロバート・ウッド・ジョンソン財団、ブルークロス・ブルーシールド協会マサチューセッツ支部、ユナイテッド・ウェイのマサチューセッツ・ベイおよびメリマック・バレー支部の資金提供を受けて、行政職員、教育者、企業、非営利団体、一般市民が協働して健康維持や体重増加予防の実践方法を定義した。各学校は、より健康的な食事の提供、栄養知識の指導、体を動かす活動の促進に同意した。低脂肪で栄養価の高いメニューを提供する地元レストランには、証明書が発行された。市は農家の直売所を組織化し、市内在勤者のジム利用に割引料金を適用するなど、健康的なライフスタイルを奨励した。さらに、歩いて登校する子どもが増えるようにと、歩道の改修や横断歩道の塗り直しも行われた。その結果、2002年から2005年の間に、同コミュニティの子どものBMI(体格指数)が統計的に有意に低下したのである。

企業もまた、社会課題に取り組むためのコレクティブ・インパクトを模索し始めている。M&M’S、スニッカーズ、ダブなどのチョコレートブランドを展開する菓子メーカーのマース(Mars)は、カカオの主な調達先であるコートジボワールで貧困に苦しむカカオ農家50万人以上の生活を改善するために、NGOや地方政府、さらには同業他社とも協力している。調査によると、今後、農法の改善やカカオ株の改良によって単位面積当たりの収量が3倍になり、農家収入が劇的に増加し、マースのサプライチェーンのサステナビリティが改善される可能性がある。同社がこれを実現するためには、多くの組織に連携の取り組みを求めなければならない。たとえば、コートジボワール政府には農業改良普及員の派遣人数を増やしてもらい、世界銀行からは道路の新設資金を提供してもらう必要がある。カカオ栽培地域の医療、栄養、教育を改善するために、二国間援助によってNGOを支援することも必要だ。そして同社のサプライチェーンの外にいる農家にもリーチするには、市場競争の前段階の課題について、直接的な競合企業と協力し合う道も見つけなければならない。

これらの多様な事例には、1つの共通点がある。それは、大規模な社会変化をもたらすのは、個々の組織による「個別介入」(アイソレーテッド・インターベンション)よりも、セクターを横断する優れた連携であるということだ。このアプローチの有効性を示すエビデンスはまだ限られているとはいえ、これらの事例は、非営利団体、政府、企業、一般の人々がコレクティブ・インパクトを生み出すために共通のアジェンダのもとに集まれば、私たちが直面するきわめて深刻で複雑な社会課題の多くについて、その解消に向けたはるかに大きな前進が見られる可能性を示唆している。コレクティブ・インパクトの事例がそれほど頻繁に見られないのは、それが不可能だからではなく、試み自体がきわめて少ないからだ。資金提供者も非営利団体も、社会変化を生み出す主な手段として個別のアクションに目を向けすぎて、コレクティブ・インパクトが持つ可能性を見過ごしてきたのである。

アイソレーテッド(個別的)・インパクト

大半の資金提供者は、多くの申請者の中から助成対象を絞り込む際、社会課題の解決に最も貢献する組織を見極めようとする。そして申請者の方は、自分たちの活動がいかに最大の効果をもたらすかを強調して、選ばれようと競い合う。各組織は、インパクトを生み出すための個々の潜在力に基づいて判断され、同じくその問題に影響を与えうる他の数多くの組織とは切り離して見られる。自分たちの活動のインパクト評価を求められた申請者は、他の要素を切り離した自身の影響力を説明することに全力を尽くすのだ。

要するに、非営利セクターで最もよく見られるのは、私たちの言うアイソレーテッド(個別的)・インパクトのアプローチを用いた活動である。このアプローチでは、1つの組織で完結できる解決策を見つけ出して資金を提供する。そこには、「最も効果的な組織は、組織の規模拡大や活動の複製・再現によって、インパクトをもっと広げていけるはずだ」という期待もある。そして資金提供者側は、実験室で病気の治療薬を発見するのと同じように、「崩れつつある学校のための治療薬」があって、それを見つけさえすればよいとでもいうかのように、より効果的な介入を探している。

こうしたプロセスの結果、大きな社会課題に対して140万近くの非営利団体が独自の解決策を開発しようとしているため、互いに対立しながら活動を続けたり、意義ある成果をあげるのに必要とされるリソースが指数関数的に膨れ上がったりしている。

近年のトレンドは、この状況に拍車をかけるばかりである。たとえばベンチャーフィランソロピーや社会起業家に対する関心の高まりは、多くのパフォーマンスの高い非営利団体を見つけ出してその成長を加速させるという形でソーシャルセクターに大いに貢献しているが、一方で選ばれた少数の組織の規模拡大が社会の進歩のカギであると強調するような風潮を助長してもいる。

このアイソレーテッド・インパクトのアプローチがこれほど広がっているにもかかわらず、今日の複雑で相互依存的な世界において、これが多くの社会課題を解決する最善策だというエビデンスは乏しい。どんな重大な社会課題でも、どこか1つの組織に責任があるわけでもなく、また、どこか1つの組織が解決しきれるわけでもない。教育分野の場合、最も尊敬される非営利団体―たとえばハーレム・チルドレンズ・ゾーン、ティーチ・フォー・アメリカ、ナレッジ・イズ・パワー・プログラム(KIPP)―でさえも、数万人の子どもたちにプログラムを届けるのに数十年を要している。これは称賛に値するすばらしい成果だが、米国では何千万人もの子どもが支援を必要としていることを考えると、まだ規模が3桁足りないのだ。

このアイソレーテッド・インパクトへの傾倒の問題は、非営利セクター自体が孤立していることによってさらに深刻になっている。社会の課題は、行政やビジネス活動の相互作用からも生じるのであって、ソーシャルセクターの組織の振る舞いだけが原因ではない。つまり、複雑な問題は、非営利セクターの外側の組織も巻き込む、セクター横断的な連携がなければ解決し得ないのである。

とはいえ、すべての社会課題にコレクティブ・インパクトが必要だと言いたいわけではない。実際のところ、問題によっては個別の組織で解決することが最善策だという場合もある。『スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー』2004年冬号に寄稿した、ロナルド・ハイフェッツとの共同論文「大胆なリーダーシップ」(未訳/Leading Boldly)で、私たちは「技術的問題」と「適応課題」の違いについて論じた。社会課題の中には技術的なものもある。つまり、問題の定義が明確で、あらかじめ答えがわかっていて、単独または少数の組織がその解決策を実行する能力を持っている場合である。たとえば大学の奨学金制度への資金提供、病院の建設、フードバンクにおける在庫管理の導入などが当てはまる。

これに対して適応課題は、問題が複雑で答えがわからず、たとえ答えがわかっていても、必要な変化を実現するためのリソースや権限を単独で持っているプレーヤーが存在しない。たとえば公教育の改革、湿地帯の環境回復、地域住民の健康改善などは、いずれも適応課題だ。これらの場合、効果的な解決策にたどり着くためには、その問題の利害関係者たちが学習し、自分たちの振る舞いを変えることを通して解決策を生み出す必要がある。

アイソレーテッド・インパクトからコレクティブ・インパクトへの移行は、もっとコラボレーションや行政と民間のパートナーシップを増やそうという単純な話ではない。組織間の関係性と、共通の目的に向かって前進することに注力する、社会的インパクトの実現に向けたシステムレベルのアプローチが必要だ。そのためには、集合的なアクションの成功に必要な要素を組み合わせて調整するためのスキルとリソースを備えた、非営利のマネジメント組織を新しく立ち上げる必要がある。

コレクティブ・インパクト成功の5条件

私たちの調査によると、典型的なコレクティブ・インパクトの成功例には次の5つの条件があり、これらが揃うことによって、本物の連携が生まれて力強い結果がもたらされる。

1. 共通のアジェンダ
2. 共通の測定システム
3. 相互に補強し合う取り組み
4. 継続的なコミュニケーション
5. 活動をサポートするバックボーン組織

1 】共通のアジェンダ
コレクティブ・インパクトを実現するには、すべての参加者が変化への共有ビジョンを持つ必要がある。たとえば、課題に対する共通理解を醸成することや、合意したアクションを通じて解決に向けた共同アプローチをとることなどだ。同じ社会課題に取り組んでいると信じている資金提供者と非営利団体のグループでも、それぞれについて掘り下げてみると、まったく違う問題を見ていたと判明するのはよくある話だ。多くの場合、課題や究極的なゴールの定義は組織ごとに少しずつ違う。組織が単独で個別の取り組みをしていると無視されがちだが、こうした違いを放置すると、個別の努力を分断し、課題の領域全体へのインパクトを損なうのである。コレクティブ・インパクトにおいては、これらの違いについてよく話し合い、解消することが求められる。その課題のあらゆる側面について、すべての参加者が互いに合意する必要はない。実際のところ、私たちが確認したコレクティブ・インパクトの事例ではいずれも、意見の不一致による参加者の対立は残っている。しかし、コレクティブ・インパクトの取り組み全体としての最も重要な目標には、すべての参加者が合意しなければならない。たとえばエリザベス・リバー・プロジェクトの場合、セクター横断で実行可能なイニシアチブを確立するために、企業、政府、コミュニティグループ、現地住民のそれぞれの異なる目標の間で、共通の基盤を見つけることが必要だった。

関係者の中でも資金提供者は、各組織に協調した行動を取るように導くという、重要な役割を果たすことができる。ストライブの例では、多くの資金提供者が、何百もの戦略や非営利団体を個別に後押しするのではなく、足並みを揃えてストライブの重点目標を支援した。グレーター・シンシナティ財団(Greater Cincinnati Foundation)は、財団が用いる教育達成度の測定方法にストライブの年次報告カードを導入し、同財団の教育目標とストライブの基準を関連づけられるように調整した。デューク・エナジー(Duke Energy)は、助成金を申請してくる組織に毎回、「ストライブのネットワークに関わっていますか」と質問している。そして新規の資金提供者であるヘイル財団(Carol Ann and Ralph V. Haile Jr./U.S. Bank Foundation)が教育分野への関心を示したときには、シンシナティの教育界の主要リーダーのほぼ全員が、地域の教育にインパクトを与えたいならストライブに参加するべきだと勧めたのである1

2 】共通の測定システム
コレクティブ・インパクトには共通の測定システムの構築が欠かせない。成功をどう測定してどう報告するかについて合意しない限り、共通のアジェンダへの合意は幻想と化してしまう。コミュニティ全体で、そしてすべての参加組織が枠を越えて、厳選した指標に沿って一貫してデータ収集と結果測定を行うことにより、すべての取り組みの整合性が維持されるだけでなく、参加者同士が説明責任を果たし、互いの成功や失敗から学び合うことも可能になる。

何百もの多様な組織を同じ測定基準で評価することなど不可能だと思うかもしれない。しかし近年では、インターネット技術の進歩のおかげで、パフォーマンスの報告や成果の測定を行う共通のシステムが利用できるようになった。こうしたシステムは効率を改善し、コストを削減する。さらに、収集したデータの質や信頼性の改善、助成金を受けた団体が互いのパフォーマンスから学び合うことによる活動の有効性向上、活動領域全体の進捗状況の記録も可能になる2

たとえばストライブの場合、すべての未就学児向けプログラムが、同じ基準で成果を測定し、必ずエビデンスに基づいた決定をするということに合意済みである。活動の種類によって測定内容は異なるが、同じ種類の活動に従事する組織はすべて、同じ測定基準で報告する。多様な組織を並べて成果を検証することにより、参加者は問題のパターンを突き止め、解決策を見出し、それを迅速に実行できる。その結果、未就学児向けプログラムでは、義務教育に上がる前の夏休みに子どもの退行現象が見られることがわかった。そこで、通常はミドルスクール(中学校)向けに行われる画期的な「サマーブリッジ」*4という手法を導入し、すべての未就学児向けプログラムで一斉に実行したところ、義務教育に上がる準備具合を示すスコアの平均値が、1年のうちに地域全体で平均10パーセント上昇したのである3

3 】相互に補強し合う取り組み
コレクティブ・インパクトの取り組みは多様な関係者の協働で成り立つが、これはすべての参加者に同じ行動を求めることによってではなく、他の参加者のアクションへの支援や連携において、各自が得意とする活動を行うよう奨励することによって実現するものだ。

集合的なアクションの威力は、参加者の多さや取り組みの均質性からではなく、相互に補強し合う行動計画を通じて多様な活動が連携していくことによって生まれる。全体の取り組みを成功させるためには、それぞれの利害関係者の取り組みが包括的な計画に沿っていなければならない。社会課題には多様な原因があり、それだけ解決策の構成要素も多様になるのだ。このような状況には、個別の組織によるばらばらなアクションでは対処できないのである。

エリザベス・リバー・プロジェクトの場合、すべての参加者が18項目の流域回復計画に合意しているが、各自が特有の能力に基づいて、それぞれに違った役割を果たしている。あるグループは、一般市民の草の根的な支援と参加を生み出すことに力を入れる。2つ目のグループは、汚染抑制に取り組もうと産業界から自発的に参加した企業向けに、相互評価や人材確保の面で協力する。3つ目のグループは、科学的調査の調整やレビューを行う、という具合だ。

ストライブの15のSSNは、一連の教育分野においてそれぞれ異なる範囲で、異なる種類の活動を行っている。ストライブは、300の参加組織の1つ1つにやり方を指図するわけではない。各組織やネットワークは、共通のアジェンダに沿って自由に自身の針路を決めることができるうえ、成果に関しては共通の測定システムによって把握できるのだ。

4】 継続的なコミュニケーション
非営利団体、企業、政府機関の間に信頼を構築することは、至難の業である。それぞれの多様な取り組みの背後にある共通の動機を認識して評価できるように、参加者は数年がかりで定期的にミーティングを重ねることを通して、互いを知る時間を十分に持つ必要がある。自分の利益が正当に扱われていることや、ある組織の優先事項を他よりも優遇しないように、客観的なエビデンスや考えうる最善の解決策に基づいて意思決定が行われるということを、皆が納得するための時間が必要だ。

共通用語を作成するだけでも時間がかかるが、これは共通の測定システムを開発するために欠かせない前提条件である。私たちが研究したコレクティブ・インパクトの取り組みではすべて、各組織のCEOクラスのリーダーが、毎月、場合によっては隔週で本人参加の会合を開いていた。欠席や部下の代理参加は許されない。大半の会合は、外部ファシリテーターの支援を受けて、きちんと設計された議題と対話形式に沿って進められた。

たとえばストライブのネットワークでは、3年以上にわたり定期的な会合が開かれ、その合間にもコミュニケーションが交わされていた。ストライブはGoogleグループなどのオンラインツールを使って、ネットワークの内外でコミュニケーションが円滑になされるようにした。当初は、自らの組織への提供資金が増えるのではないかと期待して会合に出席するリーダーも多かったが、彼らはすぐに、会合の目的はそうではないことを理解した。そして、課題に関する深い知識と情熱を共有する者が集い、共に学び共に課題を解決することの意義を見出したのである。

5】 活動をサポートするバックボーン組織
コレクティブ・インパクトを生み出しマネジメントしていくためには、イニシアチブ全体の支柱(バックボーン)となるためのきわめて特殊なスキルセットを持つ、独立した組織とスタッフが必要である。ネットワークの調整は時間のかかる作業であり、参加組織のどれかが引き受けられるものではない。サポート構造がなくてもコラボレーションを実現できるだろうと期待することは、最もよく見られる失敗原因の1つである。

バックボーン組織には、参加組織とは異なる立場で、取り組み全体の計画、マネジメント、支援に注力する専任スタッフが必要だ。その仕事は、継続的なファシリテーション、技術面とコミュニケーションの支援、データの収集と報告、ロジスティクスや運営面の無数の細かい事柄への対応など、取り組みが円滑に進行するために必要な役割を果たすことだ。ストライブは、バックボーン組織の最初のスタッフ要件として簡潔に3つの役割を定めた。それはプロジェクトマネジャー、データマネジャー、ファシリテーターである。

コレクティブ・インパクトには、有効な意思決定につながる高度に構造化されたプロセスも必要だ。たとえば、ストライブのスタッフはゼネラル・エレクトリック(GE)と協力して、GEが自社の持続的な品質改善に用いている「シックスシグマ」の手法をソーシャルセクターに取り入れた。ストライブにおけるシックスシグマのプロセスには、各SSNが共通のアジェンダ、共通の測定基準、行動計画を定義する際に使用するトレーニングやツールやリソースが盛り込まれており、ストライブのファシリテーターが指南役として同プロセスを支援している。

最高の条件が整うと、こうしたバックボーン組織はいわば「アダプティブ・リーダーシップ」の原則を体現する存在になる。すなわち、人々の関心を一点に集めて切迫感を生み出すことができ、関係者を圧倒しない程度にプレッシャーをかけ、困難と合わせて機会も示すような形で課題の枠組みをつくり、関係者間の対立を仲裁する力を持つようになるのだ。

コレクティブ・インパクトへの資金提供者の役割

コレクティブ・インパクトを成功させるためには、多額の投資が必要だ。具体的には、参加組織がその活動に費やす時間、共通の測定システムの開発とモニタリングにかかる労力、継続的な活動をリードして支援するバックボーン組織の人材確保が必要となる。
ストライブのように成功している取り組みでも、資金提供者がインフラへの支出を渋ったり、短期的な解決策を好んだりしたために、資金調達には苦労してきた。コレクティブ・インパクトに求められる資金提供者は、事前にいかなる特定の解決策にもこだわることなく、社会変化に向けた長期的なプロセスを支援する。そして、社会変化は1つの組織の1つのブレークスルーだけでなく、システム全体が長い時間をかけて徐々に改善していくことを通して実現できるのだと心得て、助成先に活動の舵取りを委ねる意志と、数年がかりで取り組みを支える忍耐力を持たなければならない。

そのためには、資金提供者が自らの役割を根本から見直す必要がある。組織に資金を提供する役割から、社会変化の長期的プロセスを主導する役割へと変わるのだ。ある1つの非営利団体が生み出した画期的な解決策に資金を提供したり、その組織の能力開発を支援したりするだけでは、もはや不十分である。そうではなく、セクター横断的な連携が生まれて発展していくように、集合的なプロセス、測定結果の報告システム、コミュニティのリーダーシップを創出し、維持することを支援しなければならない。
こうした変化の到来について、私たちは前述の「大胆なリーダーシップ」と、その後『スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー』2009年秋号に寄稿した「カタリストとしてのフィランソロピー」(未訳/Catalytic Philanthropy)の両方で予見している。前者の論文では、適応課題に対処する際に資金提供者が担う最も強力な役割は、課題に関心を集中させることと、関係する各組織を動かして、彼ら自身が解決策を見出していくようなプロセスを生み出す支援をすることだと指摘した。そして「カタリストとしてのフィランソロピー」の論文では、「利害関係者を動員して調整することは、ある1つの組織の説得力のある助成金申請に対して資金を提供することよりも、はるかに煩雑で進捗の遅い作業である。しかしシステム的な変化の成否は、究極的には、課題に関わる社会領域全体の能力と連携を向上させるような活動を持続できるかどうかが左右する」と指摘した。大規模な変化を望む資金提供者に対し、私たちは4つの行動を実践することを提案した。その行動とは、解決策の構成要素を取りまとめる役割を担うこと、変化へのムーブメントを生み出すこと、非営利セクター以外からの解決策を取り込むこと、そして人々の振る舞いに影響を与えパフォーマンスを向上させるような、実践的な知識を活用することだ。

この4つの原則はコレクティブ・インパクトのイニシアチブにも当てはまる。ストライブの運営者たちは、教育分野の非営利団体が行う特定のプログラムに資金を提供するという従来のアプローチを捨てて、教育改革を推進する責任を自らに課した。彼らは共通の目標を掲げて何百もの組織に働きかけることにより、ムーブメントを確立した。そしてGEのシックスシグマの計画プロセスをソーシャルセクターに適用するなど、非営利セクター以外で使われていたツールを活用した。また、コミュニティの報告カードとSSNの隔週ミーティングを通して、コミュニティを刺激し参加者のパフォーマンスを改善するための実践的な知恵を編み出したのである。

コレクティブ・インパクトへの資金提供はそれなりの規模にならざるをえないが、レバレッジの効いた投資になりうるだろう。年間予算が多くないバックボーン組織でも、数百の組織によるコレクティブ・インパクトを支援して、それらの組織に既に提供されている数百万ドル、場合によっては数十億ドルの資金のインパクトを強めることができるのだ。たとえばストライブ自体の年間予算は150万ドルだが、合計予算が70億ドルに達する各組織の取り組みを調整し、その有効性を高めている。ところがソーシャルセクターの資金提供の慣行は依然として、コレクティブ・インパクトに移行するために必要な変化を実現できていない。資金提供者たちがこの新しいアプローチを受け入れて、各組織の協調的な活動を可能にするファシリテーション、調整、測定に十分なリソースを投じる意志を持たない限り、必要なインフラは発達しないだろう。

未来の衝撃

資金提供者、非営利団体、行政職員、市民のリーダー、企業幹部たちがコレクティブ・インパクトを受け入れたとしたら、社会変化はどのようなものになるだろうか。最近のストライブでの出来事は、その可能性を示唆する心躍るものだ。

ストライブは、他のコミュニティがより迅速にコレクティブ・インパクトを達成できるように、彼らが学んだ事柄を体系化する作業に着手した。現在は他の9つのコミュニティと協力して、ストライブが構築したものと同じように、若者の「ゆりかごから就職まで」を改善する取り組みの構築を目指している4。ここで重要なのは、ストライブのインパクトは全国レベルに拡大しているものの、ストライブ自体は他の都市に支部をつくらず、運営規模を広げていないということだ。その代わりにストライブが広げているのは、変化を起こすための柔軟なプロセスである。ストライブの経験を踏まえつつ、地域ごとのニーズやリソースに沿って調整できるような、コレクティブ・インパクト実現のためのツールセットを各地のコミュニティに提供しているのだ。こうすることで、新しいコミュニティが自分たちが携わるコレクティブ・インパクトの取り組みに本当の当事者意識を持つことができ、しかもこのプロセスをゼロから始める必要がなくなる。教育を集合的に改革するためのミッションやビジョンの策定、あるいは具体的なコミュニティレベルの教育指標の作成といった作業は、ストライブの資料やスタッフによる支援を活用することで加速する。ストライブが数年がかりで開発したプロセスが、それよりもはるかに短い期間で他のコミュニティによって現場に即した形で使用されているのである。

これら9つのコミュニティと本部のあるシンシナティは、各活動の代表者が定期的に接触して学びを共有する実践コミュニティを形成している。コミュニティの数と多様性のおかげで、ストライブとそのパートナーは、どれが普遍性のあるプロセスで、どれが各地の状況に合わせた調整が必要なものなのかを迅速に判断できる。今後は学びの蓄積に合わせて、新しく発見された知見をストライブのスタッフがオンラインの知識共有ポータルに取り込んでいき、ストライブ式のコレクティブ・インパクトに取り組もうとするすべてのコミュニティが利用できるようになる見込みだ。

ストライブのコレクティブ・インパクトの取り組みが見せる心躍る展開は、現在のソーシャルセクターでは主流のアイソレーテッド・インパクト―包括的で大規模な変化を目指す取り組みを阻害するアプローチ―とはまったくの別物である。うまくいけばこのストライブの取り組みは、今日の最も深刻な社会課題を私たちが既に持っている身近なリソースで解決できるような、新しいアプローチが広がる前触れになる。もしそうなれば、システム全体に衝撃が走るだろう。しかしこれは、社会から本当に必要とされているショック療法なのである。

【翻訳】友納仁子
【原題】Collective Impact (Stanford Social Innovation Review, Winter 2011)

ジョン・カニア John Kania

FSG取締役兼マネージングディレクター。同社のコンサルティングプラクティスを統率する。本書収録論文「02 システムリーダーシップの夜明け」共著者。『スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー』への寄稿多数。

マーク・クラマー Mark Kramer

FSGの共同設立者でありマネージングディレクター。センター・フォー・エフェクティブ・フィランソロピー(The Center for Effective Philanthropy)の共同設立者・初代理事長、ハーバード大学ジョン・F・ケネディ・スクール・オブ・ガバメントのシニアフェローでもある。本稿はクラマーが『スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー』に掲載した5本目の論文である。

(訳注)
*1 中等教育課程:14~18歳の生徒が対象で、日本では中学・高校と重なる
*2 ストライブ・パートナーシップ:本書収録論文「04 規模の拡大を目指して」中のストライブとは別団体
*3 アジェンダ:解決に向けて実行に移されるべき課題の設定やその実行計画
*4 サマーブリッジ:新学年が始まる直前の夏に行う、さまざまな学習機会の提供プログラム

(原注)
1 グレーター・シンシナティ財団のCEOであるキャシー・マーチャントへのインタビュー,2010年4月10日.
2 Mark Kramer, Marcie Parkhurst, and Lalitha Vaidyanathan, Breakthroughs in Shared Measurement and Social Impact, FSG Social Impact Advisors, 2009.を参照.
3 “Successful Starts,” United Way of Greater Cincinnati, second edition, fall 2009.
4 ストライブの教育改革プロセスを最初に実行したのは,インディアナ州インディアナポリス,テキサス州ヒューストン,バージニア州リッチモンド,そしてカリフォルニア州ヘイワードの4コミュニティである.また,オレゴン州ポートランド,カリフォルニア州フレズノ,アリゾナ州メサ,ニューメキシコ州アルバカーキ,テネシー州メンフィスが取り組みを開始したところである.

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