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世界の人権意識の高まりとビジネス上の人権リスク

世界の人権意識の高まりとビジネス上の人権リスク

※本稿は、SSIR Japan 編『スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版 04 コレクティブ・インパクトの新潮流と社会実装』より転載したものです。

オウルズコンサルティンググループ「ビジネスと人権」チーム
矢守亜夕美+石井麻梨+若林理紗

サステナビリティと人権

「サステナビリティ」という言葉を聞くと、まず環境問題を思い浮かべる方は少なくないのではないでしょうか。しかし、実は「環境」はサステナビリティの一部に過ぎず、国際社会ではいま、企業による「人権」への取り組みに注目が集まっています。あらゆる企業が果たすべき責任として、「ビジネスにおける人権尊重」が重要なテーマとなっているのです。

たとえば、世界で最も活用されているESG情報開示基準のGRIスタンダードでは、「経済・ガバナンス」と「環境」に関する情報開示項目がそれぞれ7つあるのに対し、「社会・人権」に関する項目の数はその2倍以上にものぼります。他方、SDGsの17の目標への関心度を測った国連の調査を見ると、日本人の「人権」領域への関心は世界と比べて薄く、日本と世界の感覚にずれがあることがわかります[図表2]。そこで、ここでは日本の「ビジネスと人権」を巡る現状について、国内外のデータを基にご紹介します。

日本は「人権の後進国」?

企業が配慮すべき「人権リスク」の種類は、主要なものだけでも多岐にわたります[図表1]。自社の従業員はもちろん、事業活動に関わるサプライヤーの従業員や地域住民、消費者なども対象となるため、自社内のハラスメントなどだけでなく、サプライチェーン上の強制労働や児童労働、先住民・地域住民の暮らしへの悪影響などにも注意しなければなりません。


残念ながら日本は「人権の後進国」と呼ばれることが少なくありません。たとえば、児童労働や強制労働などの状態を指す「現代奴隷」が生産に関与した産品の輸入額を見ると、日本は470億ドル(約6兆円)にのぼり、アメリカに次いでなんと世界第2位の規模となっています[図表3]

多くの日本企業が、サプライチェーンを通じて人権侵害に関与してしまっている可能性があるのです。人権・環境に配慮して生産者とフェアな取引を行っていることを示す「フェアトレード」認証の取得製品についても、日本の推計市場規模はドイツの約18分の1であり、1人当たり年間購入額はスイスの約108分の1にとどまっています[図表5]

また、ハラスメントや長時間労働などの問題も根深く、実に3人に1人が職場でのハラスメントを経験しているという調査結果もあります[図表8]

その他参考資料[図表4,6,7,]

先行する欧州と動き始めた日本

近年、特に欧州を中心に、企業に人権への対応を求める法律の整備が加速しています。フランス、オランダ、ドイツなど各国での法制化に加え、EUは企業活動を通じた人権や環境への悪影響を予防・是正する義務を課す指令案を2022年に発表し、策定に向けた議論が進められています[図表9]

こうした潮流に対応するため、日本政府は2022年9月に「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を発表、国内企業による取り組みを促しました。取り組みの第一歩として人権方針を策定する日本企業は増えていますが、人権への負の影響を防止・軽減するための継続的なプロセスである人権デュー・ディリジェンスを実施している企業は10.6%にとどまっており、道半ばの状況です[図表11]

国際NGOがグローバル大企業を対象に人権への取り組み状況を評価する「企業人権ベンチマーク(Corporate Human Rights Benchmark:CHRB)」でも、欧米企業に比べると、日本企業の平均スコアは決して高くありません[図表12]

すべての人の人権を尊重し、「人にやさしいビジネス」をいかに実現していけるか。日本企業にはいま、自主的な変革が求められています。

その他参考資料[図表10]

「ビジネスと人権」チーム

本稿執筆メンバー
矢守 亜夕美(やもり・あゆみ/プリンシパル)
石井 麻梨(いしい・まり/マネジャー)
若林 理紗(わかばやし・りさ/コンサルタント、ソーシャルPRスペシャリスト)

オウルズコンサルティンググループ
経営戦略、通商・国際情勢分析、ルール形成戦略、人権・サステナビリティ戦略などの企業・官公庁向けコンサルティングのほか、NPO/NGOとの連携を通じて社会課題解決に取り組むコンサルティングファーム。「ビジネスと人権」チームには労働・人権分野の国際規格SA8000基礎監査人コース修了者が多く在籍し、人権デュー・ディリジェンスに関する豊富な支援経験を有する。著書に『すべての企業人のためのビジネスと人権入門』(日経BP)がある。

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