「内なる自分」との対話

「わたし」を犠牲にせず社会を変えよう

チェンジメーカーは、問題解決に没頭するあまり自分を犠牲にしがちだ。
しかし近年、彼らの内面のウェルビーイングは、より効果的な社会の変化を生み出すことが明らかになりつつある。

※本稿は、SSIR Japan 編『スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版 01 ソーシャルイノベーションの始め方』より転載したものです。

リンダ・ベル・グルジナ Linda Bell Grdina
ノラ・F・マーフィー・ジョンソン Nora F. Murphy Johnson
アーロン・ペレイラ Aaron Pereira

これまで見過ごされてきた内面のウェルビーイング

「現場における燃え尽きの兆候がどのようなものか、という知見が不足しています。これまで問われてきたのは、(現場のスタッフを)『どうやって確保するか』で、『どのようにケアし、長期的に成長してもらうか』ではありませんでした。仮に私が、ルワンダの非常にリソースの限られた施設でがん患者やエイズ患者をケアする看護師だったら、自分の家族の世話をすることも仕事に行くこともできなくなるまでに、あと何人の死に耐えられるでしょうか。あるいは私がハイチの地域医療従事者だとして、休息もとらずに働いたら、社会に蔓延する飢餓の酷い状況にどれだけ耐えられるでしょうか。こういった問題を、私たちは十分に学んでいないのです」
 ⸺ゲーリー・ゴットリーブ、パートナーズ・イン・ヘルス(Partners In Health)CEO

災害支援に携わる人、アクティビスト(社会活動家)、社会起業家、医療従事者、教師など、健全さと公正さと思いやりのある社会を紡ぎ出そうと懸命に取り組んでいる人々は、巨大な問題の渦中で暮らし、働いている。ところがこうしたチェンジメーカーたちの多くが、解決策を見出して前進したとしても燃え尽きてしまい、うつ病、離婚、慢性疾患の早期発症といった、多くの個人的な困難に直面している。組織のあらゆるレベル、そして世界中のあらゆる地域において、舞台裏では変化の担い手たちがもがいているのだ。同時に私たちは、いまの時代に起こっている社会や環境の問題に対処できているとはとても言えず、さらなるコラボレーションやイノベーションを生み出す必要がある。だからこそ、チェンジメーカーが直面している個人的な困難への取り組み方を見つけなければならない。そのこと自体に意義があるのはもちろん、それが社会の効果的な変化を加速させる可能性があるからだ。

社会変革の分野では長い間、チェンジメーカーたちのウェルビーイング[身体的・精神的・社会的に満たされた良好な状態にあること]は、ほとんどタブー視されて十分に検討されてこなかった。その一因は自己犠牲や殉教精神を特徴とするカルチャーにある。人の命を直接助ける活動であれ、気候変動対策を求めるアドボカシー活動であれ、社会を変えるために働く人々には、自分よりも他者を優先することへの潜在的な期待がある。

しかし、社会変化の原動力としてウェルビーイングが果たす役割が注目されるようになったのは最近のことではなく、過去のさまざまなムーブメントや先人たちの教訓から受け継がれている。実際、個人の内面の状態を大切にすることが世界を変える仕事の糧になるという姿勢は、前世代による非常に力強いムーブメントのいくつかを支えてきたし、マハトマ・ガンディー、エラ・バット、ローザ・パークス、デズモンド・ツツといった偉大なリーダーたちの思想の土台にもなっている。たとえば、抑圧への抵抗や社会の変化に向けて前向きな行動をとるが、暴力は行使しないという「非暴力の原則」には、深く自分自身に気づき向き合うことが求められるし、それらを日々実践し続けることも必要だ1

また、この数十年の間、女性の権利を求めるムーブメントのリーダーやグループも、内面のウェルビーイングの重要性を強調してきた。1988 年には、作家でありアクティビストのオードリー・ロードが、セルフケアとは「自分を守ることでもあると同時に、政治的に闘う行動でもある」と述べたが、これは、セルフケアを優先することが取り組みの成功に不可欠だという、当時急速に広がっていた社会活動の方法論を反映している。運動に関わった女性の多くが過去にトラウマ(心的外傷)を経験しており、活動のなかでさらなるトラウマを負っているという認識は、2003 年に開催された「女性と健康の国際会議」(International Women and Health Conference)など、女性の権利に関する大きな会合から生まれてきたものだ。その頃、CREA(Creating Resources for Empowerment in Action)、AWID(The Association for Women’s Rights in Development)、アージェント・アクション・ファンド(Urgent Action Fund)などの団体は、女性のウェルビーイングをサポートする取り組みの重要性を認め、支援を始めた。その後、女性の権利を求めるムーブメントは、最も初期のセルフケア・ガイドをつくり、やがて内面の健康に焦点を当てたリトリートなど、アクティビストを支援するさまざまなコンテンツを開発していった2

こうした取り組みのおかげもあって、この10 年間で社会変革分野におけるウェルビーイングの問題は以前よりも認識されやすくなり、研究も進んだ。2018 年に英国のチャリティ団体や非営利団体の職員を対象としてユナイト(Unite)が実施した研究では、ソーシャルセクターで働く人々の42%が、仕事が自身のメンタルヘルスに不調を及ぼすと感じていることが明らかになった3。2016 年にイギリスのソーシャルワーカー向けウェブサイトのコミュニティ・ケア(Community Care)がイングランドのソーシャルワーカーを対象に行った研究では、仕事のストレスへの対処法として、 57%がエモーショナル・イーティング(心理的負荷を和らげるための食事)、35%が飲酒をすると回答した。さらに、63%が睡眠障害を抱え、56%が精神的に疲弊しており、75%が燃え尽きの懸念があると述べた4。これらの結果は、現場スタッフと経営チームの双方から報告された。人道支援の分野では、メンタルヘルスとウェルビーイングに関する2015 年の研究に参加した人権活動家の19.4%がPTSD(心的外傷後ストレス障害)、18.8%が閾値下PTSD(一部のPTSD基準を満たす状態)、14.7%がうつ病の基準をそれぞれ満たしていた5。似たような構図は、他の社会変革の領域においても世界中で表出しており、ブラック・ライブズ・マター(BLM)のような重要なムーブメントも同様である6

現実として、社会を変える仕事はそれ自体が難しいものだし、トラウマを負いやすいものだ。がん患者やエイズ患者のケアに当たる医療従事者は、人が亡くなる様子を絶えず目にすることになるし、生物の種や生態系の喪失を食い止めようとしている環境活動家は、環境が破壊されていく様子を目にし続けることになる。これに加えて、ソーシャルセクターで働こうとする人の多くが、個人的なトラウマの経験を持っており、自らのつらい過去と関連する仕事を選びやすいという事実もある。たとえば、個人的にいじめを受けた経験のある人が、いじめ問題に取り組む組織で働くことは珍しくない。こうした関連性は、汚職防止に取り組む団体でも環境保護団体でも、一般的に見られる。

前述のようなアクティビストたちの先駆的な取り組みのほか、近年の新しい研究も、私たちがいま目にしている文化的な変化の土台づくりを支えている。より大きな観点でカルチャーの変遷を見ると、マインドフルネスやメンタルヘルスなどの分野に関連した議論や実践が、とくに欧米において一般的になってきた。そして社会変革の領域においてはますます多くの人が、ウェルビーイングは、業界全体でオープンに取り組んで理解を深めることが必要な、根本的な問題であると認識するようになっている。

世界初のグローバル研究から見えてきたこと

ウェルビーイング・プロジェクト(The Wellbeing Project)は、アショカ、エサレン研究所、Impact Hub、ポルチクス(Porticus)、スコール財団、シナゴス(Synergos)が2014 年に共同で立ち上げたプロジェクトだ7。その目的は、内面のウェルビーイングの文化を育む触媒となってすべてのチェンジメーカーを支援することである。

このプロジェクトが生まれるきっかけとなったのは、世界各地で社会を変えようと活動する人々に対して行ったインタビューだった。彼らは個人的な困難やサポートの必要性について正直に打ち明けてくれた。このプロジェクトに関わった私たちは、インタビューを通じて、彼らがどんな状態で、どのような課題に直面していて、どういったサポートが役立ったのかを、とても深く理解することができた。私たちが学んだのは、継続的な瞑想の実践やセラピーなどのサポートがある人は、人生におけるとてつもなくポジティブな変化(シフト)を経験していたということだ。たとえば、瞑想の実践を取り入れた人の場合、より建設的なかたちで他の人の話を聞くことができるようになり、家庭や職場でより健全な対人関係を築けるようになったという。

こうした初期のインタビューからインスピレーションを得て、私たちはこの問題をグローバルに調べ始め、チェンジメーカー一人ひとりの内面のウェルビーイングをどうサポートしていくかを模索しながら、内面のウェルビーイングと社会の変化がどう関わるかについて調査した。それと並行して、この問題に光を当て、それぞれの団体のメンバーや関係者のウェルビーイングに対する支援をどうすれば改善できるかを模索するために、グローバルに活動する組織が集まって話し合う場も開催した。

これまでの研究対象は、特定の国、分野、職種などに絞られていたが、私たちはこの問題が普遍的なものかどうかを知りたかった。そのため、アンケートの作成・集約・修正を繰り返して包括的な意見を見出すデルファイ法によるオンライン調査を2017 年に6カ月間にわたって実施した。調査対象は、フォード財団とImpact Hubのコミュニティから選んだ、55カ国・250人強のチェンジメーカーだ。回答者の大半が内面のウェルビーイングにはサポートが必要だと述べており、社会変化に関わる仕事を健全で持続可能なものにするには内面のウェルビーイングが不可欠な要素である、と認識していた。また、非常に多くの回答者が、ストレスがある、心配事がある、不安である、燃え尽きている、孤独であるといった感情を報告していた。さらに、これらの問題に対応するためには自分自身のウェルビーイングに対するケアが「非常に重要だ」と感じる回答者が75%いた一方で、実際に自分自身を「かなりケアしている」と回答した人はわずか25%だった。ケアを優先していない主な理由としては、「リソースが不足している」「自己判断の服薬など健康に関するさまざまな課題がある」「仕事に終わりがないと感じている」「セルフケアはわがままだと感じる」といった点が挙げられた。

この調査から私たちが学んだのは、回答者の多くが仕事から距離をとりづらいと感じているということだ。それは仕事との一体感を強く感じているからでもあるし、いまだにこのセクターでは過労が勲章だという考え方があると感じているからでもある。もうひとつ明らかになったのは、カルチャーが内面のウェルビーイングをサポートするものになるか軽視するものになるかには、組織やセクターがかなり重要な役割を果たしているということだ。

内面のウェルビーイングをどう改善するか

当初の一連のインタビューでは、「インナーワーク」がチェンジメーカーの人生に多大な変化をもたらしたことが示された。インナーワークはパーソナルワーク、セルフケア、自己探求などと呼ばれることもあるが、瞑想やジャーナリングのような個人的な実践もあれば、スピリチュアルな実践、セラピー、継続的なグループミーティングやリトリートでの探求もある。インナーワークとは、自分自身への気づきを高めることから始まり、過去のトラウマを癒やし、より健全な人生パターンに向けて前進するまでを包含するものだ。

インナーワークを通じて内面のウェルビーイングをどう育めるのか、そしてどんな効果があるのかを検証するため、私たちは18 カ月間にわたるインナー・ディベロップメント・プログラム(IDP)を立ち上げた。 2015 年に始まった最初のプログラムの参加者は、 45カ国から集まった20人を単位とする3グループ、計60人のリーダーたちだった。以前のデルファイ法による調査の結果では、すべてのチェンジメーカーが似たような課題を抱えていたことが示されたが、今回のプログラムでは、個人レベル、組織レベル、セクターレベル、社会レベルでの変化を追跡しやすくするため、リーダー層だけを対象とした。参加者は、アショカ、シュワブ財団、スコール財団、シナゴスという4つの異なるネットワークから募り、社会起業家、アクティビスト、非営利団体のリーダーたちが応募した。デルファイ法を使った調査の回答者と同様に、IDPの参加者においても、社会を変えるために働くことが、自らの身体、感情、精神、メンタルの健康、さらには自身と家族、友人や同僚との関係性に大きな負の影響を及ぼしてきたことが示唆された。

IDPは、一人ひとりの参加者に対して包括的なサポートを提供した。たとえば、さまざまなインナーワークの手法を盛り込んだリトリート、経験豊富なウェルビーイングの実践者と共に行うカスタムメイドのワーク、他の参加者たちとの関わり合い、マインドフルネスや対人関係といったテーマについての4 ~ 8 週間の学習モジュールなどだ。また、プログラムの代表者と、それぞれの状態を確認したり相談したりする時間も設けた。参加者の経験が明らかになるにつれ、7人の研究者によるチームが、調査、観察、参加者の同僚たちに対するインタビューなどを行う定性的な長期リサーチを3 年間にわたって実施し、チェンジメーカーが積極的にウェルビーイングを追求すると何が起こるのか、そして彼ら自身や彼らの組織において、社会を変える活動に対してどんな影響があるのかを調べた。

当初、IDPの参加者は自分自身をケアすることへの罪悪感を口にしていたが、プログラムが進むにつれて、インナーワークが自分自身や周りの人の長期的な健康と仕事にとって不可欠であることを理解していった。それまで無視したり否定したりしてきた、自分自身のこと、仕事上、あるいは仕事以外の対人関係、そして仕事や人生のさまざまな側面について、理解を深め、受容していくことを学んでいった。参加者たちは、より大きな気づき(アウェアネス)、「いまここ」にいる感覚(プレゼンス)、厳しい自己診断(ジャッジメント)から解放される感覚を経験し、その結果、プライベートでも仕事の環境でも、以前とは異なるあり方や関わり方ができるようになったと述べた。具体的には「本当の自分自身と、外の世界におけるアイデンティティとの違いに気づく力が高まった」「自分に投影していた強さのイメージから脱却して、他者に対してもっと心を開き、弱さも見せられるようになった」「厳しい自己批判に気づくことで、自分自身や周りの人に対してもっと穏やかに接することができるようになった」「自分が欲しいものや必要としているものと、同僚や仲間や資金提供者は自分にこんな期待がありそうだと思うものとの違いについて、とても明確に区別できるようになった」といった意見が聞かれた。

個人の内面から社会を変える

私たちのリサーチは、このテーマを探求した最初の大規模なものであり、今後広がっていくことを望んでいるが、その核心にあるのはすでに述べたとおり、「チェンジメーカーの内面のウェルビーイングが、どのように社会変化の起こり方に影響するのか」という問いだった。そして、私たちが見出した結論はエキサイティングなものだ8。内面のウェルビーイングは、現在進行形のプロセスであり、複雑でつねに進化するものであることには留意すべきだが、今回の調査から明らかになったのは、個人が自分のウェルビーイング向上に意識をシフトさせると、組織全体のウェルビーイングにも活動への関わり方にもプラスの影響を与えるということだ。さらに、社会レベルのシフトも観察され始めている。つまり、チェンジメーカーの内面のウェルビーイングと社会変化の起こり方の間には明らかな関連性があることがわかってきたのだ。

これから、ウェルビーイングが個人から社会までの4 つの異なるレベルにおいてどんな影響を与えるのか、そしてそれぞれのレベルがどのように相互作用するのかについて、掘り下げていこう。

1)個人レベルの成果
―自己、アイデンティティ、役割

インナーワークの結果、参加者は自分の物事の捉え方における大きなシフトを経験した。以下にいくつかの例を挙げる。

自分の全体性に近づくアイデンティティの発見

参加者の人生は仕事にばかり費やされがちだった。家族や友人と同じ空間を共にしていたとしても、やるべきことや仕事関連の考えに気を取られることが多かった。つまり、頭も心もここにあらずの状態だ。ウェルビーイングに注意を向け、このような状態を引き起こす力学の根本的な問題に取り組むことで、参加者たちは仕事の「スイッチを切ること」ができるようになり、自分と仕事を同一視する感覚が減り、仕事と人生を豊かにするような、自分の全体性に近づくアイデンティティを取り戻すことができた。

失敗への恐れからの解放

どんな人でも、自分を批判する心の声を聞くことがある。参加者からの報告によれば、ジャーナリングなどの手法を通じてこの自己批判を観察し、その根源を見ることで、自身の失敗への恐れを捉え直すことができたという。自分自身に課していた厳しい評価基準を理解することで、ヒーローのようなアイデンティティを守らなければならないという自身の欲求を実際に緩和できた。このプロセスは、失敗の不快感や痛みを完全に消すことはなくても、軽くはできたのだ。参加者たちは、「失敗すれば自分を罰すべきだという感覚から距離を置けるようになって安心した」「失敗の可能性があっても勇気や前に進む力を見出すことができた」と述べた。

レジリエンスの向上とバランスの維持

インナーワークによって、アウェアネスと感情的知性が育まれやすくなる。その結果、参加者たちは、より冷静でポジティブな視点から困難な状況に対応できるようになったという。

この他にも参加者が得た利益として、「同僚や仲間に以前よりも深く耳を傾け、深くつながれるようになった」「もっと楽しめるようになった」「この仕事は自分しかできないという前提を手放して、周りの人たちの問題解決能力を認めて応援できるようになった」といったことが挙げられた。

2)組織レベルの成果
―信頼、統合、つながり

プログラムが進むにつれて参加者に変化が見られたのは、同僚や仲間に対する関わり方だ。参加者たちは、完全に「いまここ」に共にいて、積極的に耳を傾け、共創したいと思うようになっていった。私たちのリサーチから明らかになったのは、チェンジメーカーのインナーワークの支援を通じて、アイデア出し、ファンドレイジング、規模の拡大といった以前から重視される能 セクターレベル力にとどまらず、組織づくりのための重要な素質や能力も育まれる、ということだ。つまり、共感、コンパッション、感謝などの力が高まることで、有意義なかたちで相互のつながりを強め、他者との関係を育めるようになったのだ。

信頼しあう、弱さを隠さない、人を大切にする姿勢へのシフト

参加者たちは自分のリーダーシップへの見方を変え、同僚への信頼を築くように心がけ、一人ひとりが仕事にもたらす価値を認め、メンバーをエンパワーしてそれぞれの知恵や専門性が発揮できるよう働きかけた。彼らの仕事は、管理と評価よりも、コラボレーションとサポートを重視したものになった。また、自分が答えを持っていなかったり、何かを必要としていたり、強くいられなかったりするような場面でも、以前より安心してそのことを表明できるようになった。この変化は職場のチーム全体に波及し、他の人たちも同様の振る舞いをするようになった。つまり、参加者の周りの人々の間でも、つながりが強まったのだ。困難な場面でも、参加者は「これを解決できるのは自分しかいない」ではなく「関係の構築が問題解決の第一歩である」というマインドセットを持てるようになった。

組織全体にウェルビーイングを統合する

参加者たちは、仕事のためだけの関係性を超えて、思いやりを持って接し、個人的なつながりを築くことによって、ウェルビーイングが組織全体に編み込まれていったと表現した。余裕のない状況でも、「最近どう?」と聞いてみるなどのシンプルな行動を通じて、人と人のつながりを優先していったのだ。これによって組織のメンバーは、以前よりもオープンかつ正直に自分が求めていることを話せるようになったが、それは自分が仕事の能力以外の面でも大切にされていると感じられたからだ。その結果、プレッシャーの下で燃え尽きるまで働くようなチームではなく、よりポジティブで、支え合い、効率を高めるような働き方が生まれ、それが個人と組織のミッションの両方をサポートしていった。

ウェルビーイングを組織内に編み込んでいったプロセスには、以下のようなさまざまなかたちがある。

  • 組織内での仕事の進め方と、組織の外側の世界における活動との間の整合性を追求する
  • 新たな仕事ができた場合に、それが自分自身やスタッフのウェルビーイングにどんなインパクトがあるかを検討する
  • アウェアネスやその他のウェルビーイングの実践を、会議やワークショップ、プレゼンテーションなどに取り入れる
  • 規模の拡大にこれまでと異なる意味づけをする、またはこれまでよりも意図を持って規模拡大に取り組む
  • スタッフ、同僚、仲間たちのウェルビーイングを向上する機会を積極的に追求する

このほか、参加者が自分の組織でウェルビーイングを定着させたり優先事項にしたりするために取り組んだ方法としては、「ウェルビーイングを重視する文化づくりの重要性を経営層が認識するよう働きかける」「機会を見つけてウェルビーイングに関する気づきや実践について共有する」「ウェルビーイングを重視する価値観や実践が中心となる、新しいプロジェクトまたは組織を立ち上げる」「やるべき仕事が膨大でも、生産性と、ウェルビーイングの維持を等しく価値あるものとして扱う」などがあった。

3)セクターレベルの成果
―オープンになる、コラボレーション、創造性

リーダーになることの意味を捉え直すことで、参加者の個人としての仕事や人生への関わり方と、組織としての働き方に変化が起こり、方向性が示された。また、参加者とその組織の、ソーシャルセクター全体やほかのセクターに対する関わり方にも変化があった。このうち代表的なシフトが、以下の2 つである。

よりオープンになる

「こういう活動をすれば社会の変化を実現できるはずだ」という凝り固まった考え方とは対照的に、参加者は今回のプログラムでの経験から、他の人たちのやり方に理解を示すようになり、場合によってはそれを採用することに対しても、ずっとオープンになった。また参加者たちは、新たなアイデアについて学び発見することが自分たちにとって大切だというだけでなく、それらの学びを他の人たちや他の組織、ソーシャルセクター全体、さらにはその外側にまで共有することの重要性に気づいたとも述べた。その過程を通じて、学ぶ楽しさを見出していったし、共に学び、共に働き、共有し合うプロセスを信頼するようになっていったという。

コラボレーションを高める

アウェアネスとそこから意図を持つことによって、もっとコラボレーションしたいという思いに駆られるようになる。参加者は、インナーワークが自分自身のエゴを認識するのに役立ち、そのアウェアネスによって協力やコラボレーションの能力を高めることができたと述べている。他者の意見や考え方をより理解して認められるようになり、協働するパートナーに対しても、傾聴に値する、深い考えに基づいた価値ある知見を持つ人々だ、という捉え方になったという。また参加者たちは、自分たちは活動のミッションを実現する当事者で中心的な存在であるという感覚を持ってはいるが、コラボレーションがいかに自分たちの活動を支えて力を与えてくれるのか、また自分たちが単独でやるよりもいかに活動を前進させられるのかを発見したという。しかもコラボレーションによって活動が前進しているときでも、自分自身は「より全体性に近づく」アイデンティティを保つことができるし、仕事とは別に充実した人生を追求できることにも気づいたのだ。

こうしたアウェアネスからリーダーたちは、ソーシャルセクターにおいてこれまでとは違う働き方ができるのではないか、と思い描くようになった。ウェルビーイングと同様に、彼らの多くは建て前としてコラボレーションに取り組むと言ったことはあるものの、その価値を評価したり、意味あるかたちで取り組んだりすることはなかった。その価値に気づく劇的な瞬間が訪れたのは、組織内でコラボレーションに取り組んだときの人もいれば、仲間や他の組織、資金提供者とコラボレーションに取り組んだときの人もいる。そして多くの人は、これらを組み合わせた経験を通じて、コラボレーションの価値に気づいていったという。

4)社会レベルの成果
―コミュニティに根付き、新たな架け橋を築き、コレクティブ・インパクトを生み出す

ウェルビーイング・プロジェクトの向こう3 年間の目標は、ウェルビーイングの取り組みが社会に与えるインパクトについてより確かな全体像をつかむことだ。これまでに私たちが目にしてきたのは、参加者がさまざまなコミュニティやそのメンバーとさらに深く関わり、立場の違いを越えたコラボレーションにさらに取り組むようになり、より効果のある、全体の成果を生み出すような架け橋として、関係性を修復したり構築したりする姿だ。今回の研究をさらに進めるとともに対象範囲も広げることで、このような全体像を描いていきたいと考えている。

ウェルビーイングの文化を集合的につくる

私たちがこのプロジェクトを立ち上げたとき、グローバルあるいは地域で活動する85 の著名な組織のリーダーたちから、ウェルビーイングについて理解を深めて取り組みたいという関心が寄せられた。これを受けて私たちは、2016 年に学び合いのための学習コミュニティを2 つ立ち上げて、これらの組織が内面のウェルビーイングに対するサポートをどうすれば実装できるのか、その方法を探求し始めた。学習コミュニティでは、何回か直接顔を合わせつつ、オンラインでの集まりを重ねながら、自分たちの組織のスタッフに加え、サービス提供先や支持者など広い関係者をサポートするために重要なステップを歩んできた。以下はその例だ。

  • スコール財団、フォード財団BUILD プログラム、ビッグ・バン・フィランソロピー(Big Bang Philanthropy)の参加団体など、大手の財団が自組織のスタッフや助成先のウェルビーイング支援を始めている。たとえばピーリー財団はスタッフ向けのメンタルヘルスの手引きをつくるとともに、既存の助成先がスタッフのウェルビーイングに取り組む資金を支援するための専用助成金を創設した。
  • アショカ、 エコーイング・グリーン(Echoing Green)、シュワブ財団といった、グローバルあるいは各地で活動する大手の中間支援団体は、内面のウェルビーイングを向上する実践を採用し始めている。シュワブ財団は、社会起業フェロー向けに実施する2 日間の集会の初日を、内面のウェルビーイングの探求に充てている。アショカは、10 のグローバル優先項目のうちの1つにウェルビーイングを定め、インド、メキシコ、カナダといった国々でウェルビーイングのためのプログラムづくりを提供するイニシアチブがある。
  • その他、地域拠点ネットワークのなかでもImpact Hub ウィーンは、主力事業であるスタートアップ創業支援のアクセラレーションプログラムにウェルビーイングを組み込んだ。支援先の組織に対して、個人や組織のウェルビーイングを向上するためのコーチング、ウェルビーイングのアウェアネスを高めるワークショップ、ウェルビーイングの文化づくりに向けた組織の取り組みを評価する指標などを提供している。

学習コミュニティに参加する組織は、世界中で何万ものチェンジメーカーや組織に対してウェルビーイング向上プログラムを提供してきているが、そこに寄せられるフィードバックはそれらのプログラムの価値を補強している。たとえば、シュワブ財団がフェローから得たコメントは、財団が創設から20年の間に提供してきたセッションのなかでも、ウェルビーイングのセッションは最も深く有意義だった、というものだ。また、個人のウェルビーイングに焦点を当てることによって、弱さを見せられる感覚とオープンマインドが育まれ、本当の意味でのコラボレーションが出現することも明らかになった。以上のことから、これらの組織の取り組みは、エキサイティングな潮流の変化の始まりを表していると言えるだろう。

ソーシャルセクターにおけるウェルビーイングの先駆者たちは、これまで懐疑の目を向けられてきた。しかし、彼らは辛抱強く実験と学びの場をつくり続け、ある種のタブーだった「ウェルビーイング」というテーマを開かれた場での議論に引っ張り出し、社会変化の1つの重要な側面として真剣に検討すべきものに転換した。その結果、さらに多くの資金提供者が注目し、ウェルビーイングが持つ幅広い価値をますます認める文化が生まれ、ソーシャルセクターでは以前よりも一人ひとりが人として大切にされるようになっている。世界がこれまでに経験したことがないような困難な課題に直面しているなかにあっても、このようなカルチャーのシフトは進んでおり、私たちに大きな希望を与えてくれている。その希望とは、私たち一人ひとりにある特別な資質を育んでそれを活かすことで、変化を生み出す行動を強化し、深め、さらなる行動にインスピレーションを与えていけば、現在の困難な課題を乗り越えていける、というものだ。

本稿は、ウェルビーイング・プロジェクト、インド・ディベロップメント・レビュー、スコール財団とのパートナーシップによる、1 年間にわたる連載シリーズ「〈わたし〉を中心に置く―内面のウェルビーイングと社会変化とのつながり(Centered Self: The Connection Between Inner Well-Being and Social Change)」の第1 弾である9。このシリーズでは、個人、組織、セクター、社会の各レベルにおけるウェルビーイングを探究していくとともに、世界中のさまざまな分野からの視点や知見をまとめていく。目指しているのは、この分野の議論の幅を広げ、エキサイティングな文化のシフトに命を吹き込むことだ。

【原題】Connecting Individual and Social Change(Stanford Social Innovation Review, Mar. 11, 2020)
【写真】S Migaj on Unsplash

  1. https://en.wikipedia.org/wiki/Nonviolence
  2. CREA, “Self-Care and Self-Defense Manual for Feminist Activists,” https://creaworld.org/resource/self-care-and-self-defence-manual Nana Sekyiamah, “What’s the point of the Revolution if We Can’t Dance: A Personal Personal Perspective,” African Women’s Development Fund, https://awdf.org/whats-the-point-of-the-revolution-if-we-cant-dance-a-personal-personal-perspective
  3. UNITE, “Charity workers suffering an epidemic of mental health issues and stress, survey reveals,” May 20, 2019, https://www.unitetheunion.org/news-events/news/2019/may/charity-workers-suffering-an-epidemic-of-mental-health-issues-and-stress-survey-reveals/
  4. Community Care, “How stress impacts social workers – and how they’re trying to cope, September 28, 2016, https://www.communitycare. co.uk/2016/09/28/stress-impacts-social-workers-theyre-trying-cope/
  5. Amy Joscelyne et al, 2015, “ Mental Health Functioning in the Human Rights Field: Findings from an International Internet-Based Survey,” PLOS ONE 10(12): e0145188, https://doi. org/10.1371/journal.pone.0145188
  6. John Eligon, “The Quiet Casualties of the Movement for Black Lives,” The New York Times, March 28, 2018, https://www.nytimes.com/2018/03/28/insider/black-lives-matter-stress.html
  7. https://wellbeing-project.org
  8. The Wellbeing Project, “Wellbeing Inspires Welldoing: How Changemakers’ Inner Wellbeing Influences Their Work,” 2020, http://wellbeing-project.org/wp-content/uploads/2020/03/research_report.pdf
  9. “Centered Self: The Connection Between Inner Well-Being and Social Change,” Stanford Social Innovation Review, https://ssir.org/centered_ self_the_connection_between_inner_wellbeing_ and_social_change


Comments are closed.