「非営利団体は、寄付や助成金は事業にまわすべきで間接費や管理費は最小限に抑えるべきだ」
世間に広く根付いているこの考え方が実は非営利団体の経営を追い詰めている。この悪循環はどのような構造になっていてそれを断ち切るためには何が必要なのか?(SSIR 2009年 秋号)
※本稿は、SSIR Japan 編『スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版 02 社会を元気にする循環』より転載したものです。
アン・ゴギンズ・グレゴリー Ann Goggins Gregory
ドン・ハワード Don Howard
ITや財務のシステム、研修制度、資金調達プロセスといった組織のインフラがしっかりと整備され そのための間接費を賄える組織は、そうでない組織よりも成功しやすい⸺。これはまったく新しい話ではなく、非営利団体もまた例外ではない。
とはいえ、非営利団体の大半が間接費の財源を十分に確保できていないことはあまり知られていない。非営利団体専門のコンサルティング業務を行うブリッジスパン・グループでは、クライアント先で次のような場面によく遭遇する。団体のメンバーたちは組織のインフラとマネジメントを強化すべきという考えには同意するものの、いざ間接費への出費を増やすとなると難色を示すのだ。
しかし、間接費の財源不足が致命的な事態を招きかねないことは、米シンクタンクのアーバン・インスティテュートの全国公益活動統計センターとインディアナ大学の公益活動センターによる5年間の共同研究プロジェクト「非営利組織の間接費研究」(Nonprofit Overhead Cost Study)で明らかになっている。このプロジェクトは、米国内国歳入庁(IRS)が非営利団体に提出を義務づけている年次税務申告書(通称「フォーム990」)を22万件以上精査し、収入が10万ドルを超える1500の非営利団体を徹底調査したものだ。その結果、性能の悪いコンピュータが使われている、業務に必要なトレーニングを受けていないスタッフが働いているなど、驚きの実態が次々と明らかになった。オフィス家具が老朽化しすぎて引越業者に運搬を拒否されたケースさえあったという。間接費の財源不足による悪影響はオフィス以外にも及んでいる。まともに動かないコンピュータでは、事業のアウトカム(成果)を測定して何がうまくいっていて、何がそうでないかを追跡することもできない。スタッフのトレーニングが不十分であれば、受益者に質の高いサービスを提供することなどとうてい無理だ。
このような研究があるにもかかわらず、非営利団体の多くは依然として間接費への支出を渋っている。実際、昨年(2008年)の世界金融危機がもたらした目下の不況を乗り切ろうと、少ない間接費をさらに切り詰めようとしていることが、ブリッジスパンの最新研究で明らかになった。全米の非営利団体の事務局長100人以上を対象に調査したところ、回答者の56%が間接費の支出を削減するつもりだと述べた。とはいえ、すでにぎりぎりの間接費をさらに削れば、ミッションの達成能力はもちろん、組織の存続そのものが危うくなりかねない。アメリカのオバマ政権が金融危機下で発動した緊急経済対策で成長が加速する団体もあるかもしれない。しかし、多くの組織はインフラが盤石とはいえないため、予定外の収入をうまく活用できずに、善意から提供された資金の重みに耐えかねて押しつぶされてしまうだろう。
なぜ、非営利団体と資金提供者が一様に、間接費の財源不足を放置しているのか? 私たちはこの原因を探るべく、全米規模で若者支援に取り組む4つの団体を調査した。どの団体も、政府・財団からの助成金や個人からの寄付金など、複数の資金源をもとに運営されている。また私たちは、さまざまな団体のリーダーやスタッフ、資金提供者に対する聞き取り調査と、非営利セクターの間接費に関する先行研究の総合分析も行った。
その結果、間接費不足の慢性化を助長する悪循環があることが浮き彫りとなった1(「非営利団体を追い詰める悪循環」の図を参照)。悪循環を誘発している第一の問題は、資金提供者が期待している団体の運営コストが現実と大きくかけ離れていること。続く第二の問題は、資金提供者のそうした期待に応えなければならないというプレッシャーが団体側にかかっていること。第三の問題は、そのプレッシャーに対して団体側が「間接費を最低限に抑える」と「税務申告書やファンドレイジング用の資料で間接費を過少報告する」という2つの対応をとっていることだ。このような間接費の切り詰めや過少報告により、資金提供者の非現実的な期待が常態化することになる。それが長く続くことで、資金提供者は非営利団体に対して、より少ない経費でより多くの成果を出すことを求めるようになっていく。これが、団体をじわじわと窮乏に追い詰める悪循環の仕組みだ。
非営利団体を追い詰める要因は1つではない。しかしこの悪循環を緩和・解消する最善策は、資金提供者の現実と大きくかけ離れた期待を止めることだ。それは私たちの研究からも明らかになっている。ただし、資金提供者の考えを変えるには、セクター全体を巻き込んだ協調的な取り組みが必要となるだろう。いまは非営利セクターの力がかつてないほど必要とされている時代だ。また、政府は以前にも増して、社会課題解決の分野で非営利団体を頼っている。それぞれの団体が健全に機能し続けていくためには、この悪循環を断ち切るべくともに取り組んでいくことが必要不可欠なのだ。
資金提供者の非現実的な期待
非営利団体を追い詰める悪循環は、社会に深く根付いた慣習が招いた結果であり、「卵が先か、鶏が先か」ではないが、発端を見きわめるのは容易ではない。とはいえ資金提供者による非現実的な期待という問題から考えていくことが、この悪循環を検証するのに役立つと私たちは考えている。この問題をややこしくしているのが、資金の提供者と受給者のあいだにある力関係だ。受給する団体がこの悪循環に真正面から立ち向かうことは、不可能ではないにせよ、かなり難しいと思われる。とくに団体側が単独でそのような行為に出れば破滅的な影響が出る可能性が高くなるだろう。昨今のような経済不況においてはなおさら、世間の流れに逆行して実質的な間接費を計上すれば、大口の資金を失うおそれがあるからだ。組織の評判にも傷がつくかもしれない。だからこそ、資金提供者たちが自身の期待を見直すことが、資金の受給者たちと正直に話し合う土台をつくる第一歩となるだろう。
資金提供者の多くは、団体側が間接費を意図的に低く計上していることも、寄付者向け報告書に記載されている間接費と事業関連費の比率がかなり不正確な場合が多いことも承知している。そもそも正確なデータがなければ、資金提供者は間接費のあるべき比率を判断できない。非営利セクターでは平均でどのくらいの間接費が現実的あるいは非現実的なのかを検討するうえで、営利セクターをもとに類推するのは理想的ではないとしても、いくらか参考になるはずだ。
「事業に欠かせない間接費」のグラフは、営利セクターにおける業種別の間接費の割合を示している。業種によって間接費の割合はさまざまだが、平均すると売上高の25%前後だ。非営利事業に近いサービス業の場合、間接費の割合が20%を切っているところはない。
確実かつ正確なデータが不足しているため、資金提供者は団体側の報告に頼るしかない。しかし、後述するとおり、報告書の数値は欠陥だらけだ。そのため、資金提供者が不健全なほどの経費削減を団体側に要求することが常態化している。たとえば、私たちが調査した若者支援の4団体はみな、地方自治体や州・連邦政府から事業を委託されているが、どの委託契約でも、助成金から支出できる間接費の割合が15%を上回っているものはなかった(間接費には運営、財務、人件費、ファンドレイジングなどの費用が含まれる)。
財団の場合は、間接費として支出可能な割合を行政機関よりも多めに設定していることもある。しかし、その程度はまちまちで、助成金1件あたりで間接費に支出できる割合は平均で10~15%だ。この数字は米国の最大手の財団でも違いはない。加えて、財団であっても間接費を巡る方針は、行政機関と同様に柔軟性に欠けることがある。
多くの場合、助成金から支出できる間接費の額だけでは、その助成金自体の管理に必要な経費さえカバーできない。たとえば、ブリッジスパンのクライアント先のある団体では、政府から助成金を受給したある案件について、義務づけられた報告書の作成に費やした業務時間を金額に換算したところ、助成金の約31%に相当することがわかった。しかし、資金提供者が間接費に支出可能な割合として指定していたのは、わずか13%だった。
資金提供者の大半は、間接費の条件設定が現実的に見て低すぎることを自覚しているようだ。この点は、グラントメーカー・フォー・エフェクティブ・オーガニゼーション(Grantmakers for Effective Organizations)の調査でも明らかになっている。全米の助成金を拠出する820の財団を対象にしたこの調査では、「助成金には報告書作成の業務時間をカバーできるだけの間接費が含まれている」と答えた財団はわずか20%だった2。
個人寄付者の期待もいびつだ。アメリカの商事改善協会(BBB)のワイズ・ギビング・アライアンスが2001年に行った調査では、非営利団体が間接費に充てるべき割合についてアメリカの成人にアンケートをとったところ、20%以下の数値を回答した人が半数以上で、30%以下の数値を回答した人は5分の4近くを占めた。さらに、非営利団体への寄付を検討する際は「事業の成否」よりも「間接費の支出割合」と「財務の透明性」のほうを重視する、という結果も出ている。
間接費について現実とかけ離れた見方をしているのは、資金提供者や個人寄付者だけではない。非営利セクター自体も間接費の不適切な支出割合の常態化を助長している。「間接費に支出可能な割合が20%という基準は、資金提供者、個人寄付者、ならびに非営利セクター自体によって常態化しています」。こう話すのは、私たちの調査に応じた若者支援団体の1 つで最高財務責任者(CFO)を務める人物だ。「自分たちが出した財務報告書の内容を評価しようと、他団体を参考にしたところ、彼らも不正確な報告書を作成していることに気がつきました。類似の事業を行うある団体では、財務責任者が業務時間の70%を(担当の財務業務ではなく)団体のプログラム実施業務に充てていました。まったくおかしな話です」。
こうした状況から、非現実的な期待を自らエスカレートさせている自覚が団体側にあったとしても、慣行を破ってまで正確な数字をファンドレイジング資料に計上することには及び腰となっている。多くの団体が右にならえの姿勢で間接費の節約をうたっている状況では、組織インフラへの投資を正当化するのは難しい。たとえば、先天性口唇裂・口蓋裂の子どもたちを医療支援するスマイル・トレイン(Smile Train)は、「寄付金は100%、実際のプログラムに充てられ……間接費にはいっさい使われません」と公言している。しかしただし書きには、間接費は必要であり、プログラム外の経費は「設立サポーター」からの寄付金で賄われていると記載されている。
このような複合的な構図が、団体を追い詰める悪循環を生むもう1 つの問題、つまり非現実的な期待に応えなければならないというプレッシャーを助長している。「非営利団体の間接費研究」によれば、このようなプレッシャーはさまざまな相手から受けている。ある研究によれば、プレッシャーを受ける相手として行政機関と回答したのは36%、寄付者という回答は30%、財団という回答は24%だった3。
間接費の財源不足
さらに研究で指摘されているのは、資金提供者からのプレッシャーにさらされた団体は、「予算は少ない、それでもなんとかする、なくてもやるしかない」という文化が蔓延していることだ。組織のあらゆるところで、この文化による痛みが生じている。たとえば、ブリッジスパンのクライアント先でよく目にするのは、専門性の高い人材を必要としていても、他に負けない報酬を捻出できず、経験や専門性が不十分な人材の採用を余儀なくされているケースだ。また、スタッフの研修費を確保できず、リーダー人材の育成が進まない団体も多い。
このように組織の体力悪化によってとりわけ大きなダメージを被るのは、若者支援を行う団体だ⸺。そう指摘するのは、「アフタースクール・オールスターズ(After-School All-Stars)」会長兼CEOのベン・ポールだ。同団体は、ロサンゼルスに本部があり、学力に不安のある子どもたちを対象に放課後の活動やサマーキャンプを全米各地で展開している。ポールは言う。「リーダーの経験がある人なら知っているとおり、組織にとって最も重要な資本は人的資本です。アフタースクールには、『子どもたちはプログラムに惹かれて集まり、スタッフに惹かれて継続する』という言葉があります。適切な人を雇えなければ、放課後の活動など提供しないほうがまだいいでしょう」。
一方で、着実な測定システムなくしては、どの活動が望ましいアウトカムに結びつくのかを正しく判断するのは難しい。「着実なアウトカム測定に投資するためには、インフラ強化の資金が必要です。それなのに資金提供者の多くは、管理費の支援をするためにまずはプログラムのアウトカムをデータで明確に示してほしいと要求するのです」と、ニューヨークを拠点とするエドナ・マコーネル・クラーク財団のポートフォリオマネジャー、ジェイミー・マッコーリフは言う。
若者育成プログラムで高い実績をあげている組織を例にとろう。特定されないよう、「ラーニング・ゴーズ・オン・ネットワーク(LGON)」と仮称で呼ぶことにする。LGONは活動を急拡大するべく態勢を整えようとしたが、既存のデータ管理システムでは参加者の急増に対応できないことに気がついた。背景を検証したところ、プログラム担当のスタッフが業務時間の25%を使ってデータを手入力していることがわかった。あるスタッフは、マイクロソフトAccessのかなり古いバージョンのデータベースへの入力に、業務時間の50%を費やしていたという。
スタッフが綱渡りのような状況に慣れすぎてしまうと、本来もっと投資が必要なはずの間接費を正当化することさえ難しくなることが、私たちの聞き取り調査から明らかになった。「組織を成長させるためには、最高執行責任者(COO)の採用が最優先事項であることはずいぶん前から承知していましたが、予算が不足していました」と、私たちが調査したある若者支援団体のCEOは述べた。ところが、理事会がようやくCOO職の設置を決めたにもかかわらず、スタッフから異を唱えられたという。「予算ぎりぎりの状況で長年業務を続けてきたのに慣れたせいで、COOを採用するという考え方に驚いたようです」。
誤解を招く報告書
非営利団体を追い詰める悪循環を生む最後の要因は、団体側が実際とは異なる間接費を報告書に計上する慣習だ。団体が財務報告書に計上している間接費が「妥当と思われない」ことが、研究で明らかになっている。22万を超える団体を調査した結果、ファンドレイジングに要した経費をいっさい計上していない団体の数は3分の1以上、管理費や一般経費をいっさい計上していない団体の数は8分の1もあった。さらに踏み込んで調べたところ、75~85%の団体が、助成金を巡る経費について不正確な報告を行っていたことも明らかになった。
若者支援の4団体を対象にした私たちの調査でも、実際に支出した間接費と、報告書の計上額が食い違っていたことがわかっている。報告書に計上されていた間接費の割合は13 ~ 22%だったが、実際の割合は17~35%だった。
こうした経費の過少報告については、多くの裏付けが取れている。非営利専門の情報誌『クロニクル・オブ・フィランソロピー』が2000年に実施した調査では、非営利団体の大多数が、アメリカのNPOが提出する年次税務申告書「フォーム990」の資金調達経費欄には何も計上しないよう会計士から助言を受けたと回答した4。フォーム990の監査体制の不備がこの問題をますます悪化させている。米国内国歳入庁(IRS)が不完全または不正確な申告書に対して罰金5万ドルを課すケースはほぼなく、たとえあったとしても、組織が意図的に提出を怠った場合に限られている。同誌の調査によれば、「報告書に計上されている間接費が不適切であったとしても、影響はないか、あったとしてもほんのわずかだ」という。
複数の関係者の証言によれば、IRSの説明不足も誤った数字が計上される要因だ。たとえば、非営利団体のマーケティングと対外コミュニケーションの会計処理についていっさい説明していない。そのため、多くの組織はマーケティングと対外コミュニケーションの経費を事業関連費に振り分けているが、本来であれば管理費かファンドレイジング経費として計上されるべきケースがほとんどだ。
政府機関が定める間接費の定義もまた、統一されておらず曖昧だ。たとえば、米国行政管理予算局(OMB)の間接費の定義では、「その経費の用途が組織全体で共通しているか他の活動にも関連しており、特定の明確な用途を定義しがたいもの」とされ、それゆえに「非営利団体の多様な特徴と会計慣行により、どんな状況でもこれが間接費だと分類できる経費の種類を特定することはできない」と述べられている5。
とはいえ、吉報もある。 米国会計検査院(GAO)が現在、連邦政府の助成機関によって異なる間接費の定義について調査中だ。GAOの戦略課題チームのディレクター、スタン・ザウインスキーはこう説明する。「目指しているのは定義の一貫性です。そうすれば、非営利団体と資金提供者は、資金調達時にどのような支出に充てようとしているのかを明確に理解できるでしょう」。この調査は始まったばかりだが、ニーズがあるのは明らかだとザウインスキーは指摘する。「これが見当違いの取り組みだと言われたことはありませんから」。
適切な支援とは何か
非営利団体を追い詰める悪循環の背景にはさまざまな要因が存在するが、これを食い止めるためにはやはり振り出しに戻るのがベストだと私たちは考えている。すなわち、資金提供者の非現実的な期待だ。この点については、財団と政府の助成金拠出機関が率先して行動しなくてはならない。なぜなら、彼らは資金を提供される団体に対して、圧倒的に優位な立場にいるからだ。資金提供者側からの期待が変われば、団体側は間接費を過少報告するプレッシャーをさほど感じずに、インフラへの投資にも前向きになるだろう。
資金提供者がとるべき第一歩は、コスト重視からアウトカム重視へと考えを変えることだろう。非営利の世界では、組織があまりに多様なため、事業の有効性(effectiveness)を測定する共通の指標は存在しない。その代わりに資金提供者は、組織の効率性(efficiency)を理解しようとして、間接費や、入手しやすいが不正確な可能性のある他の指標に目を向けてしまう。資金提供者は事業のインパクトに目を向け直して、「私たちは何を実現しようとしているのか?」や「成功をどう定義するのか?」を問いかけることが必要だ。そうすることによって、資金提供者は受給者に対し、インパクトが他の何よりも大切であるというメッセージを送ることができる。実際、大まかな指標(たとえば「目指すインパクトのイメージはAとCのどちらなのか」)に注意を向けたほうが、コストの効率性にこだわるよりも有益だろう。なぜなら、コストの効率性ばかりを気にすると、判断の視野が狭くなり、事業の結果にとって好ましくないこともありうるからだ。
資金提供者はまた、自分たちが達成したい事業の目標について受給者と明確なコミュニケーションをとる必要があるだろう。資金の提供者と受給者が目標を共有したうえで、提供者は「そのアウトカムを着実に生み出していくために、またはアウトカムの質や量を向上させるためには何が必要か」と受給者に問いかけ、率直な回答を求めていくべきだろう。
たとえば、私たちの調査対象団体の1つは、主要な資金提供者とともにこの問いを徹底的に検討し、目標とする成長のためにはテクノロジー整備にまとまった投資が必要だ、という結論に達した。アウトカムの測定を標準化して、常に活動をスムーズに改善していくためには、その投資が唯一の近道であることに資金提供者は同意したという。
可能であれば、資金を受け取る側の団体が抱える特定のインフラのニーズに対処できるよう、一般経費に特化した助成金を出すのが望ましい。グラントメーカー・フォー・エフェクティブ・オーガニゼーションが2008年に実施した研究によれば、運営面の支援を強化すれば、組織として成果をあげる力を高めることにつながるという点では、助成金拠出団体と非営利団体の認識が一致していることがわかっている。また、非営利団体の支援を行う「コンパスポイント(CompassPoint Nonprofit Services)」が2006 年に、8都市圏の非営利団体のリーダー約2000人を対象に実施した研究では、一般管理費のための支援金を確保することが、リーダーたちの燃え尽き症候群やストレスを軽減するうえで非常に効果的であることが明らかになった6。ただし、この研究の対象となった財団のうち、何らかのかたちで一般管理費を支援している割合は80%に上ったものの、実際に経費に利用可能な助成金の割合は中央値で20%にすぎなかった。
どのような支援であれ、資金提供者は受給者に働きかけ、より効果的な事業をするのために何が必要かについて、オープンで率直な対話をリードしていくべきだ。助成プロセスの多くは、受給者側の活動の全貌や背景について、資金提供者が深く考慮するようには設計されていない。そのため、助成金の柔軟性が欠けて本来必要とされるところにまわっていない。しかし、資金提供者が受給者側の運営状況をよく理解すれば、現場のニーズにより対応しやすくなるはずだ。
非営利団体を追い詰める悪循環を改善するためには、間接費への非現実的な期待を変えることが最もインパクトが大きいが、その他にも資金提供者にできることはある。その1つが、使用目的を限定した助成金を支給する際に、管理費やファンドレイジング経費にまわせる資金を大幅に増やすことだ。 2004年には非営利団体向けの中間支援組織インデペンデント・セクター(Independent Sector)が、資金提供者は「プロジェクトを実施する団体の運営に必要な管理費とファンドレイジング経費について、一定以上の割合」を提供することが望ましいと提言している。
また、助成金の支給時に間接費として支出可能な割合を指定するよりも、行政機関は申請を受け付けるときに団体側から本当に必要な間接費を明示してもらい、その内容が妥当だと認められたら申請額を支払うようにしたほうがいいだろう。実際、アメリカ政府の助成金のなかには、団体側が妥当だと考える間接費の割合をガイドラインの範囲内で申告できるものがあるし、それを他のすべての政府の助成金申請にも適用可能な仕組みになっている。そうした方法を連邦政府や州政府、地方自治体との契約に拡大すれば、団体側の事業の向上を後押ししながら、助成金の管理に必要な費用も提供できる。
最後に、報告書の透明性と正確さを向上させるうえでも、資金提供者は「間接費」の定義の標準化に努めるべきだ。いまのところ、団体側は助成金を受け取るたびに、間接費を個別に報告しなければならない。間接費の定義を標準化すれば、資金提供者はそれぞれのケースを同じ条件下で比較できるようになるし、受給者は間接費にどのくらい投資しているのか(あるいはしていないのか)も把握できるようになる。間接費に支出できる割合を現実的な視点から対話を始めることで、本来の目標である「アウトカム」へと注力しやすくなるだろう。
受給者にできること
非営利団体を追い詰める悪循環を断つ責任を担っているのは、資金提供者だけではない。組織を率いるリーダーにも果たすべき役割がある。彼らは何よりもまず、本当の間接費はいくらなのか、組織のインフラを築くうえで何が本当に必要かを把握しなくてはならない。先述したLGON(仮称)の場合、シニアマネジャーは数カ月をかけてコストを徹底的に洗い出し、不十分な測定プロセスなどの現状を分析し、組織のインフラに欠けているものを解明した。この戦略的な視点に立って3カ年計画を立案し、LGONは新たな実績測定システムの確立とプログラム外職員の150%増員を目指すようになった。
非営利団体はまた、組織の上層部に事実を包み隠さず報告するべきだ。理事会で本当の数字を共有して、理事たちにも資金提供者との交渉をサポートしてくれるよう巻き込んでいく必要がある。インフラ投資に成功した組織の研究では、経営陣と理事会が課題を共有することの必要性が何度も指摘されている。 LGONを例に取ると、事務局長が戦略立案の早い段階から理事会と密に連携していたほか、インフラ対策を話し合うミーティングを何度も開催していた。
理事会がなすべき役割は、資金提供者から聞かれる前に、「この組織が成功するためには何が本当に必要なのか」「どの分野への投資が不足しているのか」「その投資不足によるリスクとは何か」といった難しい問いを投げかけることだ。その一方で、経営陣に対しては、インフラに関するニーズを正確に把握するよう働きかけなくてはならない。サンフランシスコを拠点に若者のホームレス問題に取り組むラーキン・ストリート・ユース・サービス(Larkin Street Youth Services)の理事長クリス・ブラームは、理事会はインフラ構築の計画づくりをサポートできる立場にあると話す。「非営利団体の経営者は、事業の実施とファンドレイジングに忙殺されています。一方で理事会は、ビジネス経験の有無を問わず、客観的な視点から間接費を見ることができます」。
LGONの場合、事務局長は新しい戦略のビジョンを熱心に支持してくれそうな理事を数人見つけた。その理事たちが、ビジョン実現に必要な間接費について他の理事たちとのコミュニケーションを進めていったのだ。
こうした対話において理事会も経営陣も意識すべきなのは、経費削減ではなく、インフラ投資が受益者にもたらすメリットである。つまり、議題が「コスト」だったとしても、長い目で見ればインフラ投資が受益者へのサービスコスト軽減につながるかどうかを重視すべきなのだ。たとえば、技術インフラに投資したある組織を調査したところ、スタッフの時間が解放され、また「まとまりのなかった」システムが一元化されたことで、年間35万ドルのコスト削減につながったことが明らかになった。
締めくくりとして伝えたいのは、受給者側には寄付者の啓発に努める必要があることだ。アフタースクール・オールスターズのポールは指摘する。
「寄付者は、寄付金を事務所の賃料や通信費などに使ってほしくないと考えています。しかし、そうした経費は日常業務に欠かせません。車の中で仕事をして、パフォーマンスの高い組織運営などできないでしょう。こうした経費の必要性を寄付者に伝える方法はいくらでもあるはずです」
資金の提供者も受給者も、不況による痛手を受けている。しかし、景気低迷は間接費削減の言い訳にはならない。「非営利団体のリーダーが、間接費の財源を確保することはできないと考えているのだとしたら、それは問題を混同しているからだと思います」とラーキン・ストリート・ユース・サービスのブラームは話す。「本当の問題は、十分な資金を調達できないことです。原因は、資金提供者を引きつけるような成果のストーリーが団体にないか、あったとしてもそれをうまく伝えることができていないかのどちらかです」。不況を間接費削減の理由にするのではなく、これは数十年にもわたるインフラ投資不足を解決できるチャンスが来ていると捉えるべきだ。「行政や民間の資金提供者、非営利団体。こうした重要な利害関係者がともに一歩を踏み出し、キャパシティ・ビルディング(経営能力の強化)が健全な組織づくりに欠かせないと認識できれば、真の変化が訪れるかもしれません」とエドナ・マコーネル・クラーク財団のマッコーリフは話す。非営利団体を追い詰める悪循環を加速させる力は非常に強い。しかし、その悪循環を断ち切ることで、長期的に見て受益者が大きな恩恵を得られるのだと理解できれば、資金提供者も受給者も必ず一歩を踏み出すだろう。
協力:ウィリアム・べーズワース(ブリッジスパン・グループ元マネジャー)
【翻訳】遠藤康子
【原題】The Nonprofit Starvation Cycle(Stanford Social Innovation Review, Fall 2009)
【イラスト】HOLON
- Kennard Wing, Tom Pollak, and Patrick Rooney, How Not to Empower the Nonprofit Sector: Under-Resourcing and Misreporting Spending on Organizational Infrastructure, Washington, D.C.: Alliance for Nonprofit Management, 2004. この本の3人の共著者は、非営利団体の間接費研究をリードする研究者である。
- William H. Woodwell Jr. and Lori Bartczak, Is Grantmaking Getting Smarter? A National Study of Philanthropic Practice Washington, D.C.: Grantmakers for Effective Organizations, 2008.
- Kennard Wing and Mark Hager, Who Feels Pressures to Contain Overhead Costs?, Paper presented at the ARNOVA Annual Conference, 2004.
- Holly Hall, Harvy Lipman, and Martha Voelz, “Charities’ Zero-Sum Filing Game,” The Chronicle of Philanthropy, May 18, 2000.
- White House Office of Management and Budget, Circular A-122 (Revised): Cost Principles for Nonprofit Organizations.
- Jeanne Bell, Richard Moyers, and Timothy Wolfred, Daring to Lead 2006: A National Study of Nonprofit Executive Leadership, San Francisco: CompassPoint Nonprofit Services, 2006.