孤独・孤立・少子高齢化

すべての政策に「社会的つながり」を取り入れる

COVID-19(新型コロナウイルス)によって人々の孤立はますます広がっている。しかしパンデミック以前から深刻な問題であり、人々の健康への悪影響は無視できないレベルになっている。社会的つながりを強化する3つのステップを提案する。

リサ・ウィルカーソン

社会からの孤立は、公衆衛生上の深刻な問題だ。孤立が健康にもたらす悪影響は、長年の喫煙やアルコール摂取と同程度とされる。孤立は気分の落ち込みや不眠をもたらし、認知機能低下を加速させ、免疫不全にもつながる。さらには脳卒中、冠動脈性心疾患、早期死亡のリスクも高まる。孤立を感じている人は、健康的な生活をしようとか、他者と協力して社会のウェルビーイング(身体的・精神的・社会的に満たされた良好な状態にあること)に貢献しようといった意欲を持てない傾向がある。

一方で、社会や他者と強いつながりを持っている人のウェルビーイングは高まりやすい。ある研究では、社会とのつながりを持つ人は寿命がそうでない人に比べて 1.5 倍も長くなる可能性があることが示されている。カナダでの複数の研究によると、コミュニティへの帰属意識が高い高齢者ほど、健康状態がより良好であるという。COVID-19(新型コロナウイルス)の世界的なパンデミックで、孤立やそれに伴う健康問題が増えている。このような公衆衛生上の危機によって、社会とのつながりをさらに阻むような、システム面での障壁が数多く生まれた。たとえば、生活に必須でないサービスの停止や、人々の集まりの制限、テレワークやソーシャル・ディスタンスの推進などである。その影響は、アルコールや違法ドラッグの使用率の上昇、孤独感や気分の落ち込みの報告件数の増加、メンタルヘルスの不調に関する医療機関への受診件数の増加など、さまざまなところで顕在化している。

しかし、孤立の危機的状況は、パンデミックをはるかに超えて広がっている。アメリカ国内でも世界的にも、あらゆる年齢、属性、アイデンティティの人が孤立を経験しているのだ。COVID-19 以前の2018 年時点の調査では、アメリカの成人の半数以上が、生活の中で頼れる人が 1 人もいない、あるいは 1 人しかいないと回答している。また、コミュニティと強い感情的なつながりがあると回答したのはわずか 19%だった。

人種や民族、ジェンダーアイデンティティや性的指向が原因で疎外感を感じている人は、社会的孤立に特に陥りやすい。このような孤立に伴う脆弱性は、長期の体調不良や障害、DV(家庭内暴力)、大切な人の死、介護、育児、異動、収監、路上生活、自身のジェンダーをカミングアウトして家族や友人からの拒絶にあう、といった経験によって深刻化しやすい。これと同じ理由で、社会的孤立に陥りやすい人は、他の健康問題も抱えやすくなる。

現在、孤立対策の大半は、支援プログラムや教育など個人向けの施策が中心だ。もちろんこういった個別の対応にもメリットはあるが、より幅広く、社会的なつながりを意識したコミュニティをデザインすることに重点を置くべきではないだろうか。社会的なつながりのあるコミュニティとは、人々が互いに知り合って信頼関係が築ける場であり、自分が受け入れられていてそこにいてもいいのだと感じられる場であり、市民としての活動への興味とサポートが得られる場である。いまこそ、コミュニティ内のセクターやシステムの枠を超えて孤立解消に向けた政策や仕組みや社会の価値観を強化し、コミュニティ内の連帯感を高め、公衆衛生を改善すべきときだ。具体的には、次の 3つのステップを提案したい。

つながりを強化するための3ステップ

第一に、「すべての政策に社会的つながりの視点を」という考え方を取り入れて、政策立案者、社会変化を目指す組織、資金提供者などさまざまな問題に取り組んでいる関係者に活動の指針を示すことだ。ここでは社会的つながりが、交通や都市計画、社会サービスなどのさまざまな政策立案分野において基本的な要素として認識されなければならない。また、社会における不公正や不平等やトラウマへの対処も組み込まれる必要がある。このアプローチは、一般的に想像されるよりは簡単に実施できる可能性がある。なぜなら社会的つながりの強化は、ウェルビーイングを高める取り組みの副産物となっている場合がよくあるからだ。

たとえばカリフォルニア州サンノゼでは、高速インターネットサービスへのアクセス格差を是正する取り組みに着手した。ある公立図書館には3000 のホットスポット(無線LAN中継ポイント)があり、90 日間を貸出期間として使用できる。今後、さらに 8000 のホットスポットが学生向けに提供される予定だ。この取り組みはインターネットアクセスに重点を置いているが、COVID-19 の流行によって浮き彫りになったように、オンラインでつながれるということは、社会生活を送るうえで重要である。ストーリーや体験をネット上で互いにやりとりすることで、共感や信頼や心の結び付きが育まれ、人々のつながりを促進していく。また、図書館は無料で誰にでも開かれた場でもある。

別の例としては、スウェーデンで採用された「ジェンダーバランス予算」という仕組みがある。この施策で可視化された 1 つの課題が、冬季の除雪範囲が車道に偏りすぎることによって、車よりも徒歩で移動することが多い女性が男性よりも不利な立場に置かれているということだった。これを受けて、スウェーデンの地方自治体は現在、バス停や学校の周辺を中心に、歩道や自転車専用道路を先に除雪してから、車道や幹線道路の除雪を行っている。ジェンダー平等を推進するこの取り組みには、気候が著しく悪化するようなときでも、女性と子どもが地域のコミュニティや支援から取り残されないようにサポートするという側面もある。

トラウマの克服とレジリエンスの向上を支援する取り組みも、社会的つながりを強化する。トラウマ経験者は、自ら孤立しやすく、トラウマを引き起こす社会的状況や人間関係を避けようとする。アラスカ州シトカは、歴史的な不平等を明らかにして、それを是正するためのさまざまな取り組みを行っている。たとえば、州や先住民コミュニティにおける、公的サービスや児童福祉関連の民事裁判に、民族的なトラウマに配慮した共同計画や仕組みを取り入れている。その結果、先住民の文化に配慮した家族を支援・尊重するプロセスが生まれ、先住民の親子引き離しの発生率は大幅に減った。家庭環境が安定すると、コミュニティにもさらなる活気や絆が生まれる。

第二のステップは、政府による社会インフラへの投資を増額することだ。社会インフラとは、社会学者エリック・クリネンバーグによると、コミュニティの物理的要素であり、人々を団結させ社会資本を築く橋渡し役となるものである。たとえば、公園や図書館、公共交通機関、商店エリアなどあらゆるものが社会インフラになりうる。私たちはこのようなインフラへの投資を促進しながら、セクターを超えてコミュニティと連携し、人々がうまくつながり合える場やプログラムを生み出すように働きかける必要がある。

たとえば、デンマークのコペンハーゲンは、工業港跡地を、人々が集い、屋外で遊び、運動を楽しむような場に変えたいと考えた。そこで同市は、入浴施設やサウナを備えた水に浮かぶコミュニティセンターをつくるなど、さまざまな開発事業を行っている。同様の取り組みを行っているアトランタ市やニューヨーク市などアメリカのいくつかの自治体では、コロンビアのボゴタ市の事例に倣い、一部の自動車用道路を封鎖して、さまざまなアクティビティを楽しめる、安全で誰にでも開かれた空間として活用している。

第三のステップは、社会的つながりを大切にするコミュニティの価値観を育むことだ。政策や仕組みの変更によって、社会における価値観も変わる可能性がある。しかし、社会的つながりを重視する価値観を集合的に育めるような、多様な人たちが対話する場を設けることのほうが、人々を孤立させる有害な仕組みをなくして、もっとインクルーシブな取り組みをつくるのに効果的な場合もある。より持続可能であるとも言えるだろう。

2020 年、ジョージ・フロイドの殺害にアメリカ国民が揺れているとき、何十もの都市で160 個以上の南部連合の記念碑や像が撤去、または改名された。これらは、かつての奴隷制を称え、アフリカ系アメリカ人の権利剥奪や疎外を象徴するものだった。こうした市の多くは現在、どのようにすれば、記念碑や像の代わりに、あらゆる人が尊重される居心地の良い公共スペースを最も良いかたちでつくれるかを、市民と共に検討している。

コミュニティに投資する

社会的つながりが健康や生活の質に与えるメリットは非常に大きいが、コミュニティのウェルビーイング向上を目的とした取り組みの多くは、社会的つながりを特に意図したものではない。しかしながら、こうした取り組みにはそもそもそういった効果があるのだから、意図をもって行えばより良い効果がもたらされる可能性がある。社会的投資の目的のなかに社会的つながりが組み込まれるようになれば、資金提供者、行政リーダーやその他の事業成果に関心ある人たちは、コミュニティにおける成果を見るためのデータが得られるかどうかを重視するようになるだろう。

さしあたって政府機関、フィランソロピー、企業、研究機関、非営利セクターのリーダーができることは、コミュニティの健康ニーズ調査に社会的孤立を組み込み、問題をしっかりと把握することだ。たとえばバージニア州フェアファックスでは、つながり・帰属意識・やりがいなどを住民がもっと感じられるようにすることを盛り込んだ健康増進計画を通して、実態把握を行った。そして、つながりやエンゲージメントを育むようなコミュニティ環境デザインなどの重要な戦略が政策に盛り込まれた。

地域の健康ニーズを調査することに加えて、コミュニティリーダーはすでに実施している活動に社会的つながりを組み込んだり、社会関係指標を政策やプログラムに取り入れたりすることもできる。その好例が、カナダの幸福度指標だ。この指標では、「コミュニティの活気」「民主的なエンゲージメント」「レジャー・文化」といった生活の質を評価する指標を追跡調査している。また、アメリカでも社会的孤立や孤独を防いでつながりを育むという目標を中心に、州と地方の連携体制が形成されつつあることには希望を感じる。マサチューセッツ州、テキサス州、コネチカット州、ジョージア州、ミシガン州、カリフォルニア州などがその例である。

真の意味で効果的でインクルーシブな解決策を見出すためには、社会的孤立の影響を受けているコミュニティと協働で解決策を模索することが必要だ。筆者が代表を務める非営利コンサルティング団体のヘルシー・プレイス・バイ・デザイン(Healthy Places by Design)は、2021 年 にロバート・ウッド・ジョンソン財団のサポートを受けて「社会的つながりのあるコミュニティ⸺社会的孤立の解決(Socially Connected Communities: Solutions for Social Isolation)」という報告書を発表した。そのなかで、社会的つながりの構築に向けてコミュニティ主導の変革を起こすためのガイドを詳細に解説している。リサーチは、さまざまな地域や組織の参加者からなる「社会的孤立学習ネットワーク(Social Isolation Learning Network)」からの情報に基づいて行った。参加者は、社会的孤立を防ぐそれぞれの活動について率直に情報交換し、国全体の議論には依然としてさまざまなギャップがあることを確認したうえで、よりシステムレベルで社会的孤立に取り組む必要があることを浮き彫りにした。報告書に示した教訓と提言が、この複雑な課題の解決を目指す集合的なアクションが立ち上がるきっかけとなることを願っている。

社会的つながりは、公衆衛生上の優先事項として、また人々の癒やしや回復の手段として認識されなければならない。私たちにまずできることは、社会的孤立を個人の問題と捉えるのをやめ、コミュニティのシステムや価値観、政策、歴史的な不平等に存在する根本原因に意識的に取り組むことである。社会的つながりのあるコミュニティは、健康的でレジリエンスがあり、共通の目的意識の下に共につくられるものだ。社会的つながりへの投資は、コミュニティの健康やウェルビーイングへの投資である。そして最終的には、あらゆる人により良い機会を、より多く提供するための投資となるのである。

【翻訳】大城実根子
【原題】A Sense of Belonging (Stanford Social Innovation Review, Summer 2022)

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