コミュニティオーガナイジング

コミュニティ・オーガナイジングに「出し惜しみ」してはいけない

民主主義を蝕む政治的二極化と過激な思想に対抗するためにフィランソロピーはコミュニティ・オーガナイジングに出資すべきである。

※本稿は、SSIR Japan 編『スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版 05 コミュニティの声を聞く。』より転載したものです。

ローレン・マッカーサー

アメリカの民主主義は危機的状況にある。政府に対する信頼は過去数十年の間に急激に低下し、驚くほど多くのアメリカ人、なかでも若い世代が、民主主義は最善の政治形態ではないと考えるようになっている。その結果、過激な思想が蔓延し、政治的主張を押し通すうえで暴力に訴える例が増加している。

この危機は手に負えないと思えるほど深刻で、かつその原因は私たちが築いてきた制度や経済システム、政治文化に深く根を張っている。民主主義を修復するための簡単な解決手段は存在しない。だが、市民が自らの手で社会を変えていくコミュニティ・オーガナイジングへの大規模な資金提供は、社会を蝕む排他的な仲間意識への対抗手段になりうる。さらに、過激化を助長する社会的孤立を減らし、アメリカにおける草の根民主主義の文化を活性化させる可能性がある。

しかし、コミュニティ・オーガナイジングが民主主義において果たしうる可能性を引き出すには、資金提供者たちが、それを政治的目標や政策を実現するための手段と見なすのではなく、アメリカ政治の健全化に果たしている基本的役割を認識しなければならない。

コミュニティ・オーガナイジングからは、次のような民主主義のスキルを学ぶことができる。「他者と協力して組織化し、それを維持する」「さまざまな視点を持つ人たちの意見に耳を傾ける」「コンセンサスを形成する」「政治や経済システムにある権力構造を把握し、権力者との交渉方法を学ぶ」といったことだ。

多くの人が民主主義への信頼を失ったいまこそ、優れたコミュニティ・オーガナイジングのプロセスは、人々の主体性を育み、自分には民主主義に影響を与えたり改革したりする能力があるという確信をもたらすのだ。

顔の見える関係の構築

1世紀以上にわたってアメリカの繊維業の中心地だったマサチューセッツ州メリマック・バレー地域。2000年代の初めから8年間、筆者はこの地でコミュニティ・オーガナイザーとして働いたことがある。同地域の主要都市の1つであるローレンスは、1912年の有名な「パンと薔薇のストライキ」が起こった場所であり、そのストでは、50以上の国からやってきた何万人もの移民労働者が賃上げと労働条件の改善を求めて立ち上がった。そのような歴史を持つこの地域で、筆者は労働組合や宗教団体、さらにはリベラルと保守が協力し、工場閉鎖に抵抗し、移民労働者の雇用条件改善に取り組み、手頃な価格の住宅をつくるための運動を組織した。

筆者はオーガナイザーとしての経験を通して、本当の意味でさまざまな人種や宗教、性的指向などの背景を持つ人たちが参画できる民主主義とはどのようなものか、そしてそれを構築し維持するためには何が必要かについて学んだ。必要なのは、「アイデンティティや政治的主張、信念体系において重大な違いがあったとしても、共通の利益と価値観に根ざした関係を構築する」という強いコミットメントを示すことだ。残念ながら今日では、同じ考えを持つ人たちがオンライン上で一方的に主張するシーンをあまりにも多く見かける。多様性ある社会で求められる民主的な実践とは、違いを避けるものではない。むしろ、異なる伝統や歴史から共通の価値観を見出し、それを体現しようとすることである。だからこそ私たちに必要なのは、人々は連帯できるはずだという理想主義の追求と、自分とは異なる信念や考え方を受け入れる現実主義的な態度を両立することなのだ。

過去20年間で、コミュニティ・オーガナイザーたちは、社会を変えるための「影響力の構築(power-building)」により注力するようになっている。20世紀に彼らが立ち上げた組織の活動範囲は市レベルにとどまっていたが、20世紀を通してアメリカの大半の都市で空洞化が起き、多くが財政破綻に陥り、培われた影響力やリソースも失われてしまった。

そのためオーガナイザーたちは、州レベルの影響力を構築するモデルに注目し始めた。フェイス・イン・アクション(Faith in Action)のようなコミュニティ組織のネットワークも、首都圏での存在感を強化しつつ、より大きなネットワークに参加することで国策に影響を及ぼそうとしている。かつてなら選挙運動への組織的関与を避けていたような団体が、投票率向上プログラムを策定したり、政治活動やロビイングに取り組むために、市民連盟や社会福祉団体に適用される内国歳入法501条(c)(4)の条件を満たす非営利団体を設立したりしている。

オーガナイザーたちが、より洗練された手法を学んで州レベルや国レベルの影響力の構築を目指す取り組みが増えていくにつれ、オーガナイジング活動に提供される資金も大幅に増加していった。ソーシャルセクターにデータを提供する非営利組織キャンディッド(Candid)から得た財団に関するデータによると、(不完全ではあるが)2008年にコミュニティ・オーガナイジングのために拠出された資金は2億2700万ドルに上ったという。ちなみに2008年は、筆者がメリマック・バレーでの職を辞した年である。それが2020年には、11億7000万ドルにまで増えた。同時期に有権者への啓発と有権者登録を促すために投じられた資金は、2008年のわずか3200万ドルから2020年には5億1500万ドルへと爆発的に増えている。しかもこれらの数字には、内国歳入法501 条(c)(4)の条件を満たす団体を通じて受け取る資金がすべて含まれているわけではなく、その額もまた増加している。

資金提供の急増は、コミュニティ・オーガナイジングに取り組む団体がその力を拡大するうえで役立った。しかし重要なのは、フィランソロピーからの資金提供にも締め付けや制限があることだ。

資金提供者の大半は、コミュニティ・オーガナイジングを政策や政治的目的を推進するための戦術と見なしており、そうした見返りを得るための取引として資金を提供している。その一方で彼らは、コミュニティ・オーガナイジングの「民主主義で重要な考え方と振る舞い方を推進し、社会生活における人々の信頼関係を強化する」という役割を十分に評価していない。しかしこれらの要素こそが、多様な背景を持つ人たちが集まる社会で、より機能的で、構造的差別の解消につながる民主主義を実現するための重要な前提条件なのだ。

顔の見える関係づくりに根ざしたコミュニティ・オーガナイジングは、民主主義を蝕む有害な二極化に対抗するものである。社会科学研究の多くが、顔の見える関係づくりを通じて異なる意見を持つ人たちが交流すると、偏見が減ることを証明している。また、こうした個人同士の関係を重視しているため、異なる意見を持つ人たちへの共感とつながりが育まれ、分断を乗り越えるための共通の物語と共同体としてのアイデンティティを生み出す可能性が高まるだろう。

草の根民主主義の文化を育むうえでコミュニティ・オーガナイジングが果たす役割を考えると、国全体に行きわたるような大規模な資金提供アプローチが必要だ。しかし、その資源の配分はこれまで、地理的に均等ではなかった。大統領選挙における激戦州や大都市の団体は(一時的であれ)大規模な資金提供を受けられる可能性があるが、それ以外の多くの地域では、コミュニティ・オーガナイジングを通じて市民に政治活動への参加を促す活動に対しては十分な資金が提供されていない。

大手の資金提供者から提供される資金の急増は、意図せざる結果も生んでいる。オーガナイザーたちは、コミュニティの内部で資金を集めることに労力をかけるよりも、裕福な資金提供者から多額の資金を獲得するほうへ気持ちが傾くようになる。すると、彼らは資金提供者が希望する政策の実現や選挙結果を確実にもたらすような運動をいますぐ進めなければならないというプレッシャーを感じるようになってしまう。その結果、会員を増やし、新しいリーダーを育成するという地道な取り組みを怠るようになる。さらには活動の焦点が、そもそもオーガナイザーたちが目指していたものからそれることにもなりかねない。たとえば、民主主義を脅かす経済的不平等の拡大の主要な要因を取り除こうとする活動は、裕福な資金提供者にとっては脅威となるからだ。

資金提供者への5つの提言

資金提供者は、民主主義の理念を真の意味で実現するうえで、コミュニティ・オーガナイジングをどのように支援できるだろうか。本稿では次の5つの提言をしたい。

❶地域を超えて資金を提供する

資金提供者は、コミュニティ・オーガナイジングがアメリカで民主主義の文化を育む重要な要素であることを認識しなければならず、目先の政治的目標に沿った地域に絞って資金提供するのではなく、より広範な地域に資金を提供する必要がある。私たちは、民主主義的な考え方と行動をさらに育み、推奨しなければならない。だがそれは一部の地域に限定するのではなく、反民主主義の考え方がはびこりつつある地域も含めたあらゆる場所で取り組むことが重要だ。

❷特定の課題ではなくコミュニティが決めた課題を支援する

資金提供者は、特定の政策テーマを支持することを出資の条件とするのではなく、コミュニティが最も重要と定めた問題を中心にオーガナイジングできるよう、制約を設けずにサポートを提供する必要がある。コミュニティ・オーガナイジングが民主主義の実践の場となるためには、人々は自分たちが取り組む問題を自分たちで選択する力を持つべきなのだ。

❸人種やイデオロギーの分断を乗り越える活動を支援する

資金提供者は、現在の政治文化によって生み出される主な分断を乗り越えようとしている団体に出資すべきである。その分断とはたとえば、「労働者層や中産階級の白人層」対「有色人種層」、「都市部の住民」対「農村部の住民」、イデオロギー上の「進歩派」対「保守派」などだ。

ミシガン州のウィー・ザ・ピープル・ミシガン(We the People Michigan)やミネソタ州のアイザイア(ISAIAH)といった特定の州を主な拠点とする多くの団体や、ユナイテッド・フォー・リスペクト(United for Respect)といった全国的な労働者団体は、農村部と都市部の分断を越えた広範な地域で、多様な人種間の関係構築に積極的に取り組んでいる。

❹活動に積極的かつ深く関わるリーダーやメンバーの基盤を構築しようとする団体に出資する

有意義な市民参加を促進するコミュニティ・オーガナイジングの活動を支援するために、たとえ政策上の成果がすぐには得られないとしても、「基盤」の構築を優先する団体に資金提供をすべきだ。ここでいう基盤とは、積極的かつ熱心なリーダーやメンバーが参加していることである。

ラトガース大学のワークプレイス・ジャスティス・ラボ(workplace justice lab@RU)のプログラムである「基盤を築き、ムーブメントを成長させよう(Build the Base, Grow the Movement)」は、より深く関わる人たちが集まるような組織文化を醸成しようとしているいくつかの団体と協力している。

また、既存の組織だけでなく、まだ体制が整っていないものの、重要な草の根活動を生み出しつつある初期段階のコミュニティ・オーガナイジングも支援する必要がある。

❺経済的自立を後押しする

非営利団体のリーダーたちは、制約のない出資を求めている。そうすればより柔軟な戦略立案が可能になるため、当然の要求ではある。

ただし、団体の経済的自立に的を絞った支援にはさらに大きなインパクトがある。会費制度や草の根の募金キャンペーン、収益戦略といった面において団体を支援することで、大型の資金提供への依存を減らし、コミュニティに対して責任を果たし、さらには真に民主的に運営される組織になる手助けができる。たとえば、先進的な活動家によって2017年に立ち上げられたプログレッシブ・マルチプライヤー(Progressive Multiplier)は、独自の収益戦略を策定し、規模を拡大するための資金を提供する仲介ファンドである。

草の根のコミュニティ・オーガナイジングを大規模に展開していくには、費用がかかる。このことから、出資をためらう資金提供者は多い。しかし、民主主義を活性化する取り組みに対しては、使えるお金は限られているのだから、という考え方をするべきではない。配分する富は十分にある。2020年の選挙だけで、寄付金が144億ドルに達したことを思い出してほしい。

コミュニティ・オーガナイジングへの大規模な資金提供は、民主主義的な考え方と行動を育む活動を推進して、社会的連帯を強化していくことになる。それはやがて、私たちが直面する脅威を乗り切るために必要なレジリエンスと、より公正で豊かな未来を守るために必要な創造力を育むことになるだろう。

【原題】To Save Democracy, Fund Organizing(Stanford Social Innovation Review Spring 2023)
【イラスト】Illustration by Laura Liedo

Copyright©2023 by Leland Stanford Jr. University All Rights Reserved.

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