子ども・若者

1歳未満の子どもへの給付金がもたらすインパクト

※本稿は、SSIR Japan 編『スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版 05 コミュニティの声を聞く。』より転載したものです。

ダニエラ・ブレイ

近年、行動科学や社会科学の分野では、家庭や社会のなかで幸せに生きていくうえで、幼少期の保育と教育が重要であることを説いた研究が相次いでいる。現在進行中のプロジェクト「Baby’s First Years(乳幼児の生後数年間)」では、「経済的支援が家族の生活や、乳幼児の認知力、感情および脳の発達に与える影響を評価する」ことを目的に、6つの研究機関の研究者が専門分野を越え、幅広い調査を行っている。この調査の最初の成果として、幼児を対象にしたいくつかの政策がきわめて高いプラス効果を長期的にもたらす可能性があることがわかっている。

さらに、一連の研究成果を発展させた最新の論文もある。テキサスA&M大学のアンドリュー・バー教授(経済学)、アメリカ国勢調査局の経済専門家ジョナサン・エグルストン、ウェスト・ポイントにある米国陸軍士官学校のアレクサンダー・A・スミス教授(経済学)は、乳児の生後1年目は特に重要な期間であり、初めて子どもを持つ所得の少ない親に、たとえ少額でも自由に使える給付金が提供されると、長期的に見て子どもの人生の幸福度に大きな違いをもたらすことができると主張する。

この研究チームは、勤労所得税額控除の対象者のなかから、支給基準日である1月1日前後に生まれた子どもを持つ所得の少ない家庭をサンプルとして抽出し、調査を実施した。対象期間は1993年から1998年まで、生後1年目で受給資格を得たグループと、(1月1日時点での出生が要件となるため)1歳の誕生日後まで受給資格が得られなかったグループについて、それぞれ追跡調査を行った。その結果、生後1年目に給付金を受けたグループでは、親の所得が増加し、結婚生活がより安定したことを示唆するデータが得られ、これらが彼らの子どもにより良い効果をもたらした可能性があることが示された。また、研究チームは、税関連のデータを利用して子どもたちの成人後の状況を追跡し、この臨時収入の影響について調査したところ、生後1年目に給付金を受けた家庭の子どもは1~2%程度の有意な所得増があり、政府の支出を十分に上回る効果が見られた。

「給付額はそれほど大きいものではないものの、調査対象の家庭の平均所得から見れば十分な金額だ。また、この時期は出産後でストレスがたまり、所得が減っているときでもある」とアンドリュー・バーは述べている。

対象家庭が受け取った給付金の総額は約1300ドル、もしくは勤労所得の10%である。収入の少ない世帯が、医療費の請求や突然の失業などの不測の事態に直面した場合、たとえ少額であっても、給付金は経済的ストレスの軽減と追加の支援として役立ち、子どものその後の人生にポジティブな影響を与えると、バーらの研究チームは論じている。

「収入増加と、子どもの健康・行動・学業の成功との因果関係を調べる研究は増え続けているが、生後1 年目での家庭の収入増加の影響を調査した研究はこれが初めてだ」と語るのは、カリフォルニア大学アーバイン校の教育学部特別栄誉教授のグレッグ・J・ダンカン(経済学)である。「幼少期に困難な状況に置かれた場合、子どもの発達は、その影響を特に強く受けることがわかっている。この調査は、幼少期における経済的に不利な状況を緩和することで、生涯にわたる利益につながる可能性を示した」。

給付金の中期的影響を把握するために、研究チームは、アメリカの国勢調査データに加え、ノースカロライナ州が管轄する学校教育データを詳細に調査した。この異なるデータソースから、テストの点数、停学の有無、卒業率などがわかり、給付金を受けた家庭の子どもにおいてはすべて改善されていた。ここから得られた調査結果は、その後の人生での所得増加の影響の大きさを説明している。

この調査結果が示唆するのは、子どもに関わる税制優遇策は、課税年度に合わせて翌年に繰り越すのではなく、直ちに利用できるようにすべきということである。バーは、「このように早い時期、つまり、第1子誕生時での支援がきわめて重要であることには、有力な証拠が揃っている。また、こういった研究成果は他にもまだ多数あるため、第2子や第3子へ給付金が支給された場合の影響や、支給時期として最も効果的なのが本当に第1子誕生時なのかどうかについても調べることができるだろう」と述べている。バーの説明によると、比較的収入の高い家庭も、通常は扶養控除というかたちで税の優遇を受けているが、こういった家庭は自由に使えるお金にそれほど制約がないことが多いため、同様の長期的変化が仮にあったとしても、認識できるほどではない。

また、研究チームは、男性のほうが生後1年目での給付金の影響をより強く受けることも明らかにした。論文によれば、幼少期の環境が男性により大きな影響を与えることを示す研究はいくつかあるが、このような性別による違いは、結婚年齢や、共同で税申告をするパートナーとの所得の割合といった他の要素によって説明がつくこともある。決定的な証拠を差し出すには、さらなる研究が必要であるとバーは述べている。

【原題】The Impact of Cash for Infants(Stanford Social Innovation Review Fall 2022)
【イラスト】Illustration by Adam McCauley

参考論文

Andrew Barr, Jonathan Eggleston, and Alexander A. Smith, “Investing in Infants: The Lasting Effects of Cash Transfers to New Families,”The Quarterly Journal of Economics(2022).

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