編集チームより

世界各地のSSIRが選ぶ2025年のトップストーリー

2025年に、SSIRの各言語版で特に多くの読者の共感を集めた論点と記事を振り返る

SSIR グローバルエディション編集チーム

【翻訳】井川 定一(SSIR-J副編集長)
【原題】A World of Innovation (Stanford Social Innovation Review, December 18, 2025)

(イラスト:iStock/akindo)

社会イノベーションの組織や制度、そして直面する課題や機会は地域によって大きく異なります。しかし、それでも、社会イノベーションは今日の多様で複雑な社会課題に対応するために、強化され、拡張されるべきグローバルな現象であることに変わりはありません。SSIRは、世界各地の執筆者と協働しながら、地域に根ざした社会課題への解決策を共有し、国境を越えてアイデアやインスピレーションを交換することに力を入れてきました。アシュリー・ギルウォルド・モレルによる『Scaling Across Borders by Cocreating with Government(仮題:政府との共創による越境スケーリング)』、ナイナ・スバーワル・バトラによる『Asian Philanthropy Can and Must Lead from Within(仮題:アジアのフィランソロピーは内側から主導しなければならない)』、ティナ・C・アンボス、アレクサンダー・ツィンマーマン、セバスチャン・H・フックスによる『Continuous Transformation to Serve the Mission(仮題:ミッションに応え続けるための継続的変革)』などは、そうした取り組みの一例であり、地域固有の文脈に根ざしながらも、広く共有される課題に光を当てています。

SSIRの各言語版の編集者たちもまた、知の創出と共有を通じたフィールド形成(訳者注:分野の確立)に注力しています。各エディションでは、ブラジル、中国、日本、韓国、そしてスペイン語圏のさまざまな地域に向けて、それぞれの社会イノベーション・コミュニティにとって意義と関連性のある数十本の記事を翻訳・発信してきました。2025年の終わりにあたり、世界の編集者が、自らの読者に特に強く響いた論点や記事、そしてその理由を振り返ります。

SSIRブラジル(SSIR Brazil)

2025年は、国連気候変動会議(COP30)がアマゾン地域で開催された年でした。COP30は、ブラジルで初めて開催された気候サミットであるだけでなく、アマゾンという地で行われたこと自体が、地域の社会イノベーター(social innovators)にとって深い象徴的・政治的意味を持っていました。さらに、各地で猛暑、干ばつ、壊滅的な洪水が相次ぐなど、気候危機が深刻化する中で、気候解決策をめぐる議論にはかつてない切迫感が生まれました。

COP30の会場となったブラジル・パラー州ベレンのメインパビリオンに到着する参加者たち(2025年11月12日)(写真:ブルーノ・ペレス/Agência Brasil)

SSIRブラジルでは、気候関連の課題に対して、現場での取り組みに基づいた対応策(practical responses)を示すオリジナル記事を複数掲載しました。イザベル・アペル・ブリテス、マルセロ・ペレッティ、ヴァルミール・オルテガによる『Como financiar a restauração florestal produtiva(仮題:生産的な森林再生をいかに資金調達するか)』は、約8,000万ヘクタールもの劣化地を抱えるブラジルにおいて、大規模な森林再生に資金を確保することの難しさを分析し、ブレンデッド・ファイナンス、開発銀行の金融手法、インパクト投資ファンドといった金融イノベーションを紹介しています。また、フェルナンダ・デ・カストロとフェルナンド・トレヴィザンによる『O esporte como aliado na ação climática(仮題:気候行動の味方としてのスポーツ)』は、スポーツ分野が自らの環境負荷を低減し、気候リスクに適応しつつ、その文化的影響力を利用して社会を動かす可能性を描いています。さらに、ジョアン・モライス、カロリーヌ・コッタ、アントニア・ロ・プレテによる『O papel das empresas na adaptação climática(仮題:気候適応における企業の役割)』は、企業が事後的な対応から、予防的かつ協働的な戦略へと転換し、地域のレジリエンスを強化する必要性を訴えています。同記事は、企業の社会投資が、民間資本・公共政策・市民社会をつなぎ、気候に配慮した教育(climate-resilient education)や自然に基づいたアプローチ(nature-based approaches)といった「共有価値」を生み出すソリューションを支え得ることを示しています。

これらの記事は、ブラジルで進行しているより大きな変化を映し出しています。すなわち、気候行動はサイロ化された取り組みでは解決できず、深刻な社会的不平等、豊かな生物多様性、そして気候影響を過度に受ける地域という現実に根ざさなければならない、という認識が広がっているのです。ブラジルの社会イノベーター、企業、市民社会の担い手たちは、統合的で地域に根差した解決策をますます重視するようになっています。その実践は、ブラジルにおける気候行動が、地域の開発、コミュニティのレジリエンス、包摂的な経済変革と切り離せないことを雄弁に物語っています。

(SSIRブラジル 編集長カロリーナ・デ・アシス)

SSIR韓国(SSIR Korea)

韓国では、長年続く熾烈な受験・学歴競争の文化が、若者に大きな精神的負担を与え続けています。2023年時点でも、20代の自殺率は人口10万人あたり約22人と、高止まりの状態が続いています。この数値自体の深刻さに加え、大学に求められる役割も拡張され、単なる教育機関ではなく、心理的安全性とレジリエンスを支える社会インフラとしての期待が高まっています。こうした文脈の中で、アリソン・バジェットによる『Promoting a Culture of Caring in Education(仮題:教育におけるケアの文化を育む)』は、読者の強い共感を呼びました。ジェド財団による予防的かつシステム志向のアプローチは、韓国の大学にとって現実的なモデルとなり、個別プログラムにとどまらない、組織レベルでの対応の必要性を広く考えさせる契機となりました。

漢陽大学(Hanyang University)の学生とSSIR韓国が一堂に会し、SSIR記事「教育におけるケアの文化を育む」を読み、大学が取り得る介入策について議論したコロキウム(セミナー)の様子(写真提供:漢陽SSIR韓国センター)

同時に、韓国の非営利セクターおよび公共セクターでは、公共データの将来と、それが公共的価値(public value)の形成に果たす役割への関心が高まりました。AIが意思決定システムに組み込まれていく中で、データをどのように設計し、蓄積し、活用するかは、これまで以上に重要な問いとなっています。ジェイソン・ソールとクリス・ダイグルマイヤーによる『Unlocking the Power of Data Refineries for Social Impact(仮題:社会的インパクトのためのデータ精製所の力を解き放つ)』は、データを単なる技術的インフラとしてではなく、民主的説明責任、公平性、信頼を支える基盤として捉える視点を提示しました。

これらのストーリーは、2025年に韓国の読者が最も強い関心を寄せたテーマを反映しています。それは、若者のウェルビーイングをいかに守るか、そしてAIの活用が拡大する中で、公正さと公共目的を担保できる責任あるデータシステムをいかに構築するか、という問いでした。

(SSIR韓国 編集長ソ・ヒョンスン)

SSIR中国(SSIR China)

ミシェル・フローレス・ヴリンとミーナ・ダスによる『Building Community-Centered AI Collaborations(仮題:コミュニティ中心のAI協働を構築する)』は、今年、中国の読者の間で最も多く共有され、注目を集めた記事のひとつとなりました。WeChat上では、デジタルブックレットのように保存され、AIの人間中心の未来、コミュニティ組織が持つかけがえのない文脈知、そしてデータを人間味のあるアクセスしやすいものにするためのアートやストーリーテリングの役割について、多くの読者が書き込みやメモを残していました。その背景には、広く共有された懸念があります。すなわち、「AIは、非営利の実践を支えてきた生の経験(lived experience)、関係性に基づく理解、倫理的感覚を損なうことなく、いかに社会的善(social good)を前進させることができるのか」という問いです。

AIは世界的に強い注目を集めており、中国の社会セクターもその議論の一部です。この一年、私たちのチームは、同記事の翻訳過程でDeepSeekを試すなど、AIの活用を実験的に行ってきました。その経験は、多くの実務家が感じていることと重なります。AIは作業を加速させることはできても、社会的インパクトの仕事に不可欠な文脈への感度、コミュニティの洞察、価値観に基づいた意思決定を置き換えることはできない、ということです。

この記事は、非営利セクターがAIをどのように形づくり、適応し、自らの実践に位置づけるべきかを問いかけています。大学、地縁組織(CBO)、アーティスト、エシカル・テック(倫理的技術)グループ、フィランソロピーの資金提供者とのパートナーシップが、AIを単なる技術的解決策ではなく、コミュニティ中心のツール(community-centered tool)とする上で重要であることを示しています。中国の実務家にとって、本稿は、どこから始めるべきか、そして責任ある導入を支える協働のあり方を考える手がかりとなり、同時に、テクノロジーが効率性だけでなく、コミュニティの主体性、公平性、人間的つながりをいかに強化し得るかという、グローバルな議論にも貢献しています。

グイジュアン・シー(SSIR中国 デジタル編集者)、シュイジン・リウ(SSIR中国 編集長)

SSIR日本(SSIR Japan)

2025年、日本では、限界と可能性の双方が鮮明に浮かび上がる局面を迎えました。出生数は過去最低を記録し、人口減少と急速な高齢化が、地域社会、公共システム、労働市場を大きく変え続けています。同時に、猛暑、豪雨、気候災害の頻発、社会的孤立や子どもの貧困の深刻化は、いずれも一国や一組織、単一のプロジェクトでは解決できない構造的課題であることを改めて突きつけました。

2025年10月、100人を超える社会セクターのリーダーがエネルギーとアイデアに満ちた形で集った、SSIR日本の「ソーシャル・イノベーション・モーニング」(写真提供:SSIR日本)

一方で、再生の兆しも見え始めました。非営利組織や市民社会は、リーダー層の高齢化、資源不足、デジタル化の遅れといった課題を抱えながらも、資金の流れを変え、関係性を再構築する試みを始めています。インパクト投資、新たなファンド、トラスト・ベースド・アプローチなどの実験がその一例です。東京で開催されたAVPN北東アジアカンファレンスやアジア・フィランソロピー会議(APHIC)といった場は、日本がアジアの仲間と経験を共有し、学び合うための重要な機会となりました。

SSIR日本で2025年に最も読まれた記事も、こうした動きを反映しています。今年最も多く読まれた記事である『韓国の若者を社会的孤立から救う』は、日本で長らく可視化されてきた「極度の社会的離脱(Extreme Social Withdrawal)」(※訳者注:ひきこもり)が、韓国でも主要な課題となっていることを示し、アジアにおいて多くの問題は「起きるかどうか」ではなく「いつ、どのような形で現れるか」の問題であることを浮き彫りにしました。二番目に多く読まれた『スピンオフによる非営利セクターの再活性化』は、高齢化と後継者不足に制約された非営利セクターを刷新する選択肢として、スピンオフの可能性を提示しました。三番目に多く読まれた『トラスト・ベースド・フィランソロピーの戦略的価値』は、SSIRでの議論を、日本における社会運動型組織トラスト・ベースド・フィランソロピー・ジャパンの立ち上げと結びつけ、信頼に基づく資本の広がりを後押ししました。

これらの動きから、国境を越えた知の循環、より質の高い資金、そしてより強固な非営利セクターへの関心が、実践へと還流し始めていることが分かります。その象徴的な例が、2025年10月に開催されたSSIR日本の参加型イベント「ソーシャル・イノベーション・モーニング」です。100人を超える参加者がSSIRの記事をともに読み、思考を重ね、その議論を日本およびアジアの文脈に即した具体的な取り組みにつなげる起点としていきました。

(SSIR-J 編集長 鵜尾 雅隆、SSIR-J 副編集長 井川 定一、SSIR-J コミュニティ・ファシリテーター エリクセン 恵)

SSIRスペイン語版(SSIR en Español)

私は、悪い知らせを伝えるのがあまり得意ではありません。もしかすると、そうした役割から少し遠ざかっていたのかもしれません。SSIRスペイン語版は、ラテンアメリカや世界各地で活躍する社会イノベーターたちの、希望に満ちたストーリーを届けることを目指してきました。しかし今年、編集長として約4年を迎える中で初めて、最も読まれた記事が、社会的イノベーターそのものよりも、社会セクターが直面する深刻な財政危機や人材危機を扱う内容となりました。

2020年に掲載されたSSIR en Españolの「社会イノベーションの基礎(Basics of Social Innovation)」シリーズは、今なお有効性を持ち続けています。(イラスト:freepik/drynvalo)

2025年は、ラテンアメリカにとって決して容易な年ではありませんでした。経済成長は停滞し、国際援助の主要な資金ルートが相次いで断たれました。今年、SSIR en Españolで最も読まれた記事である『The Language of Crowdfunding(仮題:クラウドファンディングの言語)』『Ten Nonprofit Funding Models(仮題:非営利組織の10の資金モデル)』『Organizational Culture as a Tool for Change(仮題:変革のためのツールとしての組織文化)』は、まさにその現実を反映しています。より少ない予算で、より多くの成果を求められる中、非営利組織をはじめとする社会セクターのチームは、新たな資金調達のアイデアや、変革のための戦略を求めて、SSIR en Españolを訪れたのです。

興味深いことに、後者の2本の記事はいずれも、2020年に私たちが翻訳し、「社会イノベーションの基礎(Básicos de la innovación social)」シリーズとして最初期に公開した記事でした。それにもかかわらず、これらの記事が今なお多く読まれているという事実は、社会セクターが、どれほど基本に立ち返る必要性を感じているかを、私たちにあらためて気づかせてくれます。

(SSIR en Español 編集長アンドレア・ゴンサレス)

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