民主主義

民主主義の後退をどう見抜くか

データが示す、世界の民主主義強化に向けた投資戦略

ジャレット・ベル(Jarrett Bell)
サム・グリーンバーグ(Sam Greenberg)

【翻訳】井川 定一(SSIR-J 副編集長)
【原題】How to Spot Democratic Backsliding(Stanford Social Innovation Review, Winter 2026)
【リード・コメンテーター】堀内 葵(国際協力NGOセンター シニアアドボカシーオフィサー)

世界各地で、民主主義の進歩は鈍化している。場合によっては、すでに後退に転じているとも言える。フリーダム・ハウス(Freedom House)の格付けによれば、2013年から2024年の間に、インド、トルコ、ハンガリー、インドネシアを含む23カ国で自由度が低下した一方、自由度が向上した国は7カ国にとどまっている。

訳者注:フリーダム・ハウスは、世界各国の「自由」と「民主主義」の状況を調査・評価する、米国拠点の独立系NGOである。

この傾向を抑制するために、私たちに何ができるのだろうか。

研究者たちは、民主主義の健全性(democratic health)に影響を与える要因として、自由で公正な選挙や法の支配の有無から、経済的機会の広がり、表現の自由、健全な市民社会に至るまで、さまざまな要素を指摘してきた。では、民主主義の促進を目指す政府、フィランソロピー、その他のソーシャルセクターの担い手は、実際にはどこに力を注ぐべきなのか。因果関係と相関関係をどのように見分ければよいのか。さらに、将来的な民主主義の後退を警告する「先行指標」を、いかにして見いだせばよいのだろうか。(そして後退を未然に防ぐためには、それをどのように活かすことができるのだろうか。)

民主主義を促進するための戦略は組織によって大きく異なるが、各組織の優先事項や「何がうまくいくか」という判断の違いに基づいて選ばれることが多い。しかし、データはその議論に共通の土台を与えてくれる。私たちの分析は、民主主義の後退を前もって捉えるための明確な「早期警告シグナル」が存在することを示している。しかも、どのシグナルが重要になるかは、国が「自由(Free)」から「非自由(Not Free)」までの民主主義のスペクトラム上で、どこに位置しているかによって異なる。

たとえば、フリーダム・ハウスが「自由」と分類する国々では、将来の民主主義後退と最も強く相関している要因は、選挙への挑戦や市民社会の弱体化よりも、経済的機会の水準の低さであることが明らかになった。一方、「一部自由(Partly Free)」の国々では、市民社会の弱体化が将来の後退と相関しているものの、直感に反して、選挙スコアの低さ自体は後退を予測する要因とはなっていなかった。さらに、法的保護や政治的自由の重要性を裏付けるかのように、「法の支配」と「開かれた議論(open debate)」は、「自由」「一部自由」の双方の国々において、一貫して重要な先行指標となっていた。

本分析は相関関係に基づくものであり、因果関係を証明するものではない。しかし、これらの要因が将来の民主主義後退と相関しているのであれば、後退リスクの高い国を特定するための早期警告シグナルとして活用できるだけでなく、そのリスクを低減するための投資判断を導く指針にもなり得る。たとえば、不平等が大きい「自由」国において経済的機会を拡大することは、限られた資源を戦略的に配分する一つの方法となるだろう。逆に、選挙スコアの低さのみを基準に支援対象国を優先することは、必ずしも合理的とは言えない。なぜなら、他の要因の方が民主主義後退をより的確に示しており、(民主主義を下支えするうえで、選挙が常に最重要の要素とは限らない可能性があるからである)。さらに、民主主義の後退リスクが高い国、(あるいは最近後退を経験した国においては、)市民社会への投資が重要であると結論づけることもできる。なぜなら、市民社会は一国が民主主義の後退に直面した際に最も大きな打撃を受ける領域であり(同時に、さらなる後退を防ぐ役割を果たし得ると考えられるからである)。

民主主義の健全性を測る定量指標の構築

本分析はまず、学術的に民主主義の健全性に影響を与えると広く合意されている、次の5つの主要要素を特定することから始まる。

  1. 選挙(Elections):自由で公正な選挙は民主主義の基盤であり、市民が暴力に訴えることなく、自らの意思や選好を表明する手段を提供する。
  2. 法の支配(Rule of Law):腐敗や不正義が蔓延すると、民主主義を犠牲にしてでも「法と秩序」の回復を約束する権威主義的な指導者が支持を集め、民主的なプロセスが損なわれることがある。
  3. 経済的機会(Economic Opportunity):民主主義が市民により高い生活水準をもたらすとき、独裁を正当化するポピュリズムの主張は弱まる。
  4. 開かれた議論(Open Debate):異論への寛容さと政治的自由を伴う公開討論は、市民が声を上げ、連携し、権力者に異議を唱えることを可能にし、一党支配の固定化を防ぐ。
  5. 市民社会(Civil Society):効果的に集まり、組織化できる市民や社会運動は、政治的権利の行使を守る役割を果たす。

次に私たちは、民主主義に関連する400を超える国別指標を含む V-Dem(Varieties of Democracy:民主主義の多様性の意味)の包括的かつ詳細なデータセットを用いて、民主主義の健全性を構成する各要素について、それぞれ定量的な指標を算出した。その結果は予想どおりのものだった。これら五つの要素と、Freedom House による自由度の分類との間には、強い関連が見られたのである。(具体的には、「自由」国は、「部分的に自由」国や「自由でない」国と比べて、五つの要素すべてにおいて平均スコアが高かった。)

※訳者注:V-Dem(Varieties of Democracy)は、スウェーデンのヨーテボリ大学政治学部に拠点を置く、民主主義を多面的・精緻に測定することを目的とした、国際的な学術研究プロジェクトである。

これらのデータセットは、多くの国々においてリスクがどのように積み重なっているのかを俯瞰的に把握するうえで有用であり、民主主義の後退リスクが高い国を特定する手がかりとなり得る(もっとも、全体像を完成させるには、現地の専門家による質的で文脈に根ざした情報が不可欠である)。五角形の図は、各国区分ごとに、2024年時点の平均スコアを0から1の尺度で示している。スコアが高いほど、点は中心から遠くに位置する。(例えば、「自由」国における法の支配の平均スコアは0.86であったのに対し、「部分的に自由」国では0.61にとどまっている。)

民主主義の後退リスクを見極めるため、私たちは2013年から2024年の間に「自由」から「部分的に自由」へと移行した国々を、同期間に「自由」のまま安定していた国々と比較した。そこから、早期警戒シグナルを特定することを試みたのである。同じ目的のもと、2013年から2024年の間に「部分的に自由」から「自由でない」へと移行した国々についても、「部分的に自由」のまま安定していた国、またはより民主的になった国々と比較した。

以下の図表は、後退した国々と、安定または前進した国々のスコアを比較したものである。示しているスコアはいずれも2013年時点のものである(将来の分類変化を予兆し得る、前向きのシグナルを見いだすことを目指しているためである)。

右端のグラフでは、黄色の網掛けが2013年に「自由」で、2024年も「自由」のままだった国々を示し、赤い線は2024年までに「部分的に自由」へ後退した国々を示している。

中央のグラフでは、黄色の網掛けが2013年に「部分的に自由」で、2024年も同区分にとどまった国々、または2024年までに「自由」に分類された国々を示している。一方、赤い線は、2024年までに「自由でない」へと後退した国々の2013年スコアを示している。

左端のグラフは、2013年時点で「自由でない」区分にあり、2024年も「自由でない」のままだった国々、あるいは2024年までに「部分的に自由」へ前進した国々の2013年スコアのみを示している。というのも、「自由でない」より下へは、これ以上後退しようがないからである。

分析の結果、「自由」国の間では、経済的機会の水準が低いことが、後退の最大の予測因子であるように見受けられる。民主主義が市民に十分な経済的機会を提供できないとき、データが示唆するところでは、ポピュリズム的な代替案への支持が拡大し得る。もっとも、国が一度後退した後、経済的機会のスコアは他の指標ほど大きくは変化しない。これは、経済的機会が民主主義の後退の「被害(結果)」というより、むしろ「早期警戒」の性格を強く持つことを示している可能性がある。

選挙スコアは、将来の民主主義の後退や、その帰結について、相対的に多くを明らかにしない。「部分的に自由」国においては、選挙スコアは将来の後退と結びついておらず、後退を予測する指標にはなり得なかった(また「自由」国においても、早期警戒シグナルとしては中程度にとどまった)。さらに、いったん国が後退した後も、選挙スコアの低下幅は、他の多くの指標に比べて小さかった。

「部分的に自由」国では、市民社会スコアが低いことが後退と関連している。強い市民社会は、政府への圧力をかけ、人権侵害に対する国際的な認知を高め、非暴力の運動が生じたときにそれを支えることで、後退を防ぐ助けとなり得る。残念ながら、「部分的に自由」国がいったん後退すると、市民社会スコアは他のどの指標よりも大きく落ち込む(そして「自由」国が後退した場合も、市民社会スコアは二番目に大きな下落を経験する)。権威主義的な指導者が反対勢力を抑え込もうとするためである。これは、国が後退する「前」と「後」のいずれにおいても、市民社会への投資がとりわけ大きなインパクトを持ち得ることを示唆している。

「自由」国と「部分的に自由」国の双方において、一貫して重要に見える要因は、法の支配と開かれた議論である。いずれも、後退しなかった国において、より強固であるように見える。公正で正義にかなった法制度と、開かれた議論は、権威主義者の権力を制約し、検閲や偽情報を弱体化させ、平和的な民主主義運動や反対勢力を抑圧から守るうえで、不可欠な道具となる。

投資領域の優先順位づけ

限られた資源のもとで、どの国を優先すべきかを検討する際、こうしたデータは「どこに投資すべきか」を見定める助けとなる。

例えば、「自由」国における法の支配と経済的機会の低スコアが、より広範な民主主義の後退を予兆しているのだとすれば、リーダーたちは、同様にそれらの領域でスコアが低い他の「自由」国を見いだし、支援することを検討すべきかもしれない。さらに、特定の国の内部で取り組む場合にも、この分析は、将来の後退可能性を下げ得る介入領域を特定する助けとなる。例えば、不平等が大きい「自由」国において経済的機会を拡大すること、あるいは市民社会が制約されている「部分的に自由」国において市民社会を強化すること、などである。

支援すべき領域を見極めるために、ある国の現在のスコアを、後退しなかった同等の国々の過去のスコアと比較し、目指すべきベースライン(aspirational baselines)とすることができる。以下では、チュニジア、メキシコ、インド、米国について、データを私たちの分析から得た示唆と組み合わせて示す。

チュニジア(「部分的に自由」)は、2013年以降に後退しなかった「部分的に自由」国と比べて、市民社会のスコアが顕著に低い。「部分的に自由」国では、市民社会スコアの弱さが後退と結びついているため、民主主義を推進するリーダーは、チュニジアの市民社会の強化に焦点を当てることが考えられる。その際の具体策としては、リーダーシップ研修の支援、市民社会団体を招集して共通の機会について議論する場づくり、より長期の基盤整備や能力強化への資金提供などが含まれ得る。

メキシコは、2013年以降に後退しなかった「部分的に自由」国と比べて、法の支配、開かれた議論、市民社会のスコアが低い。これらはいずれも「部分的に自由」国における後退と関連しているため、メキシコの民主主義を強化する取り組みは、補完的な目標として、法の支配を補強すること(例えば、汚職監視や政策研究)、開かれた議論を下支えすること(例えば、偽情報対策キャンペーンや独立ジャーナリズム支援)、そして市民社会組織や運動を強化すること(例えば、能力強化、組織基盤の整備、リーダーの招集・対話の場づくり)に焦点を当て得る。

インドは、2013年以降に後退しなかった「部分的に自由」国と比べて、経済的機会、開かれた議論、市民社会のスコアが低い。これらはいずれも後退と結びついているため、インドの民主主義を守るイニシアチブは、貧困対策および/または医療分野の取り組み、教育アクセスへの投資、持続可能な農業改善などを通じて経済的機会を拡大すること、調査報道、市民教育、異文化間フォーラムや対話の場づくりによって開かれた議論を支えること、そして最後に、能力強化の支援、リーダーの招集や官民連携(PPP : public-private partnerships)の促進、地域の裕福な寄付者の動員とエンパワメントの後押しなどによって市民社会を強化することを優先するのが筋、という帰結が導かれ得る。

米国は、2013年以降後退しなかった「自由」な国々よりも、経済的機会のスコアが低い。これは「自由」な国における後退の早期警戒シグナルとして機能するため、米国の民主主義を強化する取り組みは、それに応じて労働者の組織化、質の高い教育と職業訓練へのアクセス拡大、そして経済政策の提言と研究を優先すべきである。これらは、ポピュリストの「ゼロサム」的な経済論争を弱体化させ、民主主義への信頼を回復する方法となる。

ブラジルやチリといった他の「自由」な国々も同様のスコアパターンを示しており、経済的機会と公平性への追加投資から恩恵を受ける可能性がある。

米国では、後退はとりわけ深刻な懸念である。というのも、経済的不平等を拡大させかねない近年の政策、政府の他部門を犠牲にして行政府の権限を強めようとする動き、注目を集める政治暴力の事例、そして市民社会を弱体化させることを意図した法的・規制的イニシアチブは、いずれも今後数年間にわたり、同国のスコアに悪影響を及ぼす可能性が高いからである。2013年から2024年にかけて、フリーダム・ハウスの評価における米国の基礎となる数値スコアは、93から83へと低下した(100点満点)。傾向が反転しないと仮定すれば、同程度の低下が続くことで、米国が「部分的に自由」の国へと移行する可能性がある。

今後に向けて

この種のデータに基づく枠組みは、知見ある現地の専門家との協議によって補完されることで、リーダーが投資の優先順位を定め、トレードオフを比較検討し、状況の変化に応じてニーズを見直す助けとなる。民主主義を守るためには、戦略的で協働的な行動が不可欠である。世界各地の民主主義の後退に関するデータを分析することで、資金提供者や他のリーダーは、早期警戒シグナルを能動的に特定し、後退を防ぐための介入策を設計することができる。

さらなる分析を行えば、これらの洞察を深め、より民主的になった国々のトレンド(もっとも、このサンプルサイズはずっと小さいが)といった隣接する問いに答える助けとなるだろう。また将来の研究では、後退が生じた国/生じなかった国において、各要素が具体的にどのように作用したのかを理解し、当該領域への「強い投資」が何を意味するのかを、より詳細に明らかにできるかもしれない。すなわち、どの種類の投資が必要なのか、どのようなパートナーが求められるのか、そして変化のためにどの程度の時間と資源規模が必要なのか、という点である。

世界各地で民主主義の実践を再構築し、強化していくことは、私たちが直面している最大の世代的課題の一つである。本アプローチが、この重要な課題に取り組む人々にとって有用なデータを提供し、最も大きな違いを生み出し得る領域へ資源を優先的に振り向ける一助となることを、私たちは願っている。

著者紹介
ジャレット・ベル:Redstone Consulting、フィランソロピーおよび非営利組織アドバイザー
サム・グリーンバーグ:Redstone Consulting、フィランソロピーおよび非営利組織アドバイザー

◆ リード・コメンテーター

民主主義の強化に向けて必要な「投資先」を決めるためにデータを活用すべき、と提案する意欲的な記事である。日本の主流メディア環境では「民主主義=選挙」という図式になりがちである。しかし、本記事は、フリーダム・ハウスが定義する「自由」の国において、将来的に民主主義が後退する際に最も関連する要因は選挙や市民社会の課題ではなく、むしろ「経済的機会の低さ」である、と指摘している。すなわち、「機会の平等」に向けた「投資」をすることで、民主主義の後退を防ぐことができる、ということだ。ここから導き出される政策は、就労機会の確保、最低賃金の引き上げ、公的住宅の整備、生活保護の拡充、漸進的な課税制度の導入など、多様な選択肢がありうる。こうした政策オプションを議論するためにも、各種データを収集し、公開することの重要性も浮かび上がる。

後半では、世界中の民主主義を推進するための共同研究プロジェクトである「V-Dem」のデータを活用し、投資分野の優先順位について数か国の比較を行っている。民主主義の状態によって、「市民社会の強化」、「法の支配」、「経済的機会」などの投資すべき分野が異なることが示されている。

日本では、「市民社会の強化」として、公的資金(ODA、助成金、補助金、業務委託など)の拡充や、非営利組織向け寄付税制の改善に関する議論は盛んであるが、こうした議論を踏まえると、「経済的機会の拡充」について幅広い関係者での議論と取り組みが求められるであろう。「法の支配」についても、近年の性犯罪をめぐる不均衡な法執行や判決、さらには言論の自由に関する複雑な議論もあり、市民社会としてこれらの分野への取り組みを強化する必要がありそうだ。

また、オンライン上を中心とする陰謀論やフェイクニュースの蔓延、排外主義の台頭など、民主主義を毀損するような動きに対して、多様な市民社会が多くの人々とともに声を上げなければならないだろう。この点で、パブリックコメントへの参加呼びかけや、情報公開請求の結果について、市民団体や独立系メディア、さらには多様な個人が独自に取り上げる機会が増えていることは、前向きな動きとして評価できる。

筆者も関わる「市民社会スペースNGOアクションネットワーク(NANCiS)」では、グローバルな市民社会スペースの状況をモニタリングしている国際NGO「CIVICUS」の報告書に注目しているが、今後、本記事で紹介されているフリーダム・ハウスや「V-Dem」など、多様なデータを駆使した調査研究・提言活動にも力を入れたいと考えている。

「V-Dem」には、日本の民主主義研究者も参加しており、國分良成・粕谷祐子・日本経済研究センター編著『戦場化するアジア政治民主主義と権威主義のせめぎ合い』(日本経済新聞出版、2025)などの関連書も発行されている。本記事の読者にもお勧めしたい。

リード・コメンテーター紹介
堀内 葵
:国際協力NGOセンター(JANIC)シニアアドボカシーオフィサー。日本政府のODA政策やNGOとの連携に関する協議体に関わりつつ、SDGs達成のための政策提言に従事。2016年のG7伊勢志摩サミット以降、日本で開催されるG7/G20サミットに向けた市民社会のコーディネート業務とグローバル市民社会との連携構築を担当してきた。「市民社会スペースNGOアクションネットワーク(NANCiS)」世話人、SDGs市民社会ネットワーク開発ユニット幹事、Global Summit Watch共同運営者なども務める。

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