インパクト投資・測定評価, 政府・自治体・国際機関

みんな「システムチェンジ」を語る——だが、それをどう測るのか?

私たちは、システムチェンジ評価に関する新たなアプローチを試行した。同じ道を歩もうとする実践者たちへ、4つの提言を送る。

アニー・ネイマンド(Annie Neimand)
アヌム・アリ・モハメド(Anum Ali Mohammed)

【原題】Everyone Talks About Systems Change—But How Do We Measure It?(Stanford Social Innovation Review, Winter 2026)
【リード・コメンテーター】川端 元維(innovate with株式会社 代表取締役/一般社団法人社会変革推進財団(SIIF) インパクト・カタリスト)
【翻訳】井川 定一(SSIR-J 副編集長)

(イラスト:Melinda Beck)

政府におけるシステムチェンジの取り組みは複雑である。それは、不当な基盤の上に築かれ、政策や慣行、あるいは資金調達の「改革」という名のもとに、破壊と再構築を繰り返してきた歴史的なシステムを理解することから始まる。さらに制度は、文化的規範の変化や組織の内外を問わず人々が抱く「政府の役割」に対する考え方によっても形作られている。

では、私たちのシステムチェンジの取り組みが、実際に違いを生んでいるかどうかを、どうやって判断すればよいのだろうか。Third Sectorは、政府が人種や背景、置かれた状況にかかわらず、すべての人にニーズに応える公共サービスを提供し、より良い成果を実現できるよう、その実行力を高める支援に取り組んできた。私たちは、州および郡レベルの政府パートナーと協働しながら、刑事司法制度への正式な送致を回避する仕組み(diversion)や、出所後の社会復帰支援(reentry)から、メンタルヘルス、幼児期支援、高等教育機会、職業訓練まで、多様なテーマに関する技術支援を提供している。

私たちは、データ、資金、政策、サービス、外部関係、内部文化という6つの「システム・レバー(systems levers:変革のてこ)」を手掛かりに政府機関と協働し、住民が受ける支援やサービスの質と、その先の暮らしの改善につながる結果を高めている。私たちのプロジェクトでは、ある機関およびそのパートナーが、これらのレバーとどのように関わるかを捉え直し、システムの動き方そのものを変えることを目指している。

たとえば私たちは、コネチカット州の幼児教育局と連携し、重要な意思決定について同局に助言する「保護者・家族諮問会議(a parent and family cabinet)」を構築し、立ち上げた。また、私たちはカリフォルニア州内の9つの郡と協働し、「フル・サービス・パートナーシップ(FSP)」と呼ばれる行動保健(※)プログラムを再設計してきた。ホームレス化、入院、再収監(recidivism)のリスクが最も高い人々に対し、住居・医療・就労などを一体で支える包括的・伴走型支援(ラップアラウンド・サービス)を届けるためである。オレゴン州では、郡の住宅機関、仮釈放・保護観察部門、地域のサービス提供者の協働パートナーシップを支援し、恒久的支援付き住宅と包括的サービスへのアクセスを拡大することで、再逮捕率を低下させた

※訳者注:行動保健(behavioral health)とは、精神保健および依存症支援を含む行動・心理領域の健康概念を指す。

私たちのプロジェクトに共通しているのは、すべての人々の暮らしを改善し、格差を縮小するという揺るぎないコミットメントである。しかし、私たちの努力がどの程度、望むインパクトを生み出しているのかについては、常に確信が持てるわけではない。

そこで、2024年、私たちは初めてのシステムチェンジ評価(systems change evaluation)を試みた。複数のケーススタディを委託し、政府パートナーに対する私たちの技術支援が、どのようにシステムチェンジに寄与し、地域の生活を改善しているのかを理解しようとしたのである。評価は、ある女性が経営するソーシャル・インパクト系コンサルティング会社Cause IMPACTSと連携し、外部の中立的パートナーとして評価を主導してもらうと同時に、得られた知見を組織内および分野全体の指針へと翻訳する作業をともに行った。

プログラム評価やプロセス評価とは異なり、システムチェンジ評価はまだ新しい実践領域である(ただし、Rotary Charitiesを含む、いくつかの輝かしい新手法の例に出会うことはできた)。そのため私たちは、自分たち自身のアプローチを構築し、私たちが関与したプロジェクトが、契約で約束した技術的改善だけでなく、システムやコミュニティの中に、より深く持続する変化をもたらしたのかどうかを評価し、理解する必要があった。

この課題を成し遂げるため、私たちは評価アプローチの根拠を、FSGの「『システムチェンジの水(The Water of Systems Change)』フレームワーク」に評価アプローチに求めた。これはジョン・カニア(Third Sectorの理事でもある)、マーク・クラマー、そしてピーター・センゲによって提示された枠組みであり、私たちの技術支援がシステムチェンジにどう貢献したのかを明らかにし、システムレベルのインパクトを言語化できるようにするためのものである。

※訳者注:FSGは、グローバルな非営利のコンサルティング・ファームであり、「システムチェンジの水」は、システムチェンジの条件を整理する逆三角形の枠組みを指す。

私たちはこのフレームワークを、ケーススタディを整理するための以下の問いに変換した。

・構造(Structural):現在の資源配分や実務は、以前と比べてどのように異なっているか。
・関係(Relational):規範、関係性、権力力学(パワー・ダイナミクス)は、以前と比べてどのように異なっているか。
・変容(Transformative):システム内の主要なアクターは、以前と比べてどのように異なる考え方・行動の仕方をしているか。
・コミュニティ(Community):本プロジェクトは、サービス利用者の成果にどのような改善をもたらしたか。資源や機会へのアクセスにおいて最も大きな困難に直面している人々の生活は、実際に向上したのか。

このフレームワークに加え、私たちは、公平性に配慮した評価のアドバイザーであり、LEEADの研究者でもあるデイビッド・ハンソンと協働し、文化に即して公正さを重視する評価の考え方を、私たちの進め方の隅々に組み込んだ。具体的には、どんな問いを立てるかから、ステークホルダーとどう関わるか、評価についてどんな言葉で語るかに至るまでである。研究と評価における多様性の拡大に取り組むイニシアチブである「エクスパンディング・ザ・ベンチ(Expanding the Bench)」は、この種の実践を次のように定義している。

文化に即して公正さを重視する評価(Culturally responsive and equitable evaluation:CREE)とは、評価のあらゆる段階に多様性、包摂、公平性を統合することを求めるものである。CREEは、歴史的・社会的・経済的・人種的・民族的・ジェンダー的要因など、文化的・構造的・文脈的要素を、最も影響を受ける人々へと権力を移す参加型のプロセスを通じて取り込む。CREEは評価の単一手法ではなく、あらゆる評価方法論に織り込まれるべきアプローチである。CREEは、戦略、プログラム改善、意思決定、政策形成、変化に資する情報を提供することで、公平性を前進させる。

私たちは評価とケーススタディを、公平性、包摂、説明責任、学びの共有という4つの価値を軸に設計している。ケーススタディは、ステークホルダーとの本質的な関わりを重視し、量的データや指標だけではなく、当事者の「生きた経験(Lived Experience)」にもとづく語りやストーリーテリングに重きを置いている。評価では、ステークホルダーの証言を用いて、システムチェンジのインパクトを評価し、理解する。また、コミュニティレベルのインパクトを把握するために、プログラム参加者からのフィードバックを優先する。各プロジェクトに関与した、あるいは影響を受けたステークホルダーから変化の物語を捉えることこそが、私たちのシステムチェンジ評価アプローチの核心(crux)である。

ここで重要なのは、複雑なシステムにおける一アクターであるThird Sectorが、システムやコミュニティレベルのインパクトを「自らの成果(帰属:attribution)」として独占的に主張することはできない、という点である。私たちは因果関係や帰属を証明しようとはしなかった。そうではなく、Third Sectorが支援したプロジェクトが、どのようにシステムとコミュニティの変化に「貢献(Contribution)」したのかを探索することに、ケーススタディの焦点を置いた。

その際、Third Sectorが他のステークホルダーとともに、いかにプロジェクトの成果に貢献したかに焦点を当てるやり方は、非常に有効だった。評価者は、さまざまなステークホルダーと対話する中で、Third Sectorのインパクトをプロジェクトのインパクトから切り分けることは不可能だと判断した。参加者にとって、それらは一体不可分だったのである。

これらの枠組みを整えた上で、Cause IMPACTSはThird Sectorの4つのプロジェクトから着想を得た「変化の物語」を明らかにする作業に着手した。Cause IMPACTSは、構造、関係、変容、コミュニティという各レベルでの変化を特定し、Third Sectorの現在および将来の戦略を導く教訓を浮かび上がらせることができた。

私たちのアプローチを試してみたい人に向けて、システムチェンジを測るための4つの提言を示したい。

1.システムのレンズを適用する(Apply a systems lens view)
「『システムチェンジの水』フレームワーク」を用いて、構造・関係・変容の各レベルで何が起きたのかを含め、プロジェクトの物語を探索し、研究質問と分析を形づくるとよい。またこのフレームワークは、ステークホルダーとの対話を深めるための「探り針」としても使える。プロジェクト期間中にシステムがどのように変化したのか、そしてプロジェクト終了後もその変化がどのように維持されたのかを理解するため、複数レベルにまたがる変化の兆しを探すことが重要である。

2.公平性を組み込む(Embed equity)
文化に即して公正さを重視する評価(CREE)アプローチを用いるべきである。その際、生きた経験やストーリーテリングを、強力なデータ形態として価値付けることから始める。データ収集時だけでなく、調査プロセスの全体を通じて、システムに関わるステークホルダーやコミュニティメンバーの声と専門性を反映させるべきである。リサーチ・クエスチョンの定義、データの解釈、洞察の確認を、当事者とともに行うことが望ましい。さらに、参加者の時間と貢献には必ず対価を支払うことを忘れてはならない。私たちはMITの「リビングウェイジ・計算機(Living Wage Calculator)」を用いて謝礼額の目安を算出し、生活賃金以上となるよう支払いを行った。1時間あたり20〜25ドル相当のギフトカードを提供した。またケーススタディ報告書に名前を掲載することで、その貢献をきちんと明示した。CREEに関するリソースとしては、Expanding the Benchを参照するとよい。

3.自組織の「貢献」に焦点を当てる(Focus on your contribution)
システムチェンジでは、実験室の外で行われるプロジェクトに対して、帰属を主張することはほとんど不可能である。だからこそ、「何が起きたのか」「誰が関わったのか」「自組織の役割によって時間とともに何が変わったのか」という物語を語るべきである。どのような変化が現れ、自らの仕事がそれらの変化にいかに寄与したかを理解するために、ステークホルダーの声に真摯に耳を傾けるべきなのだ。

4.ステークホルダーの世界から始める(Begin in the world of your stakeholder)
話をする相手は、あなたと同じ視点でプロジェクトを見ているわけではない。この点を常に忘れてはならない。その人の入り口(エントリーポイント)を理解し、そこから問いを立てよう。ステークホルダーがあなたの組織を知らず、ある特定の名称でプロジェクトを認識していたり、ケースワーカーとのやり取りというプロセスを通じて把握していたりするなら、その人の世界で意味をなす「足場掛け(scaffolding)」を用意する必要がある。「Third Sectorや『フル・サービス・パートナーシップ(FSP)』について、あなたの経験はどうでしたか」と尋ねるのではない。そうではなく、「ケースワークの経験や、クリニックでの経験に変化を感じましたか。どのような変化でしたか」と問うのである。

今年、Third Sectorは5つのケーススタディを実施しており、今後も得られた知見を積み上げていく予定である。システムチェンジをどう測るかを試し続ける中で、システムをより公平に、そして成果に焦点を当てたものへと変えていくための手がかりも見えてくる。だからこそ、私たちはベストプラクティスやフレームワークを互いに共有していかなければならない。システムチェンジは息の長い取り組み(long-arc work)である。この分野全体で共有し、ともに学ぶことで、変化の速度を加速させることができる。

著者紹介
アニー・ナイマンドは、社会運動の社会学者であり戦略家である。Third Sectorのインパクト/評価担当ディレクターで、Radical Communicators Networkのリーダーシップ・チームにも参画している。
アリ・モハメドは、ロサンゼルスを拠点とする女性所有のソーシャル・インパクト戦略コンサルティング会社Cause IMPACTSのリサーチおよびデータ分析担当ディレクターである。

◆リード・コメント

本稿は、社会課題を生み出す構造そのものを変える「システムチェンジ」の評価をテーマにしています。世界的にも確立された正解がない難題ですが、米国で行政機関の社会的成果創出を支援する非営利団体Third Sector社の実践をもとに、公共セクターにおける評価の考え方と方法の一例を提示しています。提案は公共分野から生まれたものですが、社会課題を構造的に解決したいと願うすべての実践者にとって示唆に富む内容だと感じました。ここでは、実務に活かせそうな3点を紹介します。

1.評価は「当事者の変化」から始められる
システムチェンジ評価というと、「教育システム全体が変わったか」といった壮大な立証作業を想起させ、現場を圧倒しがちです。しかし本稿は、評価は当事者の声を聴くことから始められると提案します。受益者やユーザーの変化を中心に据え、継続的に問い続けることで、「いま起き始めている変化」を捉える。ユーザー中心のデザイン・リサーチにも通じるこの発想は、資源の限られた団体でも実践可能な出発点になり得ます。

2.評価プロセス自体が権力の非対称を揺さぶる
当事者の声を意思決定に組み込むことは、意思決定者と生活者のあいだにある権力・情報の非対称を変えていく行為でもあります。さらに、評価に協力する当事者に対して誠意をもって正当な報酬を支払う行為は、評価の取り組みから既存の非対称性を書き換えるための重要な一歩です。評価は単なる測定行為ではなく、システムへの介入にもなり得ます。

3.「帰属」から「貢献」へのシフト
本稿が強調するのは、統計的な帰属(どれだけ結果に直接結びついたか)ではなく、構造や力学、コミュニティへの「貢献」を多面的に捉える視点です。複雑に変化する現実の中では、あらかじめ定めたKPIの達成度だけで成否を測ることには限界があります。むしろ、KCI(Key Contribution Indicator)やKLI(Key Learning Indicator)といった複線的な指標を併用して、変化の兆しや前提条件を捉えることが重要になるのではないでしょうか。

筆者はこれまで、自ら切り盛りするinnovate with株式会社ではシステムチェンジを目指す企業やNPOの戦略策定、経営伴走とインパクト評価設計、そしてインパクト・カタリストとして関わるSIIF(社会変革推進財団)でのシステムチェンジ投資の実践と研究のこたえのない橋渡しを行ってきました。

本稿の提案は、社会の複雑さを単純化せず、そのまま見つめながら次の一手を考えるためのひとつの評価観を筆者に示してくれました。この記事が、システムチェンジの触媒となる実践者にとって、有力な手がかりとなることを願っています。

リード・コメンテーター紹介
川端 元維:innovate with株式会社 代表取締役、一般社団法人社会変革推進財団(SIIF) インパクト・カタリスト。2015年の独立以降、社会課題の構造的・本質的な解決(システムチェンジ)を目指す触媒として海外の財団や投資家と日本の社会起業家を繋ぎつつ、戦略デザイン・経営伴走・インパクト評価を軸に変化の火付け役を担う。SIIFでは2023年よりシステムチェンジと触媒的資本の国際リサーチ、実践者のための場づくりを推進。英国ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス修士課程(ソーシャルビジネスとアントレプレナーシップ)を最優秀成績で修了。

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