※本稿は、SSIR Japan 編『スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版 03 科学技術とインクルージョン』より転載したものです。
中島万寿代
科学の課題と科学への期待
「State of Science Index(ステート・オブ・サイエンス・インデックス)」は、世界の人々の科学への意識と、それが世界に与える影響を把握するために、3Mが委託した第三者機関によって2018年から定期的に実施されている意識調査です。
初年度である2018年、調査対象の10カ国の人のうち「日常生活に科学が非常に重要である」と答えたのは半数弱の44%でした(以下、調査対象10ヶ国の平均は「10ヶ国平均」とする)。5年後の2022年、この数値は52%と半数を超えました。この数値の変化は、世界の人々の半数以上が自分たちの生活に科学が重要であると認識するようになったことを示しています。そこで今回のFacts&Figuresでは、State of Science Indexのデータを用いて、科学に対する人々の認識を「科学への信頼と期待」「科学の未来」「STEMの公平性」「科学の力とサステナビリティ」の4つのテーマで分析することにしました。
パンデミックによって高まる科学の価値
「科学への信頼と期待」と「科学の未来」
結論から言えば、世界の人々は科学を信頼し、世界が抱える現代のさまざまな社会課題はいずれ科学が解決してくれると期待しているようです。パンデミック前後の意識の変化をまとめた2022年の調査によると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミックが起きる前、科学のメリットについて議論するとき、科学を支持する人はわずか20%(調査対象14カ国の平均)にすぎませんでした。それが、パンデミック後は、科学への懐疑に対して擁護すると回答した人は75%(調査対象17カ国の平均。以下、断り書きがない場合は17カ国平均を指す)にまで上昇しています。さらに、今回の調査結果から、8割を超える人が科学を尊重しないと社会に悪影響が及ぶと考えていることも明らかになりました。
パンデミック前後を含めた過去6回の調査結果を時系列にグラフ化すると、科学あるいは科学者への信頼度は、パンデミック後に上昇しています。この傾向は、10ヶ国平均も日本(Q2)も同じです。パンデミックという世界中を巻き込んだブラックスワンが、人々の科学に対する認識を変えたという見方もできるかもしれません。
パンデミックがSTEMの意識改革を促す
STEMの公平性
2021年の調査では、パンデミックによって世界の人々がSTEM教育とキャリアの必要性に目を向けるようになったと報告しています。しかし、依然として女性やマイノリティに対するSTEMの公平性には大きな障壁があります。2022年の調査によると、世界17カ国の84%、日本の88%の人が、STEM教育を望む学生には障壁があると考えています。STEM教育、そしてSTEM分野でのキャリア形成のいずれも障壁は高く、しかも男女の認識も大きく違います(Q7)。
しかし、パンドラの箱に希望が残ったように、人々は公平性の実現をあきらめていません。この障壁を乗り越えられると考える人は着実に増えています。2022年の調査によると、STEM分野でもダイバーシティとインクルージョンを高めることが重要であり、それらを高めることで社会に良い影響を与えられると考えている人が8割以上います(Q6)。このように意識が変化した背景には、やはりパンデミックの影響があります。約1/3の人がSTEM分野でのキャリア形成を考えていますが、そのうち1/3の人はパンデミックがきっかけでそうなったと回答しています(Q8)。
私たちのアクションと科学の両輪で実現する世界のあるべき姿
科学の力とサステナビリティ
気候変動は地球環境への脅威、つまり私たちの日常生活を脅かす最も身近な社会課題で、サステナビリティを語るには欠かせないテーマの1つです。2022年の調査では、8割もの人が強力なハリケーン、火災、洪水など気候変動に伴う異常気象によって、ある日突然、住んでいる場所から避難しなければならないと懸念していることが明らかになりました。この危機感が、「リサイクル素材を利用した」「プラスチックの使用を削減した」「水の使用量を削減した」といった具体的な行動につながっています(Q12)。約半数の人が、気候変動の影響を軽減するためのアクションを起こしているのです。
科学の力は、気候変動をはじめとする世界が抱える社会課題の解決を後押しします。国・地域によって抱える社会課題の重要性は異なりますが、科学が進歩していけば解決できる社会課題は増えていくはずです。特に、気候変動を含む地球環境や医療、飢餓などの分野で、多くの国の人が科学の力で社会課題が解決されることを期待しています(Q13)。
【解説】中島万寿代
●State of Science Index 2022について
パンデミック前に実施された3つの調査と、パンデミック後に実施された3つの調査のデータを用いて、パンデミック前とパンデミック以降の時期に分けて考察したグローバルレポートです。本調査は、アメリカ、カナダ、イギリス、ドイツ、フランス、ポーランド、イタリア、ブラジル、メキシコ、コロンビア、日本、シンガポール、韓国、中国、インド、アラブ首長国連邦(UAE)、オーストラリアの17カ国、各国18歳以上の一般成人約1000人ずつ、計1万7198人を対象に、2021年9月27日~2021年12月17日に実施されました。信頼水準95%で、誤差は17カ国レベルで±0.75%ポイント、個々の国では±3.1%ポイントです。本文中、断り書きがない場合、17カ国の平均を用いています。前年の結果との比較では、許容誤差±0.98% ポイントの10カ国平均を使用しています。10ヶ国平均は、2018年から2022年までの6回の調査すべてで調査対象となった国・地域で、ブラジル、カナダ、中国、ドイツ、日本、メキシコ、ポーランド、シンガポール、イギリス、アメリカです。また、本文中の「14カ国の平均」の調査対象国は、アメリカ、カナダ、イギリス、ドイツ、ポーランド、スペイン、ブラジル、メキシコ、日本、シンガポール、韓国、インド、南アフリカ、中国です。
●State of Science Indexについて
https://www.3mcompany.jp/3M/ja_JP/state-of-science-index-survey-jp/
●レポートのダウンロード
https://multimedia.3m.com/mws/media/2183175O/3m-state-of-science-index-sosi-2022-global-report.pdf