スケーリング

戦略─大胆に行くか、それとも……いや、やはり大胆に行くべきである

真に意義あるスケールでインパクトを実現するための四つのステップ

Kevin Starr(ケビン・スター)

※リード・コメンテーター 中村 俊裕

(Photo by Shutterstock)

さあ、あなたは世界を救いたいと考えている。そして「これはいける」と思えるアイデアを持っている。その取り組みは、始めたばかりのものであるかもしれないし、あるいは組織として長年地道に進めてきた活動であるかもしれない。いずれの場合であっても、単に「やる」だけでは不十分である。戦略が必要なのである。

ここで注目すべきは、「戦略的計画(strategic plan)」が必要であるとは述べていない点である。筆者が愛読するSSIR(Stanford Social Innovation Review)の記事のひとつに、「The Strategic Plan Is Dead. Long Live Strategy(戦略的計画は死んだ。戦略よ、永遠なれ)」というタイトルのものがある。ぜひ読んでいただきたいが、少なくともこのタイトルについては一考に値する。戦略にとって最も不幸な出来事、それは「計画」と無理やり結びつけられたことである。ボクサーのマイク・タイソンの言葉を借りれば、「誰もが計画を持っている。だが顔面を殴られた途端、それどころではなくなる」。戦略が固定的な計画に閉じ込められてしまえば、その計画が破綻したとき、戦略そのものもまた失われる。

そのような状況には陥ってはならない。戦略とは、変化し続ける状況や新たな情報に対応できる、生きた存在でなければならない。戦略は頻繁に見直されるべきであり、変化に対してはむしろ積極的に対応していくべきである。簡潔さと具体性、単純さと詳細とのバランスが求められる。そして何よりも重要なのは、明確な言葉で表現されていることである。専門用語は、思考の歯車に入り込む砂のようなものである。

スケールのあるインパクトを生み出す真の戦略には、二つの出発点が必要である。すなわち、Big Idea(大きなアイデア)とDream(夢)である。Big Idea を欠いた活動は、単なる活動の羅列に過ぎない。同様に、Dream を伴わない Big Idea は、目的地を持たない旅のようなものである。Big Idea の着想方法については、筆者自身も明確に説明できるわけではない。しかし、以下のような例が該当することは確かである。すなわち、地域住民による精神ケア、零細農家向けの手ごろな温室、地域で管理される海洋保護区、専門職としての地域保健ワーカー、農業資材・研修・マイクロクレジットの組み合わせなどである。

一方、Dream の描き方については助言できる。自身のアイデアが最大限にその可能性を発揮した世界を、具体的に想像してみてほしい。戦略とは本質的に、「いま、ここ(Here)」から「理想の世界(There)」へと到達するための最善の道筋を設計することである。言い換えれば、現在の地点から、その Big Idea が持つポテンシャルを最大限に発揮した未来に至るまでの戦略的設計図を描くことこそが、本質的な戦略である。

ステップ1:実行者(Doer)と支払い手(Payer)

ひとつの組織のみで「夢」――すなわち、アイデアが持つ可能性を最大限に実現した状態――を達成することは、非常に稀である。したがって、Doer-at-Scale(スケール段階の実行者)とPayer-at-Scale(スケール段階の支払い手)を特定するまでは、スケールや夢の実現に本気で取り組んでいるとは言い難い。

Doer-at-Scaleとは、対象のアイデアを「夢のスケール」で実行する存在を指す。Payer-at-Scaleとは、その実行にかかる費用を負担するに足る十分な資金力を持つ存在である。Doer-at-Scaleの選択肢は、基本的に以下の三つしか存在しない。すなわち、1)政府、2)多数のNGO、3)多数の企業である。このうち、どの主体が「夢のスケール」における実行を最も現実的に担い得るかを見極めることが、アイデアの将来にとって極めて重要である。また、その初期の直感が正しいかどうかを、できる限り早期に検証し始める必要がある。

一方、Payer-at-Scale について述べると、ほとんどのソーシャル・ベンチャーはフィランソロピー(慈善資金)を起点とする。しかし、それでは到達できる地点に限界がある。持続的な加速を実現するためには、スケールに耐えうる支払い手を見出すことが不可欠である。Payer-at-Scale の候補も三つに分類できる。すなわち、1)顧客(Customer)、2)大規模援助(Big Aid)による直接支払い、3)政府(税収や大規模援助を通じた公的支出)である。どの選択肢が「夢のスケール」での財政負担を現実的に担えるかを、慎重にかつ戦略的に見極めなければならない。

社会セクターにおいて最も残念なパターンの一つに、「S字カーブ(S-curve)」がある。これは、有望なソリューションが立ち上がりこそするが、ある地点で成長が停滞し、その後は勢いを取り戻すことなく終わってしまうというものである。その多くは、Doer-at-Scale または Payer-at-Scale(あるいはその両方)を明確に定められなかったことに起因している。したがって、これら二者をできる限り早期に特定する必要がある。筆者たちは、非常に優れたアイデアが、その可能性を十分に発揮する前に、突破できない天井に阻まれる場面を数多く目にしてきた。読者のアイデアが、そのような運命をたどることのないよう、強く願うものである。

ステップ2:モデル

アイデア、夢(Dream)、そして実行者(Doer)および支払い手(Payer)に関する構想が十分に練られていれば、戦略の骨格はすでに形成されていると言える。次に取り組むべきは、当該アイデアを「モデル」として明示することである。すなわち、体系的に複製可能な中核要素のセットとして構成し直すことが求められる。

筆者らがこれまでに得た知見によれば、スケーラブル(拡大可能)なモデルとは、通常4~6の要素で表現される傾向にある。以下にその例を示す。

アイデア:専門職化された地域保健ワーカー(Community Health Workers)

  1. 給与制(Salaried):認定専門職として報酬を受け取る。
  2. 技能(Skilled):幅広い疾患に対応可能な予防的ケアに関する訓練を受けている。
  3. 監督体制(Supervised):現場での指導を伴う、有効に機能する組織構造の一部である。
  4. 供給(Supplied):物流体制が整備されており、ラストワンマイルまでの供給が可能である。

アイデア:非専門家による心理療法(Lay Psychotherapists)

  1. リクルート(Recruitment):診療所や教会においてうつ病のスクリーニングを実施する。
  2. 療法(Therapy):簡略化かつ適応化された認知行動療法(CBT)を用いる。
  3. セラピスト(Therapists):一般市民を訓練し、心理療法の実施者とする。
  4. 提供方法(Delivery):週1回、8週間にわたるグループセッションを実施する。
  5. サポート(Support):グループがその後も継続的に会合できるよう、積極的に支援を行う。

仮にこのような限られた中核要素のセットを抽出・明示することができない場合、それはスケール可能なモデルではない可能性が高いといえる。モデルのシンプルさは、今後の反復的な試行錯誤を円滑に進めるために有用であるだけでなく、「自分たちが何をしているのか」を他者に明確に伝える上でもきわめて重要な要素となる。

さらに、すでにDoerとPayerを特定しているのであれば、自身のモデルを最大限にスケーラブルにするために必要な条件についても検討が可能となる。これこそが、筆者らが「The Enoughs(4つの“〜十分”)」と呼ぶフレームワークである。

モデルに求められる「4つの“〜十分”」

1. Good Enough(十分に良い):スケールに値するだけの質的価値を有することが前提である。具体的には以下の三点が求められる。1)健康、教育、環境、収入などの分野において、対象者の生活に実質的な意味をもたらすレベルの成果(効果サイズ)があること。2)そのアイデアがスケーラビリティに値するものであることを裏づける、厳密なインパクト評価に基づくエビデンスが存在すること。3)インパクトをもたらす行動や要素が、時間の経過とともに維持される仕組みを備えていること。これらをいかに実現するかを示すことは、戦略構築のなかでも最も時間と労力を要する領域であると考えられる。

2. Big Enough(十分に大きい):モデルが多様な地域的・社会的状況に対して柔軟に適応できることが求められる。社会的ニーズの大きさと、モデルが実際に機能することができる状況との重なり合いが、アイデアの潜在力を規定する。「Big Enough」の定義は状況に応じて異なるが、筆者らは「大きな課題に大きく食い込むこと」をその核心とみなしている。重要なのは、制約である。すなわち、何がより大きなスケール展開の妨げとなっているのか、複製の拡大を制限する要因は何か、それをどう乗り越えるかを明らかにする必要がある。また、自身のモデルをより多様な状況に適応させるために取りうる方策を検討すべきであり、必要に応じて、より多くのDoerやPayerが存在する地域への展開も選択肢としなければならない。

3. Simple Enough(十分にシンプル):当該モデルが、Doer によって実行可能なレベルの単純さを備えていることが条件となる。この観点からも、事前に Doer-at-Scale を明確にしておくことが不可欠である。常に Doer を意識しながらモデルを設計・検証・反復する姿勢が求められる。そうでなければ、実行段階で袋小路に陥る可能性がある。筆者らは「Doerアナログ(doer-analog)」という手法を用いている。たとえば、政府が Doer-at-Scale である場合、その政府がすでに実施しており、比較的良好に機能している類似事例を参考にし、それに即したモデル設計を行うのである。

4. Cheap Enough(十分に安い):当該モデルが、Payer が支払い可能な範囲に収まっていることが条件となる。これは単なる「費用対効果」の問題ではなく、むしろ Payer の資金配分に関する意思決定のプロセスと価格感覚に対する理解を要する。すべての Payer は、個人・政府にかかわらず「支出可能な価格帯(プライスポイント)」を持っている。たとえば、それは調理用コンロを購入する家庭の母親であっても、一次保健医療プログラムに予算を配分する財務大臣であっても同様である。したがって、自身のモデルが、そのプライスポイントの範囲に収まるものでなければならない。仮に、創業者や仲間内で「これは費用対効果に優れる」と信じていたとしても、意思決定者がそれを購入する気にならなければ、意味はないのである。

ステップ3:現在地(The Dot)

戦略とは、「ここ(Here)」から「そこ(There)」へと到達するための道のりを描く行為である。したがって、まず把握すべきは、「現在地」がどこであるかという点である。その手がかりとして、筆者らはスケールに至るまでの過程を以下の三段階に分類している。すなわち、R&D(研究・開発)フェーズ、Replication(複製)フェーズ、Scaling(スケーリング)フェーズの三つである。

1. R&D(研究・開発)フェーズ:この段階において、組織は「研究室」のような存在である。アイデアを起点とし、可能な限り迅速に反復を重ねることにより、それを体系化され、再現可能なモデルへと昇華させていく必要がある。このフェーズが終了したと判断できるのは、次の二つの条件を満たした時点である。第一に、「インパクトがある」という説得力ある主張が可能であること。第二に、そのモデルがスケーラブルであると説明できる段階に至っていることである。ただし、ここではまだ厳密なエビデンスまでは求められない。

2. Replication(複製)フェーズ:この段階において、組織は「成長期」に入っており、例えるならば「研究室を併設した工場」のような存在である。モデルの複製を本格的に展開しつつ、依然として改善を加えていく必要がある。同時に、オペレーション体制、業務システム、モニタリングおよび評価の枠組みを整備し、モデルが最大限に再現可能な構造へと洗練されていくことが求められる。この段階における活動は、「スケーリング」ではなく、「グロース(成長)」である。一定の規模に達することで、スケールメリット(規模の経済)を活かすことが可能となり、同時に、インパクトの厳密な検証に必要なサンプルサイズを確保することができるようになる。このフェーズを完了するための条件は、「スケーラビリティ」と「インパクト」の双方について、ランダム化比較試験(RCT)などの厳密な評価手法を用いたエビデンスを確立することである。このいわゆる「工場段階」は、多くの人々が「直接提供(direct delivery)」と称する活動に相当する。(補足すれば、資金提供者の多くは「とにかく成長せよ」と促す傾向があるが、そうした圧力に流されるべきではない。ここでも重要なのは、あくまで戦略的であることである。)

3. Scaling(スケーリング)フェーズ:この段階において、組織は「産業の創出者(industry-builder)」へと進化する。たとえ自らが研究室や工場を引き続き運営していたとしても、活動の主眼はそこにはない。中心的な任務は、他の「工場」、すなわち他者によるモデルの複製を促進することである。ここでは、他の実行者(Doers)を巻き込み、それぞれが「十分な品質」でモデルを再現できるよう支援することが主たる業務となる。(ここで、資金提供者たちへのメッセージを強調したい。この段階への投資こそが、最大のインパクトを生む可能性を秘めた「ジャックポット」である。こうした高いレバレッジ効果を持つ投資機会は、そう頻繁に訪れるものではない。)

以上の基準に基づき、自組織が現在どの段階に位置しているのかを評価し、「点(dot)」として図上に配置することが推奨される。この「点」が示す位置は、近い将来および中期的な優先課題を明らかにする上で、極めて有用な道標となる。同時に、「このカーブを上っていくためには何をすべきか」という問いを自らに投げかける契機にもなるであろう。

この「点を置く」作業を継続的に実施することで、自組織が各フェーズをどの程度進んでいるかを追跡することが可能となる。また、同じ図を活用すれば、前述の「Enoughs(〜十分)」に関する進捗状況を、スケールに十分な状態(“enough to scale”)という到達目標に向けて可視化する手段としても活用できる。

もちろん、ここで行う評価はあくまでも概略的なものであり、精密な測定ではない。しかしながら、「現在地」を意識的に思考し、それに対して自らのコミットメントを明確にするという行為そのものが、組織の成長と戦略的進化にとって非常に価値あるプロセスであることは疑いない。

ステップ4:ビッグ・シフト(The Big Shift)

ビッグ・シフトとは、「夢(Dream)」の実現に向けた持続的な加速を可能にする、一連の包括的かつ戦略的なアクションの集合体である。本稿では、その中でも特に重要と考えられる5つの要素を取り上げる(他にも存在する可能性はあるが、ここでは優先度の高い要素に焦点を絞る)。それぞれの要素の重要性には若干の差異があるものの、いずれも無視することのできない中核的構成要素である。

1. Doer-at-Scale(スケール段階の実行者):ここで問われるのは、自らが担ってきたモデルの複製(replication)の責任を、どのようにしてDoer-at-Scaleに移行していくのかという戦略的構想である。その方法は多岐にわたる。たとえば、企業であれば収益性を高めることにより、他の事業者が自発的に参入したくなるような市場構造を設計する。また、革新的なNPOが大手国際NGO(BINGO)にソリューションの複製を委ね、最終的には政府による制度化に結びつける戦略を採る例もある。あるいは、草の根型のNGOが地域の他団体を巻き込み、説得・研修を通じて、効率的にモデルを普及させる体制を築くといった方法も考えられる。この領域は、スケールアップの実務において最も重要なメカニズムとなることが多い。場合によっては、複数のDoer候補を試行し、その中から最も高い実行可能性を有する主体を見極める必要がある。

2. Payer-at-Scale(スケール段階の支払い手):フィランソロピー(寄付)に依存した初期段階から、より資金力のある支援主体へといかに移行していくかという視点が求められる。代表的なルートとしては、フィランソロピーの階層を段階的に上り、「Big Bet(大型支援)」を実行する規模の資金提供者を引き込む方法がある。また、顧客ベースを拡大し、追加の資本調達を不要にすることで持続可能な収益モデルを確立する方法もある。さらに、大規模なUSAID(米国国際開発庁)プロフラムのサブコントラクターとして参画し、その実績をもとにより大きな契約へと発展させる道も考えられる。たとえ現在の構想が数年後には未熟に見えたとしても、まずは今の段階で言語化し、方向性を定めることが重要である。

3. テクノロジー(Tech):テクノロジーは、それ自体が解決策となるわけではない。しかし、リーチの拡大、取引コストの削減、実行精度の向上といった点で、戦略の加速装置として機能する。ここで問うべきは、「テクノロジーを使えるか」ではなく、「いかに活用するか」という設計思考である。常に技術トレンドを追い、同分野・他分野の先進事例を観察することが望ましい。加えて、自らの立場から見た優先的な技術活用の可能性について見解を持ち、どのような技術パートナーと連携すべきかを学ぶことが不可欠である。現時点での「必要な技術」と「世の中に存在するであろうツール」について、現段階のベストな仮説として明文化しておくことが求められる。

4.政策(Policy):実践が進むにつれ、政策の変革こそが新たな道を開き、また既存の障壁を取り払う鍵であることが見えてくる。どの政策がボトルネックとなっているのか、またそれに働きかけるためにはどのような人材とチーム体制が必要なのかを、戦略的に構想しなければならない。多くの団体は、政策への関与において時間・資金・人的リソースのいずれもが著しく不足している。政策対応が本来なら早い段階で始まるべきであるにもかかわらず、実際には後回しにされ、計画も不十分であることが多い。どの政策を変えるべきか、また今いる国や地域でそれが可能なのかを見極めることは、「自分は今、正しい場所にいるのか?」という戦略上の根本的な問いへ立ち返る助けとなる。仮に、国Xで何年も成果が出ないまま頭を打ち続けている一方で、国Yでは必要な政策環境が整っているならば、場所の選定そのものが成果の決定要因となるのであり、自らのリソースを正しいフィールドに投入することが極めて重要である。

5.協働(Collective Action):夢の実現には、同じ志を持つ仲間や協力者の存在が不可欠である。時にはすでに存在するムーブメントに加わることもあれば、自らがその発起人となる場合もある。筆者が特に支持するアプローチの一つに、「自然発生的な実行者の集合体(emergent doer collective)」の形成がある。たとえば、地域保健ワーカーの専門職化を目指す複数の団体によって結成されたCommunity Health Impact Coalition(CHIC)は、その代表例である。このような協働体制は、ビッグ・シフトの他のすべての要素に推進力を与えることができる。さらに、取り組み全体を「システムチェンジ(systems change)」と呼べる段階にまで引き上げる可能性すら持っている。したがって、誰が共に歩むべき仲間となり得るのかを、意識的に探し、関係構築に投資すべきである。

結び:戦略と行動の出発点として

これで、本稿で示した4つのステップは完結する。概念的にはシンプルであるが、実行においては容易ではなく、しかしながら確実に遂行することが不可欠である。必要な思考は、チーム、理事会、信頼できる関係者と共に丁寧に行うべきであり、その成果を文字にすることが第一歩となる。初期の文案は多少粗削りであっても構わない。それでもなお、スケールに関する思考と発信の明確化において、大きな転換点となるはずである。そして、それはあなたの「夢(Dream)」と、そこへ至る旅路に対して、チームや支援者の共感と結束を呼び起こす核となる。

ここで疑問が生じるかもしれない。「では、計画(プラン)はどうするのか?やはり必要なのではないか?」もちろん、計画は必要である。実効的なアクションを実施するには、あらかじめ計画を立てておくことが欠かせない。また、戦略策定のプロセスの中で、最重要課題が浮き彫りとなる。その発見こそが戦略の主要な価値の一つである。ただし、世界は予測不能であり、混沌としている。したがって、3年以上先を詳細に計画することには、現実的な意味が乏しく、むしろ硬直性の原因となる可能性がある。ゆえに、計画は「見直し」と「更新」を前提とした設計が求められる。理想的には、「ローリング方式の三か年計画(訳注:常に最新の3年間を見据えて更新され続ける計画)」が適している。あるいは、1年単位で設計するシンプルな計画でも良い。古くなった計画は、古くなった戦略と同様に無価値である。

あなたのアイデアと組織は、常に変化する環境という海の中を泳いでいる。揺らぎは避けられない。しかし、それによって野心を縮小してはならない。むしろ、夢(Dream)を明確に見据えながら、探索し、学び、戦略を調整し続ける姿勢こそが重要である。そして唯一、何があっても守られなければならないもの、それは、「支援する人々の人生に持続的なインパクトを残すこと」である。

戦略の構想・反復・調整はスキルである。練習を重ねれば、必ず上達する。だから、今すぐにでも始めるべきである。あなたのDreamは、それに値するものである。

筆者紹介

ケビン・スター(Kevin Starr)は、ムラゴ財団およびライナー・アーンホルド・フェローズ・プログラムの代表を務めている。

【翻訳】井川 定一(SSIR-J副編集長)
【原題】Strategy: Go Big or Go… Oh, Just Go Big(Stanford Social Innovation Review, May 4, 2022)

◆ リード・コメンテーター 中村 俊裕

ケビン・スター氏は、アメリカ、カリフォルニア州に本部を置くムラゴ財団の代表。英語版のSSIRでは、おそらく最も多くの記事を投稿している筆者の一人だろう。スター氏は、ムラゴ財団で世界中の社会起業家を支援してきた経験から、いかに社会的インパクトを大きくするかを、実務の観点から、歯に衣を着せない口語調で多く提示してきている。

本記事は、ソーシャルセクターが問うべき最も大事な命題の一つである、いかにインパクトを最大化するかのプロセスについて4つのステップを提示している。

まずは、どういった世界を目指すかの「夢」を描き、その実現のために誰が資金を出す可能性があるのかを考える必要があると説く(ステップ1)。その上でそこに至るまでの「ビッグ・アイデア」を因数分解し(ステップ2)、活動を始める(ステップ3)。最後は、テクノロジーや、政策、協業により、インパクトを一気に加速させる(ステップ4)。という内容だ。インパクト最大化という非常に難しい命題に対して、ここまで簡素化してステップを言語化することは、筆者自身常にこの問いを考えながら、実際の財団で活動を行ってきたことから出来ることだろう。

私が代表を務めるコペルニクでも、このインパクト最大化の道筋を常に模索し続けている。我々の活動では、まだ注目されていないが今後さらに重要になりそうな課題を見つけ、それに対する解法となりそうなことをテストし、良い結果が出た解法を広げていくことでインパクトを最大化することを図っている。まだまだ道半ばだが、彼の説くテクノロジーや協業を考えていく必要性は身をもって感じている。

これから新しいソーシャルベンチャーを立ち上げる、立ち上げてしばらく経つがなかなかインパクトが拡大出来ないなど、さまざまな時点での実務家に大きな示唆に富む記事となるだろう。

リード・コメンテーター紹介

中村 俊裕:国連開発計画などを経て、インドネシアを本拠地に、社会・環境課題を解決するためのR&D活動を行うコペルニクを創設し、代表を務める。大阪大学公共政策大学院の招聘教授や、Stanford Social Innovation Review Japanの編集アドバイザーも兼務。

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