コミュニティの声を聞く。
Vol.05
「公憤欠如社会」の行方※本稿は、SSIR Japan 編『スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版 03 科学技術とインクルージョン』のシリーズ「科学テクノロジーと社会をめぐる『問い』」をもとに制作したSSIR-J Webオリジナルコンテンツです。中川 七海 Nanami Nakagawa自分の利害を超えて憤れるか私が所属するTansaは、探査報道(Investigative report)を専門とする報道機関だ。探査報道とは、暴露しなければ永遠に伏せられる事実を、独自取材で掘り起こし報じることを指す。犠牲者や被害者の置かれている状況を変えることと、将来の被害を防ぐことを目的としている。日英2言語でオンライン記事を発信している。権力から独立するため、企業からの広告費は一切受け取らない。誰もが上質な情報に触れられるよう購読料も取らず、寄付や助成金で活動している。国際コラボレーションにも力を入れていて、これまでに英紙「ガーディアン」や韓国の独立非営利メディア「ニュース打破」をはじめとする報道機関と共同で発信や取材をしてきた。Tansaの原動力は、「公憤」だ。自分の利害に関して怒る「私憤」とは違い、窮地に陥っている他人のために怒るということだ。だからこそ、Tansaは寄付という形で負託を受けて活動している。寄付者は「お客様」ではなく、他人のために共に怒り社会を前進させる「仲間」だと捉えている。公憤が欠如した社会は、権力にとって都合がいい。私はそれを、現在手がける『公害PFOA』の取材で思い知った。空調大手・ダイキン工業が引き起こしている、大阪での公害問題を追う中でのことだ。21世紀の公害大阪府摂津市にあるダイキンの工場は、1960年代以降、約50年にわたって化学物質「PFOA(ピーフォア)」を製造・使用してきた。PFOAとは、「ペルフルオロオクタン酸(Perfluorooctanoic acid)」の略で、人工的に作られた化学物質だ。水や油をよく弾き、分解されにくい性質を持つ。フッ素加工の「焦げ付かないフライパン」や炊飯器の内釜、ハンバーガーの包み紙、防水スプレーなど、身近な生活用品に使われてきた。1970年代以降、PFOAの有害性が明らかになっていく。母子への悪影響や発がん性、甲状腺疾患などの報告が世界各国から相次いだ。2019年には、日本も批准する国際条約「ストックホルム条約」で、PFOAの廃絶が決まった。その危険性は広く知られ、米国では同年、デュポンによるPFOA公害を描いた実録映画『ダーク・ウォーターズ』が大ヒットしたほどだ。2021年10月には、ようやく日本でも経産省が製造と輸入を禁止した。
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