コミュニティの声を聞く。
Vol.05
アメリカのレコード会社の3大メジャーレーベルといえば、ユニバーサル ミュージック グループ、ソニー・ミュージックエンタテインメント、ワーナーミュージック・グループ。このビッグスリーに戦いを挑んだのが、新興のコバルト・ミュージック・グループだ。エシカル・テクノロジーを駆使して、ミュージシャンへの著作権料の分配率を引き上げ、支払いを迅速化し、情報の透明性を高める戦略に打って出た。彼らはアーティストが食い物にされることで成り立ってきた業界をどこまで改革できるのか。※本稿は、SSIR Japan 編『スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版 04 コレクティブ・インパクトの新潮流と社会実装』より転載したものです。ジアナ・エカート|トム・ワグナー音楽業界には、どう贔屓目に見ても、反倫理的なイメージがつきまとう。20世紀の幕開けとともに商業用レコード録音が出現した頃から、組織犯罪とのつながり、音楽番組への賄賂、特に黒人ミュージシャンへの著作権料の支払いを巧妙に回避する会計慣行が横行してきた。第2次世界大戦後、レコード業界はメジャーレーベルによる寡占状態となって制作、流通、マーケティングが支配され、競争は抑え込まれた。おまけに、業界各社が市場支配力に乗じて新人アーティストに搾取的な契約を押し付けてきたのだ。1980年代から1990年代にかけて企業の社会的責任への関心が急激に高まり、今日では、さまざまな業界で、こうした社会的背景の変化に適応することは成功に欠かせないと考える経営者が増えている。それにもかかわらず、業界特有の参入障壁の高さと寡占市場を背景に、音楽業界では1世紀にもわたって悪習がはびこっているのだ。メジャーレーベルのビッグスリーと呼ばれるソニー・ミュージックエンタテインメント、ワーナーミュージック・グループ、ユニバーサル ミュージック グループが業界を支配し、ほとんどのミュージシャンにとって不利な状況が続いている。だが、この寡占に風穴を開けるべく立ち上がった企業がある。ロンドンで設立されたコバルト・ミュージック・グループ(Kobalt Music Group)だ。テクノロジーを活用し、よりエシカル(倫理的)な商慣習や社会的責任の強化を掲げ、大手音楽出版社に代わる独立した存在として成功を狙う企業である。コバルトは、サックス奏者、エンジニア、起業家とマルチに活躍するスウェーデン人のウィラード・アードリッツが、アーティストに対する透明性と公平性を確保するという理念の下、2000年に創業した。以来、成長を続け、いまではビッグスリーに次ぐ大手音楽出版社になっている。コバルトの2021年6月期決算(6月30日終了の会計年度)は、売上高5億1940万ドル、営業利益が580万ドルで、前年から7200万ドル近い売上増加を記録。2021年、コバルト所属のアーティストは、グラミー賞22部門、ラテン・グラミー賞7部門、ARIA(オーストラリアレコード産業協会)ミュージック・アワード9部門、スウェーデン音楽出版社協会アワード4部門を獲得した。今年、同社は売上高6億ドル以上に達する見通しだが、これだけの業績を上げつつ、アーティストに支払う著作権料の分配率はビッグスリーをはるかに上回っている。
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