コミュニティの声を聞く。
Vol.05
他者とつながる場があるだけではコラボレーションは生まれない。当事者の不安克服に焦点を当てた3本柱のアプローチを紹介する。※本稿は、SSIR Japan 編『スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版 04 コレクティブ・インパクトの新潮流と社会実装』より転載したものです。アダム・セス・レビン2017年に私はドン・グリーン、ジェイク・バウワーズとともにリサーチ・フォー・インパクト(research4impact, r4i)を立ち上げた。これは、複雑な社会課題の解決を目指す研究者、実践者、政策立案者をつなぎ交流と情報交換を可能にするリンクトインのようなオンラインプラットフォームで、ユーザーは自分のプロフィールを登録して他のユーザーとやりとりができる。共同設立者の私たちは、以前から研究者、実践者、政策立案者をつなぐ活動をしており、それに大きな意義を見出していた。なぜなら、異なるネットワークに属する人たちがそれぞれの知見や現場で得た学びを持ち寄れば、気候変動対策や貧困撲滅、教育改善、投票率向上など、お互いに危機感を抱いている問題の理解や解決につながると感じていたからだ。にもかかわらず、相互のつながりは非常に弱かった。そうした状況下で、私たちのもとには多種多様なネットワークに属する人たちから、「知見を広げて共同で研究できるような、新しい協力関係を築くにはどうすればいいのか」という声が続々と寄せられ、それに応えるべくr4iを立ち上げた。最初の10カ月間で、388人のユーザーが詳細なプロフィールを作成した。彼らは手間ひまかけて自己紹介文や活動テーマ、関心の高いトピックを書き込み、写真を掲載した人も多かった。誰もが、新しいボランティア活動に参加する際にありがちな壁を乗り越えて飛び込んできてくれた。ユーザーは見知らぬ者同士でありながら、r4iという場が提供する価値を活かそうと、自らの能力と貢献意欲を示した。この様子を見て成功したも同然と喜んだ私たちは、これから新しいコラボレーションが続々生まれることを疑わなかった。ところが、その期待は裏切られた。立ち上げからの10カ月間で、r4iを介して他のユーザーに働きかけたのは7人にすぎなかったのだ。のちに社内でr4i 1.0と呼ぶようになった当時のプラットフォーム形態の失敗から、私たちは重要な教訓を得た。考え方の異なる人たちが新たな関係を育むうえで必要なのは、能力や意欲や機会だけではなく、他にも不可欠な要素があったということだ。私なりの言葉で言わせてもらうと、それは「リレーショナリティ(関係性への信頼)」だ。つまり、「相手はこちらの望む関係性を理解してつながろうとしてくれるはずだ」、そして「自分も相手とうまく関係を築けるはずだ」という確信が必要だったのだ。このような考え方は、「相手との関係においては、まず関係を築くことが大切だ」という同語反復のように思えるかもしれない。しかし重要なポイントは、人が見知らぬ他人と交流する際に抱く不安を考慮する、という点である。
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