2011年に発表され、社会課題への新しいアプローチとして注目を集めた論文「コレクティブ・インパクト」。その後も世界各地で実践が広がり、追加の研究も実施されている。そこから見えてきた成功要因とは。※本稿は、SSIR Japan 編『スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版 04 コレクティブ・インパクトの新潮流と社会実装』より転載したものです。フェイ・ハンリーブラウン|ジョン・カニア|マーク・クラマー世界規模で栄養改善を目指す取り組みと、アメリカのマサチューセッツ州の小さな田舎町で実施された10代の薬物乱用防止プログラムとの共通点とは何か?それは、いずれも目標に向けて目覚ましい成果をあげたことだ。前者の栄養改善グローバル・アライアンス(The Global Alliance for Improved Nutrition, GAIN)は、これまで世界5億3000万人もの低所得層の栄養状態を改善してきた。後者のコミュニティズ・ザット・ケア(Communities That Care, CTC)も、マサチューセッツ州のフランクリン郡およびノースクオビン地域における地元密着型の活動で大きな成果をあげ、未成年者の飲酒率31%減を達成している。意外なことに、両組織がインパクトを生み出せたのは斬新な施策を導入したからでもなければ、成果を出した組織の規模を拡大したからでもない。活動の内容も範囲もまったく違う2つの組織に共通していたのは、コレクティブ・インパクトを生むアプローチを使ったことだ。「コレクティブ・インパクト」とは、『スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー』(SSIR)の2011年冬号で私たちが提唱したコンセプトだ。その論文では、高度に組織化されたコラボレーションによって、大規模な社会課題に大きなインパクトを与えた事例を紹介した。オハイオ州シンシナティで教育問題に取り組むストライブ・パートナーシップ(StrivePartnership)1や、バージニア州エリザベス川の環境浄化を目指すエリザベス・リバー・プロジェクト(Elizabeth River Project)、マサチューセッツ州サマービルで子どもの肥満改善に挑むシェイプアップ・サマービル(Shape Up Somerville)などだ。どの事例にも共通していたのが、コレクティブ・インパクトに必要な5つの条件であり、他のコラボレーション形態とは異なる特徴を持っていた。その5つの条件とは「共通のアジェンダ」「共通の測定システム」「相互に補強し合う取り組み」「継続的なコミュニケーション」「活動をサポートするバックボーン組織」である(下表参照)。