より複雑な社会課題に対処するためには、デザイン思考をいまよりもはるかに協調的で、システム変革を志向するものに変えていく必要がある。
ジョセリン・ワイアット|ティム・ブラウン|ショーナ・キャリー
2013年、マリー・ストープス・インターナショナル(MSI)とウィリアム&フローラ・ヒューレット財団が、私たちのもとにある課題を持ち込んだ。MSIはリプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)の世界的リーダーとして、世界中30カ国以上の女性に向けて、何十年も前から家族計画サービスを提供してきていた。しかしザンビアを含むいくつかの国では、未婚の青年期女性の利用者を増やすことに苦戦していた。つまり、多くの若い女性が計画外妊娠によって学校をやめるザンビアにおいて、特に重要なターゲット層に訴求できていなかった。
MSIはこの問題に対処しようと考えたが、どこから手を付ければよいかわからずにいた。MSIだけでなく、他の多くの実績あるグローバル保健機関も、青年期の利用者を増やすことに苦戦していた。このような課題に向いているのが人間中心設計(human-centered design, HCD)のアプローチである。密着・参加型の調査を通じて人々のニーズや想いを理解するところからはじめ、ニーズに沿ったソリューションを開発するために、アイデア創出、迅速な検証、改良といったプロセスを重ねる、クリエイティブな問題解決方法だ。私たちは、IDEO.orgにおいて、HCDを、健康格差の解消から女性の経済的エンパワーメントまで、幅広い社会的課題に適用し、非営利団体、コミュニティ組織、財団、政府が人々のニーズに応えるための、より効果的な仕組みを設計する支援を行っている。
私たちはMSIザンビアのチームと数カ月のあいだ緊密な連携をとり合い、若い女性がリプロダクティブ・ヘルスケア(妊娠や出産など性と生殖に関する保健医療のサービス)の提供先を見つけ、そこにアクセスする際に直面する障壁の理解、ならびに若い女性が必要な情報や避妊という選択肢に辿り着きやすくなるような新たなサービス提供モデルの構築に取り組んだ。最初に取り組んだのは、若い女性や彼女たちに影響を及ぼす人たち(両親、学校の先生、同年代の仲間)に直接話を聞き、彼らの視点から課題を捉え直すことである。数週間にわたる対話やワークショップを通じ、参加した若い女性たちは男女交際、性行為、避妊に関する自らの考え方、行動、障壁について話し合った。私たちはそこで聞いた話を、コミュニティ住民の見解や、既存のヘルスセンターでの観察と比較した。これらの視点の差異から、デザインという手法をどう生かせばよいかが見えてきた。
10代の利用者を増やすためにまず取り組むべきことは、若い女性がより安心できて身近に感じられる、性の健康についての対話の場を設計することだった。彼女たちにとって、待合室に年上の既婚女性しかいないような寒々しいクリニックは近寄りがたく、「計画的な子づくり」への呼びかけは響かない。性の健康について興味があっても、家族計画について考えるのはまだ早いのである。こうした気づきに基づき、私たちは新たな場のプロトタイプ(試作)を、コミュニティ内で数週間にわたって試験的に運用した。初期のプロトタイプの1つに地元のナイトクラブに設置した期間限定の健康相談窓口があったが、これは大失敗に終わった。10代の女性たちは、楽しい夜の外出中にプライベートな話をする気にはならなかったのである。一方、「MSIの看護師がスタッフを務める期間限定のネイルサロン」はかなり効果的だった。あくまでもネイルが焦点となることで、プライベートな話をすることの緊張感はやわらぎ、若い女性たちは恋愛や性について最も気になっていることを積極的に打ち明けるようになった。また、ネイルの色を選びながら気を紛らわせることもできた。こうした結果から、私たちはクリニック訪問体験を身近なものにするための工夫をするより、クリニック訪問体験そのものをつくり変えることが必要だと気づいた。
この初期のプロトタイプはその後、ディーバセンター(Diva Centres) へと発展した。これは、若い女性が友人たちとおしゃべりやネイルを楽しみながら、恋愛や性について気軽に相談できる、10代向けの施設である。ディーバセンターを訪れると、若い女性たちが雑誌や色とりどりのマニキュアが置かれた小さなテーブルを囲んでおしゃべりをしている光景をよく目にする。そこがクリニックであることを物語る唯一の要素は、女の子たちがいつでも質問できる、感じのいい看護師がいることである。安心できて親しみやすい体験を生み出すのは、こうした物理的な環境だけではない。コミュニティ内でプログラムのアンバサダーを務めるのは同年代の教育係である。スタッフは若い顧客に対して、10代向けのメッセージや、「責められる心配のない体験」を提供するよう訓練されている。そのために私たちのデザインした「ザ・ディーバズ」という女性の憧れになるようなキャラクターが活躍した。これも若い女性に避妊の選択肢があることを、共感できる形で伝えることで、不安ではなく興味が湧くような工夫の1つである。
ディーバセンターは多くの面で成功を収めた。MSIザンビアのサービスを利用する青年期女性の数は16倍に増え、サービス利用後に避妊を始めた若い女性の割合は全体の84%にも上った。こうした初期の成果は、デザインの力でより魅力的でターゲット層に合ったサービスを開発することができるという裏付けとなった。また、青年期の性と生殖に関する健康をめぐる議論の焦点を10代女性ならではのニーズや想いにシフトさせていくうえで重要な役割を果たした。
それだけでなく、このプロジェクトは、近年さまざまな形で発展を遂げてきた「HCDの社会問題への適用」の歴史において、1つの興味深いベンチマークになっている。IDEO.orgはここ10年、常にこうした変化の最前線にいた。コミュニティとのより密着した、より現場に根差した協力関係を通じて、より優れたソリューションを導き出してきた。また、新たなプログラムやサービスの開発に、より多くの実験、反復、適応を組み込んできた。さらに、スケールアップやサステナビリティ対策に対してより厳格なアプローチをとることで、より持続的で優れた結果が得られることを実感した。端的に言うと、HCDの実務が進化してソーシャルセクターが求めるシステム変革によりうまく対応できるようになったのである。
目新しい取り組みから豊かなエコシステムへ
IDEO.orgが設立された1年前の2010年、私たちはStanford Social Innovation Reviewに、ソーシャルセクターにおいてポジティブ・インパクトを促進するうえでデザインが果たしうる重要な役割についての記事「デザイン思考×ソーシャルイノベーション」を寄稿した1。当時、ティム・ブラウンはグローバルなデザインコンサルティング企業、IDEOの代表を務め、ジョセリン・ワイアットはIDEO.orgの前身である同社の新たなソーシャルイノベーショングループを統括していた。民間セクターの企業の間では、イノベーションを促進する手段としてデザイン思考が広まっていたが、NPOや社会的企業はデザインの手法やマインドセットを取り入れ始めたばかりで、多くの場合は単発的なプロジェクトだった。2008年の景気後退からまだ立ち直ろうとしていたソーシャルセクターは転換期を迎えていた。
私たちは、デザインを活用すれば、貧困や格差に関連するさまざまな課題において、より共感が得られ、ターゲットに合った、統合されたソリューションを生み出せるだろうと考えた。そこでソーシャルセクターの組織に対して、デザイン主導のプロセスが、彼らのサービスを受ける人たちのニーズを満たすことに役立つかもしれない、と訴えかけた。ソーシャルセクターでは既に受益者重視の精神が浸透しているが、HCDを導入すれば、社会問題に対してこれまでにないほどクリエイティブな解決の仕方が可能になるだろう、と。
HCDを説明する方法はいくつもあるが、最もシンプルな方法はおそらく、着想(インスピレーション)、発案(アイディエーション)、実行(インプリメンテーション)という3つの、時として重なり合う問題解決のフェーズに着目することだろう。これらのフェーズは段階を追って築き上げていくものだが、必ずしも単線的に進んでいくものではない。着想のステージでは、デザイナーが新たな製品やサービスの最終的なユーザーとなる人々(企業か、またはその問題の影響を受けているコミュニティか)に密着する参加型調査を実施し、ニーズ、障壁、想いを掘り起こす。発案のステージでは、調査を通じて明らかになったニーズに応えるコンセプトの開発に取りかかり、それを複数回にわたるプロトタイピングを通じて検証する。プロトタイプとは、短期間、低予算、小スケールで実施できる、何らかの目に見える実験である。それを設計する目的は、解決策の有効性(あるいは非有効性)を実証することと、当初想定していなかった実行面での課題を掘り起こすことである。最後に実行のステージでは、検証段階において有望だと示されたソリューションにさらなる磨きをかけ、長期的な成功に不可欠なサービス提供モデル、技術、ツール、プロセスを組み立てていく。
このようなデザイン主導の社会変革アプローチは、ここ10年で、一握りの組織が支持する比較的目新しい取り組みから、世界中に多くの実務家、研究者、採用者を擁する豊かなエコシステムへと発展してきた。IDEO.orgではその間、南アジアと東アフリカのモバイル・ネットワーク・オペレーターと共同で女性の経済的インクルージョンを促進するデジタル金融サービスを開発したり、関係機関と提携してヘルスケアにおける人種格差に取り組んだりと、多種多様な課題の解決にデザインを活用してきた。
今日では、世界中のデザイン関連組織が、さまざまな社会課題に取り組んでいる。マス・デザイン・グループはルワンダの最も貧しい地域の1つに一流の病院群や医科大学を設立する活動に、ディーレブ(D-Rev)はリソースの少ない環境でも使える手頃なコストの人工装具の開発に、関わっている。ヴィハラ・イノベーション・ネットワークはインド、ビハール州の農村部を拠点とした人間中心デザイン事務所の運営に取り組んでいる。さらに、実務家、資金援助者、デザイナーが参画する一連の実務コミュニティも組織されており(例えば、グローバルな保健集団のデザイン・フォー・ヘルスや、サハラ以南アフリカと南アジアで青年期の性と生殖の健康に取り組むHCDエクスチェンジ)、実務家や資金援助者を、自分たちの分野にもデザインを取り入れたいと考えている組織とつなぐ仕組みができている。
ソーシャルセクターにおけるこうした関心の高まりに私たちも触発されて、2009年にデザインキットを開発した(当初はHCDツールキットとして発行された)。これは社会的インパクト組織が、自分たちの活動にデザイン手法を取り入れる際に活用できる、ツールや講座(Acumen Academy上でシステムを運用)である。以来、世界中の国々を拠点とする100万人以上のユーザーがこうしたツールにアクセスしている。
一方、デザイン思考の実践がより一般的になるにつれ、このアプローチを批判する声も増えてきている。主な批判としては、デザイン思考の導入にかかる初期費用の高さや、介入の有効性を裏付ける十分な証拠がないまま、スケールアップ困難で汎用性のないソリューションが出来上がってしまう可能性を指摘したものだ。ディーバセンターなど、私たち自身が初期に取り組んだプロジェクトも、こうした懸念に拍車をかけた。
当初設立したディーバセンターでは、若年女性へのサービス拡大、長期作用型の避妊法を選ぶ利用者の割合倍増という成果を得ていたものの、私たちはこのパイロットモデルを社会実装していくうえでおそらく苦戦を強いられることに気づいた。私たちのデザインプロセスは、10代女性やサービス提供スタッフにとって魅力的で、効果的なユーザー体験をつくり出すことのみに重点が置かれ、全体的な保健エコシステムを十分に考慮できていなかったのだ。独立型の施設として設計されたディーバセンターは、既存のサービス提供チャネルに組み込まれていなかったため、スケールアップするにはとんでもなくお金がかかり、手続きも複雑だった。
ディーバセンターのパイロット実施後の数年間、MSIザンビアは社会的インパクトソリューションのスケールアップを支援するコンサルティング会社、スプリング・インパクトと提携し、このモデルを公衆衛生施設に統合するよう取り組んできた。このパートナーシップは、パイロットプログラムの教訓を生かし、段階的な改善が可能な、コミュニティに根差したプログラムモデルを開発した。このモデルは今日も用いられている。しかしこうした修正作業の一部は、我々がデザインプロセスにいくつかの修正を行っていれば回避できただろう。利用者を取り巻くヘルスケアエコシステムのマッピングをより集中的に、より早い段階から行い、プログラム実行パートナーのキャパシティをより深く分析していれば、よりコスト効率のよい、スケール可能な介入をはじめから設計できていたはずである。
こうした教訓を、その後、2017年にMSIブルキナファソと共同で取り組んだデザインプロジェクトで実践に移した。私たちはMSIの現地スタッフと緊密な連携をとり、サービス提供のエコシステムと組織のキャパシティ上の制約をはじめから理解することに取り組んだ。彼らと共同で設計したプログラム、ラ・ファミーユ・イデアール(La FamilleIdéale )は、その作業を基盤として築き上げ、さらに拡張したものである。デザインプロセスに対してこうしたより厳格なアプローチをとったことにより、サヘル地域内の他の国々での実行に向けても迅速にプログラムを適応させていくことができた。こうした取り組みは、いまとなっては私たちのデザインプロセスの基本だが、この数年前、ディーバセンターに着手した頃にはまだ定着していなかった。
デザインの実践における進化
ディーバセンターをはじめとする事例は、ソーシャルセクター内でHCDを普及させることに一役買った一方で、複雑な社会問題への対応力という点では、実務面での改善の余地があることを明らかにした。保健、教育、人の移動、経済的インクルージョンにまつわる社会課題は、問題の輪郭を掴むことが難しく、相互に連関した複数のアクターが関与し、一度の介入では解決に至らない可能性が高いことから、俗に「厄介な問題(wicked problems)」と呼ばれる。デザインが斬新で優れた介入策を開発するうえで効果的なツールとなり得るのは確かだが、デザイン施策の多くは、民間セクターから受け継がれた柔軟性の低い資金調達、時間的制約、働き方が足かせとなり、こうした問題に取り組むための体制が十分に整っていない2。
近年では、こうした複雑な社会課題に対処するために、斬新な執行体制を組むHCDデザイナーが増えている。こうしたアプローチの一例として挙げられるのは、アドレセンツ360(A360)プログラムである。このプログラムも、若い女性がリプロダクティブ・ヘルスに関する意思決定をする際の支援拡大を目的としているが、ディーバセンター・プロジェクトの教訓を生かし、より分野横断的で適応力のある、そして最終的にスケール可能なアプローチをとっている。
グローバルに展開する健康支援の非営利組織・PSIが主導し、ビル&メリンダ・ゲイツ財団とザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド財団(CIFF)の資金援助を受けているA360は、タンザニア、エチオピア、ナイジェリアに住む15~19歳の女性に対して、現代的な避妊法の理解と利用を促進することを目指して2016年に立ち上げられた。このプロジェクトには、青年期の健康を目的とした従来のデザイン主導イニシアチブにはなかった利点がある。プロジェクトの構成員は、HCDと公衆衛生、青年期の発達科学、文化人類学、ソーシャルマーケティングの専門知識を結集した、分野横断的なパートナーのネットワークである。こうした統合的なアプローチの狙いは、スケールアップの体制が整った、若者に適したソリューションを生み出すことである。IDEO.orgは、このコンソーシアムのHDCパートナーを務めた。
A360プログラムが目標を達成するためには、充実した市場調査とエビデンスに基づく変化の方法論(セオリー・オブ・チェンジ)を基盤として築き上げていく必要があった。A360はデザインプロセスを強固なものとするために、関連する学術文献やエビデンスを徹底的に調べ上げてからユーザー調査に入った。というのも、3年以内に、エチオピアの農村部だけで6万人から7万人もの若い女性にサービスを届けようとしていたからである。市場調査は、若い女性たちの人生や選択に影響を与える背景因子も考慮したうえで、質的なデザインリサーチや発案のためのターゲットを絞り込んでいくのに役立った。
A360はまた、現地の事情に詳しい協力者を集め、訓練し、彼らと共に活動に取り組んだ。エチオピアの地元コミュニティの一員である若い男女が、プロセス全体を通じて調査者や共同設計者としてチームに加わったのである。
A360のデザインプロセスが従来のプロジェクトと一線を画していた点は、連携パートナーのネットワークだけではない。コンソーシアムは、ディーバセンター・プロジェクトよりも長期的なプロセスが求められるという認識のもと、プログラムを複数のフェーズから成る、15カ月に及ぶプロジェクトとして設計した。そうすることで、PSIと緊密な連携をとりつつ、探査、プロトタイピング、改良、測定、最適化のサイクルを複数回重ねられるようにし、パイロット段階での成功のみならず、スケールアップへのはっきりとした道筋を確保したのである。
エチオピアで質的デザイン調査を開始してからのA360のプロセスは、ディーバセンターやその他の過去プロジェクトと大差はなかった。エスノグラフィックリサーチ(フィールドワークによる行動観察)からは、若者の行動についての洞察が得られ、革新的なデザインのヒントとなった。すぐに明らかになったのは、こうした僻地のコミュニティでは、厳しい社会的慣習により若い女性の移動の自由やサービスへのアクセスが制限されていた点である。そこで、若い女性に直接影響を与える人たち(そこにはコミュニティの長老や、多くの場合、夫も含まれた)が避妊への理解を深めるための施策を考える必要があった。また若い男女との会話からは、彼らが新たなアイデアや可能性を取り入れることに最もオープンな時期は、2人が将来についてもろもろのことを話し合う結婚直後だということがわかった。
こうした洞察をもとに、A360チームは、このタイミングを利用して若い女性のサービス利用を拡大していくために、避妊について切り出すさまざまな方法をプロトタイピングした。チームが検証したコンセプトには、近所の市場に設置する期間限定の家計相談窓口、結婚相談窓口、家族設計に基づくコスト試算サービスなどがあった。テストユーザーの間では、将来の生活に対する不安を口にする人が多く、コスト試算サービスが最も大きな反響を得た。これをはじめとする一連の観察をもとに、サービス案の切り口は徐々に、家族計画に関する対話(現地の文化ではタブー視される)から、お金の計画に関する対話へと変化していった。避妊や出産間隔の拡大は、家計の安定を目指す新婚夫婦に対し、後から提案される補助的なツールとして位置付けられた。これらのプロトタイプを徐々に改良していき、1つの体系的なプログラムにまとめ上げたのがスマートスタートである。このプログラムは今日、エチオピア全土にわたって展開されている。
スマートスタートは、「第一子が生まれる前にマイホームを購入するために必要な経済的余裕を生むもの」「ゆとりを持って1人の子供を育てることと、何とか家計をやりくりしながら2人の子供を育てることとの差」「夫婦が2人で話し合いながら決められるもの」といった切り口で避妊を紹介する。識字率が低い地域で若い男女にとって実のあるセッションとなるよう、デザインチームはこうした金銭的なトレードオフをシンプルかつわかりやすく説明する方法をいくつも検討した。こうした模索の末たどり着いたのが、お金をエチオピアの主要作物、テフの袋に置き換えるという工夫である。テフに置き換えれば誰もがその価値を理解できるからだ。
スマートスタートは医療従事者を新婚夫婦のもとへ派遣し、カウンセリングを行っている。これは、以前から農村部に医療従事者を送って医療サービスを提供してきた、エチオピアのヘルス・エクステンション・ワーカー(HEW)制度を活用し、拡張したものである。HEWがスマートスタートを通じて、新婚夫婦にカウンセリングを提供するための訓練を受ける。カウンセリングセッションは人生目標についての対話からはじまる。その目的は、第一子の出産を遅らせ、その後も出産間隔を空けることで、自分たちの長期的な人生目標が達成しやすくなる点を、若い既婚女性やそのパートナーにイメージしてもらうことである。HEWは魅力的な視覚資料やインタラクティブなエクササイズを通じて、新婚夫婦に子育てのコストについて考えてもらい、金銭面の目標と家族計画を両立させるためのツールとして避妊を紹介する。カウンセリングに入る前にはコミュニティの集会が開かれ、地元のリーダーや長老が、若い夫婦には自分たちの未来を切り開いていくためのツールが必要だと訴えかける。このステップを踏むことにより、新婚夫婦は「お墨付き」をもらったうえで、本来ならばタブーとされる領域に足を踏み入れていくことができる。
A360はまた、デザイナーを青年期の発達科学に詳しい専門家と組ませ、若者たちの認知やホルモンの発達段階に合わせたコミュニケーションツールの開発に取り組んだ。ヘルスカウンセラーの報告によると、こうした考え抜かれたメッセージングにより、いままで心を掴みにくかった若い層からの理解や信頼を得やすくなったという。若い女性たちは、スマートスタートのカウンセラーと一度話しただけで内容を覚え、それを両親やコミュニティ内のその他の管理者と共有することで、大人たちの間でも出産時期を遅らせることへの理解を広められるようになった。
スマートスタートのパイロット実施以来、プログラムを通じて近代的な避妊法の使用を開始した青年期女性の数は3万人以上に上る。PSIの成果は予想を上回り、エチオピアの保健省大臣もパイロットを視察している。A360のモデルはもともと、保健省が認めるようなエビデンスを生む一連のシステムが組み込まれて設計された。各国のPSIチームが主導する慎重なプログラムモニタリングや、測定パートナーのアイタッド(Itad)とロンドン大学衛生・熱帯医学大学院(London School of Hygiene & Tropical Medicine)が主導する、独立したプロセス・結果評価などである。効果は抜群だった。結果報告を受け、保健省はスマートスタートの全国展開にコミットし、ザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド財団(Children’s Investment Fund Foundation)からは1050万ドルの資金援助を確保した。スマートスタートプログラムは今後エチオピアの一次医療システムに組み込まれ、2024年末までにサービスを受給する若い女性は100万人以上になる見通しだ。
国の医療システムへの導入・統合は、重要な成功の証の1つである。なぜなら、スマートスタートにスケーラビリティがあること、予算的に実現可能であること、長期的に運営可能であることを示したからである。そして最も重要なことに、デザインの目的である若い人々にとって、実際にメリットがあることを示したのである。
よりよいデザインに向けた3つの行動目標
スマートスタートをはじめとするここ数年の野心的なデザインプログラムがヒントとなり、私たちはいま、より厳密で、実験的かつ協調的な社会的インパクトデザインの時代を迎えている。この分野は、凄まじい発展を遂げてきた。しかし次の10年を見据えたとき、いくつかの重要な点においてさらなる進化が必要である。
スケールアップに必要なインフラストラクチャーやエビデンスに投資する
ここ10年の社会的インパクトデザイン施策の多くは、イノベーションを通じて社会課題に取り組んできたが、大規模な変革を実現したものは依然として少数にとどまっている。ディーバセンターの事例で見たように、ソーシャルイノベーション・デザインの初期案件の多くは、実績づくりや、より魅力的なユーザー体験の構築に励む一方で、大規模な変革を実現するための要素を欠いていた。
こうした弱点は多くの場合、大胆な新製品・サービスを実際に世に出していくために必要な裏方(back of house)を支える組織基盤の設計を怠ったことに起因する。世界をリードする社会的インパクトデザイナーは軒並み、斬新で革新的なインターベンションを提供していく際、大幅な組織改革やマインドセットの転換が求められる点を認識しておらず、対処することもできていなかった。私たちも例外ではない。こうした盲点を抱えたまま開発されたソリューションは、組織の運営キャパシティやケイパビリティ、資金上の問題に直面したとき、簡単に行き詰まってしまう。実行計画、ビジネスモデル、役割の説明、測定フレームワークを用意すれば、こうした障壁を乗り越え、ソリューションを成功に導ける可能性もあるが、こうした取り組みがセクター全体にわたって社会的インパクトデザインの現場に浸透しているとはいえない。
たとえば、難民がNGOから提供されたサービスの満足度を評価できるリアルタイムの顧客フィードバックプラットフォーム、クジャクジャ(Kuja Kuja)の事例を考えてみてほしい。プラットフォームを構想したのはエーライト(Alight、かつてのアメリカ難民委員会)であり、その狙いは人権保護団体が自らのサービスに対して責任を持ち、改善していく仕組みを見直し、難民をサービス受給者でなく顧客として扱うことである。今日、エーライト本部のスタッフはサービス拠点の写真を確認したり、利用者の声を読んだり、質的な情報を集めたりしたうえで意思決定できるようになっている。クジャクジャはこれまで6ヵ国で100万以上のデータ点を収集してきた。
しかしサービスの立ち上げは、私たちがデザインし、提供しなければならないもののほんの一部でしかなかった。最大のデザイン課題は、組織変革を促進するツールや条件を生み出すことである。そのためには次のような問題について解決策を考える必要があった。
- 難民とNGOの間に存在する力関係を考慮したうえで、どのように信頼されるブランドを築き上げるか。
- クジャクジャのプラットフォームより得られたフィードバックは、難民キャンプの日常的な運営改善にどのように役立てるか。
- ネットワーク接続が途切れた際にはどのようにシステムを運用するか。
- この仕事を担う現地のチームはどのように募集し、トレーニングするべきか。
洗練されたトレーニング用の教材はデジタル技術やデバイスのユーザー体験を快適なものにするのと同じぐらい重要なもので、クジャクジャを迅速にスケールアップしていくための土台となった。クジャクジャは、ウガンダにある難民施設の1つで試験運用した2年後には、5ヵ国に対象を拡大した。
ソリューションの商品化は最初のステップにすぎない。デザイナーはパイロット後に意識的な学習、最適化、改良のフェーズを経ることを想定しつつ、スケールアップに必要なエビデンスを確保できるよう、測定システムをソリューションに組み込む必要がある。エチオピアのスマートスタートプログラムは、このようなアプローチを体現している。
スマートスタートはライブプロトタイプからパイロット、さらには地域的な拡大へと段階的かつ慎重にスケールアップした。こうした一連の流れには、成長の各フェーズにおいてモデルを反復し、最適化し、そのコスト効率を改善していくため、プログラム拡大に伴う追加的なデザインのフェーズも含まれた。
たとえば、当初のパイロットの1年後にPSIとIDEO.orgは、モデルを実行するHEWの負担とコストの低減を狙った6週間にわたるデザインスプリント(新しいサービスやプロダクトを出す前に、短期間で集中してアイデア創出、プロトタイピング、ユーザーテストまでを行うプロセス。リスクを軽減し、成功率を高める狙いがある)を実施し、国の保健システムへの統合を予定していた保健省が、より容易に導入できるモデルを目指した。こうした取り組みが成功するためには、若い夫婦にとってのユーザー体験が優れたものであり続けるだけでなく、サービス提供モデルの改変が実行の担い手となるHEWにとって意義のある、効率的なものであることを保証する必要があった3。最適化を1つの明確なフェーズとして正式にデザインプロセスに取り入れることは、実施団体が自信を持ってパイロットからレプリケーション、さらにはスケールアップへと向かう助けとなる。
イノベーションのスケールアップにこのような慎重かつ段階的なアプローチをとる場合、資金調達へのアプローチも見直す必要がある。効果が実証されている優れたデザインの介入でも、スケールアップには多額の資金が求められる。通常、その資金源は公共セクターからの助成金か民間の寄付となる。ここ数年では、システム変革を掲げる慈善活動も発展してきており、個人、団体、政府機関の力を結集し、社会問題の根本要因に対処していこうという動きが出てきている。こうした慈善活動を後押しするための野心的な投資会社も、コ・インパクト、マッカーサー財団の100&チェンジプログラム、グローバル・イノベーション・ファンド、オーデイシャス・プロジェクトなどのイニシアチブを通して設立されている。しかし多くのデザイン主導型介入は、こうした資金調達手段をうまく利用することができていない。なぜなら、多くのソリューションはデザインとしては優れていても、スケールアップできておらず、第三者による評価をまだ受けていないというエビデンス上の問題を抱えているからだ。
新たなサービス提供モデルを開発するツールとしてHCDの人気が高まるなか、ソーシャルセクターは、人間中心設計という方法論そのもののエビデンス収集には積極的に投資してきた一方で、この方法論を用いたソリューションの実績評価に対する投資は限定されている。デザイン主導型ソリューションのレプリケーションやスケールアップを後押しするためには、デザイン企業は、そのソリューションが望ましい成果(アウトカム)を示したと証明できるようなエビデンスの収集に取り組んでいく必要がある。そのためには専門家と手を組み、自分たちがデザインするすべてのサービスや製品に詳細な測定・学習フレームワークを、実行と並行して組み込んでいかなければならない。こうした姿勢を持たない限り、革新的な人間中心ソリューションの多くは必要以上にその展開範囲を制限されるだろう。
コミュニティにおける当事者意識の醸成
デザインプロセスにおける権限を譲渡することを通じて、サービスの受け手に対しても投資していく必要がある。HCDは元来、デザイナー、内容領域専門家(subject-matter experts)、そしてコミュニティの人々がソリューションの発掘・開発に関与する協調的なプロセスである。しかし今後ソーシャルセクターにデザインの方法論が浸透していくにつれ、こうしたプロセスを単なる協議から共同開発へと転換させていく必要がある。つまり、最終的にソリューションを享受する人々が、デザインプロセスの各段階で最終的な結果に影響を及ぼせるようにしなければならない。デザインの目的が変われば(人々の健康、暮らし、または福祉の向上)、デザイナーもそれに合わせてプロセスを調整し、コミュニティの人々が自らの考えに基づき、自らの手で可能性を形にしていけるようにしなければならない。
このようなアプローチには、共同開発を可能にする環境をデザインすることが求められる。つまり、解決しようとしている課題について「生きた経験(lived experience)」を持つ人々が、実質的に貢献できるような場を確保しなければならない。ソーシャルインパクトデザイン企業、グレーター・グッド・スタジオ所属のジョージ・アイは次のように述べている。「優れたデザインとは、正式な訓練を受けていない人々にも、プロジェクトそのものを方向づけ、コントロールできるような場を確保するものです。デザイナーに求められるのは、ユーザーが主体的に変化を受け入れやすい環境をデザインすることです」4。
私たちがディーバセンターを設計した際、こうしたことをまったく考慮していなかったわけではない。プログラムのターゲット地域に住む10代女性を対象として参加型調査を実施したし、彼女たちが自分のニーズ、目標、障壁をうまく伝えられるよう、日記などのツールも開発した。また、どんなやり方が彼女たちにとって心に響くかを見極めるために、試験運用も行った。しかしソリューションを改良していく過程で、それまでの密接な交流は徐々になくなり、彼女たちがデザインプロセス終盤で担った役割は比較的小さなものにとどまった。その結果、最終的に作成した啓発資料の一部は、読み手となる若い女性の現実と一致しない描写が含まれ、プログラム実施に踏み出してから改訂せざるをえなかった。
その後、MSIと共同でディーバプログラムを農村部で実装するためのデザインを行った際には、MSIザンビアのスタッフが主体となって進めた。当初の活動から得られた教訓を生かし、MSIのスタッフは若い女性やその家族と直接会ってデザイン活動に取り組み、IDEO.orgのデザイナーとはブランドや資料の方向性についてイメージ固めをしつつ、プロセス全体を通じてコミュニティを巻き込むよう心掛けた。
一方、スマートスタート・プロジェクトでは、初めから意識的に問題の当事者である若者や現場PSIスタッフと共同設計に取り組み、プログラムのツールやコミュニケーション資料について複数回にわたる改良を行った。その結果、コミュニティの人々が家計について簡単にイメージできるよう、お金を穀物の袋に置き換えて描くなど、理解と共感につながるビジュアル資料が出来た。イラスト中の人物が身につけている服の色や柄までありとあらゆる要素に地域性が厳密に反映されていた。
スマートスタートの成功は、重要なことを教えてくれている。最も優れたデザインは、コミュニティの「ために」行うものではなく、コミュニティと「共に」行うものだ。デザイナーは、問題から最も直接的な影響を受ける人々が、どのようなソリューションを求めているかをはっきりと伝えられるような状況をつくり出すことに集中し、そのソリューションを実装することに努めなくてはならない。セントルイスのクリエイティブ・リアクション・ラボ、ナショナル・エクイティ・プロジェクト、スタンフォード大学ハッソ・プラトナー・デザイン研究所のK12ラボ(通称「the d.school」)などの組織は現在、新たなツールの作成5や資料の発行(たとえば、公正重視型コミュニティ設計の実践ガイド[Field Guide to Equity-Centered Community Design]や解放的デザイン資料集[Liberatory Design Resource Collection]など)に取り組むなど、よりインクルーシブで公正なデザインプロセスの普及を目指している。たとえば、低所得地域に住む若者がデザインプロセスを主導するための訓練の提供や、権力や歴史的背景がデザインプロセスにもたらしうる影響を考慮した実践および理論の体系化に取り組んでいる。
近年、デザインの道に進む若者たちが、より多様性のある集団になっていくことを考慮した、新たな教育プログラムも組まれている。一般的に、専門教育を受けたデザイナーは、恵まれた環境で育った白人男性に偏っている。対照的に、ソーシャルセクターにおけるデザイン施策の多くが取り組んでいる社会課題は、社会正義への志向もあり、女性や人種的マイノリティーなど、歴史的に疎外されてきたグループが当事者であることが多い。ケニアのナイロビ・デザイン・インスティチュートや米国のインナーアクト・プロジェクトなどのプログラムが、こうしたギャップを埋めることに一役を買っている。より幅広い「生きた経験」をもとに、新たなソリューションを想像し、開発できるデザイナーたちに対し、教育や支援を提供しているのだ。こうした多元的な視点を取り込んだ、よりインクルーシブなデザイン業界の未来は、特にソーシャルセクターにおいては、間違いなくより優れた結果を生むだろう。
システム変革を目指したラディカル・コラボレーションの導入
私たちが今日直面している主要な社会問題は、極端な所得格差から世界の食料供給システムにおける無駄や搾取、世界各国の逼迫した医療システムまで、抜本的な見直しが求められるシステム全体に関わる問題だ。HCDは、あらゆるコミュニティで構造的差別を是正し、社会をよりよい状態に再生していくなかで果たすべき役割があるが、それは従来のソーシャルイノベーションと大きく異なった役割になるだろう。個別のデザインブリーフ(プロジェクトの戦略を述べた短い文書)に対して単一の製品やサービスを設計する代わりに、デザイナーはシステム全体を俯瞰する視点を持ち、より持続的な変革をもたらすために、意識的に複数のアクターとともにさまざまな施策を講じていかなくてはならない。
私たちが関わっているリプロダクティブ・ヘルス関連の一連の活動もそのような道筋を辿ってきた。国際開発の分野では、若者が子どもを持つかどうか、あるいはいつ子どもをつくるかをコントロールできるようになると、計画外妊娠率や妊産婦死亡率が大きく低下することが明らかになっている。また若い女性は、出産時期を遅らせることにより、家庭を持つ前に高等学校を修了したり、大学や就職の道に進んだりすることができ、それによって、より主体的に自分の望む未来を選べるようになる。IDEO.orgは2014年以来、10か国以上のパートナーと連携し、より多くの若い女性が自分に見合った、利用しやすいリプロダクティブ・ヘルスケアにアクセスできるよう活動してきた。こうして生み出された一連のプログラムを通じて、これまで40万人以上の若い女性が自分に合った避妊法を選び、使用を開始してきた。
しかし若い女性自身の視点に立つと、問題はもっと複雑だ。自らお金を稼ぐ機会の不足、自己決定権やエンパワーメントの欠如など、女性が年齢を問わず直面する生活のその他の面での障壁は多くの場合、避妊のメリットを享受する妨げとなる。ソーシャルセクターでは、互いに分断されたアクターが個別にこれらの問題に取り組むことが多いが、若い女性たち自身はそれらを一体として経験する。10代の女性にとって、避妊へのアクセスや性や交際に関する選択は、生活のその他の面と切っても切り離せない関係にあるのだ。若い女性が自分の未来を決める機会の拡大という課題においてシステム変革を実現するためには、リプロダクティブ・ヘルスケアへのアクセス拡大という課題にとどまらず、関連する課題においても協調的な取り組みが必要となる。したがって、NGOから財団、民間企業、地域の活動家、そして青年期の女性たち自身まで、さまざまなアクターが連携して問題に取り組んでいくことが求められる。
今日のソーシャルセクターにおいては、このような集合的な問題解決に適した環境が整っていない。現状のインセンティブ構造は、大きなスケールで狭い範囲の結果を出すことが求められ、資金の獲得競争を焦点としている。こうした状況を乗り越えるためには、極端に違う専門性を持つ人々による「ラディカル・コラボレーション」を促進し、変革のための新たな手段を模索する必要がある。
私たちが現在試みている1つのアプローチは、ビリオン・ガールズ・コラボ(Billion Girls CoLab)である。このプロジェクトには、セクターを越えてさまざまな組織が参画し、若い女性の健康、福祉、経済的機会に影響を与える一連の課題に、共同で取り組むことを目的としている。これらの組織は、青年期女性をパートナーとして迎え入れつつ、組織間で共通する問題を特定し、共同のデザインスプリントを通じて、新たな施策を検証している。そこから生まれた初の試みは、2020年1月、ケニアのナイロビで開催された協調的デザインワークショップ「メイカソン(make-a-thon)」である。このワークショップを通じて、ボディポジティブや生理期間の健康から就職口を探す手伝いまで、幅広い課題に対処した、一連の新しい若い女性向けサービスの開発に向け、多種多様なプロトタイプが10個生まれた。
ビリオン・ガールズ・コラボはまだ立ち上がってから日が浅いが、大きな可能性を秘めている。その目的は、セクター間の垣根を取り払った場を確保することで、これまで学問の領域にとどまっていたシステム変革の分野をより実用的なものにし、より一体的なデザインを促進し、ユーザー(この場合は青年期の女性)により大きな決定権を持たせることである。
このような設計を行うには、デザイナーの役割をソリューションの開発者からシステム設計者へと大きく転換し、適切な組織やステークホルダーを集めて、生産的で包括的な協働を促進する条件やツールを整える必要がある。
こうしたシフトは、民間セクターと公共セクターのアクターが、より協調してノウハウを蓄積し、リソースの共有し、変革を進めていくことにつながるだろう。これほどの規模のセクター横断的なイニシアチブは困難ではあるものの、これまでよりもはるかに重要で大きなシステムレベルでの変化を引き出す可能性がある。そのような場面でこそデザインプロセスの創造性と独創性が最も必要とされるのである。
ビル&メリンダ・ゲイツ財団で低所得者向けの金融サービス担当プログラムオフィサーを務めるデーブ・キムは次のように述べている。「システムは常に変化するものです。そこに専門の垣根を飛び越えながら、あくまでも人間に対する洞察をベースとするデザインの視点を取り入れることで、私たちははじめてその変化をより幸せな方向に向かわせることができるのです」。
【原題】The Next Chapter in Design for Social Innovation(Stanford Social Innovation Review, Winter 2021)
【画像】Photo courtesy of IDEO.org
注
1 Tim Brown and Jocelyn Wyatt, “Design Thinking for Social Innovation,” Stanford Social Innovation Review, vol. 8, no. 1, 2010.
2 Chris Larkin, “Design for Impact: Bringing Empathy and Creativity to Social Change,” in Nina Montgomery, ed., Perspectives on Impact: Leading Voices on Making Systemic Change in the Twenty-First Century, London: Routledge, 2019.
3 同書。
4 George Aye, “It’s Time to Define What ‘Good’ Means in Our Industry,” Design Observer, 2019年3月14日.
5 Creative Reaction Lab, Field Guide: Equity-Centered Community Design.
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