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グローバル企業に広がるBコーポレーション: 資本主義を再構築する新たなツール

近年、ダノンやユニリーバなどのグローバル企業が、続々と採用している企業認証がBコーポレーションだ。かつては中小の先進企業が多かったBコーポレーションだが、自社の経営を強化し、取引先や顧客などすべてのステークホルダーとの関係性を進化させる認証プロセスの意義が認められるようになっている。COVID-19(新型コロナウイルス)以後に求められる、よりレジリエンスが高く、持続的で、社会的な価値を生む事業の創造に有用なツールである、Bコーポレーションの可能性と展望を紐解いていこう。

※本稿はスタンフォード・ソーシャルイノベーションレビューのベスト論文集『これからの「社会の変え方」を、探しに行こう』からの転載です。

クリストファー・マーキス Christopher Marquis

◉ 編集部注
「Bコーポレーション(B Corporation, B Corp)」は、もともとはアメリカの非営利団体である「B Lab」が提唱した新しい企業のあり方と認証制度を指す。それが世界各地に広まるにつれ、国や自治体によっては「ベネフィット・コーポレーション」という法人形態として法制度化されるようになっている。
B Labによる認証制度と、行政による法規定を区別するため、本論文の翻訳にあたり、以下のように表記を使い分けている。

Bコーポレーション:B Labによって「Bコーポレーション」として認証された企業
Bコープ認証:Bコーポレーションを認証する制度
Bコープ・ムーブメント:B Labが中心となって、Bコーポレーションの考え方を推進するイニシアチブ
ベネフィット・コーポレーション:国や地域の法律によって定められた法人形態、もしくはそれを採用して登記された企業

なお、「Bコーポレーション」は「Bコープ(B Corp)」と略称で表記されることも多いが、生協など協同組合の「コープ(co-op)」との混同を避けるため、認証された法人を指す場合は「Bコーポレーション」、「Bコープ認証」のように他の単語と組み合わせる場合は略称を使用している。

2018年4月12日、ダノンNA(Danone North America)はニューヨークのマンハッタンで、最新の業績を祝うパーティーを開いた。マリアノ・ロザノ最高経営責任者(CEO)が主催したそのパーティーの様子は、リアルタイムまたは録画映像を通して、世界中のダノンの従業員に届けられた。この日は、ダノンNAの創業1周年を記念する日でもあった。ダノンNAは、ダノンの北米の酪農部門とホワイトウェーブ・フーズ社が合併し、誕生した企業だ。

さらに重要なことに、この日は同社が「ベネフィット・コーポレーション」となって1周年を迎える日でもあった。ベネフィット・コーポレーションとは、近年世界各国で法制化されつつある革新的な法人形態で、株主だけでなくすべてのステークホルダーの利益に対するコミットメントとアカウンタビリティを果たす企業であることを明示するものだ。

パーティーにおいてロザノは、ダノンNAが正式にBコープ認証を受けたことも発表した。Bコープ認証とは、第三者機関であるB Lab(ビーラボ)による認証制度で、環境面・社会面・ガバナンス面において高い基準のパフォーマンスを発揮していること、そして、これらの点で課題があれば正直に公表し透明性を保つことにコミットする企業であることを証明するものだ。

認証時点のダノンNAの年間売上高は60億ドルで、世界最大のBコーポレーションとなった(それ以前のトップ企業の倍の規模である)。マンハッタンでのパーティーのあと、親会社ダノンのエマニュエル・フェイバーCEOは、2030年までに世界中のダノングループ全社のBコープ認証取得を目標にすると発表した(のちに2025年に繰り上げられた)。フォーチュン・グローバル500企業に名を連ね、収益300億ドルを超えるダノンがこのようなコミットメントを見せたことは、世界規模での「Bコープ・ムーブメント」が飛躍への転換点に近づきつつあることを示している。今後は、すべてではないとしてもほとんどの企業が、どうすれば「よい業績を上げる」だけでなく「世のためになる」ことを実現できるのか、という課題に直面するだろう。

Bコープ・ムーブメントは、非営利団体のB Labが主導する取り組みで、社会に広がり始めている、ある問題意識に対する解決策の提供を目指している。その問題意識とは、世界で今起こっている数多くの課題―気候変動、収入格差、各地が直面するCOVID‒19(新型コロナウイルス)感染拡大対応の困難さ、さらにはアメリカの社会制度に蔓延する人種間格差など―の根源は企業の「株主第一主義」であるという見方だ。アメリカではマルコ・ルビオ(共和党)、エリザベス・ウォーレン(民主党)両上院議員をはじめ、党派を超えた多くの政治家が、株主優先の企業哲学がアメリカ経済に多大な損失をもたらしたと非難してきた。最近では、企業のリーダーの間でも同じ見方が広まり始めている。アメリカの有力企業のうち約200社が名を連ねる業界団体であるビジネス・ラウンドテーブル(BR)は、「企業のパーパス(存在目的)」に関する新たな声明を出し、株主のニーズに答えるだけでなく、従業員、消費者、社会を含むすべてのステークホルダーを重んじることを企業に奨励した。

しかし、こうした声明や奨励などのコミットメントには、言葉だけで行動が伴っていないのではないかという批判もある。たとえば、BRの会員であるホテルチェーンのマリオットは、COVID‒19危機の中でアメリカ人従業員の大部分を一時解雇したが、その一方で、株主への配当に1億6,000万ドル以上を支払い、CEOの昇給を求めていた。また、米国機関投資家評議会(CII)は「あらゆる人に対する説明責任は、誰に対しても説明責任を果たさないに等しい」として、「企業のパーパスの方向転換」という潮流を否定するという踏み込んだ対応をとった。

Bコープ認証のモデルは、このアカウンタビリティの問題に真正面から取り組むためのツールと方法論と制度的枠組みを提供し、企業の活動がすべてのステークホルダーを重んじる長期的価値と整合性をとれるように支援するものだ。また、一般消費者との信頼やブランド価値の構築にも役立つ。さらに、認証審査の過程を経験することによって、企業が継続的な改善に取り組むようになることも示されている。とはいえ、ごく最近まで、B LabによるBコープ認証の対象は、キックスターター、オールバーズ、キャスパー、ボンバスなどの中小企業が中心だった。しかし、B Lab自らが述べているように、彼らの究極の目標が「すべての人が分かち合える長い繁栄という共通の目的達成に向けて、それぞれが活動する世界経済」の推進であるなら、大手の上場多国籍企業をムーブメントに引き入れなければならない。

この論文では、筆者が近著『よりよいビジネス―Bコープ・ムーブメントは資本主義をどうつくり変えるか』(未訳/Better Business: How the B Corp Movement Is Remaking Capitalism)のために行った綿密な調査に基づき、大手上場多国籍企業のBコープ認証における課題と恩恵を分析する。ダノン、ユニリーバ、ローリエイト・エデュケーションなど、最初にベネフィット・コーポレーションとして認められた上場企業や、最初にBコープ認証を受けたブラジルの化粧品メーカー、ナチュラを例として取り上げる1

本記事の中心的な問いは、「大手多国籍企業が認証を受けられるように、かつ、一般市民の監視に耐え、B Labが求める高い基準を維持できるように、この認証システムを調整できるのか」というものだ。消費者はもっともながら大企業を警戒する。企業の意図に疑いを抱き、何か判断ミスがあればたちまち拡散する。そのため、大企業を引き入れることでこのムーブメントの誠実さが損なわれるのではないかと心配する支援者もいる。しかし、COVID‒19危機とその経済的な打撃のただなかで、より持続可能でレジリエンス(しなやかさ・回復力)の高い資本主義を構築するには、大手の上場多国籍企業も厳しい評価方法と手順を取り入れ、すべてのステークホルダーについて真剣に考えていくべきなのである。

世界に広がるBコープ・ムーブメント

Bコープ・ムーブメントを立ち上げたのは、スタンフォード大学の同級生だったジェイ・コーエン・ギルバート、バート・ホウラハン、アンドリュー・カソイだ。卒業後、コーエン・ギルバートとホウラハンはバスケットボールのアパレルブランドを経営し、カソイは資産運用会社に勤めた。それぞれの道で20年ほどキャリアを積んで彼らが至った結論は、ビジネスは社会問題に取り組む強力なエンジンにはなるものの、公共の利益を追求するうえで構造的な障害がいくつかある、ということだ。2006年、彼らは非営利団体B Labを設立し、「企業活動が株主だけでなく、関連するすべての人にどのような影響を与えるかに基づいて企業を評価する」という新しいビジネスを世に出した。

B Labのウェブサイトによれば、Bコープ・ムーブメントとは「ビジネスを良い影響力を与える力として使う人々が集まる、グローバルなムーブメントを推進するリーダーたちのコミュニティ」である。ムーブメントの中心には、B Labの手法を取り入れて、すべてのステークホルダーの利益を考慮した事業を行う起業家や企業のリーダーたちがいる。世界中の何万もの企業が、B Labが開発した評価手法である「Bインパクト・アセスメント(BIA)」を受けてきた。これは、その企業が社会や環境に与えるインパクトを測定し、企業活動とビジネスモデルを評価するものだ。近年では、ベンチャーキャピタルやプライベート・エクイティへの投資家もまた、企業を評価する手段としてこの手法に価値を見出しており、デューデリジェンスの手続きに組み込む動きが進んでいる。

企業がBコーポレーションとして認証されるには、BIAで200点満点のうち最低80点を取らなければならない。BIAの評価内容は、その企業の規模、セクター、市場に応じて調整され、「ガバナンス」「従業員」「顧客」「コミュニティ」「環境」の5つの領域に分かれている。それぞれの領域には重み付けがなされた質問群があり、全体の質問数は200ほどだ。BIA自体にはほんの2~3時間しかかからないが、B Labが大量の証拠資料を要求しているため、企業はBIAと検証のプロセスを完了するのに数カ月を費やすことになる。2020年の時点で、5万を超える企業がBIAを利用している。

それに加えて企業は、世界をよりよくする力になると誓約する「Bコープ相互依存宣言*(B Corp Declaration of Interdependence)」に署名しなければならない。また、すべてのステークホルダーの利益を考えた企業運営ができるように、取締役や幹部を法的に守ることを会社として定めることも求められる。これを実現するために、企業の組織体制や拠点を置く地域によっては、定款を改正するか、ベネフィット・コーポレーションとして法人形態を変えるか、何らかの組織改革を実施しなければならないかもしれない。さらに、Bコープ認証は3年ごとに更新が必要だ。

Bコープ・ムーブメントが広まるにつれ、B Labは活動をシフトさせ、より多くの企業をBコーポレーションに加えることよりも、必要とされるツールとプロセスの開発に重点を置くようになった。その目的は、「すべての企業がBコーポレーションのようになれること」だ。たとえばB Labは、弁護士、法学者、政策立案者の協力を得て、ベネフィット・コーポレーションの法案づくりと法制化の実現に取り組んでいる。これは、公共の利益、労働者の権利、地域コミュニティ、環境は、株主の利益と同等のものであるとする革新的な法的枠組みだ。ベネフィット・コーポレーションとして法人登記された企業は、起業家が株主だけでなくすべての利害関係者を考慮に入れることを認めるのみならず、外部資本の受け入れが会社の社会的ミッションからの逸脱につながるのではないかと危惧する創業者の保護も定めている。

アメリカでは、36州とワシントンD.C.とプエルトリコにおいて、超党派の政治家たちがベネフィット・コーポレーションの法人格を認める法律制定を支持してきた。このイノベーションの波は世界中に広がっている。同様の法案が、イタリア、コロンビア、エクアドル、カナダのブリティッシュ・コロンビア州で通過し、他の多くの国や地域でも審議されている。現在、世界中の1万を超える企業がこの種の法人形態を採用している。

一方、現時点で71カ国の3,000を超える企業がBコープ認証を受けている。多くは、パタゴニア、ニュー・ベルジャン・ブルーイング、アイリーン・フィッシャー、ガーディアン・メディア・グループなどの有名企業だ。しかし、Bコープ認証が中小企業に限定されてきたとの指摘もある。実際に、ビジネスメディア『クオーツ』の分析によれば、Bコープ認証を受けた企業の95パーセントを、従業員数250人未満の中小企業が占めている2。このムーブメントが新たな資本主義の形を目指すのであれば、大手多国籍企業を引き入れることが不可欠なのだ。

大手上場企業によるBコープ認証の採用

多くの上場多国籍企業がこのムーブメントに影響を受けており、Bコープ認証を持つ企業を買収したり、既存のグループ企業がBコープ認証を取得したりしている。たとえば、ユニリーバには、ベン&ジェリーズ、セブンス・ジェネレーション、パッカハーブス、サンダイアルブランズ、サー・ケンジントンなど、Bコープ認証されたグループ企業がいくつかある。ユニリーバのポール・ポールマン前CEOは、Bコーポレーションになる価値についてしばしば公の場で発言し、ユニリーバ本体も世界全域で認証を目指す計画であると述べていた。ポールマンは2018年末に退任したが、後継者のアラン・ジョープがポールマンのビジョンを継承して推し進めようとしている。

ほかにも次のような有力企業が、グループ内にBコーポレーションを有している(角カッコ[]内はグループ内のBコーポレーション)―プロクター・アンド・ギャンブル[ニューチャプター]、Gap[アスレタ]、キャンベルスープカンパニー[プラム・オーガニクス]、ネスレ[ガーデン・オブ・ライフ]、SCジョンソン[メソッド、エコベール]、アンハイザー・ブッシュ[フォーパインズ・ブルーイング・カンパニー]、ザ コカ・コーラ カンパニー[イノセント・ドリンクス]、オッペンハイマーファンズ(現インベスコ)[SNWアセット・マネジメント]。

2014年12月、Bコープ・ムーブメントは重要な節目を迎えた。ブラジルの化粧品・衛生用品メーカー最大手のナチュラがBコープ認証を取得し、主要証券取引所で取引される上場企業(サンパウロ:NATU3)として第1号のBコーポレーションになったのだ。年間売上高30億ドルを超えるナチュラは、その時点における最大のBコーポレーションとなった3。ナチュラのコア・ミッションは、「透明性、サステナビリティ、健康へのコミットメント」を通じて、よりよい世界をつくることである。同社は、すべての製品の環境への影響を評価し、アマゾン地域からの原材料を持続可能な形で調達することで、環境保護に貢献している4

2020年1月、ナチュラはアメリカの直販化粧品会社の草分けであるエイボンを20億ドルで買収した。そのときの契約条件に従って、エイボンは企業形態をベネフィット・コーポレーションに転換することになった。史上初めて、アメリカの上場企業の経営陣がすべてのステークホルダーの利益に焦点を合わせた法人形態の採用を決定した。エイボンの買収によって、ナチュラはより広い顧客層に影響力を広げられるし、それに伴って社会的インパクトも高められる。ロベルト・マルケスCEOによれば、ナチュラが目指すのは「世界で最高の化粧品会社」であるよりも、「世界のためになる最高の化粧品会社グループ」になることだという5

エイボンと同じように、ナチュラも独自の直販モデルを持つ。ナチュラのモデルは、ほぼすべて女性から成る160万人のネットワークで、数カ国で同社の製品を販売している。また、ナチュラは3,100社の家族経営企業をサプライヤーとして取引することで、これらの会社を支えてもいる。そして、販売員は徹底したトレーニングを受け、その約4分の3はナチュラの利益分配制度に参加している。2019年の時点で、ナチュラはヨーロッパと南米に、7,000人近い従業員を抱えていた。2017年にイギリスの自然化粧品の草分けであるザボディショップを買収し、さらに今回エイボンを買収したことでナチュラは世界第4位の化粧品会社になり、100を超える国に640万の直販拠点を持つことになる。合併後の企業は収益100億ドルを上回ると予想され、ダノンNAを抜いて世界最大のBコーポレーションになる見込みだ。

上場企業のベネフィット・コーポレーション第1号

ナチュラは上場したあとでBコーポレーションになったが、世界各地の大学ネットワーク組織である営利企業のローリエイト・エデュケーション(Laureate Education)*は、ナチュラとは逆の手順を踏んだ。同社はまず、2015年10月にデラウェア州でベネフィット・コーポレーションに法人形態を変更し、同年12月にBコープ認証を取得した。その後、2017年1月31日にナスダックで新規株式公開(IPO)し、アメリカの株式市場に上場した第1号のベネフィット・コーポレーションとなった。この法人形態の転換には2年ほどかかり、IPOは当初の予定より遅れた。しかし、創業者で元CEOのダグ・ベッカーは、あえてこの手順を踏むことは、投資家たちが株を買う前に会社が何をしようとしているかを知るためには重要なことだと考えていた。

「ネットワークに参加する教育機関のニーズのバランスをとることは、当社の成功と存続に役立っているし、それによって、経済が厳しい時期にも成長することができたのです」と、ベッカーは見込み投資家向けのレターで述べた。そのレターは、証券取引委員会(SEC)に提出する証券登録届出書(通称「S1申請書」)にも盛り込まれている。ベッカーはさらにこう述べている。「長い間私たちは、『社会に利益をもたらすことに非常に深くコミットする営利企業』という考え方をわかりやすく示す手段を持っていませんでした」。ベッカーはこれが、Bコープ・ムーブメントに興味を引かれた理由だったと説明した。「私たちはこの概念が全米に広まるのを慎重に見守ってきました。……企業のパーパス、アカウンタビリティ、透明性に関して高い基準を自らに課す、この新しい企業の形がどうなっていくのかを」

ローリエイトが株式公開する際、同社にとってBコープ認証は、営利の教育セクターに対する評判の悪さを払拭するための戦略的な選択だった。トランプ大学(不動産関連の講座を提供していた)や、コリンシアン・カレッジ(ビジネス、保健医療、情報技術など多くの分野で学位を提供していた)などの営利の教育機関は、虚偽的な広告で意図的に学生たちを惑わした疑いで訴訟まで起こされていた。営利の教育機関の多くは、教育に力をいれるよりも利益を最優先にし、虚偽の就職機会の約束で学生たちに多額の借金を背負わせてきた。Bコープ認証は、ローリエイトが学生のニーズに真摯に向き合っていることを世間に示す、信頼できる手段となったのだ。

Bコープ認証の取得時点でローリエイトのネットワークには、南米(ブラジル、チリ、ペルー)から、中米(ホンジュラス、コスタリカ、パナマ、メキシコ)、北米、オーストラリアとニュージーランドまで、25カ国にある80以上の教育機関が参加していた。Bコープ認証を得るための条件は、各教育機関の収益に基づいたBIA(108ページ参照)の加重平均がネットワーク全体で80点を超えることだったが、ローリエイトはすべての教育機関が単体でもこの基準を確実に満たすことを目指した。

認証プロセスは複雑でかなり厄介だった。当時、創業者ベッカーの右腕で戦略担当だったエマル・ダストによれば、認証プロセスの作業は本来であれば通常業務に支障をきたさないように行われるものだが、ローリエイトの場合は実質的に「他のすべてを中断してこのプロセスに対応した」という。ダストは各地域の部門長を集めて要点を説明し、その地域の部門長が担当地域の各教育機関のCEOと協力して認証プロセスを進めた。この幹部たちの連絡網を通じて、本部は評価書類、資料、ガイドラインを配布した。「滞りなく進めるため、すべての地域の部門長を本部との隔週の電話会議に参加させるようにしました」とダストは話す。各教育機関は自己評価のための関連データと資料集めを担った。また、BIAの回答が確かであることを証明するため、最低でも2時間の面接をB Labと行った。B Labは、現地調査をするために5つの教育機関を無作為に選び、それぞれにおいてすべての資料を確認し、施設を視察し、職員や教員たちと面接した。

「私たちにとって有利だったのは、認証プロセスで質問された内容の多くをすでに実践していたことです」。ローリエイトの財務責任者でシニア・バイスプレジデントのアダム・モースはそう話す。一方で、多くの教育機関で構造的な課題もあった。たとえば規制上の理由から、その組織が項目の答えを知ることができないこともあった。地域によっては、人種や人口統計学的な属性を学生にたずねるのは違法となるからだ。

また、直観とは逆の状況に向き合うべき場面もあった。たとえばダストは、新築の建物に入った新規の教育機関は「環境にやさしい」という項目でポイントを与えられるだろうと思っていたが、反対にポイントを失った。BIAでは既存の建物を利用するほうを評価していたからだ。最終的にモースは、次のように結論づけた。「Bコーポレーションの考え方は、すでに当社に根づいていた。それらのマネジメント方法や追跡方法を変える必要はあっただろうが、ゼロから始めるわけではなかった」

いずれにしても、ローリエイトは多くの面でBコープ認証の恩恵を受けた。1つは、多様な教育機関で構成されるネットワークに共通の慣行を構築できたことだ。たとえば、認証取得に向けた取り組みの結果、ローリエイトは全体の倫理規定を改訂し、BIAの言葉を借りて強固なものにした。

また、ネットワークが社会に与える影響とインパクトをもっと意識するようになった。たとえばBIA調査以前、ローリエイトは本部で集約するデータ管理ツールを持たなかったため、同社の経営陣は自社のステークホルダーを世界規模で思い描くことができなかった。ネットワークの教育機関の多くは、B Labが特定課題層と呼ぶ層をターゲットとする。サービスの行き届いていないマイノリティ、低所得の学生、大学に学び直しにくる成人などだ。多くの教育機関で、これらの層が学生のかなりの割合を占めるが、ローリエイトはステークホルダーがどのような人たちなのかを世界規模で把握するための情報収集システムを、これまで持ったことがなかった。経営陣は筆者に、「今では自分たちの顧客をより深く理解できるようになったし、誰に働きかけようとしているのかがより具体的に絞られる追跡システムを導入している」と話した。ローリエイトの2017年の認証プロセスでは、社会的なサービスが十分に行き届いていない層の出身者が学生の半分を占めることが明らかになった。

BIAは、このグローバル組織で多くの慣行を標準化するのに役立ったが、各教育機関がどの国を拠点とするかによって、それぞれの組織の評価の重点は異なる可能性がある。そのため、ローリエイトは可能な場合には本部への集中化を図る一方で、各教育機関が重要な改善を個別に実施することは、ネットワーク全体で方向転換をしてしまうことよりも効果的だと考えた。「グローバル企業にとって、すべての国で適用できる柔軟な方針を考案することは重要ですが、BIAの特定の評価基準を満たすためには、個別の対応も必要です」。ローリエイトの元グローバル広報担当シニアマネジャーで、Bコープ・プログラムの責任者であったトッド・ウェグナーはそう話す。

モースによれば、ローリエイトは2019年に、コア・ミッションとの一貫性をより保つために事業の展開場所を絞り、将来的にはチリ、ペルー、メキシコ、ブラジルを重点地域とする一方で、オーストラリアとニュージーランドでは事業を部分的に継続する予定だと発表した6

株主や取締役会とどう対話するか

ローリエイトの事例からは、Bコープ認証の取得に関心を持つ企業がどのように取締役会やプライベート・エクイティ投資家を説得できるかについても知ることができる。ローリエイトは、ベネフィット・コーポレーションとBコープ認証について、投資家の意識を高めるのに約2年を費やした7。投資家や取締役会と何度も話し合いの機会を持ち、Bコープ・ムーブメントについて彼らを教育し、これがやるべきことなのだと納得させた。ベッカーはこう話している。

「実際に、ベン&ジェリーズのCEOに来てもらい、取締役会で話してもらったこともあります。取締役たちに深く学んでほしかったからです。すでにこのプロセスを経験し、現在もコア・ミッションに取り組んでいる人から話を聞きたかったのです」

投資家を招いて、同社の経営陣が会社についての説明会を行ったときには、「ベネフィット・コーポレーションとは、いったい何ですか?」と質問されたものだった、とベッカーは振り返る。「ほとんどの投資家たちの当初の認識は、『これは何かの税金対策に違いない』というものでした」。そんなときは、5分間かけてBコープ・ムーブメントを説明し、ローリエイトのスローガンは「Here for Good」であり、これには「社会の利益のためによい仕事をする」と「ずっと共にこの地にある」という2つの意味が込められているのだと投資家たちに改めて強調した。Bコープ認証に向けた取り組みは、この会社が従来の上場企業のような短期的な利益追求を目指すのではなく、長期的な計画とリターンを重視していることを投資家に印象づけるのに役立った。

最初のうち、ローリエイトの経営陣は、BコーポレーションになったためにIPOで低い評価を受けるのではないかと不安を抱いていた。株主価値の最大化を優先しないことになるからだ。彼らはこの方向転換で生じる法律面や収益面の影響についてのデューデリジェンスに長い時間をかけた。ベッカーはそのときの状況をこう語った。「いくつかの銀行を回って、さまざまなシナリオでのIRR(内部利益率)を調べてみたが、誰もこれが株価によい影響を与えるのか悪い影響を与えるのかがわかりませんでした。それでも、きっと大丈夫だ、おそらく中立的な状態になるだろうという考えに落ち着きました」。利益の最大化を優先事項から外すことへの懸念は残ったが、ローリエイトの経営陣は、世界に対して「私たちは腐ったリンゴのように周りに悪影響を及ぼす存在ではない」と示すために最善を尽くそう、という決意を固めた。ベッカーは、この新しい法人形態とBコープ認証がなければ、「うわべだけ取り繕っているように見えていたでしょう」と付け加えた。

モースが受けた質問の中で特に多かったのは、「もし何かが株主の利益になるとわかっても、それを実行しないということなのか?」というものだ。それに対してモースは、「意思決定の際には、わが社が公言している社会的な目標や公共の利益を考慮する必要があるという意味です」と答えた。このジレンマがよくわかる例は、設備投資プロジェクトに関するものだろう。「誰かが『新しいキャンパスに予算を使いたい』とか、『このようなプロジェクトでこういった投資をしたい』と提案するとしましょう。すると、投資提案書には審査用として、このプロジェクトが社内で開発したBコープ・チェックリストにどの程度適合しているかを評価する報告書を組み込まなければなりません」。つまりモースは、意思決定の際には1つのことだけではなく、さまざまな要素を考慮に入れ、より複合的かつより多くのことに有益な決定を下さなければならない、と投資家たちに説明したのだ。

結果的には、ローリエイトは投資家からそれほど強い抵抗を受けなかった。経営陣は「KKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)―典型的な昔流の企業乗っ取り屋で、レバレッジド・バイアウトの草分け―のような投資家たちが、私たち特有の社会的ミッションにおおむね理解を示していた」と振り返る。これが他の機関投資家に対しても、ベネフィット・コーポレーションはよい会社で、手堅い投資になるという説得材料になった。2020年7月、オンライン保険事業を手がけるレモネード(ナスダック:LMND)が、Bコーポレーションとベネフィット・コーポレーションの両方を満たすアメリカ第2の上場企業になった。

多国籍企業の認証プロセスの先駆けとなったダノン

ローリエイトがBコープ認証を取得したころ、ダノンもすでにBコープ・ムーブメントとの連携を始めていた。これはB LabにとってヨーロッパでのBコープ・ムーブメントの拡大に大きく寄与し、いまやムーブメント全体の重要な足掛かりとなっている。2015年12月、ダノンはBLabとの間で、2つの大きな協力事項に同意した。1つ目は、BIA調査ツールをいくつかのグループ企業で試験的に導入すること。2つ目は、B LabがBIAを大企業向けに調整するのに協力し、できあがったものをダノンが実験的に採用し、さらに他の大企業への導入提案を支援することだ。

ダノンは長年にわたって、食品業界で企業の買収を続け、世界各地へ事業を拡大していた。2016年に年間売上高約42億ドルのアメリカの飲料・食品会社ホワイトウェーブ・フーズを買収したとき、エマニュエル・フェイバーCEOは戦略面での相乗効果以上のものを期待していた。彼はこう話している。「買収先がもともと上場企業かつベネフィット・コーポレーションであることが、当社の社員にとって、他の買収案件とはまったく違う重要な部分でした。おそらく、弊社が上場企業としてベネフィット・コーポレーションになる意味を理解していた社員はほとんどいなかったでしょう。だからこそ、私たちはそれが何を意味するのかを社員に示す必要があったのです。契約時には、120億ドルの小切手を書く。その瞬間こそが、この2つの企業の合併によってどんな価値を創造するのか、またどれくらいの価値評価を見込むのか、という私たちの期待値を示す絶好の機会なのです」

ダノンの全事業の15パーセント以上を占めるダノンNAは、現在のところ世界最大の上場ベネフィット・コーポレーションだ。2018年4月に創業し、その1年後にはBコープ認証を取得した。予定より2年も早い達成ではあったが、評価プロセスは非常に困難だった。ローリエイトと同様に、ダノンNAとそのグループ企業がBコープ認証を受けるには、収益に基づいたBIAスコアの加重平均で80点以上を獲得しなければならなかった。「公共の利益・持続可能な開発」部門のシニアディレクターであるディアナ・ブラッターは、こう説明した。「グループ全体の認証を得るには、1つではなく5つのBIAをそろえる必要がありました。ダノンウェーブ、アースバウンドファーム、アルプロ(ヨーロッパ事業)、さらに2つの子会社が、個別に認証を受ける必要があったのです」。標準的なBIAは200強の質問項目から成るが、「グループ全体では1,500以上の質問に回答したことになります」と、ブラッターは言う。

B Labはこのプロセスを通じて、大手の多国籍企業を評価する際には、あらかじめ評価範囲を見通しておく必要があると学んだ。企業側が、どれだけの数の評価をそろえる必要があるのか、どの地域で法人登録をするのかなどだ。認証過程には、スコアには直接影響しない項目の情報開示調査も含まれるが、これはBIAにおけるポジティブな評価を覆すほどのネガティブな要素がないかを検討するためだ。たとえば社会倫理に触れうる慣行、罰金を課されたこと、その企業または提携会社に対する制裁などがある場合だ。B Labは通常、対象企業がBIAで80点以上を獲得したあと、プロセスの最終段階でこの情報開示調査を行っている。しかし、B Labの共同創業者であるバート・ホウラハンが述べているように、この情報開示は、「これほどの規模の企業では膨大なリストになり、それを最終段階に残すと、すべての関係者に途方もない不安を与えてしまう。そこで(ダノンNAの認証においては)、認証プロセスの早い段階でこの情報開示調査を行うことにした」という。

Bコープ認証プロセスは、ダノンNAのビジネスに重大な影響を与えた。ホワイトウェーブ・フーズとの合併とBコープ認証プロセスが同時進行したことで、ダノンNAがサステナビリティへのコミットメントに向けて団結するための包括的な枠組みとしてBIAが機能したのだ。ブラッターはBIAの利点について、次のような例を挙げて説明した。

「調達チームとのミーティングで、合併と統合に際し、新たな調達方針について数百のサプライヤーに対応してもらうことや、契約を更新していくことが必要だとわかりました。私たちは、この調達方針を全社に展開して改善し、BIAのプロセスを通して私たちが重要だと判断した基準を盛り込むことができました。たとえば、マイノリティの人々が経営するビジネスを優先すること、製造拠点に近い地元のサプライヤーを優先すること、環境フットプリント*の削減に努め、地元経済の活性化に貢献することなどです。私たちはそれをB Labへの提出資料にも盛り込んで、具体的な計画にすることができました。今では、調達部門全体がこれらの追加基準すべてを支持し、しっかり注視しています」。調達チームは単にBIAでよいスコアを取るというよりも、全体を改善することを目指した。ダノンはBIAを社内報告システムに組み入れることも計画している。それによって、今後の認証が容易になるだけでなく、全社に対してサステナビリティの水準を示すことになるだろう。

ダノンNAの認証に続いて、ダノンは同社が「Bコーポレーションとして成長する」ことを宣言した。2020年6月時点で、20のグループ企業がBコープ認証を取得している。この20社の収益はグループ全体の30パーセントを占める。さらに同月、COVID‒19危機による経済の混乱を受け、ダノンは新たにフランスで最近法制化された「ミッションとともにある会社(Entreprise à Mission)」のモデルを採用する最初の上場企業になった。このモデルでは、企業のミッションが従来の短期的な利益の最大化にとらわれる必要がなく、他のステークホルダーおよび社会と環境に与える長期的な影響を考慮することができる。

大企業をどう認証するか

B Labが掲げる究極のミッションは、「いつか、すべての企業が世界に最も貢献する企業になろうと競い合うようになる」ことだ。このビジョンは大手多国籍企業を引き入れなければ、明らかに達成できない。ダノンNAが2018年にBコープ認証を受けたあと、少なくとも7社の多国籍企業から認証プロセスについて問い合わせがあった。B Labの大企業の意識を高める取り組みはまだ初期段階にあるが、Bコーポレーションのモデルとツールを大企業に広めるという点では勢いがつき始めている。たとえば、「Bムーブメント・ビルダーズ」という新しいプログラムは、大企業が「Bコーポレーションのようになる」ためのステップを踏んでいくことで、Bコープ・ムーブメントに参加する1つの方法となっている。

大企業がBコーポレーションとなることに関心を示し始めたことで、B Labチームは、もともとBコーポレーションの大半を占める中小企業向けに開発された認証システムを大企業向けに改善しながら、チームの厳しい認証基準を維持するという課題に直面した。これを実現するために、B Labは2015年に、ダノン、ユニリーバ、ナチュラなど、多くの多国籍企業と密に連携し、年間収益50億ドルを超えるようなグループ企業を認証するための道筋を開発した。

B Labはまず、大企業の基準をどれほどの厳しさと幅広さにするか、また、これまでBコーポレーションに求めてきた法的要件を含めるか判断しなければならなかった。そしてすぐに、社会と環境に与える影響力の大きさをふまえて、大企業に求める基準はむしろより厳しくする必要があると合意した。また、上場企業も他のBコーポレーションと同じ形で法的要件を満たすべきだという点でも合意した。公開株式市場で取引される企業は、短期的な利益を求める圧力が最もかかりやすいからだ。

B Labは2019年4月に新しい認証基準を導入し、追加された事前チェックでその企業がいくつかの基本要件を満たしていると判断された場合にのみ、認証申請が可能になるようにした。たとえば、企業はマテリアリティ・アセスメント(重要性評価)を実施したことを証明しなければならない。このアセスメントは、「その企業の事業に関連する環境、社会、ガバナンスにおける潜在的な課題の中でどれが最も重要なものかを明らかにするもの」で、そのプロセスはステークホルダーにも参加してもらい、透明性が高く、少なくとも隔年で実施される必要がある。次に、明らかになった重要課題について、具体的な達成目標を経営戦略に盛り込まなければならない。その目標は、取締役会が評価し、すべてのステークホルダーが知ることができるようにする必要がある。

それに加えて、企業は政治に関わる事柄(ロビー活動やアドボカシー活動)と、自社が定める実効税率など税金の会計処理の考え方を公開文書にて発表しなければならない。さらに、企業は以下の取り組みに注力することで、人権に関する方針を明確にしなければならない。その取り組みとは、国連の「世界人権宣言」や「ビジネスと人権に関する指導原則」などの重要な人権宣言に従うこと、あるいは、人権へのインパクト評価を通して自社のビジネスに関連する人権問題を明らかにして対応することだ。そして、企業の取締役会がこれらすべての必要条件をチェックする必要がある。最後に、第三者機関の基準に従ったインパクト・レポート(インパクト評価報告書)を毎年作成し、公表することが求められる。B Labの独立基準諮問委員会が、これらの必要条件を企業がどこまで満たしているかを精査し判断する。

このあとに実施されるのが、評価範囲の決定プロセスだ。B Labはその企業の組織構造と経営状況を概観し、正式なBコープ認証に必要なBIAの項目数を決定する。B Labは認証のための制度的要件(いつ、どの法人組織がその要件を満たすか)を含む、評価と検証のスケジュールを企業に説明する。「多くの場合、『さて、ここにビジネスという塊があって、こうやって丸で囲んで、その企業のことは全部わかってますよ』と言ってしまえるような、簡単な事ではないのです」。B Labの事業開発担当ディレクターのカラ・ペックはそう説明する。「たとえば、その企業にはアメリカで展開しているブランドがあるかもしれませんが、そのブランドが他の国で手掛けている事業は親会社のもとで運営されています。つまり、同じブランドでも、従業員、製造設備、慣行が異なることになります。実際のところ、大企業の事業運営をはっきりパーツ分けするのはかなり難しいことです」。つまりこの評価範囲の決定プロセスは、企業を認証する際に、そのBIAスコアがすべての事業ユニットを反映していることを担保するものなのだ。

次のステップは、複数のBIAによる評価と検証だが、これが一番骨の折れる過程である。大企業は、まずはガバナンスにおけるベスト・プラクティスに焦点を絞った「グローバル本部版」のBIAを完了し、そのあとにさまざまなグループ企業や事業部門の個別のBIAを実施しなければならない。それらのスコアを集計し、グループ全体の最終的なBIAスコアが算出される。Bコープ認証を受けるには、全事業の95パーセントがBIAの基準を満たさなければならない。もし全体で最低限の80点を獲得しても、何らかの理由で基準を満たさないグループ企業があれば、親企業はBコープ認証を受けるが、達成できなかったグループ企業はBコープ認証のロゴのブランディングやマーケティング利用において制限を受ける。たとえば、ダノンのコーヒークリームブランドであるインターナショナル・デライトは、2018年末にBIAスコアが80点を超えるまで、Bコープ認証のロゴを使えなかった。

BIAで80点以上のスコアを獲得すると、その企業はガバナンスを改正するための2年の猶予が与えられ、すべてのステークホルダーの利益を考慮した企業活動を行ううえで必要となる前述の制度的要件を満たすために取り組むことなる。それができなければ、認証は無効になる。

Bムーブメント・ビルダーズ

こうして大企業の認証プロセスができあがったが、多くの企業は、評価と条件の厳しさにひるんでしまうかもしれない。大手の多国籍企業にとっては、どこでどのように創業したのかという質問さえ、回答が難しい場合もある。中小企業がやっているように、ただBIAをそのまま利用するのは、世界各地に複数の子会社を持つ大企業にとっては実用的ではないだろう。まず、複雑な組織がどうやって認証に取り組めるのかを理解するための、フレームワークと前例が必要だろう。そのために大いに役立つのがダノンの事例で、新しいプロセスの多くが検証済みである。また、大企業は他の大企業とつながりたいと切実に思っている。B Labにはこれまで、「他にどの企業がこれに取り組んでいるのか? その企業を紹介してもらえるのか?」と、多くの多国籍企業から問い合わせがあった。大企業は、同じ道を進もうとしている他の企業とのネットワークも必要としているのだ。

多国籍企業向けの新しい認証プロセスの開発過程で生まれた課題と向き合うことで、B Labは原則に立ち戻り「Bコープ・ムーブメントとは何か」と自問することになった。もちろん、より多くのBコーポレーションを受け入れていくという取り組みではあったが、『株主優先の考え方をひっくり返していく』というもっと大きな目標についてより深く考えていくと、B Labは、自分たちがより広いコミュニティをつくるべきだと気づいた。その結果として考案された新しいプログラムが「Bムーブメント・ビルダーズ」で、大企業がこのムーブメントに具体的、段階的に関わるのを後押しすることを目指している。企業がこのプログラムに参加するには、次に示すBコープ・コミュニティの原則に従うことを約束する必要がある。

① すべてのステークホルダーに価値を創出するビジネスへ変革するという、高い価値基準と目標に力を尽くす
② 具体的なコミットメントと透明性のある評価
③ コレクティブ・インパクトに向けた連携

参加企業はさらに、厳しい基準に従い、Bコープ・コミュニティの理想に沿う形で活動していることを具体的なステップで示さなければならない。まず、「Bコープ相互依存宣言」に署名して、ムーブメントの3原則に従うという約束を公表し、ムーブメントへの強い意志を明確にする。次に、BIAを使ってただちに部分的な事業評価を行い、改善すべき分野を特定し、対策を講じていく。改革は時間をかけて段階的に達成してもいい。たとえば、はじめに1つの事業を評価し、その後数年かけて評価範囲を広げることもできる。すべてのBムーブメント・ビルダーズはマテリアリティ・アセスメントを実施し、自社のビジネスに関連する環境、社会、ガバナンスにおいて最も重要な潜在的問題を特定して結果を公表しなければならない。

参加企業はさらに、サステナビリティ実現を目指すグローバルな枠組みである国連の「持続可能な開発目(SDGs)」と関連した、少なくとも3つの野心的な目標を設定する必要がある。例を挙げると、ダノンはすでにこれを実施している。ダノンの企業ミッションは「できるだけ多くの人々に食品を通して健康を届ける」ことだ。そこで、SDGsの目標2(飢餓をゼロに)、目標3(すべての人に健康と福祉を)、目標6(安全な水とトイレを世界中に)を重点分野とし、各目標においてどのターゲットにどのような手段で取り組むのかを明らかにしている。

Bムーブメント・ビルダーズはまた、他の参加企業や、より大きなBコープ・コミュニティと協力し、広範なインパクトの創出と透明性の維持に注力しなければならない。すべてのBムーブメント・ビルダーズは、毎年インパクト・レポートを作成して公表する必要がある。さらに、株主だけでなく、すべてのステークホルダーに焦点をあてた経済活動につなげるために、企業におけるリーダーシップ、資本市場、ガバナンスの構成方針において、それぞれのあり方の変化を求める公開書簡に署名し公表することも求められる。

このプログラムは多くの参加企業を集めて2020年後半に公式に立ち上げられるが、大手多国籍企業の現状に見合っており、徐々に変化を促していくだろう。このプログラムに参加すれば、企業はBIAワークショップや会計管理の個別相談など、それぞれに応じたサポートを受けることができる。さらに、企業幹部向けの半日セッション、地域ごとのBコーポレーションの集会、少人数で対話するラウンドテーブルなど、同じ志を持つ企業との情報交換の場も提供される。

人種間格差や過剰な株主第一主義である資本主義への人々の怒りを思えば、ムーブメント・ビルダーズは絶好のタイミングで立ち上がったと言えるだろう。ポストCOVID‒19の時代には、企業もどうすればレジリエンスが高く持続的な組織になれるのか、そしてより社会の利益に即した存在になれるのかを模索するようになるだろう。ダノンNAの元CEOで、B Labの世界大使を務めるローナ・デイヴィスは、20年後にはBコーポレーションが企業の常識になっているだろうと予測する。人々はBコーポレーションではない企業を見てこう言うだろう。「認証を受けないなんてとんでもない。Bコーポレーションこそ、ビジネスの営み方なのだから」

【翻訳】田口未和
【原題】The B Corp Movement Goes Big (Stanford Social Innovation Review, Autumn 2020)

(訳注)
* Bコープ相互依存宣言:「自らが世界に起こしたい変化となる」「すべてのビジネスが人々と場所を大切に扱う」など、Bコーポレーションとして大切にしたい価値観を表明する宣言文

* ローリエイト・エデュケーション:米国メリーランド州ボルチモアを拠点とする多国籍企業。1998年創業以降、世界各地の大学を買収・提携しながら、大学のネットワークを構築してきた

* 環境フットプリント:製品や企業活動が環境に与える負荷

(原注)
1 この記事は筆者の近著,Better Business: How the B Corp Movement Is Remaking Capitalism (New Haven: Conn.: Yale University Press, 2020)の第10章と,発表済みの事例研究,”Danone North America: The World’s Largest B Corporation” (Harvard Kennedy School Case Study 2156, April 26, 2019)を基にしている.

2 Cassie Werber, “Danone Is Showing Multinationals the Way to a Less Destructive Form of Capitalism,” Quartz, December 9, 2019.

3 Anderson Antunes, “Brazil’s Natura, the Largest Cosmetics Maker in Latin America, Becomes a B Corp,” Forbes, December 16, 2014.

4 Oliver Balch, “Natura Commits to Sourcing Sustainably from Amazon,” The Guardian, March 18, 2013.

5 Susie Gharib, “Brazil Beauty Company Natura Wants to Give Avon a Makeover,” Fortune, January 10, 2020.

6 Laureate Education, Inc., “SEC Form 10-Q Quarterly Report for the Quarterly Period Ended March 31, 2019,” May 9, 2019.

7 Jay Coen Gilbert, “For-Profit Higher Education: Yes, Like This Please,” Forbes, January 4, 2018.

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