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グローバル企業に広がるBコーポレーション: 資本主義を再構築する新たなツール

グローバル企業に広がるBコーポレーション: 資本主義を再構築する新たなツール

近年、ダノンやユニリーバなどのグローバル企業が、続々と採用している企業認証がBコーポレーションだ。かつては中小の先進企業が多かったBコーポレーションだが、自社の経営を強化し、取引先や顧客などすべてのステークホルダーとの関係性を進化させる認証プロセスの意義が認められるようになっている。COVID-19(新型コロナウイルス)以後に求められる、よりレジリエンスが高く、持続的で、社会的な価値を生む事業の創造に有用なツールである、Bコーポレーションの可能性と展望を紐解いていこう。

※本稿はスタンフォード・ソーシャルイノベーションレビューのベスト論文集『これからの「社会の変え方」を、探しに行こう』からの転載です。

クリストファー・マーキス Christopher Marquis

◉ 編集部注
「Bコーポレーション(B Corporation, B Corp)」は、もともとはアメリカの非営利団体である「B Lab」が提唱した新しい企業のあり方と認証制度を指す。それが世界各地に広まるにつれ、国や自治体によっては「ベネフィット・コーポレーション」という法人形態として法制度化されるようになっている。
B Labによる認証制度と、行政による法規定を区別するため、本論文の翻訳にあたり、以下のように表記を使い分けている。

Bコーポレーション:B Labによって「Bコーポレーション」として認証された企業
Bコープ認証:Bコーポレーションを認証する制度
Bコープ・ムーブメント:B Labが中心となって、Bコーポレーションの考え方を推進するイニシアチブ
ベネフィット・コーポレーション:国や地域の法律によって定められた法人形態、もしくはそれを採用して登記された企業

なお、「Bコーポレーション」は「Bコープ(B Corp)」と略称で表記されることも多いが、生協など協同組合の「コープ(co-op)」との混同を避けるため、認証された法人を指す場合は「Bコーポレーション」、「Bコープ認証」のように他の単語と組み合わせる場合は略称を使用している。

2018年4月12日、ダノンNA(Danone North America)はニューヨークのマンハッタンで、最新の業績を祝うパーティーを開いた。マリアノ・ロザノ最高経営責任者(CEO)が主催したそのパーティーの様子は、リアルタイムまたは録画映像を通して、世界中のダノンの従業員に届けられた。この日は、ダノンNAの創業1周年を記念する日でもあった。ダノンNAは、ダノンの北米の酪農部門とホワイトウェーブ・フーズ社が合併し、誕生した企業だ。

さらに重要なことに、この日は同社が「ベネフィット・コーポレーション」となって1周年を迎える日でもあった。ベネフィット・コーポレーションとは、近年世界各国で法制化されつつある革新的な法人形態で、株主だけでなくすべてのステークホルダーの利益に対するコミットメントとアカウンタビリティを果たす企業であることを明示するものだ。

パーティーにおいてロザノは、ダノンNAが正式にBコープ認証を受けたことも発表した。Bコープ認証とは、第三者機関であるB Lab(ビーラボ)による認証制度で、環境面・社会面・ガバナンス面において高い基準のパフォーマンスを発揮していること、そして、これらの点で課題があれば正直に公表し透明性を保つことにコミットする企業であることを証明するものだ。

認証時点のダノンNAの年間売上高は60億ドルで、世界最大のBコーポレーションとなった(それ以前のトップ企業の倍の規模である)。マンハッタンでのパーティーのあと、親会社ダノンのエマニュエル・フェイバーCEOは、2030年までに世界中のダノングループ全社のBコープ認証取得を目標にすると発表した(のちに2025年に繰り上げられた)。フォーチュン・グローバル500企業に名を連ね、収益300億ドルを超えるダノンがこのようなコミットメントを見せたことは、世界規模での「Bコープ・ムーブメント」が飛躍への転換点に近づきつつあることを示している。今後は、すべてではないとしてもほとんどの企業が、どうすれば「よい業績を上げる」だけでなく「世のためになる」ことを実現できるのか、という課題に直面するだろう。

Bコープ・ムーブメントは、非営利団体のB Labが主導する取り組みで、社会に広がり始めている、ある問題意識に対する解決策の提供を目指している。その問題意識とは、世界で今起こっている数多くの課題―気候変動、収入格差、各地が直面するCOVID‒19(新型コロナウイルス)感染拡大対応の困難さ、さらにはアメリカの社会制度に蔓延する人種間格差など―の根源は企業の「株主第一主義」であるという見方だ。アメリカではマルコ・ルビオ(共和党)、エリザベス・ウォーレン(民主党)両上院議員をはじめ、党派を超えた多くの政治家が、株主優先の企業哲学がアメリカ経済に多大な損失をもたらしたと非難してきた。最近では、企業のリーダーの間でも同じ見方が広まり始めている。アメリカの有力企業のうち約200社が名を連ねる業界団体であるビジネス・ラウンドテーブル(BR)は、「企業のパーパス(存在目的)」に関する新たな声明を出し、株主のニーズに答えるだけでなく、従業員、消費者、社会を含むすべてのステークホルダーを重んじることを企業に奨励した。

しかし、こうした声明や奨励などのコミットメントには、言葉だけで行動が伴っていないのではないかという批判もある。たとえば、BRの会員であるホテルチェーンのマリオットは、COVID‒19危機の中でアメリカ人従業員の大部分を一時解雇したが、その一方で、株主への配当に1億6,000万ドル以上を支払い、CEOの昇給を求めていた。また、米国機関投資家評議会(CII)は「あらゆる人に対する説明責任は、誰に対しても説明責任を果たさないに等しい」として、「企業のパーパスの方向転換」という潮流を否定するという踏み込んだ対応をとった。

Bコープ認証のモデルは、このアカウンタビリティの問題に真正面から取り組むためのツールと方法論と制度的枠組みを提供し、企業の活動がすべてのステークホルダーを重んじる長期的価値と整合性をとれるように支援するものだ。また、一般消費者との信頼やブランド価値の構築にも役立つ。さらに、認証審査の過程を経験することによって、企業が継続的な改善に取り組むようになることも示されている。とはいえ、ごく最近まで、B LabによるBコープ認証の対象は、キックスターター、オールバーズ、キャスパー、ボンバスなどの中小企業が中心だった。しかし、B Lab自らが述べているように、彼らの究極の目標が「すべての人が分かち合える長い繁栄という共通の目的達成に向けて、それぞれが活動する世界経済」の推進であるなら、大手の上場多国籍企業をムーブメントに引き入れなければならない。

この論文では、筆者が近著『よりよいビジネス―Bコープ・ムーブメントは資本主義をどうつくり変えるか』(未訳/Better Business: How the B Corp Movement Is Remaking Capitalism)のために行った綿密な調査に基づき、大手上場多国籍企業のBコープ認証における課題と恩恵を分析する。ダノン、ユニリーバ、ローリエイト・エデュケーションなど、最初にベネフィット・コーポレーションとして認められた上場企業や、最初にBコープ認証を受けたブラジルの化粧品メーカー、ナチュラを例として取り上げる1

本記事の中心的な問いは、「大手多国籍企業が認証を受けられるように、かつ、一般市民の監視に耐え、B Labが求める高い基準を維持できるように、この認証システムを調整できるのか」というものだ。消費者はもっともながら大企業を警戒する。企業の意図に疑いを抱き、何か判断ミスがあればたちまち拡散する。そのため、大企業を引き入れることでこのムーブメントの誠実さが損なわれるのではないかと心配する支援者もいる。しかし、COVID‒19危機とその経済的な打撃のただなかで、より持続可能でレジリエンス(しなやかさ・回復力)の高い資本主義を構築するには、大手の上場多国籍企業も厳しい評価方法と手順を取り入れ、すべてのステークホルダーについて真剣に考えていくべきなのである。

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