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日本企業が切り拓く価値共創型リサイクルビジネス: 生産者も消費者も「参加したくなる」循環のつくり方

日本企業が切り拓く価値共創型リサイクルビジネス: 生産者も消費者も「参加したくなる」循環のつくり方

リサイクルには落とし穴がある。
優れた技術があっても回収の仕組みがなければ価値がないし精巧な仕組みでも押しつけと受け取られれば消費者は参加しない。このジレンマをまったく新しい方法で乗り越えた日本環境設計(JEPLAN)とバリューブックスの取り組みを紹介する。

※本稿は、SSIR Japan 編『スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版 02 社会を元気にする循環』より転載したものです。

荻野進介 Shinsuke Ogino

無駄にしない努力」から「価値を生む仕組み」へ

リサイクルといえば、身の回りの不用品を業者や自治体に無償、あるいは有償で引き取ってもらうこと、と考えてはいないだろうか。むしろ重要なのはその先、つまり回収されたものがどのような経路をたどり、どう処分されるのかを、消費者自身が意識することにこそあるが、そこまでの関心の高まりはいまだ感じられないのが実情だ。

そうしたなか、人々が進んでリサイクルに参加・協力する仕組みを構築している企業が現われている。多くの人をして不用品を持参させ、その行く末に関心を払わせ、次もまた持参しようと思わせる。そんなかたちで、商品あるいは物質の循環の輪を巧みに廻しているのである。

最初に紹介する企業は、神奈川県川崎市に本社がある日本環境設計(2022年6月1日付でJEPLANに社名変更)である。不要になった衣服やプラスチック製品を、消費者自ら、それらを購入した店舗に置かれた回収ボックスに持参する。それらを、各素材に応じてリユース・リサイクルするだけでなく、素材によっては自前の技術と協力会社の技術を用いて最初の原料にまで戻し、メーカーや商社に素材として売る(もしくは素材から製作した商品を消費者に売る)というユニークな事業を展開している。

もう1社は長野県上田市で古本ビジネスを展開するバリューブックスである。買い取り希望のユーザーが送ってきた古本は需給の関係などから、回収したうちの半数は値がつかず、廃棄、つまり紙レベルのリサイクルに回さざるを得ない。この貴重な本という商材が日々大量に廃棄されてしまう現実に向き合い、何とか別のリサイクルや活用法はないかと模索し、実行している日本最大級のネット古書店である。

本稿では、この2社の事例から、循環型経済をさらに拡大させるための企業のあり方を考えていきたい。具体的には、生産者も消費者も参加したくなる価値共創型リサイクルビジネスを企業が回していくためのポイントを、❶ハブを担うプレイヤーの存在、❷消費者起点で回す、❸回転することでブランド化し、自律的に回りつづけるようになる、という3点で整理し、「循環のジャイロ」としてモデル化していく。

ボトルからボトルへのリサイクル

長さ数ミリの直方体に近い、白いペレット(小さな塊)。神奈川県川崎市の臨海部に位置する日本環境設計の子会社・ペットリファインテクノロジーで製造されているそれは、ペットボトルの原料となる樹脂である。何からできているのかといえば、何と使用済みのペットボトルなのだ。同社は、使用済みペットボトルを分子レベルまで分解し、汚れや色、異物を取り除いたうえで、再びペットボトルの原料として使える材料にする技術(ケミカルリサイクル)を商用で実現する、世界で唯一の会社である。

川崎市にあるペットリファインテクノロジーの工場

1997年施行の容器包装リサイクル法により、日本ではペットボトルの約90%が自治体によって回収されているが、その多くは破砕、洗浄され、再生樹脂として生まれ変わり(=メカニカルリサイクル)、海外などに輸出される。それらはペットボトルや衣服などに生まれ変わるものの、3回以上のリサイクルは難しく、最終的には焼却されてしまう。もう一度、新品に生まれ変わる「ボトルからボトル」のリサイクルは、回収率が世界でも抜きん出て高い日本においても10%ほどしか行われていない。

同社の親会社にあたる日本環境設計会長の岩元美智彦が話す。「前事業会社からこの事業を買収したのが2018年3月で、プラントが稼働を始めたのが2021年10月です。補助金に頼ることなくプラントを稼働させ、本格的に商用での運用がなされていて、利益も出ています」。

ペットリファインテクノロジーでは京都市や釧路市など、いくつかの自治体と提携し、回収されたペットボトルの引き受け(購入)を決めた。「ペットボトルがペットボトルになる。こんなにわかりやすいリサイクルはありません。子どもたちにこの話をすると目を輝かせるんです。これが広まれば、ペットボトルをつくるために、石油を掘り出さなくて済む。これまで、衣服、プラスチック製品、携帯電話などのリサイクルに携わってきましたが、自治体と組んでやれるペットボトルは回収が効率的でインパクトが大きい。リサイクルの最優先課題として力を入れていきたい」。

服からバイオエタノールをつくる

岩元は大学を卒業後、大阪の繊維商社に入り、営業マンとして働き、回収したペットボトルからつくった再生ポリエステルの用途開発に携わっていた。2006年、たまたま読んだ新聞記事で、トウモロコシからバイオエタノールが生成可能だと知り、「トウモロコシと同じ植物である綿からも、バイオエタノールがつくれるのではないか」とひらめいた。

異業種交流会で知り合った大学院生、髙尾正樹に話すと意気投合、古着のTシャツを用いて技術開発に成功する。2007年に2人で創立したのが日本環境設計だ。「工業用の基礎原料となるエタノールは、プラスチックはじめ、さまざまな製品に転化させることができますし、車などの燃料にもなる。このリサイクルを広範に活用すれば、我々が生きていくのに欠かせない石油への依存度が大きく低下する。地下資源を必要としない社会が生まれるかもしれない」。

技術は手に入れた。次は“原料”となる古着をかき集めなければならない。が、企業や役所を回っても色よい返事は得られなかった。五里霧中のなか手を差し伸べてくれたのは、良品計画の金井正明社長(現会長)だった。「小売店やメーカーがものを売るだけの時代は終わった。これからは、使い終えたものを集めるところまでやって初めてお客さんがきてくれる」(岩元、2015)と声をかけてくれたのだ。

小売店に置かれているハチのボックス

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