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危機を乗り越えるミッション・ドリブン・リーダーシップ

非営利団体のマネジャーに1つアドバイスしよう。それは、世界がひっくり返るような危機が訪れたときには、長期的視点で臨むということだ。

アレックス・カウンツ Alex Counts

著述家であり教育者でもあるケン・ベインは、かつてこう書いている。『教えるという人間の試みは、めったに過去からの恩恵を受けることがない。ー中略ー(偉大な教師の)洞察というのは、たいていは彼らの死とともに無くなってしまうので、次の世代は、彼らが実践してきた英知を改めて見つけ出さねばならない』

ベインの教えは、ミッション・ドリブン型の組織を率いるリーダーたちにこそ当てはまるのではないか。ミッション・ドリブン型の組織とは、自分たちの使命(ミッション)を軸に行動する組織のことを言うが、私がそう考えるようになったのは、ノーベル賞受賞者ムハマド・ユヌスのもとで10年ほどメンターシップを受けた後、1997年にグラミン財団を創設し、18年にわたって率いてきたからだ。そのグラミン財団の経営から徐々に身を引くにあたり、私はそれまでの活動を通して身につけてきた最も大切なことを記録に残すことにした。

この作業は、感傷、苦悩、楽しみ、浄化、困難が入り混じったプロセスとなった。800ページにわたって書き散らかしたこの記録は最終的に300ページに凝縮され、2019年に『正気を失わずに世界を変える:社会起業時代におけるリーダーシップのレッスン』(Changing the World Without Losing Your Mind: Leadership Lessons from These Decades of Social Entrepreneurship)として出版された。

非営利のリーダーシップにまつわる大方の回顧録とは異なり、私は達成したことよりも洞察に焦点を当てた。「自画自賛ではなく、むしろ告解のようだ」と評した人もいた。各ストーリーに込めたものは、私が重視し、活用した考え方やテクニック、そして実践だ。いずれの事例も、もっと早く知っていればよかったと思うものばかりである。そして、後半3分の1はミッション・ドリブン・リーダーのためのセルフケアに焦点を当てた。本書のメッセージは、多くの読者やレビューを書いてくださっている方々の心に響いたようだ。

2021年5月18日、危機的状況下でのリーダーシップに焦点をあてた新たなイントロダクションとエピローグを加えた改訂版が発行となった。初版発行時には予想もしていなかった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるコロナ禍で舵をとるリーダーたちのために、これらを新たに追加したのだ。

以下はエピローグからの抜粋である。そしてこれは、私がこれまでの社会的危機から学んだ教訓を伝えようとする試みでもある。危機の性質こそ異なるが、パンデミックとその余波の中でミッション・ドリブン型の組織を率いる際にも、これらの教訓が当てはまるだろう。

               *  *  *

決定的なことが起きた。この会議は絶対にこれ以上は進められない。

2001年秋のある朝、私は、ニューヨークの象徴であるハーレム地区で、運営するマイクロクレジットのプログラムについての執行委員会で議長を務めていた。だが、この会議は、ほんの数マイル先のローワー・マンハッタン地区にあるツインタワー(ワールドトレードセンター)に飛行機が突っ込んだと、誰かが知らせに来たことで中断された。我々は、不幸な事故と思われるものが起きたことを聞き、少しばかり心配になり、一瞬固まったものの、そのまま会議を続けた。

しかし、2機目の飛行機がもう1つのタワーに突っ込んだと聞いた途端、もはや通常通り仕事をする事態ではないと気付いた。会議に参加していた全員が愛する人に電話をかけたり、ビルを後にしたりし始めたからだ。

多くの人々と同様に、そして特に我々のように、9/11にニューヨークにいた人々は、あの日とその後のことを鮮明に覚えている。125丁目の歩道で、電気店の窓越しにテレビ画面に流れるニュースを見たこと。体の弱い父がどこにいるのか、医者からの帰り道無事に81丁目のアパートにたどり着けたのかと案じたこと。そして、すべては変わってしまったと理解しつつも、この先、自分や自分の率いる非営利団体、そして自分たちを取り巻く世界に何が待ち受けているのかを知る由もないままあの晩ベッドに入ったこと。

この先に待ち受けている困難な課題に立ち向かうには力不足だ。私は、そう痛感していた。だが、ベストを尽くさねばならない。そのためには、まずはしっかり眠ることだ。それがいちばんのように思えた。休むことで、この先の数週間に私が必要とする知恵や勇気や努力を呼び起こすことができるかもしれないからだ。そして、この小さな最初のステップが、それに続く数ヶ月の困難な道のりのスタートとなった。

追い風も向かい風も乗りこなす

非営利組織のリーダーにとっての危機は、主に2つある。ひとつはその組織だけが打撃を受けることによって引き起こされるタイプのもの。原因はさまざまだ。主な資金提供者から寄付の中止を告げられる。真偽を問わず、組織のダメージとなるニュースがメディアに流れる。スタッフが反乱し、自分の雇った人から解雇を求める集団的決議が理事会につきつけられる。最高財務責任者が50万ドルを持って姿をくらます。自分の非営利団体に対して大規模な訴訟が提起される、などなど。

そしてもうひとつは、非営利を含め社会全体、あるいは社会の大部分に影響が及ぶシステマティックな、あるいは環境的な打撃によって引き起こされるタイプの危機だ。たとえば、景気悪化、自然災害、テロ。今回のパンデミックもこれにあたる。

いずれのタイプの危機にも共通点はあるものの、重要な点が異なる。ある組織だけが危機に陥っている場合には、やり方さえ知ってさえいれば、たいていはリーダーが組織の運命のかなりの部分をコントロールすることができる。しかし自分たち以外は影響を受けていないため、競合組織に寄付者や人材が流出し、ダメージを受けた組織がさらに弱体化してしまう可能性がある。

一方、社会全体が危機的状況下にある場合、リーダーが組織の運命をコントロールすることなどほぼ不可能だ。しかしながら、仲間の団体やその支持者たちも、あなたの非営利団体と同じくらいマイナスの影響を受けているはずだ。だから、寄付者や社会的投資家、従業員を、あなたから引き離すような事態にはならないだろう。彼らもあなた同様、なんとか水面に顔を出しておくことだけに集中しているからだ。そして、あなたの組織だけが危機に瀕している場合とは違って、比較的簡単に、同じように打撃を受けている仲間からサポートや励ましやアイデアをもらうことができる。

私は両方のタイプのトラウマを、組織のリーダーとして乗り越えてきた。失敗もしたし傷も負ったが、危機的状況下で組織を率いるための実践済みで効果的なアプローチも身に着けた。しかし、そういったストーリーや教訓を語る前に、多くのミッション・ドリブン・リーダーが忘れがちな極めて重要なポイントを2つ指摘しておきたい。

好調のときには、組織の強みが発揮される。しかし危機のときには、その弱点が露呈し強調される。

いずれも、当たり前のように聞こえるかもしれない。しかし、その本当の意味を考えてみると見えてくることがある。

非営利団体に追い風が吹いているとき、たとえば好景気のときには、その追い風が続く限り、前向きの推進力を最大限に活用する。具体的には、好意的にメディアに取り上げてもらったり、政府の支援を享受する戦略をとったりなどだ。それがあなたの課題となる。しかし、比較的簡単に前進できるように思えるときでも、慢心してはいけない。そして、協力者や支持者によい顔をしようと、彼らが提供可能なものを下回る支援を求めることは断じてしてはいけない。

逆に、寄付金集めにはどこまでも攻めの姿勢を貫く。トップレベルのスタッフやボランティアを惹きつけるため。そして、不況に備えての積立金を積み立てるために。なぜなら、将来、強い向かい風や危機に立ち向かうときに、その両方が必要となるからだ。有利な状況を最大限活用する機会があったにもかかわらず、そうしてこなかった自分を強く責めるリーダーの話を、私はこれまで幾度となく聞いてきたし、私も若い頃には同じような間違いを何度か犯したりした。

私は今、COVID-19のパンデミックとその社会的経済的な余波の真っただ中でこれを書いている。あなたがこれを読むのは、現在進行中の危機の最中かもしれないし、何か未来の災害の真っただ中かもしれない。もしそうであったとしても、良いときがまた必ず来ると信じてほしい。そして、私の授けるアイデアの中にあなたの状況にあてはまりそうなものがあれば、それを今しっかりと実践してほしい。

さらに、これと同じくらいに重要なのが、状況が好転したら組織を補強し、強化するための資金と人材をどんどん投入する準備をしておくことである。なぜなら、好ましい環境というのもまた、永遠に続くわけではないからだ。

生き残るために、自分の中のより良いリーダーを呼び起こす

さて、エピローグの最初で述べた9/11の同時多発テロの直後に戻ろう。

私がまず注力したのは、組織を生き残らせることだった。つまり資金集めだ。机の前に座ると、ちょっとしたアイデアが浮かんだ。当時広まっていたリベラルな感情を利用してはどうか、と。イスラム過激派によるテロ攻撃の直後、見識ある西欧人たちは穏健なイスラム教徒を支持する姿勢を示す必要性を感じていた。そのため私は、パキスタンでのマイクロファイナンスの重要なパートナーであり、カリスマ的なロシャネ・ザファールという現地の女性が率いるカシフ財団への寄付を募る緊急募金の提案をしてみた。しかし、理事長と副理事長は賢明にも、「善かれと思ってのこととは思うが、適切な計画ではない」と、諭してくれた。

そこで今度は、資金提供者に向けてもっと熟考したメッセージを書くことにした。それをファンドレイジングのコンサルタントに読んでもらったところ、「まず、組織のニーズばかりで、関わっているミッションへのフォーカスがなさすぎる」と指摘された。さらに、「支援を受ける側の心理状態や感情への懸念表明という観点からみても不十分」とダメ出しされた。

彼らの多くは、ニューヨークやワシントンといったテロ攻撃で大きなダメージを受けた地域に住んでいる。しかし、彼が本当に言いたかったのはもっと視座を上げろということだった。「アレックス、こんなご時世に、人々があなたのような非営利団体のリーダーに求めるものは、指導力、安心感、インスピレーション、そして知恵だ。君らしい方法で、そういったものをこのメッセージの中で伝えるべきだ」

私は最初、彼の言葉にひるんだ。私は34才で、このアピールを受け取る人のほとんどは自分より年長の人々だ。グラミン財団の将来はどうなるのか。財団が消滅してしまったら、私はどうなってしまうのか。不安は募るばかりで、時に圧倒されそうになった。しかし、彼の言葉が腹落ちしたとき、自身の内側からより良いリーダーが呼び起こされた。私が注目すべきだったのは、自分や自分が設立した駆け出しの組織の状況ではない。貧困と戦うという我々のミッション、そして我々が世界をより良くするために資金や時間を提供し、力になってくれた人々の思いや感情。そうしたものに、もっと目を向けるべきだったのだ。

レターを書き直し、発送の手配を整えると、不安は少しばかり和らいだ。そのときにはもう、自分の将来の不安についてはあまり考えないようになっていた。そして、従業員や理事、ボランティア、資金提供者にグラミン財団のためにベストを尽くしてもらえるよう、彼らが私に何を求めているのかということについて、もっと考えるようになった。どのようなものであれ、彼ら自身のニーズについても関心を寄せるようにもなった。

組織に安定と自信を取り戻すために、そして、ただ組織を維持するだけでなくミッションを前に進めていくために、ゆっくりと入念に、大小さまざまな仕事に集中し始めた。この2つの目標を達成するには、すでに我々に関わってくれている人たちとの関係性を強め、彼らの感情に深くコミットメントする必要がある。これには時間がかかったものの、単に回復するだけでなく、組織としてより強くなることができた。2年後には元通り軌道に乗っただけでなく、2003年から2005年にかけて組織を3倍の規模にまで成長させられるだけの備えもできた。

危機的状況にあるときほど長期的視点で臨む

社会全体が危機に陥っているときには、支持者たちも自身のニーズに傾きがちになる。そのため、なかには一時的に連絡が途絶えてしまう人もいるかもしれない。そんな局面に遭遇したら、批判や不平、怒りに任せた対応をしたくなるかもしれない。それでも、ぐっとこらえてほしい。おそらく彼らも過度な緊張やストレスを感じていて、あなたや他の人たちを落胆させてしまうことに罪悪感を感じているかもしれないからだ。だから、彼らには思いやりを示してほしい。彼らが平穏な環境を取り戻せば、あなたが理解してくれたことを思い出し、支援を再開してくれるだろう。

2008年の金融危機直後、詐欺師バーナード・マドフに多額の資金を投資していた寄付者のひとりが、我々の財団への融資保証の約束を取り下げることになるかもしれないと連絡してきた。その知らせを聞いて、影響を受けるプログラムに携わっていたスタッフたちはパニックになり、法的強制力のある権利があと2年は保証されていると言い出す者もいれば、裁判を起こすと脅してはどうかと言ってくる者もいた。

確かに特殊な状況ではあったが、存亡の危機に誰かを非難したくなるのは、人間としてごく自然な感情だ。このことは、危機的状況下にあるリーダーなら誰もが想定しておくべきものであり、乗り越えていかねばならないものでもある。困難な状況にあっても、勇気をもって助けを求めれば、ミッション・ドリブン型の組織に新たな支援を申し出たり、特別な理解を示してくれたりする人や団体が出てくる。

何を言いたいのか、例をあげて説明しよう。グラミン財団は2年目以降、毎秋、テッド・ターナーによって設立された国連財団から、使用用途に制限のない1万ドルの助成金を受け取ってきた。この助成は、グラミン財団の創設理事であり、インスピレーションあふれるリーダーであるムハマド・ユヌスへの尊敬の念に動かされてのものである。

2001年9月11日の1週間後、致死性の高い炭疽菌入りの郵便物がアメリカ中に届き始め、5名の死者のほかに、感染者も出した(アメリカ炭疽菌事件)。これがもたらしたパニックとセキュリティ上の制限で、大量の郵便物が数ヵ月にわたって滞り、我々の財団の郵便物も大量の遅配が続いた。しかし、多くの心配事に追われていた私は、財団の発展を担ってきた国連財団の助成が止まるかもしれないなどとは考えもしなかった。実際、そんな心配は無用だった。私が問題に気付く前に、国連財団の誰かが、ある晩、時間外に我々のビルに何とか入ってきて、手紙と小切手の入った何の変哲もない封筒をオフィスのドアの下に置いていったのである。

この思いやりに満ちた行動に、私は今でも感動を覚える。我々は一時的に混乱に陥っていて、そのことを国連財団のスタッフにも伝えていたにもかかわらず、彼らは我々のニーズをきちんと理解してくれていた。彼らは緊急性と理解をもって行動してくれたのである。最も必要なときに彼らが寄り添っていてくれたことを、私は決して忘れたことがない。

ところで、マドフの犯罪的ポンジ・スキームのせいで資金繰りが苦しくなった寄付者にも、私は法的措置をほのめかすようなメールを送るようなことはしなかった。そんなことをしたら、彼を動揺させ、さらには憤慨させてしまったかもしれない。その代わりに、理事長に問題を報告し、意見を求めた。理事長は、「訴訟沙汰にすべきではない。特に、これまで私たちのためにこれほど貢献してきてくれた人を訴えたりしてはいけない」と断言した。そして、寄付者に電話をし、債務の不履行を補うために個人的に資金援助をすると申し出た。理事長が寄付者の代理で支払いをするというのである。この寛大な振る舞いは緊張を和らげただけでなく、組織全体により大きな善意と連帯をもたらした。結局、この保証金が必要となることはなかったので、寄付者も理事長も支払いをせずに済んだ。

これらのストーリーから私は2つの教訓を学んだ。第1に、期待を裏切られたときには長期的視点で臨むこと。思いやりをもって接すれば、その寛大さが他の人からの同じくらい寛大な行動を呼び起こす。

第2に、危機的状況下では、パニックにならずに緊急に規律にのっとった方法で、支援のための特別な手段を講じてくれる人がいないか、周囲をしっかり見渡してみること。

2020年にパンデミックが始まって以来、寄付者のニーズを尊重して、資金調達の中断がベストと判断した非営利団体のリーダーもいるだろう。だが、それは大きな間違いだ。困難な状況にあっても、自分の組織のミッションの重要性を信じているならば(その重要性を信じるべきだが)、寄付者や仲間があなたのやっていることや必要としていることに耳を傾けてくれないだろうなどと見くびってはいけない。逆に、彼らに連絡をとり、あなたが興味や関心をもっていることを示し、あなたが今何をやっているかを知らせ、アドバイスをもらうのだ。関係性や状況に応じた適切な手段で、なんとしても経済的支援を求めるのである。

もちろん、断ってくる人もいるだろう。しかし、まったく予想もしないところで、あなたのために立ち上がってくれる人もいるはずだ。

【翻訳協力】トランネット
【原題】Leading in a Time of Crisis (Stanford Social Innovation Review, Jul. 13, 2021)
【写真】ThisIsEngineering on Pexels

アレックス・カウンツ Alex Counts

メリーランド大学公共政策部、Do Good Instituteの非常勤講師。非営利コンサルタント、作家。グラミン財団の創設者として、18年にわたってPresident兼CEOを務めた。現在は、インドで人道支援に関わる13の先駆的NPOの連合であるインド・フィラントロピー・アライアンスのディレクター。著書に『When in Doubt, Ask for More: And 213 Other Life and Career Lessons for the Mission-Driven Leader』がある。

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