
プライベート・エクイティ市場のダイバーシティ&インクルージョン
誰でも出資者になれる新たな法制度の成立は、これまで社会の主流から取り残されてきた人々の地位向上につながるかもしれない。
ただし、それには条件がある。その新しい市場においてこうした人々が分け隔てなく受け入れられる基盤が整っていることだ。
※本稿は、SSIR Japan 編『スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版 02 社会を元気にする循環』より転載したものです。
アンジー・キム Angie Kim
2012年4月5日、バラク・オバマ大統領の署名により、「新規事業活性化法(Jumpstart Our Business Startups Act)」、通称「JOBS法」が成立した。ホワイトハウスのローズガーデンで署名式典に臨んだオバマ大統領は、同法について「これまでの流れを一変させる可能性がある」として、次のように説明した。「これまでは資金を調達するのに、銀行や富裕層などごく限られた投資家に頼るほかなかったが、この法律の成立を機にスタートアップや中小企業は、資金調達先としてアメリカ市民という膨大な数の新たな投資家予備軍に頼れるようになる」
大統領の見立ては正しかった。同法の第3章(レギュレーション・クラウドファンディング、略称レギュレーションCF)と第4章(レギュレーションA+)が一般の人々による投資のあり方や参加資格をがらりと変えることになったからだ。この新しいレギュレーションの制定によって、小規模スタートアップに新たな資金調達の道が開かれ、投資の民主化、つまり一般大衆による小規模スタートアップへの個人投資が可能になり、新たな市場の創造・実験に大きな刺激を与えることになった。
だが、それだけでは人種間の貧富の差を縮小し、市場の民営化が有色人種に及ぼす悪影響を是正するには十分とはいえない。現在の状況で懐が潤うのは、ノウハウも人脈も資本もあって、既得権に恵まれた主に白人主体の富裕層にほかならない。この新しい金融市場は、財団、インパクト投資家、金融分野の専門家が有色人種の先駆者たちを応援し、彼らが企業のオーナーや経営者、創業者、投資家、そして投資先の多様性を実現するための千載一遇の機会である。
新たな市場の誕生
JOBS法第3章のおかげで、純資産保有額100万ドル未満の個人投資家でも、金融取引業規制機構(FINRA)登録の公開型クラウドソーシングプラットフォームを通じて広くリスクを分散させるかたちで、スタートアップや成長企業に出資できるようになった。この変革で、非公開企業はこれまで以上に資本を調達しやすくなる。第3章が制定される前は、スタートアップは主に富裕層や機関投資家から、私募のかたちで資本を集めていた。今やクラウドファンディングを通じて、いつでも誰でも出資可能になった。かつては全体の1%という一握りの人たちだけのものだった投資機会が、残る99%の普通の人たちにもようやく開かれたのである。
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翻訳者
- 斎藤栄一郎