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投資先の行動を変えたければ「株売却」より「意思表明」を

投資先の行動を変えたければ「株売却」より「意思表明」を

※本稿は、SSIR Japan 編『スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版 05 コミュニティの声を聞く。』より転載したものです。

ダニエラ・ブレイ

シカゴ大学ブース経営大学院教授のルイジ・ジンガレス(財政学)は、コーポレートガバナンスが専門で、現在の研究テーマは「投資家・顧客・従業員が、企業の経営陣に対して、自身の価値観や優先順位をどのように主張しているか」である。

多くの企業にとって、利害関係者のさまざまな要望に応えることは不可能に思えるかもしれない。ノーベル経済学賞受賞者で自由市場の重要性を説いた経済学者ミルトン・フリードマンは、企業は株主に配当を出せるように最終損益の最大化を目指せばよく、その使い道については株主の要望に応えるべきだと論じた。しかし、ジンガレスの主張は異なる。

彼は最近、ハーバード大学教授のオリバー・ハート(経済学、ノーベル経済学賞受賞者でジンガレスの元アドバイザー)、イタリアのトレント大学教授のエレオノーラ・ブロッカルド(経済学)との共同論文を発表した。そのなかで、利害関係者が企業の経営陣に利益の最大化以外にも目を向けるように促す2 つの戦略(後述の「離脱」と「主張」)について比較している。その結果、社会や環境への問題意識が高い投資家は、経営陣の判断に影響を与え、企業がより大きな社会的貢献を果たすように方向転換させるとともに、収益の改善にも貢献することが明らかになった。

本研究では、利害関係者が企業に対して圧力をかける戦略を「離脱(exit)」と「主張(voice)」という2種類にモデル化して比較した。離脱戦略は、「株の売却」や「顧客、従業員によるボイコット」など、自らの行動を通して意見を表明する方法だ。主張戦略は、主に株主総会での投票を通して意見を伝え、企業の経営判断に積極的に関わろうとする方法を指す。社会や環境問題への懸念が株主を通して表明されることによって、企業に変化を求める圧力も増している。しかし、投資家が企業の行動に影響を与えるためにどのような戦略をとるべきかが本格的に研究されるようになったのは、ごく最近のことだ。

研究チームは、多くの投資家には共通する3つの要素があるという仮説を立てた。それは「社会的責任を果たす投資に一定程度の関心を持っている」「十分に分散したポートフォリオ構築を目指している」「株主の投票基準は個々人の優先順位が反映される」というものである。これに他の基本仮説も踏まえて離脱と主張の2つの戦略を比較したところ、よりよい社会的なアウトカム(成果)を生むためには、主張戦略のほうがはるかに効果的であることが明らかになった。ジンガレスは次のように話す。

「離脱戦略があまり効果的でないという結果には、それほど驚かなかった。驚いたのは、2つの戦略の効果の差のほうだ。先行研究より、結果に極端な差が見られたのである」

研究チームは1984年に起こった企業による環境汚染の事例を取り上げて、株の売却やボイコット運動が、企業の意思決定や経済的コストにどう影響したかを具体的に示している。化学会社のデュポン(現ダウ・ケミカル)は当時、有毒物質でオハイオ川を汚染するか、焼却施設に投資するかの選択を迫られていた。これに対して投資家たちは離脱戦略をとったが、企業に汚染除去の費用を負担させることは叶わず、環境改善には至らなかった。さらに悪いことに、まったく社会的関心のない第三者によってその戦略自体が台無しにされてしまった。社会課題に関心の高い投資家たちは、企業に圧力をかけるために株価を下落させて世間の注目を集める。ところが、それを新たな株式取得の好機とみなした利己的な投資家が現れ、再び株価を押し上げてしまうのだ。この意図していなかった結果によって、経営陣に行動を促すインセンティブは潰されてしまう。

研究チームにとって意外だったのは、主張戦略のほうが明らかに企業の行動変化を実現しやすいという結果が出たことだ。ジンガレスは次のように指摘する。

「フリードマンの世界は、単純で都合がいいかもしれない。得るものが少ないよりは多いほうがよいという価値観だからだ。それに従うなら、企業は利益の最大化に努めるだけでいい。しかし、投資家がそのやり方を好まなかったとしたら、企業はどうすべきだろうか?」

本研究は、これまで信じられてきた社会通念に反して、ほとんどの投資家は、自分たちの決断が経済的コストを上回る社会的インパクトをもたらすのであれば、多少株価が下がってもかまわないと考えていることを明らかにした。スタンフォード大学経営大学院教授のアミット・セル(財政学)は次のように述べている。「この論文は、株主だけの利益最大化か、ステークホルダー全体の利益最大化かという論争に終止符を打てるような、独自の枠組みを提供している」。投資家は企業の経営陣に意見を表明して積極的に働きかけることによって、社会にとってよりよい結果をもたらしてきたのだ。

最後に、ジンガレスの提言を紹介したい。「変化を起こす最善の方法は、立ち去ることではなく働きかけることだ。問題は、今日ほとんどの株を所有するのがブラックロックなどの機関投資家であることだろう。そのため、個人投資家が企業に自分たちの意向を伝えることが難しくなっている。私たちは、投資家が企業に何を優先してほしいかを主張できる仕組みを構築しなければならない」。

【翻訳】田口未和
【原題】For Investors, Protesting Beats Divesting(Stanford Social Innovation Review Spring 2023)
【イラスト】Illustration by Adam McCauley

ダニエラ・ブレイ

歴史学家、作家、学術書の編集者。これまでの著作は個人のウェブサイト(daniela-blei.com/writing)に紹介されている。
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翻訳者

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