Giving Time vs. Giving Money
※本稿は、SSIR Japan 編『スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版 04 コレクティブ・インパクトの新潮流と社会実装』より転載したものです。
チャナ・R・ショーンバーガー
非営利団体は金銭の寄付を望んでいるにもかかわらず、なぜ寄付者はお金ではなく、ボランティア活動による支援を好むのだろうか。また、どのようにすれば、非営利団体は寄付者に対して、金銭的支援を促すことができるだろうか。
このような寄付者の傾向に関する心理的根拠について考察したのが、マーケティングの専門家2名による新論文だ。ノートルダム大学メンドーザ・カレッジ・オブ・ビジネスのジョン・コステロ教授(マーケティング学)と、オハイオ州立大学フィッシャー・カレッジ・オブ・ビジネスのセリン・マルコック准教授(マーケティング学)は、7つの異なる研究を通して、潜在的寄付者がどのようにお金の支援か時間の支援かを選ぶのかを検証している。この問いの根底にあるのは、コントロール感だ。寄付者は自分の寄付したものを自分でコントロールしたがり、お金の寄付よりも、時間の寄付のほうにいっそう強いコントロール感を持っている。
「潜在的寄付者は、(お金よりも)時間の寄付のほうが自分でコントロールしやすいと感じていて、そのことが、寄付や寄付額への関心を高めることに通じるのではないかと考えた」と著者らは述べている。
自分の寄付金がどのように使われるか自分ではコントロールできないと感じた寄付者が、ボランティアとしてその団体に時間を提供するということがよくある。そうすることで、非営利団体を支援しながら寄付したリソースの用途を直接知ることができ、また自分自身の活動も自分で決めることができるからだ。
「研究結果からは、寄付者のコントロール感が得にくい場合、時間の寄付という代替策がとられる可能性があることが示された。簡単な言葉による介入を行うことで、タイムラグはあるものの、寄付者のコントロール感も寄付額も高めることができる」と彼らは書いている。
時間が消費者行動に与える影響を研究しているマルコックは、コステロとともにこの研究課題に取り組み始めた。「人と時間は切り離せない」と気づいたからである。「お金より時間を寄付する傾向があるのは、時間が私たちの一部であるからではないか」。
非営利団体がボランティア活動を募るのは一種のマーケティング戦略であり、より多くの人に参加してもらうための第一歩である。「ボランティア活動は通常、人々を巻き込んで、寄付や寄付額の増額をお願いするための1つの方法である」と、マルコックも書いている。
ここで重要になるのが、お金と時間のどちらを寄付するかという選択を迫られたときに、人々がどう行動するかということだ。「お金を寄付しようとする場合、私は文字通り、お金が自分から離れていくイメージを思い浮かべる」とマルコックは述べている。ボランティア活動はその真逆だ。「時間を寄付する場合、提供した時間に対するコントロールを失うわけではない」。
コステロとマルコックは、この現象について調査する過程で40件の研究を行ったが、見事に同じ結果となった。マルコックは「多くの研究を行っているが、これほどはっきりした結果がもたらされることは稀だ」と述べており、彼女にとってこれが本論文の最も驚くべき点であったことも強調している。
この結果は、周囲をコントロールしようとする人間の生来の欲求からして、理にかなったものだと彼女は述べている。人は慈善活動を行う際に、自分のコントロール感を保つことができるリソースの提供を好むのである。
では、ボランティアよりも金銭の寄付を望む非営利団体は、この調査結果をどう受け止めればよいのだろうか。研究者たちは、寄付を呼びかける際の言葉の選び方など、潜在的寄付者に影響を及ぼす可能性のある、さまざまな介入方法を検証した。誰かにお金の寄付をしようという気になってもらうためには「自分と自分のリソースを切り離して考えるよう強調する」ことが必要だとマルコックは書いている。一番効果があったのは「使う(spend)」という言葉だ。「お金を『出す(give)』か、時間を『出す』かと問われると、人は時間を出す。一方、慈善事業にお金を『使う』か時間を『使う』かと問われれば、人はお金を使う」ということを研究者らは発見した。取るに足りないことのように思えるかもしれないが、言葉の選択ひとつで、聞き手の認識を変えることができるのだ。
「人は、『出す』ことを『交換』と認識する。つまり、自分の提供したものを他者がコントロールすることだと捉える。これに対し、『使う』というときは、他者は介在せずあくまでも自分が主体となる」とマルコックは述べている。
【翻訳】五明志保子
【原題】Giving Time vs. Giving Money(Stanford Social Innovation Review Fall 2022)
【画像】Morgan Housel on Unsplash
参考論文:John P. Costello and Selin A. Malkoc, ”Why Are Donors More Generous with Time Than Money? The Role of Perceived Controlover Donations on Charitable Giving,” Journal of Consumer Research , 2022.
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