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規模の拡大を目指して

規模の拡大を目指して

イノベーションの必要性が謳われ、社会的な事業を行う者も、資金提供者などの支援者も、解決策に「新しさ」を求めてしまいがちだ。しかし世界を見渡せば、今までにもさまざまな場所で優れた解決策が数多く生み出されている。『スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー』創刊号で発表されたこの論文では、成果が確認された「既にある」プログラムの価値に目を向ける。社会的インパクトを拡大するためには、既存のプログラムの何を、どのように複製・再現すべきか? ビジネスで広がるフランチャイズ方式をヒントに、インパクト拡大に向けた実践手法を探求する。

※本稿はスタンフォード・ソーシャルイノベーションレビューのベスト論文集『これからの「社会の変え方」を、探しに行こう』からの転載です。

ジェフリー・L・ブラダック  Jeffrey Bradach

ホームレス問題、識字問題、慢性的な失業―各地の非営利団体は最も困難な社会課題の解決に悪戦苦闘している。しかし、ビル・クリントン元大統領が在任中、教育改革の取り組みを総括する中で述べた通り、「ほとんどの問題は、誰かがどこかで解決してきた」のだ。もどかしいのは、そうした解決策を「他のどこかに複製・再現(レプリケーション)することがなかなかできないようだ」という点である1

米国の非営利セクターは、一部の例外を除いて小規模な事業がほとんどで、何千ものプログラムが、特定の地域、つまり1つの都市や町で実施されている。このような活動形態はたいてい、組織レベルで見ると最適かもしれないが、ある場合には―もしかすると多くの場合には―社会全体にとっては大きな損失になり得る。すでに誰かが確立したものを再び一からつくり直す「車輪の再発明」としか言えないような新規のプログラムに、多くの時間、資金、想像力が費やされているからだ。一方で、すでに効果が実証されている既存のプログラムの可能性は、残念なことに活かされていない。

非営利セクターでのレプリケーション、つまり複製・再現における障壁の1つは、多くの資金提供者が、既存のアイデアの展開よりも「ブレークスルーを生むような」革新的なアイデアへの支援を好む強い傾向があることだ2。もう1つの障壁は、多くの人々にとってレプリケーションというコンセプトが、官僚主義や中央集権的なイメージを抱かせるという事実である。このようなイメージはどの分野においても好ましいものではないが、非営利セクターにおいては、地域の寄付者やボランティアの「当事者意識」が組織の成功にとって非常に重要であることから、なおさら問題となる。また、多くの社会起業家にとっては自律性が大きな精神的報酬となることを考慮すれば、こうした起業家が、自分の夢に比べると、他人の夢をそこまで追いかけたがらないのも理解はできる。

しかし、実際のレプリケーションは決して、「クッキーの型抜き」のような画一的な大量生産プロセスではない。なぜなら、成功しているプログラムの「成果」を再創出することがそもそもの狙いであって、そのようなプログラムの特徴を1つひとつ盲目的に再現することではないからだ。レプリケーションで肝になるのは、ある組織が持つ変化の方法論*を、いかに他の拠点に移植するかである。移植には、ある場所から別の場所へ一部の慣行だけを移すこともあれば、組織文化をまるごと複製する場合もある。具体的にどのような手段をとるにせよ、最適な選択が何であるかを大きく左右するのは、複製元の組織が持つ変化の方法論の複雑さや、その方法論をどれだけ明確化・標準化できるかといった点である(その結果、そもそも複製・再現しない選択もある)3

ここで、非営利セクターでのレプリケーションについて掘り下げる前に、営利セクターにおける類縁とも言えるフランチャイズについて検討する価値はあるだろう。1920年代に誕生したフランチャイズ形式は、現在最も広がっている組織形態の1つであり、米国における小売業の売上のおよそ50%を占めている。フランチャイズ組織は、「各地域の起業家たちのエネルギーや投資」と「同じトレードマークのもとで活動する何百、何千もの異なる拠点を束ねるネットワークの力」を連携させる。もちろん、営利セクターと非営利セクターとでは大きく異なる点もあり、フランチャイズとレプリケーションの類似性は限定的だ。しかし成長を目指す社会的企業は、フランチャイズからいくつかの示唆に富む教訓を得られるのだ4

第1に、実績が証明されたプログラムの価値である。新たな拠点は、他者が育んできた知識を活用することで、事業の立ち上げスピードや、望ましい成果が出る可能性を高めることができる。営利セクターでは、独立したスタートアップ企業を立ち上げるほうが、フランチャイズチェーンの新拠点を立ち上げるよりも、失敗する可能性がはるかに高い。米国中小企業庁の推計によれば、創業5年以内で倒産する小規模スタートアップは全体の約半数である。一方フランチャイズ拠点の場合、5年以内の倒産率は25%と、小企業スタートアップの場合の半分である。つまり端的に言って、レプリケーションは失敗のリスクを減らすのだ。

また、効果が認められたモデルを採用することには、リソースを獲得しやすくなるという利点もある。有名なフランチャイズ拠点は、ブランドの知名度のおかげで商品やサービスへの信頼があるため、新たな市場においても集客が可能だろう。非営利セクターにおいても、これと同じような利点が生まれ得る。たとえば、ハビタット・フォー・ヒューマニティ(Habitat for Humanity)にボランティアとしての参加を検討している人は、団体の活動目的、ボランティア活動に期待できること、活動を通して生まれ得る成果などについて事前に知ることができる。同じように、自分のお金がしっかりとインパクトをもたらしてほしいと考える寄付検討者は、この団体はすでに他の拠点が成功させたプログラムの知見を活かそうとしていると知ることができる。

最後に、各地域のプログラムは、より大きシステムの一員であることにより、単体では手に入らないリソースや専門知識(たとえば、資金調達、人事、法務などに関するもの)にアクセスできるだろう。また、他の拠点からアイデアや知識を得ることもできる。拠点間のネットワークは、実験や学習が自然と生まれる環境である。たとえば、マクドナルドの商品であるビッグマック、フィレオフィッシュ、エッグマックマフィンは、いずれも地域のフランチャイズ拠点が発明したものだ。シティイヤー(City Year)が主催する「ヤング・ヒーローズ・プログラム」も同様だ。中学生による社会貢献活動を後押しするこのプログラムは、今ではシティイヤーグループのシステム全体にわたって広がっているが、もともと立案されたのは同団体の本部があるボストンではなく、ロードアイランド州プロビデンスである。

フランチャイズの核となるのは、複数の拠点で複製・再現可能な、実績ある(つまり、収益性のある)ビジネスアイデアである。それでは、社会課題を解決するアイデアのレプリケーションがとりわけ複雑になるのは、どんな要因があるからなのだろうか? また、レプリケーションにおける主要な課題には、どのように取り組んでいけばよいのだろうか?

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