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都市部のコミュニティに共助の文化をどのように育むか

都市部のコミュニティに共助の文化をどのように育むか

ネイバーフッドデザインで住民の主体的なつながりを生み出す

※本稿は、SSIR Japan 編『スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版 05 コミュニティの声を聞く。』のシリーズ「コミュニティの創造と再生をめぐる『問い』」より転載したものです。

荒 昌史|Masafumi Ara

徒歩圏内のコミュニティに助け合える関係性を

都市部のコミュニティに「共助」の文化をいかにして育むのか。

これが、私が現在取り組んでいるテーマだ。コミュニティにはさまざまな意味があると思うが、私は特に「ネイバーフッド=住まいから歩いていける程度にある距離」に焦点を当てている。その範囲のなかで、近隣の誰かと互いに存在を認知し、いざというときに頼れる相手や場所があるような地域の関係性を育むことを「ネイバーフッドデザイン」と称して、事業として展開している。

なぜ、徒歩圏内の関係性づくりに着目したのか。

原点となったのは、都市開発を行うデベロッパー勤務時代での問題意識だ。都市開発において建物やインフラなどは「ハード」、関係性は「ソフト」と捉えられるが、主流となっているのは、基本的にマンションや商業施設などの大規模な建物(ハード)ありきの開発である。しかし、大規模な都市開発が本当に人々の暮らしや幸福度を高めているのだろうか。ソフト面へのアプローチ、すなわち脈々と流れてきたそのまちの生活文化や人々の営み、そして関係性をエンパワーメントすることこそが本来の「デベロップメント(開発)」ではないかという思いがあった。

そうした思いから、2010年に独立し、HITOTOWAを創業。「ネイバーフッドデザイン」という言葉と出合い、自分なりの解釈をつけ加えながら事業を展開してきた。当初は「住民の関係性づくり」というソフト面のアプローチに対して懐疑的な意見もあった。しかし、東日本大震災や熊本地震、各所での豪雨被害など大きな災害からの復興支援にも携わるなかで、まちづくりにおける「共助」の重要性が見直されるようになっていった。いざ何かが起こったときの「助け合い」は、近ければ近いほど効果的だからだ。

都市部で特徴的な、コミュニティへの「関心のばらつき」

ネイバーフッドデザインをしていくうえで、大きな課題となるのが、「多様な関わり方をどう実現していくか」だ。私たちの主要な活動地域は、都市部の集合住宅やマンションで、活動形態はさまざまだ。マンションの管理組合を支援することもあれば、住民たちが気軽に立ち寄れるカフェ兼集会所のようなコミュニティ・スペースを運営することもある。

もう少し広く多様な関係者と協力してまちづくりを考えていく「エリアマネジメント」に取り組むこともある。これは、地権者や開発事業者、商業・商店主、住民、行政など多様なステークホルダーに参加してもらい、「自分たちのまちらしさ」を対話しながら見出して、それを維持・向上させていく活動である。

都市部で特徴的なのは、近隣の人とつながることへの「関心のばらつき」だ。大都市圏は、住宅の流動性が高く、隣近所の人たちが頻繁に入れ替わるといった特徴があり、助け合いの関係が生まれづらい。濃い人間関係を避けたい人は、地域密着型のコミュニティからも距離を置きたい気持ちがあるだろう。

一方で、当然ながら自分や家族の生活に関わる課題への意識は高い。たとえば防犯や防災は誰にとっても重要だし、子どもがいる家庭は教育や遊び場について、介護をしている方は医療機関との連携などの課題について敏感だ。

こうした関心のばらつきは当然あるものと理解したうえで、住民たちが主体的にまちづくりに関われるようサポートしていくのが、私たちが大事しているアプローチである。なぜなら、そうした違いを寛容に受け止め、一人ひとりがやりたいときに参加できる関係性や仕組みが地域にあるほうが、「人とのつながり」に価値を見出す人が増えて助け合いの循環が生まれるからだ。

そのためには、フィールドワークを通じてまちのことを徹底的に調査して理解を深め、ニーズを把握していくなど、丁寧に進めることを心がけている。フィールドワークには半年から1年かけることもある。

見出されるニーズはまちごと、いや集合住宅や団地ごとに異なる。どんな関わり方が心地よく、心強いのか。そのまちに住まう人たちが主役となって初めて、自分たちに合った共助の関係性が育まれるのではないだろうか。

問題は「まちづくり」以前に「チームビルディング」

創業から10年以上が経ち、「ネイバーフッドデザイン」への関心も少しずつ広がり、やり方を教えてほしいという相談も増えている。

しかし実際に話を聞いてみると、課題はまちづくりそのものよりも、それに取り組んでいる人たちの「チームビルディング」にあることも少なくない。

たとえば、私たちは現在ある都市で、行政、商店会、団地、大学、商業施設、住民といった多様な背景を持つ人々と協働し、まちに賑わいを創り出すプロジェクトに取り組んでいる。ただし、それぞれの関係者が自分の立場から物事を通そうとすると、どうしても利害の対立が生じてしまう。行政や自治会側は企業に対して「お金を出してほしい」と思っているが、企業側は「こちらがお金を出すばかりで何もしてくれないのか」と思っていることもある。関係者が同じ方向を見るチームになれなければ、どんなに実績のある施策も空振りしてしまう。

こんなときこそ、対話を通して、チーム内外に共創関係を創り出していくことが必要となる。たとえば、チームに問題があれば「自分たちは、どんなまちをどんな活動を通じてつくっていきたいのか」といったビジョン・ミッション・バリューを整理する。あるいは、「その活動に参加する人にどんな経済的・社会的リターンが発生するのか」を明確にする。

HITOTOWAのような第三者的なプレーヤーの役割は、まさにここにある。とかく利害関係が生じやすい「まちづくり」というフィールドにおいて、何らかの糸口を見出し、真摯な対話やさりげない機会創出を重ね、共創関係を築いていくのだ。

丁寧な関係づくりと社会変革のスピードの両立は可能か

地震や水害などの自然災害の頻発や、孤独な子育て、単身で暮らすお年寄りの増加など、日本中のコミュニティでさまざまな社会課題が山積しており、しかもその複雑さは高まるばかりだ。コミュニティ問題というと過疎化の進む地域の問題と捉えられがちだが、都市部においても、「共助」の関係性づくりは今後ますます重要になってくるだろう。

このような状況に対応すべく、私たちの活動も社会変革のスピードを上げようとしている。相応の年月をかけてネイバーフッドデザインに取り組んでいけば、都市部に共助の関係はつくることができるという手応えは感じている。それぞれのまちで住民同士のつながりができ、いきいきと暮らす人たちや、自分たちの課題の解決に主体的に取り組むチームの姿が見られるようになった。

だが一方で、このスピード感では、日本全体の都市文化に「共助の関係」を広げることはできないのではないか、という焦りもある。

丁寧な関係づくりを通して都市に暮らす人たちの主体性を刺激していくことと、より広く、より早く変化の波を日本全体に起こしていくこと。どうすれば、この矛盾する2つを両立し、共助の文化を広げていけるのか。いまHITOTOWAでは、セオリー・オブ・チェンジ(変化の方法論)やロジックモデルなどのツールを使いながら、自分たち自身の存在意義やビジョンを問い直しているところだ。

【構成】やつづかえり

荒 昌史

HITOTOWA INC. 代表取締役/学校法人自由学園 非常勤講師
2004年大学卒業後、リクルートコスモス(現コスモスイニシア)入社。2007年より新規事業として環境共生住宅やマンションコミュニティの企画を行う。同時期にNPO法人GoodDayを立ち上げ、環境問題に取り組む。2010年に独立、HITOTOWA INC.を創業。都市に暮らす人々の助け合える関係性と仕組みをつくることを志し、ネイバーフッドデザイン事業では、デベロッパーや行政のアドバイザーやエリアマネジメントおよび集合住宅のコミュニティプログラムの企画を推進。東京都住宅政策審議会委員等を歴任。趣味は埼玉西武ライオンズの応援と愛猫との昼寝。著書に『ネイバーフッドデザイン』(英治出版)。

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