「内なる自分」との対話

会社の垣根を越えて「資本に縛られない連帯」をつくることは可能か

メンバーがともに成長する「グループ経営 as a Service」という仕組み

※本稿は、SSIR Japan 編『スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版 05 コミュニティの声を聞く。』のシリーズ「コミュニティの創造と再生をめぐる『問い』」より転載したものです。

竹井智宏|Tomohiro Takei

東日本大震災の発災から、約4カ月が経った2011年7月。一般社団法人MAKOTOを設立した私は、たった1人で、震災後の東北の地で起業家支援を始めた。

だが実際のところ、私は東北の生まれでもなければ、そもそもビジネスを志していたわけでもない。いくつかの出来事が私を起業家支援の道へと導き、やがて「どのようにすれば会社同士が垣根を越えて支援し合うコミュニティをつくることができるのか」を探究するに至った。

MAKOTOという活動を発展させるなかで、なぜこの問いを持つようになり、そしていかなる実践をしているのか、お伝えしたい。

研究者志望の私が、ベンチャーキャピタリストになったわけ

子どもの頃の私は、地球環境に対する問題意識が強く、研究者になりたいと考えていた。

なかでも、イギリスの科学者、ジェームズ・ラブロックが提唱した「地球は1つの有機体である」とする「ガイア仮説」に共感し、この仮説を検証するために地球と人類の関係性を探究したいと思った。そこで東北大学で地質学(地球環境)を学び、博士課程で進化生態学(生命科学)を研究していた。

転機は、2001年9月のアメリカ同時多発テロ事件だった。事件に衝撃を受けた私は、研究に没頭するよりも、事業づくりを通して人々の幸せに貢献すべきではないかと考えるようになった。卒業後、私は東北大学の産学連携組織や民間の再生医療メーカーを経て、仙台に拠点を置くベンチャーキャピタルに転職した。

だが、ベンチャー企業の投資育成や、雇用や産業を生み出す仕事にやりがいを感じていた矢先、またも大きな転機が訪れる。東日本大震災である。目の前に立ちはだかる瓦礫の山を見たとき、私の内から使命感が湧き上がってきた。このままでは東北で震災による経済的困窮や震災関連死が後を絶たない状況になりかねない。自分にできることは何か?

私はいずれ到来する経済復興フェーズに向けた準備に着手しようと決めた。東北で再び立ち上がろうとする「志」ある起業家や経営者を支えて伴走し、彼らが挑戦できるチャンスをつくることができれば、必ず東北復興の原動力になるだろう。その思いから立ち上げたのが、一般社団法人MAKOTOだ。コワーキングスペースの立ち上げや、社会起業家を応援するクラウドファンディングプラットフォームの運営、「産官学金」と連携した起業家育成プログラムやファンドの組成など、東北におけるスタートアップのエコシステムづくりに全力を注いだ。

「グループ経営 as a Service」で資本に支配されない連帯を

2018年にはMAKOTOを株式会社化し、一部の事業を子会社化(MAKOTOWILL、MAKOTOキャピタル[現スパークル])するとともに、大きな決断を下した。「資本関係に縛られない」企業グループの結成だ。

背景には、新たな課題意識の芽生えがあった。起業家育成などの事業が軌道に乗り、ゼロからイチを生み出す環境は整っていったものの、起業後に苦労するスタートアップが少なくなかったのだ。

起業家がお互いに助け合い切磋琢磨できる仕組みがあれば、理想的なエコシステムが構築できるのではないか。そう考えた私は、これまで蓄積してきた起業支援に関する知見や人脈などをオープンソース化し、同じ「志」を持つ仲間と会社の垣根を越えて共有できるプラットフォームとして、「MAKOTOグループ」を立ち上げたのだ。

立ち上げにあたっては、徹底的にフラットな関係づくりにこだわった。そのためには、「資本関係に縛られない」ことが欠かせない。子会社2社とともに始まったMAKOTOグループは、2020年には資本関係のない企業の受け入れを開始。さらに2022年8月末には、子会社化していたMAKOTOキャピタルとMAKOTO WILLに対して、マネジメント・バイアウト(MBO)による株式譲渡を実施。資本関係を解消し、意欲のある若手社員に2社の経営をゆだねた。また、持ち株会社と誤解されることも多かったため、私が代表を務める株式会社MAKOTOをMAKOTO Primeに社名変更した。

現在、MAKOTOグループの構成メンバーは7社で、ベンチャーキャピタルや自治体支援、建設、エネルギー、化学、運輸など業態もさまざまだ(MAKOTO Prime、スパークル、MAKOTO WILL、中城建設、Local Power、AiNERGY、ジャパン交通)。これらすべての会社間に資本関係はなく、「人が幸せに生きられる社会をつくる」ことをグループの存在意義としてともに活動している。

「なぜ、ここまでフラット化を推し進めるのか?」と驚かれることも少なくない。

それは、「支配」や「所有」で相手をコントロールするような関係性は、私たちが目指している共同体のあり方とマッチしないからだ。

以前からグループ会社のような組織形態は存在するが、これらは親会社の下に子会社があり、資本関係で固定化された中央集権型の構造となっている。1つのビジネスモデルに関連会社がぶら下がる状態は、親会社の経営の影響を受けやすい。一方、私たちのグループは、資本関係による「支配」が存在しない。お互いに対等な立場を尊重し、それぞれに意思決定権がある。同じ想いを共有する仲間が集まる互助会に近いと言える。

私たちは外部の会社も参画しやすいように、「グループ経営 as a Service」という独自の概念を掲げている。メンバーはグループ運営費を拠出することで、成長するための企業経営のサポートが受けられる。いわば、経営支援のサブスクリプションのような仕組みだ。

私たちが大切にしているのは、①フェア、②シェア、③共進化の3つだ。メンバーの化学反応や創発を促すには触媒が必要で、事務局がその役割を担っている。一般的なグループ経営の場合、株式で関係性がコントロールされるため、グループから簡単に離脱できない。

しかし、私たちの場合は束縛がないため、入会や退会も自由だ。その分、事務局は常に質の高いサービスや場を提供する努力が求められる。そのように運営側をあえて厳しい環境に追い込むことが、グループそのものの進化・発展の原動力にもなっている。

事務局の主な役割は、人と人をつなぐ「おせっかい」だ。また、経営支援やコンサルティング役も担う。グループ内では人脈や知見、ノウハウ、設備など、さまざまな経営資源がシェアされている。社長たちは月1回オンラインで集まり、それぞれの課題に対してできることをお互いに助言し合う。リアルでも社長合宿や勉強会を開催。幹部や従業員の交流も活発だ。

他社の取り組みから得る学びは大きい。たとえば、社内の上下関係のなかで指摘しても響かないことが、他社の人に同じことを言われると納得するなど、「ナナメの関係性」のような相乗効果が生まれる点も面白い。

会社やコミュニティは「手段」にすぎない

私たちは、会社というものにとらわれすぎているのではないだろうか。

そもそも人は自分の人生を生きるために会社で働くわけであり、会社のために働くのではない。目的は幸せになることで、会社やコミュニティや社会の仕組みは、その目的を実現するための手段にすぎない。

私は会社とは「乗合バス」のようなものだと考えている。目的地に向かうとき、途中まで行き先が同じだからこのバスに乗って一緒に行きましょうと。バラバラでもいいけれど、会社というバスに乗るほうが早く行けるから便宜上、みんなそうしているという程度のものだ。また、1人でがんばるよりも、みんなで力を合わせたほうが、遠くまで早く到達できるだろう。会社の枠に縛られる必要はなく、社内だけに閉じてしまう必要もない。枠を越えて、お互いのリソースや知見を分かち合ってもいいのではないだろうか。

では、なぜ多くの会社は閉じてしまうのか。その根本的な理由は、評価軸が1つしかないことである。企業やそこで働く従業員たちは売上・利益で評価されている。この評価を高めようとすればするほど、短期的な利潤を追い求めて視野が狭くなりがちだ。利益を生まない事業や活動は無駄とみなされる。

MAKOTOグループの参加企業間でなされているような、他社へのサポート活動などは、短期的に自社や個人の利益を増加させるわけではないので、通常なら単なるコストに分類されてしまうだろう。CSRなど何らかのかたちで社内評価に組み込まれない限り、社外とのコラボレーションにリソースを割くことは正当化されない。従って、売上・利益という評価軸1 つでは、企業は社内に閉じてしまうのが自然なのだ。

「志」を持つ仲間の連帯が、時代を切り拓く力に

MAKOTOグループの取り組みは、いかにしてキャピタリズムに共有の価値観、つまりシェアリズムを実装できるかという実験(挑戦)のようなものでもある。日本では昔から「三方よし」「情けは人のためならず」などの言葉があるように、目先の利益よりも「利他」と「調和」を重んじ、中長期的なスパンで物事を俯瞰するほうが社会にも自分たち自身にも持続可能なメリットをもたらすと私は考えている。

近年、イスラエルのスタートアップコミュニティとの連携をスタートさせ、私自身も視察に赴いたが、現地では起業家がお互いに人脈紹介や助言をするなど緊密にサポートし合う文化を持っているのを目の当たりにした。助け合えばより強くなれることを、彼らは理解しているのだ。

私たちのグループも、同じ「志」を持つ仲間が集まって助け合うことで1つの有機体となり、力強い推進力を実現することを狙いとしている。レオ・レオニの絵本『スイミー』で小さな魚たちが大きな魚群を形成する名シーンになぞらえて、私たちは「スイミー戦略」と呼んでいる。1社1社は小さくて非力でも、調和して1つの有機体になれば社会を変えていく力になれると信じている。

46億年という地球の歴史のなかで、私たちが生きられる時間はほんの一瞬だ。だからこそ、一人ひとりが幸せを感じて生き抜くことができる社会をつくりたい。MAKOTOグループという仕組みは、そのためにつくってきたものである。競合他社に真似してもらえるならむしろ本望で、競合というよりはともに社会をよくする仲間と捉えている。

震災後、東北では「Next Commons Lab」や「シェアビレッジ」など、新たな形態の企業コミュニティが同時多発的に生まれている。どの取り組みも素晴らしい想いと実行力に裏打ちされていて、私自身、大いに刺激を受けている。このように、コミュニティ同士が切磋琢磨しながらともに進化できれば、社会にさらなるインパクトをもたらせるのではないだろうか。

【構成】高崎美智子

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