最も困窮している地域コミュニティほど、資金調達に苦戦している。背景には、そうした地域には人材や能力が不足しているため助成金の申請ができず、資金提供者側から「見えていない」という問題がある。
※本稿は、SSIR Japan 編『スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版 05 コミュニティの声を聞く。』より転載したものです。
ロバート・アトキンス|サラ・オルレッド|ダニエル・ハート
ある人の寿命がどのくらいか、健康な人生をどれほど過ごせるかは、その人の住んでいる場所から予想がつく。郵便番号から住民の健康や幸福度を予測できるというエビデンスが、世界中で集まっている。地域が持つ人的、社会的、経済的な資産によって、そこに住む人々がどんな機会を得られるかが決まる。たとえば公園など安全に遊べる場所があるか、手の届く価格の住宅に住むことができるか、清潔な水を飲めるか、健康的で手頃な価格の食品を売る店で買い物できるかといった機会だ。こうしたコミュニティの特性は、住民のウェルビーイングに影響を与えるだけでなく、子どもたちの進学やスポーツなどの課外活動への参加機会も左右する。
地域の特性と住民の健康との間に強い相関関係があることから、より健康的な地域づくりのために、エクイティ(構造的差別の解消)に配慮したリソース配分を重視する資金提供者が増えている。その背景にはウェルビーイング、学校教育、経済的流動性をめぐる障壁を取り払い、より大きな機会を生み出そうという意図がある。エクイティ重視の資金提供とは、別の言い方をすれば、社会面、経済面で最も深刻な困難を抱えた地域に、より多くのリソースを配分しようとするものだ。
しかしこのような方針転換があっても、実際には「最も困窮している地域ほど助成団体のリソースが届いていない」ことが報告されている。ミシガン大学教授のルーク・シェイファー(ソーシャルワーク、公共政策)は、アメリカで最も苦しい境遇にある地域を特定するために、プリンストン大学の共同研究者と「困窮地域指数(Index of Deep Disadvantage)」を開発した。
その結果、ミシガン州のフリントやデトロイト、オハイオ州クリーブランド、ニュージャージー州カムデンなど、既に深刻な困窮状況にあることが認知されている一部の地域を除くと、特定されたほとんどの地域は資金提供者にとって「見えていない存在」であることがわかった。最も困窮している100地域は、ネイティブアメリカンの居留地区のなかにあったり、アパラチアやミシシッピデルタといった比較的人口密度の低い場所に点在したりしており、いわゆる「盲点」になっているのだ。そしてシェイファーらが指摘するように、「最も支援を必要とする地域が社会科学的な調査で見落とされていることが、貧困政策の行き詰まりにつながるのだ」1。
歴史的に見て、人口密度の低い郊外や農村地帯は、地域における問題の深刻さが都市部と変わらない場合でも、外部からの資金援助が十分に届いていなかった。実際、2007年に発行された報告書「地方のフィランソロピー(Rural Philanthropy)」が指摘するように、非都市部は困難を抱えており、年を追うごとに状況も多様化しているが、地理的に遠く孤立しているために、資金の流れは「都市部に大きく偏っている」。アメリカの農務省経済研究局(ERS)が国内の1200余りの大手財団を対象に行った2015年の研究もこれを裏付けており、「2005~2010年に、非都市部のカウンティ(郡)で活動する組織に提供された助成金の実質金額は平均88ドル/人で、都市部のカウンティにある組織が受け取った平均金額(192ドル/人)の半分に満たない」と指摘している。
このような「盲点」があることによって、地域社会の課題を解決するためのフィランソロピー活動自体が思うように成果を出すことができない、と私たち著者は考えている。たとえ資金提供者側がエクイティを重視していても、上記の例が示すように、アメリカ全土の非都市部に存在する、最も困窮している地域が構造的な理由で支援の対象にならない可能性がある。最も支援が必要な地域への助成金が、より恵まれた地域への助成金よりも少ない状態では、エクイティが実現できるはずもない。
本稿ではここから、この「盲点」についての仮説を、ニュージャージー・ヘルス・イニシアチブ(New Jersey Health Initiatives, NJHI)を取り上げて検証する。NJHIは、健康支援の領域でアメリカ最大のフィランソロピー団体であるロバート・ウッド・ジョンソン財団(Robert Wood Johnson Foundation, RWJF)のプログラムで、同州全域で助成事業を行っている。本稿では、私たちの研究者、実践者、資金提供者としての経験を生かし、地域における人材不足と経済的困窮という2つの問題が、その地域における助成金の申請と獲得にどのように影響を与えているかを説明したい。
結論から言えば、最も困窮している地域が助成金を申請する可能性が最も低いということが明らかになった。これは盲点の存在を裏付けるものである。本稿では、ケーススタディのデータを説明し、このような構造的差別が生じる原因を掘り下げたうえで、深刻な問題を抱えるコミュニティに支援を確実に届けるための方法論について、実例を踏まえて考える。
本稿の内容は時代の要請でもある。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによって地域間格差が拡大し、人々の健康的な生活への支援が求められているからだ。RWJFのプレジデント兼CEO のリッチ・ベッサーは2020年、『ワシントン・ポスト』のコラムに、「全国民が危機にさらされうる状況においても、この国の構造的欠陥によって、経済的、社会的、健康的にさらに不利な状況に置かれている特定の人口集団が、(COVID-19の)最も深刻な損失を被るだろう」と書いた。ニュージャージー州では、感染拡大の危機に対応するために、少なくとも17種類の支援予算が組まれた。しかし同州において最も深刻な損害を被った地域のなかには、支援金の申請をしなかった、あるいは申請が遅れたために資金を確保できなかったところもあった。
つまり、自分たちの窮状を支援者に伝える能力を持つ地域と、その能力を持たず最も深刻な状況にある地域の格差が、今回のような緊急支援制度によってますます大きくなる可能性がある。資金提供者には、格差拡大ではなく縮小につながるような意思決定をするためのツールが必要なのだ。
従来型の2つのアプローチ
最も一般的な資金提供先は、「人物対象」と「場所対象」の2種類である。人物対象の場合は、個人に直接資金を提供することに焦点を当てている。資金を受け取った人物は、場合によってはそれを活用して教育、住宅、医療、雇用などの生活に必要なサービスがより充実した地域(オポチュニティ・ゾーン)へと移住する2。しかしハーバード大学の社会学者であるロバート・サンプソンが指摘しているように、「本当に難しいのは、人をあちこちに移動させることではなく、より大きな構造的不平等という現実に対処すること」である3。
人物対象アプローチの問題の1 つは、もともとオポチュニティ・ゾーンの近くに住んでいる人に対象が限定されることである。よりよい生活関連のサービスが得られるところから何十キロも離れている地域に住んでいる住民の場合は、移住することで心身の健康維持に不可欠な社会的ネットワークから切り離されてしまうこともある4。
これに対して場所を対象とした資金提供は、個人ではなく地域コミュニティへの投資によって問題を軽減することを目指すものだ。伝統的にこうした投資は、構造的差別の根底にある問題を解決し、健康やウェルビーイングを向上するための資金を、地元で活動する非営利団体に提供してきた。有名な例が、ハーレム地区に住む子どもと家族の教育、健康、経済力の向上を図るハーレム・チルドレンズ・ゾーン(HCZ)と、「アトランタの健康向上を目指す地域連携(Atlanta Regional Collaborative for Health Improvement, ARCHI)」だ。後者は、地元のリーダーたちと協力して、地域の健康と教育分野の向上に取り組み、アトランタの持続的な活性化を目指している。
場所対象のアプローチは、安心して住めるまちづくり、一次医療へのアクセスの向上、手頃な価格の保育サービスの提供などに重点を置き、全米の各地域に根づいた何千もの非営利団体を支援する際に採用されている。人的資本が充実している地域には、HCZやARCHIのように共通のアジェンダの下に人々を協力させるリーダーや組織が存在し、資金提供者に自分たちのニーズをうまく伝えることに長けている。だが、そのような資産を持たない、最も困窮している地域の場合はどうだろうか。資金提供者の盲点になりがちで、そうなると最も重要なニーズを明確にして支援者に伝えることさえできない。
困窮度合いを測定する
フィランソロピーは他のセクターと比べて、ガバナンス機能が働きづらく、世間に対する情報公開も進んでいない。そのことが、事業の実施や評価において外部の研究成果を活用してこなかった背景にあるといえるだろう5。私たちは研究成果を実践の現場で役立ててほしいと考え、「最も困窮している地域への資金提供」を実現するための分析手法を開発した。最初のステップは、「深刻な問題を抱えている地域」の意味を定義することだ。それを構成する2つの要素が、「経済的困窮」と「人材不足」である。
経済的困窮が地域の問題を深刻化させることは容易に想像がつく。地域の経済的資産によって、子どもたちの通う学校の質、住宅や公共施設の利用のしやすさと安全性、安定した雇用機会を提供するための企業の財務的安定性が決まってくる6。私たちが分析に使ったのは、「オポチュニティ・インデックス(Opportunity Index)」のデータだ。これはオポチュニティ・ネーション(Opportunity Nation)という超党派の政策提言団体が発表している、アメリカの各地域の経済的機会の状況を示す年次報告書だ。この報告書は数世代にわたる経済的流動性の推移を記録しており、そこからは景気要因によるものとは別の、長期的かつ構造的な経済面の課題が読みとれる7。
経済面の課題に比べて人材不足が地域の困窮度にどう関係しているのかは見えづらいが、同じくらい重要である。私たちは、地域住民のスキル、教育内容、実務経験といった要素と、それを活用できる組織的な能力を総合して「人材力」と定義している。
人材力の重要性は、ほぼすべての資金提供スキームが申請ベースで行われていることからもわかるだろう。つまり、ある地域が支援者から資金を獲得できるかどうかは、「助成金を申請できる人物や組織の存在」によって決まるのだ。非都市部の小さなコミュニティの場合、このような専門知識やそれを生かすインフラを持つ非営利団体が存在していない。人口密度の低い地域も似たような状況にある8。言い換えると、こうしたコミュニティには、資金を確保するための専門知識と、住民の健康面の問題(麻薬性鎮痛薬のオピオイド中毒、小児の鉛暴露、高校卒業率の低さなど)に対処するプロジェクトを企画・実行できる体制を備えた非営利団体が少ないのである9。さらに言えば、犯罪や暴力など健康課題の上流にある問題に地域としてどう対応するかを考えていくうえでも、非営利団体の役割は重要である10。
人口の集中する大都市圏の外にある地域では、インフラだけでなく、助成金を申請して獲得するための専門知識も乏しい。単科大学や総合大学の有無を統計的に調整した場合でも、大学卒業率と、その地域における1 人当たりの助成金の額には正の相関があることがわかっている11。非都市部の住民は教育水準が低い傾向があり、比較的小さなコミュニティや組織が助成金を申請する場合、そのための事務作業の負担が、受け取る助成金の価値を上回ることが多い。
こうした例からも、コミュニティが直面する問題の深刻さを明らかにする際に、人材力を考慮に入れることの重要性がわかるだろう。しかし、「非営利団体の集積度」や「中等教育後の学位を持つ成人の割合」といった変数が入ってくると、人材力の測定方法はさらに複雑になる。私たちの研究では、ある地域の孤立度を測定するために、健康に関するエクイティを評価する目的で開発・検証された、連続的測定方法を使用した12。コミュニティの都市化度は、人材の供給元となりうる近隣コミュニティの情報も加味したうえで測定される。
これらのツールを使うことによって、特定地域の経済的困窮度と人材力の両方を測定することができる。また本稿では、資金提供戦略を問い直すフレームワークも提供する。それを通じて、経済的に困窮しており、人材力も乏しい二重苦の地域がフィランソロピーの盲点になっているという仮説も検証できるだろう。
誰が資金を獲得しているか
フィランソロピー分野における盲点の仮説を調べるために、私たちはNJHIによる2015~2018年のすべての助成金提供データを使用した。同期間に申請された案件の規模は3400万ドル相当で、NJHIは1000万ドル余りを助成した。
分析では、ニュージャージー州の全住民を「見えない」「見える・資金獲得」「見える・資金未獲得」の3 グループに分類した。「見えない」グループは、NJHIに提出された申請の対象地域に含まれない、つまり実質的に資金提供者から見えていないと言える地域に住む人々である13。そして「見える・資金獲得」グループは助成金獲得に成功した申請の対象地域に住む人々で、「見える・資金未獲得」グループは助成金を申請はしたが獲得できなかった地域に住む人々である。つまり、その地域は助成を得られなかったとしても資金提供者には認識されている可能性があるということだ。私たちの仮説が正しければ、経済的に困窮していて人材力が低い地域(ミシガン州フリントなど)は、経済的に困窮しているが人材力が高い地域(ニューヨーク市ブロンクスなど)よりも、資金提供者から見えにくいはずだ。
この仮説を検証するために、ニュージャージー州の各自治体を、全国共通の4つの準拠集団(自分が属していると認知するグループ)に分類した(下図「誰が資金を獲得しているか」を参照)。
1つ目は「経済的に安定・高人材力」グループだ。ここには、カリフォルニア州パロアルトなど、比較的裕福な都市部のコミュニティが該当する。2つ目の「経済的に困窮・高人材力」グループには、ニューヨーク市ハーレムやニュージャージー州ニューアークなど、貧困率が高い都市部のコミュニティが含まれる。3つ目の「経済的に困窮・低人材力」グループは、私たちが言うところの盲点に該当する。たとえば、ミシガン州フリントのような地域である。4つ目のグループは、「経済的に安定・低人材力」コミュニティで構成される。このようなコミュニティは、コロラド州アスペンなど、非都市部だが比較的裕福な地域に存在する。
分類にあたって、横軸の経済状況は経済的困窮度の中央値を境界線とした。経済的困窮側の2つのグループの人数が概ね同数となるところに、縦軸の人材力の境界を設定した(この調査では困窮している地域内での人材力の差が資金獲得力にどう影響しているかに着目しているため)。
そして分析の結果、仮説で示した盲点が存在することが明らかになった。青と黄の丸は資金提供者から「見える」人々を、黒丸は「見えない」人々を表す。右下のグループは他のどのグループよりも黒丸が多いが、これは最も経済的に困窮している非都市部のコミュニティが、資金提供者から見えていない可能性が最も高いことを示している。ニュージャージー州の場合、フリント型地域では71万8000人、ハーレム型地域では8万1000人の住民が資金提供者の視界に入っていない。フリント型地域では見えない住民が30%に達するのに対し、ハーレム型地域では見えない住民はわずか3%である。
分析結果から確認できた2つ目のポイントは、最も深刻な困難を抱える地域が見えていないとはいえ、経済的に困窮している地域に対するNJHIの資金提供は概ね成功しているということである。この図の丸は1つが4万人を表している。右側の「経済的に困窮」の2グループは、「経済的に安定」の2グループよりも青丸が多い。これは、経済的に恵まれていない地域の住民が、経済的に恵まれた地域の住民よりも、資金提供を受けている可能性が高いことを示唆している。全体的に見ると、資金を受けた人口は、経済的に困窮している地域では200万人以上(466万人のうち43%)であるのに対し、経済的に安定している地域では約100万人(413万人のうち24%)である。この数字から、3つ目のポイントが浮かび上がる。
つまり、資金提供者がエクイティの目標を達成しているかどうかを評価するときには、資金提供が行われた申請と行われなかった申請(黄と青の丸)の特徴を比べるだけでなく、助成対象地域の人口全体(黒、黄、青の丸)に注目することが重要だということである。その理由を理解するために、仮に黒丸を無視して黄と青の丸だけを比較した場合に、どのような結論に至るかを考えてみよう。黄と青の比率だけに注目すると、フリント型地域の住民が資金提供を受ける確率はハーレム型地域の住民の62%という結論になる。ところが黒丸を含めてみると、フリント型地域の住民が資金提供を受ける確率は、実際にはハーレム型地域の住民の44%にとどまるのだ。
申請された案件しか見ない資金提供者は、自分たちの資金提供アプローチがどれくらいエクイティに配慮したものであるかについて過大評価している可能性が高い。最も困窮している地域に住む人々は、資金提供者から最も見えにくい人々でもある。また、経済的要因を差し引いても、非都市部と都市部の地域で比べれば、前者を対象とする案件のほうが成功率が低い。
アメリカの他の地域と同じように、ニュージャージー州の自治体の経済的困窮度には幅があり、人的資本にもばらつきがある。そして地域によって成果に偏りがある。私たちは上述の測定基準を用いて、ニュージャージー州における地域ごとの経済的困窮度と人材力をマッピングした。オポチュニティ・アトラス(Opportunity Atlas)が提供するデータを使用して、相対的に経済的機会に恵まれていない地域は青の濃淡、恵まれている地域はオレンジと黄で表現した(下図「ニュージャージー州の盲点」を参照)。薄い青の地域は、経済的に困窮しているが人材力が比較的高い地域で、たとえばニューアークやトレントンの周辺が該当する。オレンジの地域は経済的に安定しており、人材力も高い地域で、比較的所得の高い層が住むニューヨーク市郊外が該当する。
地域差は明らかで、濃い青の地域はほぼ完全に州の南部に集中している。これらの地域は、経済を牽引するフィラデルフィアやニューヨーク市から遠く離れている。これに対し、ニューアークのように経済的機会は少ないが人材力の高い地域(薄い青)は、都心部の近くに存在する。経済的機会に恵まれている地域(黄とオレンジ)は州の北部に集中している。
比較ケーススタディ
私たちはさらに、ブリッジトンとニューアークという2つの地域を詳細に分析することにした。この2都市を選んだのは、両者に共通点が多く(健康やエクイティに関する社会経済的な課題を抱えている)、しかも重要な2つの点(その課題に対処するための資産と、助成金を獲得するための行政や非営利団体の能力)で違いがあるためだ。
●ブリッジトン
ブリッジトンは、ニュージャージー州南部の人口2万4000 人の小さなコミュニティで、ニュージャージー州の愛称「ガーデン・ステート(庭の州)」の由来となる森林地帯のパイン・バレンズと肥沃な農業地帯に挟まれた地域に位置する。アトランティックシティから西に1 時間、フィラデルフィアから南に1 時間ほどの距離にある。
ブリッジトンは、かつての工業都市に共通する課題に直面している。以前は安心して歩き回れた街の中心部も、いまでは閉店した店舗が目立つ。ホテル、映画館、百貨店の正面にはレンガが積まれ、看板は塗りつぶされている。人口の50%を占めるラテン系住民が街に活気と多様性をもたらしており、道沿いに並ぶ小さなレストランや小売店にはメキシコなどラテンアメリカ諸国からの移民の影響が感じられる。居住地区は中心部から徒歩圏内になく、多くの住宅が外装と構造の両面で修繕を必要としている。賃貸住宅が多く、特に低所得者向け賃貸住宅が多いコミュニティにはよくあることだが、家主は塗装や配管、傷んだ歩道の補修に後ろ向きで、ブリッジトンの賃貸住宅に住む人々にはなすすべがない。彼らの3分の1は貧困ラインを下回る生活をしており、おそらくその3分の1以上は不法滞在者で、家主を怒らせて退去を迫られるリスクを冒そうとはしないのだ。
困窮した地域の多くがそうであるように、ブリッジトンの教育の質は低く、教育システムも改善できていない。住民のうち高校教育を受けている者は4人に1人で、大学の学位を持つ者はわずか20人に1人である。ブリッジトンには大学や医療機関といった地域の社会インフラとなるような施設がない。より健全で活気あるコミュニティづくりに必要なリソースを提供できるような、時間とスキルを持つ個人や組織にも乏しい。
●ニューアーク
ニューヨーク市からわずか数マイルの距離にあるニューアークは、ニュージャージー州最大の都市である。人口は28万2000人とブリッジトンの10倍以上だが、多くの共通の課題に直面している。人口の25%以上が貧困状態で生活しており、多くの住民は治安に不安を感じている。また、社会的に孤立した高齢者が多く、栄養のある食品の入手手段が限られている。2019年の水質検査では、ニューアーク住民の大半が使う水道が鉛で汚染されていることがわかり、全国的なニュースになった。同市は速やかに、水道の蛇口の濾過器(ミシガン州フリントで使用されているのと同じもの)を配布したが、追加検査ではさらなる汚染が判明した。
こうした課題を抱えてはいるものの、ニューアークにはリソースがある。ニューヨーク市から電車で30分の同市は、ブリッジトンにはない多様で豊富な資産を有している。たとえば企業の本社、医療機関、市の保健局、2つの大学、カウンティ・カレッジなどだ。
ブリッジトンでは大学の学位を持つ住民が20人に1人だが、ニューアークでは6人に1人である。美術館やレストランなどに加えて大学病院、ラトガーズ大学、プルデンシャル・ファイナンシャル、パナソニック・ノースアメリカなどの象徴的な施設や企業が、人材をニューアークに引きつけ、優秀な若者を引き止めている。
同市には、知見が蓄積された非営利団体のインフラもある。ニューアークには336の非営利団体があり、うち119団体が年間収入100万ドル以上である。市には独自のフィランソロピー部門もある。非営利の資金提供の重要性を理解する財団も存在し、ニューアーク都市圏でしか資金提供を行わない財団もある。ニューアークには、オピオイド中毒、小児の鉛暴露、高校卒業率の低さ、犯罪、暴力といった課題に対処するプロジェクトを企画・実行できる体制の整った非営利団体がある。これに対しブリッジトンには20の非営利団体しかなく、ニューアークで見られるような経営力や企画力を備えているのはわずか1団体である。
ブリッジトンとニューアークは同じような課題を抱えているが、ニューアークには、そうした課題に取り組むための発達した組織のネットワークと、能力の高い人材が存在する。ニューアークは、自分たちだけでは手に負えない課題に直面したときに支援を求める方法を知っているのである。しかしブリッジトンは必要なリソースをどのように獲得できるだろうか。ブリッジトンのような持たざる地域が、より安全で手頃な価格の住宅を提供する、学校を改善する、子どもたちに十分な食事を提供するなどの活動に取り組もうとするときに、適切なパートナーを見つけ出し、リソースを共有してコラボレーションを実現するためには何が必要だろうか。
盲点はなぜ存在するか
フィランソロピー分野や地域対象の資金提供の根底にある構造に目を向けると、資金提供者の意図に反して盲点が生じうる理由がいくつか見えてくる。そもそもこのケーススタディを実施したのは、本稿共著者でNJHIのディレクターであるロバート・アトキンスが、資金提供の判断が健康面のエクイティの向上という目標に合致しているかどうかを定量的に検証する手段がほしかったからである。
第一に、大手財団のほとんどは大都市圏に存在し、その地域の行政機関や組織と既に関係を構築している。上述のようにニューアークには独自のフィランソロピー部門があり、ニューアーク地域限定で資金提供を行う財団もいくつかある。お互いによく知っている組織同士でパートナーを組むのはよくあることだ。
第二に、多くの資金提供者が、非都市部よりも都市部のほうが貧困率が高いと考えている。さらに、人口密集地のほうが、問題解決に助成金が使われた場合に最大の効果が得られるので、メリットが大きいと信じている資金提供者も多い。しかし貧困率は都市部よりも非都市部のほうが高い。
さらに、高校卒業率の向上、農業従事者の食の安全性の向上、小児の鉛中毒の抑制のために都市部のコミュニティに助成金を付与したとして、同じ金額を非都市部のコミュニティに提供した場合よりも多くの人が救われることを証明するのは難しいかもしれない。言い換えれば、助成団体が人口密度の高い地域により多くの資金を提供したとしても、エクイティの向上という点で、投資効果が明確に表れるとは限らないのである。
ケーススタディから明らかなのは、このような効率追求の姿勢のために、より深刻な問題を抱えている非都市部の住民が、構造的な不利益を被っているということである。困窮度の特に高い地域には、自分たちの存在感を高めるための人材力がない。ブリッジトンには、大学でデジタルデザインの学位を取得してウェブサイトを構築できる人材が故郷に戻ってくるような流れがないし、住宅の購入者や販売業者を引きつけるようなソーシャルメディア上での知名度もない。
こうした構造的な問題があるために、資金提供者は一種の自己矛盾に陥っている。エクイティの実現を目指した助成金が人材力の高いコミュニティに流れ、それによってさらに資金獲得の能力が高まっているのだ。エクイティに本気で取り組む資金提供者は、投資効率を犠牲にしてでも、こうした助成の盲点を克服しなければならない。そのためには、助成プロセスの微調整から抜本的な見直しまでを含めて、いくつかの解決策が考えられる。
地域指向の解決策
人材力の低い地域を直接支援するのは、より踏み込んだ地域指向の解決策の1つだ。このアプローチでは、対象地域が資金を獲得できる可能性を最大化するために、資金提供者に申請を行う最初の段階で技術的な支援を手厚く行う。ここからは、NJHIの助成業務の変更によって、人材力が乏しく困難を抱えたニュージャージーの地域にどのような機会がもたらされたかを説明していこう。
●ミルビル
ブリッジトンの東にあるミルビルは、人口はブリッジトンと同規模の2万8000人で、同じような資産と課題を持つ町である。ブリッジトンと同様に、ミルビルには31の非営利団体しかなく、ニュージャージー州のほとんどの助成団体の視野に入っていない。
2018年、ミルビルのホリー・シティ・ディベロップメント・コーポレーション(Holly City Development Corporation, HCDC)が、NJHIの資金提供プログラムの「アップストリーム・アクション・アクセラレーション(Upstream Action Acceleration)」の助成対象となる10団体の1つに選ばれた。HCDCの5人のスタッフは、経済、住宅、コミュニティを開発することによる「周辺地域への変化の波及とエンパワーメント」を目指した。2018年の同団体の総収入は約63万ドルだった。
アップストリーム・アクション・アクセラレーションを通じて助成金を申請する組織には、従来のような10ページもの資金計画の代わりに、簡潔な3ページの提案書の提出が求められた。そこにはコミュニティの紹介、政策システム変更のためのプロジェクト案、それを支えるセクター横断的な連携に関する説明などを記載する。簡便な方法にした狙いは、より小規模な非営利団体の申請へのハードルを下げるためである。
HCDCのように有望な提案書を用意した組織は、NJHIの申請支援を行うヘルシー・プレイシズ・バイ・デザイン(Healthy Places by Design)のコーチングを受けた。1時間のセッションは、実質的な人材力の提供であり、地域で活動する団体が彼らの目的に専念できるように支援した。そしてコーチングを受けた申請者は、資金獲得の可能性を高めた提案書を書き上げて提出したのである。
●エッグハーバー・シティとセーレム
ニュージャージー州では、ミルビルよりもさらに小さな市も大都市と同じ課題を抱えている。実際のところ、同州の自治体の平均人口は8800人である。そうした市の1つが、ニュージャージー州パイン・バレンズ国立保護区の一部である人口4200人のエッグハーバー・シティだ。同市では18歳未満の住民の3 分の1以上が貧困ライン未満の生活をしている。
もう1つがセーレムだ。人口4700人のうち約3分の1が18歳未満で、青少年の40%超が貧困ライン未満で生活している。ニュージャージー州では、経済的に不利な状況にある地域の初等・中等教育が水準を満たしていない違法な状態であるとする州最高裁判所の判決(Abbott v. Burke)を受けて、31のスクール・ディベロップメント・オーソリティ(SDA)地区が設定されたが、セーレムはそのうちの1 つである。地域で活動する非営利団体の数はエッグハーバー・シティがわずかに4、セーレムが7である。
NJHIは、サウスジャージーの小規模自治体のエクイティ向上を目指す資金提供プログラム「超地域指向のデータ活用コラボレーションを目指す小規模コミュニティ(Small Communities Forging Hyperlocal Data Collaboratives)」で、大半の助成団体の盲点に入っている地域を助成対象とした。申請者にはこのプログラム全体のプロセスを通じて、準備状況の評価、申請書の作成支援、長期にわたる技術的支援といった人的リソースが提供された。
NJHIは提案を無条件に募集するのではなく、既存のデータリソース(たとえば自治体再生指数やオポチュニティ・アトラス)を用いて盲点となっている地域を特定し、申請を呼びかけた。それを受けて地域側は、プロジェクトに参加可能な地元のリーダー5人を集めて「ドリームチーム」を結成してNJHJに報告した。ドリームチームのメンバーにはまず、コミュニティにおける現状の資産、連携能力、技術、健康ニーズについて評価するというミッションが与えられ、その費用として300ドルのギフトカードが提供された。ここで重要なのは、この評価結果に基づいて申請が却下されることはなかったということだ。NJHIは評価情報を、必要な技術支援やリソースに関する情報源としてのみ活用したのである。
申請者たちは専門家チームの協力を得た1日のワークショップに参加して、協力し合いながら各自の資金計画を作成した。ここでの人脈、情報、集中的なサポートは、創造的なコラボレーションを生む下地となり、データに基づいて既にある機会を最大限に活用していこうという機運が生まれた。
その後、各地域のドリームチームは、5万ドルの助成金獲得のためのプロジェクト案の作成に向けて伴走してくれるファシリテーターの支援も受けた。この事例においてとりわけ重要な点は、ドリームチームと技術的な支援者との協力関係は資金提供が行われた後も続いたことである。それによって、コミュニティは人材力を継続的に確保することが可能となった。
ハイブリッド型アプローチ
2つ目は、人物対象と場所対象のアプローチを組み合わせた解決策である。ここでは、最も困窮している地域において、既存の団体や組織に資金を提供するのではなく、地元住民で構成するチームを選んで資金を提供する。この種のハイブリッド型アプローチを特にうまく活用している資金提供者が、以下の4 団体である。
●コロラド・トラスト
2010年、コロラド・トラスト(Colorado Trust)は、コミュニティ・エンゲージメント(地域住民の積極的関与)と健康面のエクイティ向上にフォーカスするために、助成プロセスの見直しを行った。コロラド州住民の健康とウェルビーイングを向上させるというミッションを掲げた同基金は、州内の人口密度の低い地域に最善の支援を行うためには、非営利団体を通さずに住民チームに権限とリソースを移譲しなければならないと考えた。コロラド・トラストの2人のスタッフは、この新しいアプローチについて次のように説明した。
「地域のパートナー住民たちは、私たちの現地事務局の支援の下で住民チームを構築し、コミュニティ内の対話を促し、権限が最も小さい、見過ごされている地区への働きかけに取り組んでいます。最終的には、この住民チームに彼らの計画を実行するための活動資金が提供され、彼らが資金の配分方法を決定します。資金を受け取った非営利団体の報告先は、財団ではなくコミュニティになります」14 住民は地域の課題を理解している。このモデルは、住民同士のつながりを育み、健康面の課題を住民自らが特定して解決策を実施するための、手段とリソースを提供するものである。
●ドッグ・パッチ
数年前、コロラド州プエブロのドッグ・パッチ地区(ドッグパッチは通称で公称はイーストサイド)ではギャングによる暴力事件が急増した。2014年の殺人事件発生率はニューヨークの都市行政区の2倍以上だった。ドッグ・パッチは地域の住民、警察、団体と連携して、地元主導の治安改善運動と口述歴史プロジェクト(個人の記憶や経験を直接聞き取り、記録として保管する活動)を展開した。こうした取り組みによって住民と法執行機関の対話が生まれ、信頼関係とコミュニティの安全性が高まっている。
●カリフォルニア・エンダウメント
カリフォルニア州北西部に位置し、高い失業率や薬物乱用の問題を抱える先住民族のエルク・バレーやユロク族の居住区も、資金提供者から見過ごされている地域である。しかしカリフォルニア・エンダウメント(California Endowment)は例外だ。同団体はビルディング・ヘルシー・コミュニティーズ(Building Healthy Communities)という、先住民族コミュニティに直接リソースを提供するイニシアチブを展開している。
同イニシアチブ担当のシニアバイスプレジデントであるアンソニー・アイトンは、財団が地域住民の参加とエンゲージメントを促すためには、「住民たちが準備をするための時間を考慮に入れながらプロジェクトを組み立て、人々を巻き込んでいく必要がある。住民が萎縮せずに有意義な対話に参加できる準備が整ったあとに、コラボレーションの議論に加われるようにするべきだ」と語る15。
コロラド・トラストの取り組みと同様に、コミュニティ・オーガナイジングが、カリフォルニア・エンダウメントのハイブリッド型アプローチの中核となる特徴だ。これらの資金提供者は、地域の住民参加とコミュニティ支援団体の強化を通じて、より多くの住民がもっと健康的な生活を送れるようになることを目指している。
●サウスジャージー・コミュニティ財団
コミュニティ財団とは、特定の地域におけるウェルビーイングの向上に特化した公共の慈善団体であり、近年はコミュニティ財団が変化を生むための手段とリソースを住民に提供する事例が増えている。
その1つが、コミュニティの預金口座のような役割を果たすコミュニティ・エンダウメント(community endowment)と呼ばれる仕組みである。住民で構成する理事会がエンダウメント(寄付金)を管理し、その利息の分配や「助成」の方法を決定する16。
2019年夏、サウスジャージー・コミュニティ財団(Community Foundation of South Jersey)は、サウスジャージー地域の社会的、文化的、経済的な健全性の向上を目指す「トランスフォーム・サウスジャージー(Transform South Jersey)」というイニシアチブを開始した。これを通じてサウスジャージーの6つのコミュニティが10万ドルの助成金と支援を獲得した。その支援のなかには、オートン・ファミリー財団(Orton Family Foundation)によって立ち上げられたコミュニティ・ハート・アンド・ソウル(Community Heart & Soul)によるコーチングサービスもある。これは小規模な市や町の住民が、自らの価値観に基づいて協調的に未来を形成できるように一歩一歩支援するというものだ。このイニシアチブの一部としてそれぞれの地域は、コラボレーションを通じて特定した優先課題に対処するために最低2 万5000ドルの寄付金を確保する。
地域間格差の解消に向けて
本稿ではここまで、従来型の資金提供アプローチが、困難を抱える非都市部の地域(ブリッジトンやフリント)よりも、困難を抱える都市部の地域(ニューアークやハーレム)に有利に働いていることを指摘してきた。
優れた人材力を持つ組織は助成獲得プロセスの経験が豊富で、既に資金提供者との関係もできあがっている。ボルチモア、ニューヨーク、ロサンゼルスなどの都市にある地域密着型の組織も、助成金申請書の作成やプロジェクト管理の専門家を雇うリソースを持っている。このように人材や知見を持っている組織への資金提供は、フィランソロピーの最低限の目標を達成するという点では確実かつ安全な方法だろう。
しかしこのアプローチでは、ブリッジトンやフリントのような地域が資金提供の交渉の席から構造的に排除されてしまい、問題はありつつも人材はいる地域と、そうした人材のいない最も「持たざる」地域との格差が拡大する。資金提供者側がエクイティの向上を目指してこの格差を縮めるためには、最も「持たざる」地域が確実に目に見える存在になり、取り残されることがないように関係を構築して、資金を投入しなければならない。こうしたインクルーシブな考え方をとって初めて、すべてのコミュニティが苦境を乗り越えてレジリエンス(回復力)を高める能力を開発することができる。
既存の資金提供のやり方に新たな意見とコミュニケーションを取り入れることでも、改善できることはある。資金提供者がコミュニティの経済的困窮だけでなく人材力にも目を向けるようになれば、新たな意見を受け入れやすくなるだろう。たとえばブリッジトン市長のアルバート・ケリーは、米国農務省が主催する「サマー・フィーディング・プログラム(Summer Feeding Program, 夏季休暇中に十分な食事を取ることが難しい子どもたちへの食事支援)」が、ブリッジトンでは十分に活用されていないことを知った。市長は、より多くの地元の若者がブリッジトンのサマー・フィーディング拠点に登録し、経験を積んで活動スタッフとして雇用されれば、子どもたちの飢餓の減少につなげられるはずだと考えた。
こういう考え方が大事なのである。この実証プロジェクトは、ニュージャージー州で地域コミュニティの健全化を目指す組織で働く若者を支援する、NJHIの「次世代コミュニティ・リーダーズ(Next Generation Community Leaders)」プログラムの基礎となった。
フィランソロピー分野に求められるのは、全米各地にあるブリッジトンのような地域が自力で助成金を申請して、ニューアークのような人材力のある地域との助成金獲得競争における勝利を願うことではない。
必要なのは、ミルビルやドッグ・パッチのような地域コミュニティに奉仕するために地域の人材力を高めるという時間のかかる課題に、丁寧かつ粘り強く取り組むことだ。
私たちは個々の非営利団体に対する資金提供に反対しているわけではない。しかし確信しているのは、資金提供者は従来のアプローチから一歩踏み出して、最も深刻なニーズのある地域に手を差し伸べるべきだということだ。従来型の場所対象のアプローチは、困難を抱えた都市部の地域を改善する際に有効であることは明らかだ。困窮している地域のなかでも、非営利団体が効果的に課題に対処できている場合は、資金提供者はそうした組織と協力するべきである。しかし、そのようなリソースを持たない、これまで盲点となってきた地域については、これまでのやり方を変えなくてはならない。
今や世界中のフィランソロピー分野が、COVID-19のパンデミックがもたらした社会的、物理的、経済的な影響を緩和するための最適なリソース配分を見極めようとしている。蓄積されつつあるエビデンスによれば、もともと困難を抱えているコミュニティが、最も深刻な打撃を受ける傾向がある17。私たちは資金提供者に対し、資金配分を決定する際に、経済的困窮と人材力の両方を考慮することを求めたい。歴史上、まさにいまこそが、困難を抱えたコミュニティ間の格差を拡大させるのではなく、縮小させるチャンスなのである。
【原題】Philanthropy’s Rural Blind Spot(Stanford Social Innovation Review, Spring 2021)
【イラスト】Illustration by Tracy Walker
注
1 H. Luke Shaefer, Kathryn Edin, and Tim Nelson,”Understanding Communities of Deep Disadvantage: An Introduction,” Poverty Solutions at the University of Michigan, 2020.
2 Raj Chetty and Nathaniel Hendren, “The Impacts of Neighborhoods on Intergenerational Mobility: Childhood Exposure Effects and County-Level Estimates,” Quarterly Journal of Economics , vol.113, no. 3, 2018.
3 Gareth Cook, “The Economist Who Would Fix the American Dream,” The Atlantic , July 17, 2019.
4 Jingwen Zhang and Damon Centola, “Social Networks and Health: New Developments in Diffusion, Online and Offline,” Annual Review of Sociology , vol. 45, no. 1, 2019.
5 Caroline Fiennes, “We Need a Science of Philanthropy,” Nature News , vol. 546, no. 7657, 2017.
6 Dante Chinni , “Economic Advantage and Disadvantage in Communities of Color,” American Communities Project, 2020.
7 Raj Chettyetal., “Race and Economic Opportunity in the United States: An Intergenerational Perspective,” National Bureau of Economic Research, Working Paper 24441, December 2019.
8 Alex Neuhoff and Andrew Dunckelman, “Small but Tough: Nonprofits in Rural America,” Bridgespan, 2011.
9 Allison Dymnicki et al., “Willing, Able, Ready: Basics and Policy Implications of Readiness as a Key Component for Implementation of Evidence-Based Interventions,” US Department of Health and Human Services, 2014.
10 Patrick Sharkey, Gerard Torrats-Espinosa, and Delaram Takyar, “Community and the Crime Decline: The Causal Effect of Local Nonprofits on Violent Crime,” American Sociological Review, vol. 82, no. 6, 2017.
11 John L. Pender, “Foundation Grants to Rural Areas from 2005 to 2010: Trends and Patterns,”US Department of Agriculture, 2015.
12 Nathan J. Doogan et al., “Validation of a New Continuous Geographic Isolation Scale: A Tool for Rural Health Disparities Research,” Social Science & Medicine , vol. 215, 2018.
13 「見えない」グループには、多数のカウンティにまたがる大規模な地域助成金のみ対象になった自治体を含めている。
14 Nancy Csuti and Gwyn Barley, “Disrupting a Foundation to Put Communities First in Colorado Philanthropy,” The Foundation Review, vol. 8, no. 4, 2016.
15 Anthony Iton, “Making the Money Work,” Stanford Social Innovation Review, June 2015.
16 Janet Topolsky, “Growing Local Giving and Living: Community Philanthropy i n Rural Places,” Council on Foundations, 2008.
17 Reis Thebault, Andrew Ba Tran, and Vanessa Williams, “The Coronavirus Is Infecting and Killing Black Americans at an Alarmingly High Rate,” The Washington Post , April 7, 2020.
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