コレクティブインパクト・連携

「現場のプログラムか、全体のシステムか」の二元論を越えるコレクティブ・インパクトのあり方

地域コミュニティをコレクティブ・インパクトの取り組みに巻き込むために、何が必要か。4人の実践者たちが、10年以上の経験から得られた学びを共有し、課題と展望について語り合う。

メロディ・バーンズ 
ジェニファー・ブラッツ
ジェフリー・カナダ
ロザンヌ・ハガティー
エリック・ステグマン

本記事は2021年9月、コレクティブ・インパクト・フォーラムとアスペン・インスティテュート・フォーラム・フォー・コミュニティ・ソリューションズの共催によって実現した座談会の内容を一部編集したものです。登壇者は、10年以上にわたりコレクティブ・インパクトを通じて地域密着型の変化を起こそうとしてきた4人のリーダーたちです。それぞれのプロフィールについては文末をご覧ください。また、関連記事のシリーズ「コレクティブ・インパクト:10年を振り返る(Collective Impact, 10 Years Later)」も合わせてご覧ください。

コレクティブ・インパクトは難しく時間のかかる取り組み

メロディ・バーンズ(以下、司会) 1990年代に設立されたハーレム・チルドレンズ・ゾーンは、地域コミュニティに対して包括的な変化を起こそうとしている、最も先駆的な事例の1つです。これまでの活動からどんな学びを得て、それはコレクティブ・インパクトとどう関わっているのでしょうか。

ジェフリー・カナダ(以下、カナダ) 1つ目の学びは、この活動はとても骨が折れるということです。これはしっかりとお伝えしたいことで、毎日が大変です。過酷です。最も辛い場所に入って、困難な環境の中で活動することになります。だから、厳しい仕事になるという事実を受け入れる覚悟が必要です。

2つ目は、実際に変化が現れるまで、予想よりもはるかに長い時間がかかるということです。最初の5年間の実績データを見た人がいたら、おそらく、「これがうまくいっているとは思えない」と言ったでしょう。求めている結果を出すには、長い時間がかかるのです。

3つ目は、多くの人と複雑な取り組みを成し遂げるためには、間違いなく適切な人材を集めなければならないということです。活動の性質上、人は常に入れ替わるので、いつも最高の人材を確保するようにしなければなりません。

司会 次はジェニファーに話を伺います。シンシナティでのストライブ・パートナーシップは、スタンフォード・ソーシャル・イノベーション・レビューの「コレクティブ・インパクト」という論文でも紹介されましたね。現在の活動の状況についてお聞かせください。また、コレクティブ・インパクトの成果としてどのようなインパクトが生まれたのでしょうか。

ジェニファー・ブラッツ(以下、ブラッツ) 私たちは、アメリカの29州の約70地域で活動を展開するまでに成長しました。対象者は1100万人の子どもたちですが、そのうちの700万人は有色人種の子どもたちです。これだけの規模になると、いろんな現場での経験から非常に多くの学びが生まれています。

私たちがここまでうまくやってこれた主な理由は、現場での学びを共有し、それに基づいて独自のフレームワークを構築したからだと考えています。私たちはこれを、「ゆりかごから就職まで」の市民インフラを構築する、「ストライブ・トゥギャザーの行動の方法論」と呼んでいます。

2021年に第5版の方法論を発表しましたが、初期の頃よりもはるかに明確に人種や民族のエクイティ(構造的差別の是正)を中心に据えた内容になっています。

5回も改訂を重ねてはきましたが、それでも多くの成功例がありました。私たちのネットワークの70近いパートナーシップのうち、16は「プルーフポイント・パートナーシップ」と呼ばれ、「ゆりかごから就職まで」の6項目のアウトカム(成果)のうち4項目で目立った変化をもたらしていることが証明されています。また、システムレベルの変化が見られた事例もあります。私たちが目指しているのは、まさにこれです。アウトカムを拡大し、地域全体のインパクトを生み出すためには、システムを変える必要があるのです。

コミュニティのネットワークがあったからこそ、このような意識を高めることができました。システムレベルの変化とはどのようなもので、どのように測定すればよいのでしょうか。私たちはこれを、「権力構造の変化」「政策の変化」「資源の変化」「慣習の変化」を通じて測定しています。

部分最適から全体最適へ

司会 エリックは、ネイティブ・アメリカンズ・イン・フィランソロピーのリーダーとして、コレクティブ・インパクトが全米のさまざまなコミュニティに広がる様子を目の当たりにしてきましたね。このアプローチのどこに説得力があるのか、また、課題があるとすればどの点か、お聞かせください。

エリック・ステグマン(以下、ステグマン) コレクティブ・インパクトは、先住民的な世界観にきわめて近いアプローチだと私は思っています。それはなぜかをご説明しましょう。私たちは今、ネイティブ・アメリカンズ・イン・フィランソロピーにおいて、特に気候変動や自然保護の分野に注力しています。この2分野は、あらゆるコミュニティや国にとって最優先事項となりつつあるので、私たちの活動における重要性も高まっています。

そのなかで気づいたのは、部分最適の構造や既存のシステムこそが最大の問題であるということです。これはソーシャルセクターでは特に顕著です。多くの団体は、部分最適の構造を認識しているとは思いますが、それらがしばしば最大の障壁になっているという現状を打破しようとまではしていないように思います。

先住民のコミュニティは、文化的習慣からも世界観からも、環境について部分最適の考え方はしないのです。そうした考え方の違いがあるので、たとえばある問題の解決策やシステムレベルの変化について話しているときに、私が出ていって「あの海岸再生プロジェクトについて、気候変動の活動家と自然保護の活動家が話し合えばいいのではないのですか」と単純に提案するわけにはいきません。先住民の人たちは、気候変動や環境問題は、経済開発や文化の問題であるとも考えているからです。つまり、他の人と同じ目線で話し合える状態にたどり着くだけでも、実に難しいのです。

コレクティブ・インパクトに関わるコミュニティやステークホルダーの人たちに新たなコラボレーションの形を生み出すために、私は対話のあり方を問い直したいと思っています。現場レベルでもシステムレベルでも、これから行おうとする一つひとつの取り組みに、分析的なアプローチを適用することは本当に重要だとは考えていますが、それぞれのコミュニティでは、その物語を違った形で共有しなければならないでしょう。

司会 コレクティブ・インパクトの実践においてそのような対話が広がるために、物語やストーリーテリングのあり方を変える最善の方法は何だとお考えですか。

ステグマン 以前私は、先住民社会の里親家庭や児童養護施設で育った多くの若者と一緒に仕事をしていました。主に取り組んでいたのは、若者たちと共に、地域住民のリーダーシップ開発と問題に関するアドボカシー活動のプラットフォームを構築することでした。そこで彼らの問題を扱うときは、一人ひとりの個人的なストーリー全体をありのままに、強みを活かすような形で浮かび上がらせることを目指していました。そして、そのストーリーを異なるステークホルダーに伝える支援も行っていました。

ネイティブ・アメリカンズ・イン・フィランソロピーの最も重要な役割の1つは、問題の当事者の声に応える出資を行い、裏方となって支えることです。彼らの声をさまざまなチャネルで発信し、システムを変えるチェンジ・エージェントになれる可能性を秘めた人たちが、コレクティブ・インパクトという形であれ他の協働形態であれ、実際に行動できるように支援するのです。

データを効果的に活用する

司会 次はロザンヌに伺います。最近、マッカーサー財団がコミュニティ・ソリューションズに1億ドルの投資を行いました。その大きな理由の1つは、データの厳密性やインパクトを真摯に追求するあなたの姿勢が評価されたからではないかと思います。そこでもう少し詳しく伺いたいのですが、ホームレス状態を解消するというあなたの活動において、このことはどのような意味を持つのでしょうか。また、過去10年の実践において、データ活用アプローチはどのように進化してきたのでしょうか。

ロザンヌ・ハガティー(以下、ハガティー) 私たちは10年前、ホームレス問題でしっかりした足掛かりを得るためには、優れたプログラムだけでは不十分であることを理解し、活動の方向性を大きく変えました。組織内で責任の所在がバラバラになっているという問題がありました。また、コミュニティを支援するために、投資や価値ある活動、優れたプログラムを行っていたとしても、それらすべてがホームレスの減少につながっているのかを検証するアカウンタビリティの欠如という問題もありました。これらを解決するためにはまったく異なる考え方や取り組み方が必要でした。

私たちは5年くらい前から、サービスの改善やデータ活用をさらに進めるだけでなく、新しいゴールを提示する取り組みを始めました。そのゴールとは、コミュニティでほとんどホームレス状態になる人がおらず、たとえなったとしても早期発見によってその状態から抜け出せるという、いわば「ホームレス状態の機能的ゼロ」を実現することです。それぞれの地域で、このゴールを協力して達成するためにはコミュニティに何が必要なのか、ということを私たちは問いかけたのです。

現在89の都市、郡、地区がこのムーブメントに参加しています。そのうちの14地域では、慢性的にホームレス状態の人や退役軍人のホームレスが機能的ゼロという持続可能なゴールに到達しています。さらに、他の44地域においても進展があることが、データで示されています。

これらの取り組みで重要なのは、ゴールを共有し、共通の評価指標を持つことです。そうすることで、各地域で活動する人たちはチームとして、全体の目標達成に向けた行動に焦点を当てて、データを活用したシステム改善の取り組みに注力できるようになります。また、包括的なリアルタイムのデータを共有することで、問題がどのように進行し変化しているかを把握し、地域全体への影響、および個別に影響を受けているのは誰かを理解することができます。地域レベルと個人レベルの2つの指標を同時に追跡することは、システムを変えて包括的かつ持続的な改善を達成するために欠かせません。もう1つ重要なのは、人種間の格差がどのようにホームレス状態を生み出し、持続させているかを理解することです。

私は、データの厳密性が大切だと考えています。個人レベルのデータは、各地域においてHIPAA(医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律)に準拠して保有すること、そして全体レベルでは、地域ごとの集計と私たちのネットワーク全体での集計の両方を共有することを徹底します。これを通じて、「集合的なアクションを効果的に実施するためには、質の高いリアルタイムのデータが必要である」ということをコミュニティが理解していくようになると考えています。

データの厳密性がなければ、何がうまくいっていて、何がうまくいっていないか、どこに投資する必要があるか、誰が取り残されているのかについて、本当の意味で共通言語を持つことはできません。判断材料や報告書の作成だけに使われるデータではなく、学習ツールとしてのデータこそが、効果的な集合的アクションを実施するための最も強力なツールではないでしょうか。

司会 データは有用なツールであり、ミッション達成を加速させるものだという考え方について、もう少しお伺いしたいと思います。「現場の人たちはデータへのアレルギーがあり、データを収集して効果的に使用するのが難しいのではないか」と考える人、あるいはご自身がそういうタイプの人もいるかもしれません。データ活用にどのような難しさがあり、それをどのような方法で克服されてきたのでしょうか。

ハガティー 私たちは当初、いわば思い込みの罠にはまった状態に陥っていて、そこから探求の旅路が始まりました。「正しいデータ照合システムを構築し、適切な取り決めをすれば、すべてがクリアに見えてまっすぐな道が開ける」と考えていたのです。

私たちが学んだのは、コミュニティが共有する現実を理解し、その現実を明らかにするデータを手に入れるというプロセス自体が、まさに社会的なプロセスであるということです。住宅都市開発省から資金援助を受けている非営利団体や、郡の機関、住宅局、退役軍人管理局など、ホームレスに関わるすべての主要組織が同じテーブルに着き、共有データを構築し、対応策を講じる必要があるのです。このようなコラボレーションのプロセスが整っている地域は多くありません。

しかし、しっかりと進めているところもあります。ビルト・フォー・ゼロのネットワークの各地域には、同じテーブルに着き、この新しい種類の共有する現実を理解しようとするチームが存在しています。その活動を通じて、コミュニティ全体でホームレス状態にあるすべての人を把握しているのです。また、データの品質基準を設定して、「誰かを見落としていないか」「データの定期的な更新ができているか」「自分たちがデータを使って傾向を把握し、データの示すホームレス削減の大きなチャンスに対して改善策を講じて検証できているか」などを把握できるようにしています。

これは基本的にはリアルタイムで情報を活用する取り組みであり、活動に対するフィードバック・ループが生まれて、コミュニティ全体として目指すゴールを達成するのに役立っています。現場の人たちからよく聞くのは、この取り組みが実際に公共サービス全般についての考え方を変えつつある、ということです。つまり、ホームレスを取り巻く問題の全体の捉え方が変わってきているのです。

資金提供者の役割

カナダ 私が活動し始めたばかりの頃は、アウトカムやデータについて正直に話すと資金をひきあげられることもありました。悪い結果がデータに出れば、「効果がなかったということですね。では資金援助を打ち切ります」となるのです。そうなると現場では、透明性を保つことに消極的になります。医療分野では正反対で、「効果がなかったんですね。では、次はどうしますか。もっと効果のありそうなこと、よりクリエイティブでイノベーションが生まれそうなことをするために資金を提供しましょう。私たちがその問題を解決しなきゃね」と言われます。「失敗したら、もう資金は出しません」と言うなら、現場からあらゆる創造性を奪ってしまうことになるのです。

司会 資金提供者側はコレクティブ・インパクトにどのように関わってきたのでしょうか。難しい問題を解決するためのシステム変化を目指すアプローチと、強力な資金源であるフィランソロピーの相性についてどう考えますか。

カナダ 資金提供者側は実践者に対して、「システムレベルの変化に取り組むのか、それとも地域レベルで取り組んでいくのか」という選択を迫り続けています。

ただ、私が資金提供者の皆さんにお伝えしたいのは、彼ら自身も、もう少し集合的なコラボレーションについて実践を積む必要があるのではないかということです。たとえば「私にはこの活動に必要な資金をすべて提供することはできない、だからこそ他の資金提供者の方々の協力者が必要です。それがなければ現場のみなさんに、システムレベルか、地域レベルか、どちらかの取り組みを選べということになってしまいます」ということを言ってほしいのです。そして実際に、システムレベルと地域レベルの「両方」を変えていく方法を見つけなければなりません。そのためのリソースが必要です。

司会 まさに現場の支援も必要ですし、バックボーン組織の「地味な仕事」にも資金提供が必要です。これが、コレクティブ・インパクトを成功させ、コラボレーションの実現を促し、データなど活動に必要な要素を揃える助けとなるのです。これが不足している地域はよくありますね。

ブラッツ 資金提供者がコレクティブ・インパクトのパートナーとして必要であるという点は、ジェフリー・カナダが冒頭で述べた、長期的な覚悟が必要な活動である、という話とつながります。フィランソロピーは、特に国レベルでのキャパシティ・ビルディング(組織能力の開発)のような分野では長期的に支援することができていますが、地域レベルでそのような資金援助を行うのはさらに難しくなります。もう1つの問題は、まさにあなたが指摘したような理由から、「現場のプログラムか全体のシステムか」という誤った二元論に陥っていることです。

地域コミュニティで行う活動の多くが、公的な資金で賄われています。特に昨今はCOVID-19関連の景気刺激策の一部として多くの公的資金が使われています。それと比較すると民間の資金提供であるフィランソロピーの額はきわめて少ないのは事実ですが、公的資金とうまく組み合わせることで、より構造的差別に配慮した経済再生につなげることが可能です。こういったことを資金提供者にどのようにして説明するかが課題です。

地域レベルでのコレクティブ・インパクトの事例として、コネチカット州のブリッジポートの取り組みがあります。ブリッジポート・プロスパーズは、分野横断的なパートナーシップを構築し、出生前から3歳までを対象とした「ブリッジポート・ベビー・バンドル」と呼ばれる戦略を協働で展開していて、米国救済計画法の資金を活用してコネチカット州全体に協調的な取り組みを広めています。

今後の展望

司会 最後に、これまでの10年間に学んだことで、次の10年に活かすべきことは何でしょうか。

カナダ 私たちの団体は貧困撲滅に取り組みながら成長してきましたが、以前は「問題を解決することなんて無理だ」「公的資金を投入することは無意味だ」と言われてきました。大きな学びは、私たちの活動には意味があることを証明した、ということです。これらのやっかいな問題を解決することは可能なのです。学力格差は解消できます。ホームレス問題も解決できます。そしてその取り組みを、地域を越えて拡大できるのです。これは非常に大きな成功であり、重要なことです。私たちは、実際に効果があるというデータとエビデンスを獲得したのです。

ハガティー ホームレス問題は解決可能だという事実を伝えたいと思います。今や私たちは、コミュニティがそれを成し遂げたというエビデンスを持っており、どのような過程で実現できたのかを知っています。そして、それがお金だけの問題ではないということも知っています。責任をもって解決を推進していけるように、自分たちの協働のあり方をどうつくるかが問題なのです。

ブラッツ 私たちにとって重要な学びは、自分たちが変えようとしている既存のシステムから影響を最も受けているコミュニティを、システムを変える活動に参加させなければならないということです。したがって、コミュニティに真のオーナーシップを持たせ、他のコミュニティと協力して解決策を共につくるというのが、より大きなアウトカムを達成する最善の方法と言えるでしょう。

ステグマン 私たちはパンデミックなどのさまざまな出来事を通じて、広く一般の人々がシステムレベルの問題をはるかに深いレベルで理解するようになったという、前例のない時期にいると思います。私が現在、本当に注力したいのは、この機会によりと多くの人々の関心を集めること、そして、それらの解決策を実際に提示できるようにするために、コレクティブ・インパクトのアプローチの活用法を見出すことです。

【原題】Reflecting on Collective Impact for Place-Based Social Change
【イラスト】Hugo Herrera

◆本座談会のフルバージョンは以下のポッドキャストで配信しています。(英語版)https://www.collectiveimpactforum.org/resources/roundtable-discussion-reflecting-collective-impact-place-based-social-change

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