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より公正なアウトカムをもたらす発注プロセス

より公正なアウトカムをもたらす発注プロセス

特定の業務を発注するための提案依頼書(RFP)のあり方は、構造的に社会変革のための取り組みにとって逆効果となっている。より現地のコミュニティや現場のスタッフの力を活かせるようになるために、3つの改革案を提案する。

デボン・デイビー|ヘザー・ヒスコックス|ニコール・マークウィック

近年、ソーシャルセクターや支援先のコミュニティは、最も深刻な社会の不公正を解決するためには、根本的な社会構造の変化が必要だと訴えるようになっている。だが、変化を起こそうと資金調達するときに用いる基本ツールである「提案依頼書(RFP)」は、ほぼ旧態依然の状態だ。システム改革への声が高まるなかで、RFPの見直しも検討されるべきだと私たちは考えている。

RFPはどう見ても、社会を変える活動にプラスになっているとは思われない。むしろ多くの場合で、フィランソロピーおよび非営利セクターが支援しようとしているコミュニティに悪影響を及ぼしている。RFPは構造的に、力の不均衡による搾取と抑圧的なシステムを助長するようなものになっている。具体的には、限られた人間に権力が集中し、社会を変える活動の実践に最も適任なはずの人たち、つまり、経験や技術的知識をもとにその問題への豊富な知見を持つ人たちが排除されているのだ。もちろんRFPにはポジティブな面もあるが、それを維持しながらより公正なアウトカム(成果)を実現するための代替案を、本稿では提案したい。

力関係が大きく、アイデアの盗用も起こっているRFP

RFPとは、プロジェクトの概要を説明し、その取り組みの一部または全部を対象として外部からの支援を要請する文書で、通常は、プログラムの概要、目的、成果物、スケジュール、プロジェクト予算などで構成されている。主として資金提供者や非営利団体のウェブサイトやポータルサイトに掲載され、知り合いのネットワークを通じて周知する。RFPに応じる入札者者(通常はコンサルタントや非営利団体)には、プロジェクトにおいてどんな活動を行うのかに関する企画書の提出が求められ、そこで最も評価された入札者が契約を獲得する。

一見すると、このプロセスは中立的で公平に見えるかもしれない。だが、RFPは組織の幹部によって作成されることが多く、コミュニティのメンバーや現場のスタッフ、つまり社会の不公正について最もよく理解している現場の人たちから有意義な意見を聞くことはほとんどない。さらに、RFPの発行者も入札者も、プロジェクトの立案や連携を探る際に、人間関係を頼りにすることが多い。そのネットワークは非常に同質性が高いため、RFPへの参加機会を得るのは発行者とつながりを持つ専門家に限定され、入札者はそこからさらに絞り込まれた人たちになりやすい。

人間には自分と似た見た目や考え方の人を採用しやすいという傾向があるが、それによってこの選定過程の問題がさらに悪化してしまう。ソーシャルセクターの意思決定者や権力者は、属性的には特に白人である傾向が強い。こうした多様性の欠如は、歴史的な抑圧によって助長されてきたものであり、フィランソロピーおよび非営利セクターにおいて、白人の特権と仕事の進め方が支配的になる状況を招いた。このように権力が集中し、RFPの方向性を検討する際に多様な視点や経験を活かせなくなると、結果的にコミュニティのニーズに応えられないプロジェクトが立ち上がってしまう。そしてそれらの多くが人種差別や植民地主義、女性蔑視、能力主義、性差別など、システムレベルでも個人レベルでも生じている抑圧の問題をそのまま永続させるプロジェクトになるのだ。

RFPの硬直的な構造は、思わしくないアウトカムが生まれてしまう大きな原因となっている。本当に効果を生む社会変化の取り組みとは、本質的には創発的で、改善を繰り返し、信頼を中心としたものである。それに対してRFPで立ち上げられたプロジェクトでよく見られるのは、柔軟性に欠ける活動領域や、限られたスケジュールと予算、そして権威ある人たちがブラックボックスで策定した実証されていないソリューションの採用などだ。資金提供者は、指定された計画に従った結果を望むため、プログラムを無理にでも実施しようとすることがあまりにも多い。このような硬直性によって、プログラムは効果的でもなくなるし、コミュニティのニーズからかけ離れたものになってしまう可能性がある。この問題を象徴するのが、コンサルタントのジョイス・リー=イバラが語った言葉だ。

「(RFPは)商取引そのものだ。私は人と人とのこまやかなやりとりを大切にしたいのだが」RFPでは一般的に、入札者にかなりの無償作業が求められる。それに取り組むのは、特に有色人種、女性、中小企業には難しい。無償作業を強いることによって、RFPはシステムとして、非常に貴重な技術専門知識や人生経験を提供してくれる人たちを排除してしまう。だが、こうした人たちこそ、プログラムの質を高めて、多様なコミュニティとのつながりを強めてくれるはずなのだ。

また、アイデアの盗用も明らかになっている。たとえば、RFPの発行者が入札者から得た情報を、実際の契約、対価、クレジット表記もないまま別のRFPや出版物に載せているケースがある。有色人種や障害者、LGBTQIA+の人たち、女性が、心理的な安全性は言うまでもなく、プロフェッショナルとしての地位を手にするのがとりわけ困難な状況に置いて、アイデアの搾取はこうした人たちのさらなる抑圧につながる。

そのため、商取引的で搾取的なRFPの性質が多くの入札者を遠ざけている。そもそも数々の障壁を突破できない人もいるのだ。その結果、支援先のコミュニティは、インパクトを生む可能性のあったコラボレーションの機会を失い、一方のフィランソロピーや非営利団体は、社会変化に失敗して、場合によっては将来まで禍根を残すことになるのだ。

3つの改革案

抑圧を受けているコミュニティの外にいながらRFPの仕組みに何らかの形で関わっている人間は、この不公平かつ充分な効果の見込めないこのシステムがいまだに使われていることを自分ごととして考えてみる必要がある。どうすればより公平で、もっと多様な人が参加できるインクルーシブな仕組みを実現できるのか? 以下、RFPを再構築する3つの方法を提案したい。それは「現地のコミュニティと共創する」「ソリューションより課題を重視する」「リソースを再分配する」ことだ。

(1) 現地のコミュニティと共創する

プロジェクトの領域やフォーカスの決定、課題定義は、コミュニティの視点から行うべきだ。RFPを策定するときは早い段階から、その課題に関係する、あるいは影響を受ける現場のスタッフや地域住民など、幅広い人たちに参加してもらうようにするといいだろう。そしてRFPには、次の項目を盛り込んでおく。まずは地域社会が作成に関わったことを示す情報。次に、コミュニティの人たちが今後も継続的にプロジェクトに参画し、権限が共有されるための計画だ。具体的な計画はプロジェクトによって異なるが、たとえばコミュニティの運営委員会の設置を要求したり、RFPをコミュニティメンバーと共同で作成したり、コミュニティと意見交換して最新情報を共有する定期的な対話の機会を提供したりすることが挙げられる。

RFPには、インクルーシブな意思決定も必要だ。コミュニティの人たち、現場スタッフ、連携パートナーなど、さまざまなステークホルダーや人種の人たちが参加するレビューチームをつくり、入札された提案の審査と選定を担当する仕組みを提案したい。また、意思決定委員会が最終的な契約者を決める際は、予算に加えて、提案者の価値観や方法論、アプローチ、チームメンバーの属性やアイデンティティ、コミュニケーションスタイルなどの方向性が合っているかどうかを検討事項に含めるようにするといいだろう。この委員会はプロジェクトの期間中にも、契約者が行う事業のモニタリングや評価を担うなど、RFPのプロセスを超えた活動を行うこともある。RFPのプロセスにおいては、現地のコミュニティの人たちに対して、交通手段や託児サービスの利用など、参加への障害を軽減するために補償資金を割り当てる必要がある。

(2) ソリューションや成果物よりも、課題や潜在的な機会の特定を重視する

そうすることによってRFPの発行者、入札者、コミュニティが協働する余白が生まれ、あるべきアウトカムや活動の意図を共に設計したり場合によっては実験したりできるようになるだろう。この取り組みを行う際は、相互の関係性を築くことを中心におくべきだ。そして、対話のための時間を充分にとって、プロジェクトのスコープ、アプローチ、方法論の選択肢について、より広いグループの人々が共に考え、学ぶことができるようにするといいだろう。

RFPの発行者は、厳密な条件を設けるのではなく、RFPが現場の課題解決を目指したものになるように焦点を当てるべきだ。たとえば、自分たちはどんな課題を解決しようとしているのかやどんな障壁に取り組もうとしているのか、過去の実績などを記載することで、入札者が最も適切だと思われる方法を明確に示しやすくなるだろう。このアプローチは、より効果的な結果を生む可能性がある。なぜならコンサルタント、非営利団体、地域住民が協働して、課題を特定して創造的な方法を模索しながら、さまざまな学習およびプロジェクト作業の段階を経て最終的な成果物を築く余地を生み出すからだ。

協働デザインに必要な柔軟性を確保するために、RFPにおいても予算とスケジュールを調整可能にしておく必要があるだろう。プロジェクトの予算やスケジュールに柔軟性を持たせることで、真の関係構築につながり、コミュニティの緊急のニーズに対応できるようになるだろう。私たちが提案したいのは、コンサルタント、非営利団体、そしてコミュニティメンバーが合意しながら、さまざまな段階を創発的に一歩一歩見出していくような、より開かれたプロジェクト進行だ。

(3) 権限を共有する機会を提供することで、リソースの再分配のあり方を変える

無償作業を完全に回避することは現在の仕組みのなかでは難しいかもしれないが、文書の文字数を制限することで、作業時間を短縮できるだろう。マジック・キャビネットやティッピング・ポイントといった資金提供団体のように、提案書の全体的なコストの中に事前の無償作業分を含めるかたちで補償するところも出てきている(ただし補償を受けられるのは、契約に至った場合のみ)。

入札者も、自分たちのリソースをうまく活かすことで、不公平を最小限に抑えられるだろう。たとえば提案書を他の入札者と共同作成することで、人脈、知識、情報やリソースへのアクセスなどを共有できる。また提案書を共同作成すれば、事前の無償作業分のコストを分散でき、作業者一人ひとりの負担をさほど増すことなく仲間の役に立つことができる。

入札者自身も現在の問題の改善に何ができるかを問い直す必要がある。たとえば、自分たちがプロジェクトの対象となっているコミュニティの出身ではなく、コミュニティのニーズを代表していない場合は入札せず、他の候補者を推薦することを検討すべきだ。「有色人種の非営利コンサルタント(Nonprofit Consultants of Color)」「社会変化を目指すデザインデータベース(Social Change by Design Database)」「活動的な非営利パートナー名鑑(Momentum Nonprofit Partners Consultant Directory)」などに掲載されているような優れたコンサルタントや非営利団体に候補者を広げていくといいだろう。

この3つの改革案は暫定的なソリューションであり、より大きなシステム変化を起こす変革に向けて同時に取り組むためには並行してさまざまな活動をしていく必要がある。コミュニティ開発アドバイザーのデル・ギネス氏の言葉を最後に紹介したい。

「RFPの改革は、目の前の状況における(権限の非対称性の)緩和には役立つかもしれないが、富や権限が一部の人たちに集中しているという根本のシステムこそが、大きな問題なのだ」

【翻訳】田中圭子
【原題】Reimagining the Request for Proposal(Stanford Social Innovation Review, Spring 2022)
【写真】Arisa Chattasa on Unsplash

デボン・デイビー

戦略コンサルタント、エグゼクティブ・コーチとして、インパクト志向の団体や社会的企業と協働しながら、社会や環境における公正の問題、ネットワーク構築、システム変化に取り組んでいる。現在、カリフォルニア州オークランドを拠点に活動。

ヘザー・ヒスコックス

ポーズ・フォー・チェンジ(Pause for Change)創設者。社会的インパクトの創出を目指す組織が不確実な状況に適応し、より少ないリソースですばやく課題解決に取り組み、より大きなインパクトを達成できるよう支援している。その主なツールとして独自開発した「P.A.U.S.E.」フレームワークを活用している。

ニコール・マークウィック

コミュニティ参画専門のコンサルタント。より深い社会変化を目指して共同デザインに取り組んでいる。現在はチリの自治体に勤務。

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翻訳者

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