コレクティブ・インパクトの新潮流と社会実装
Vol.04
地域課題解決の本質的なイノベーションを起こすには企業、行政、NPOなど、地域の重要なステークホルダーが、本当の意味でフラットな信頼関係を築くことが重要だ。そのためのユニークな試みが東京・渋谷から全国に広がっている。※本稿は、SSIR Japan 編『スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版 04 コレクティブ・インパクトの新潮流と社会実装』より転載したものです。野村恭彦 Takahiko Nomura|加生健太朗 Kentaro Kasho2011年3月、未曽有の震災が日本を襲った。東北地方で最大40メートルの高さに達する津波を引き起こした東日本大震災は、東北のまちに甚大な被害をもたらした。大きく傷んだまちが復興へと進むなか、企業、行政、NPOなどがセクターの垣根を越えて対等な関係で協力し、地域を共創しようという動きが生まれていった。特定の問題に対して「必要な人たち」を外から呼ぶのではなく、その場所で出会った人たちが「自分たちには何ができるんだ?」と話を始め、つながり、具体的な行動が生まれる。その輪のなかには、まちの人も、NPOの人も、行政の人も、企業の人もいる。自然とさまざまなステークホルダーが集い、一緒になってゼロから新しいものを生み出す、そんな姿があちこちで見られた。こうした共創関係を、平時から都市部でも実現するためには何が必要なのか、という問いから生まれたのが「つなげる30人」という仕組みである。これは特定の課題解決のためのプロジェクトではなく、共創関係をつくっていくプロセスにこそ課題解決の鍵があるのではないか、と考えて始まった。異なるセクターの共創関係によるイノベーションの模索は、これまでもさまざまなかたちで行われてきた。しかし、たとえば企業が中心となる「クロスセクターによる共創」は、既にあるリソースで実現可能で、短期回収できるアイデアにとどまってしまい、社会課題に対する根本的な解決策に結びつかないという問題があった。企業が行政・NPOと連携してサステナビリティにつなげるイベントを開催したとしても、その運動を広げていけるかどうかは企業の事業上の都合で決まってしまう。さらに、課題を設定したうえでステークホルダーを特定する従来の方法では、集められた人たちの間にフラットな関係性が生まれにくく、「やらされ感」が出やすい。企業が社会実験をしたいから協力してくださいとNPO等に協力を依頼するだけでは、依頼を受けた側は企業がどこまで本気で地域に関わる気があるのかわからないのだ。行政による「市民協働」の試みも、その多くは縦割りの構造のなかで、他部門の管轄業務や政策に影響を与えない範囲での市民参加に終始してきた。地域の社会課題への取り組みには、NPOを中心としたネットワークによるものもあるが、他セクターとのアジェンダのすり合わせが不十分で役割分担やリソース配分がうまくいかないといった問題が生じがちだ。NPOが企業に協力を依頼する際に、企業の戦略やブランディングの視点から協働することを考えれば可能性は広がるが、ものや資金を提供してもらうことをまず考えてしまうのも、協働が失敗に終わるときによく見られるパターンである。
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