コレクティブ・インパクトの新潮流と社会実装
Vol.04
次世代への投資のリターンを最大化する少子化対策とは子育て支援は、出生率の向上を通じた経済成長や財政健全化だけでなく子どもの心身の健全な発達を通じた社会の安定化にも寄与する。子どもを持たない人も子育てが終わった世代も恩恵を受けているのだ。※本稿は、SSIR Japan 編『スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版 02 社会を元気にする循環』より転載したものです。山口慎太郎 Shintaro Yamaguchi子育ては「経済的に報われない」という問題いま日本では少子化が社会問題であるという共通認識のもとにさまざまな施策が講じられているが、出生率が人口置換率の2.1にほど遠い状態(2020年の合計特殊出生率は1.34)が続いているなかでこの流れを変えることは非常に困難といわざるをえない。では人口減は止められないから政策介入はやっても意味がないのかといえばそれは違う。政策介入をすることの目的は現役世代と引退世代の比率を安定させる、少なくとも変化の速度を緩やかにしていくことにある。一方で子どもを持つ・持たないというのは個人の選択だ。国の経済規模や社会保障制度を維持するために子どもを持とうと考える人はまずいないだろう。たしかに子どもは社会全体にとって経済的な意味でも有益な存在であるが、子どもを育てる費用はその親が負担する一方、子どもが成長してから生み出す便益は社会全体が享受するとなると、親は経済的な意味で報われない(子どもがかわいいとか、子育てのやりがいなど、非経済的には報われるとしても)。経済学的にいえば子育てには「正の外部性」があるのだ。経済発展段階の低い国では、自身の老後を支えてもらうためにたくさんの子どもを持つのは当たり前と考える社会もある。そうした国では、子どもはある意味で親の所有物のように扱われる。かつての日本でもそうだったが、社会が発達して法制度が整い、親の子に対する影響力が制限されるようになるのと並行して、社会全体として高齢者を支える年金制度が導入される。しかし年金は子どもを産み育てなかった人も受け取ることができるので、子育てのコストを払わず年金というベネフィットだけ享受するという、いわゆる「フリーライド(ただ乗り)」の問題が生じる。これに対して子どもの人数によって年金が割り増しになるような制度によって個人の子育てコスト負担を減らそうとしているフランスのような国もある。「子育て世代」だけでなく「未来の世代」も視野に子育て支援というと、とにかく「いまの子育て世代を助ける」という視点で止まってしまいがちだが、より大きな視点から見ると、長期的な経済成長や財政の健全化につながっている。また、子育て支援のもたらす社会的便益のなかには、社会の安定化も含まれる。そのように見ていくと子育て支援は「次世代への投資」といってよい。日本においてはその投資額の小ささ(日本の家族関係社会支出のGDPに対する割合は先進国のなかでも突出して低く、OECD加盟国のなかで1 位のフランスが3.60%であるのに対してその約半分の1.79%[図 1])もさることながら、投資効率の検証も不十分だ。より効果のある政策にリソースを振り向けるためには、実証研究に基づく政策形成(Evidence Based Policy Making, EBPM)への理解が不可欠だ。ところが、日本では他の先進国に比べてEBPMの前提となるデータの整備が進んでおらず、たとえば一人親家庭の経済状況が把握できるような政府統計は不十分だ。子育て支援のような社会全体へのインパクトがとりわけ大きい分野で、EBPMの重要性についての理解が広がることは、行政、企業、非営利団体、研究者のデータ活用における連携・協力への後押しになるだろう。本稿では、子育て支援分野の実証研究について紹介するとともに、エビデンスに基づかない政策設計がもたらしうる負の効果についても論じ、EBPMのためのクロスセクターの取り組みについて提言する。幼児教育の外部経済
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