コレクティブ・インパクトの新潮流と社会実装
Vol.04
「非営利団体は、寄付や助成金は事業にまわすべきで間接費や管理費は最小限に抑えるべきだ」世間に広く根付いているこの考え方が実は非営利団体の経営を追い詰めている。この悪循環はどのような構造になっていてそれを断ち切るためには何が必要なのか?(SSIR 2009年 秋号)※本稿は、SSIR Japan 編『スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版 02 社会を元気にする循環』より転載したものです。アン・ゴギンズ・グレゴリー Ann Goggins Gregoryドン・ハワード Don HowardITや財務のシステム、研修制度、資金調達プロセスといった組織のインフラがしっかりと整備され そのための間接費を賄える組織は、そうでない組織よりも成功しやすい⸺。これはまったく新しい話ではなく、非営利団体もまた例外ではない。とはいえ、非営利団体の大半が間接費の財源を十分に確保できていないことはあまり知られていない。非営利団体専門のコンサルティング業務を行うブリッジスパン・グループでは、クライアント先で次のような場面によく遭遇する。団体のメンバーたちは組織のインフラとマネジメントを強化すべきという考えには同意するものの、いざ間接費への出費を増やすとなると難色を示すのだ。しかし、間接費の財源不足が致命的な事態を招きかねないことは、米シンクタンクのアーバン・インスティテュートの全国公益活動統計センターとインディアナ大学の公益活動センターによる5年間の共同研究プロジェクト「非営利組織の間接費研究」(Nonprofit Overhead Cost Study)で明らかになっている。このプロジェクトは、米国内国歳入庁(IRS)が非営利団体に提出を義務づけている年次税務申告書(通称「フォーム990」)を22万件以上精査し、収入が10万ドルを超える1500の非営利団体を徹底調査したものだ。その結果、性能の悪いコンピュータが使われている、業務に必要なトレーニングを受けていないスタッフが働いているなど、驚きの実態が次々と明らかになった。オフィス家具が老朽化しすぎて引越業者に運搬を拒否されたケースさえあったという。間接費の財源不足による悪影響はオフィス以外にも及んでいる。まともに動かないコンピュータでは、事業のアウトカム(成果)を測定して何がうまくいっていて、何がそうでないかを追跡することもできない。スタッフのトレーニングが不十分であれば、受益者に質の高いサービスを提供することなどとうてい無理だ。このような研究があるにもかかわらず、非営利団体の多くは依然として間接費への支出を渋っている。実際、昨年(2008年)の世界金融危機がもたらした目下の不況を乗り切ろうと、少ない間接費をさらに切り詰めようとしていることが、ブリッジスパンの最新研究で明らかになった。全米の非営利団体の事務局長100人以上を対象に調査したところ、回答者の56%が間接費の支出を削減するつもりだと述べた。とはいえ、すでにぎりぎりの間接費をさらに削れば、ミッションの達成能力はもちろん、組織の存続そのものが危うくなりかねない。アメリカのオバマ政権が金融危機下で発動した緊急経済対策で成長が加速する団体もあるかもしれない。しかし、多くの組織はインフラが盤石とはいえないため、予定外の収入をうまく活用できずに、善意から提供された資金の重みに耐えかねて押しつぶされてしまうだろう。なぜ、非営利団体と資金提供者が一様に、間接費の財源不足を放置しているのか? 私たちはこの原因を探るべく、全米規模で若者支援に取り組む4つの団体を調査した。どの団体も、政府・財団からの助成金や個人からの寄付金など、複数の資金源をもとに運営されている。また私たちは、さまざまな団体のリーダーやスタッフ、資金提供者に対する聞き取り調査と、非営利セクターの間接費に関する先行研究の総合分析も行った。その結果、間接費不足の慢性化を助長する悪循環があることが浮き彫りとなった1(「非営利団体を追い詰める悪循環」の図を参照)。悪循環を誘発している第一の問題は、資金提供者が期待している団体の運営コストが現実と大きくかけ離れていること。続く第二の問題は、資金提供者のそうした期待に応えなければならないというプレッシャーが団体側にかかっていること。第三の問題は、そのプレッシャーに対して団体側が「間接費を最低限に抑える」と「税務申告書やファンドレイジング用の資料で間接費を過少報告する」という2つの対応をとっていることだ。このような間接費の切り詰めや過少報告により、資金提供者の非現実的な期待が常態化することになる。それが長く続くことで、資金提供者は非営利団体に対して、より少ない経費でより多くの成果を出すことを求めるようになっていく。これが、団体をじわじわと窮乏に追い詰める悪循環の仕組みだ。
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