インパクト投資・測定評価

インパクト投資におけるアウトカム・ファンドの可能性

世界の教育を向上させようとする取り組みは往々にして期待通りの成果を上げることができない。
アウトカム・ファンドを利用すれば、資金提供者や政策立案者は最も有効なアプローチを選択できるだろう。

※本稿は、SSIR Japan 編『スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版 02 社会を元気にする循環』より転載したものです。

ジャレッド・リー Jared Lee

低中所得国では、子どもたちの過半数(53%)が、小学校を卒業するまでにやさしい物語を読んで理解することができない。この世界的な学習の貧困は、国連加盟国が2030年を期限に約束した、世界の繁栄のための17の優先事項である「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成を妨げる恐れがある。このような状況を打開するためには、各国政府と資金提供者が学習力向上のために資金の投入を増やすだけでなく、投入した資金が可能な限り効果的に使われる必要がある。世界の教育業界では、資金調達や政策決定をより適切に行うために、エビデンスの抽出と活用を増やすことの重要性が認識されつつある。教育のためのグローバルパートナーシップ(Global Partnership for Education, GPE)が導入しているナレッジ・アンド・イノベーション・エクスチェンジ(Knowledge and Innovation Exchange, KIX)や、世界銀行とイギリスの外務・英連邦・開発省(Foreign, Commonwealth & Development Office, FCDO)が招集したグローバル・エデュケーション・エビデンス・アドバイザリー・パネル(Global Education Evidence Advisory Panel, GEEAP)など、さまざまな開発機関が、エビデンスや知見を活用する取り組みの拡大に注力している。

このエビデンスムーブメントは、ランダム化比較試験(RCT)の手法を国際開発の分野に応用した功績により、エステル・デュフロ、アビジット・バナジー、マイケル・クレーマーに2019年ノーベル経済学賞が授与されたことで盛り上がりを見せた。

同賞委員会は、RCTの使用が「世界の貧困と闘う力を大幅に向上させ(中略)、開発経済学を変革した」と評価した。

その結果は驚くべきものだった。これらの研究の約半分で、評価対象のプログラムが学習にまったく影響を与えなかったか、もしくはマイナスの影響を与えたとされ、当然のことながら費用対効果がないとわかったのである。プラスの効果があったプログラムのうち、上位20%のプログラムの支出1ドルあたりの子ども1人に与えたインパクトの加重平均は、下位20%のプログラムにおけるインパクトの約100倍、入手可能な研究の中央値の9倍だった。

このデータから読み解くべき重要な結論がいくつかある。第一に、慎重に設計されたように見える介入策でも、予想に反する結果になることがあるため、うまくいくと思われる事業ではなく、実際にうまくいっている事業のエビデンスに従わなければならないということだ。

第二に、適切な介入策を設計することの価値は大きく、受益者の生活に劇的な変化を与えうるほどの効果があるということだ。政府や資金提供者が、現地の文脈に合った最も費用対効果の高い支援すべきプログラムを見きわめる際に、これまで注目してきた効率性の改善(調達やプログラム管理のコストからわずかな金額を捻出するなど)は、つまらないものに見えるだろう。

第三に、私たちには教育システムへの投資のインパクトを向上させる大きなチャンスがあるということだ。世界的な学習危機に対処するためには、このチャンスを生かすことがきわめて重要となる。

このチャンスをとらえる1つの方法として、アウトカム・ファンドの活用がある。アウトカム・ファンドでは、事業者はあらかじめ設定した特定のアウトカムを契約に盛り込み、支払いはアウトカムの達成に直接紐付いて行われる。活動に対してではなく、望ましいインパクトに対して資金が提供される。重要なのは、このような資金は、プログラムのもたらした成果に応じて支払われるため、成果のエビデンスに注目が集まる点である。アウトカム・ファンドは、特定の文脈に応じた有効性のエビデンスをシステマチックに抽出し、そのインパクトにのみ報酬を与えることで、資金提供者や政策立案者がプログラムの有効性を見きわめるという難問を解決し、最も有効なアプローチに資金を投入できるようにする。

地域の文脈に合わせた介入策の重要性

インパクトに関するあからさまな数字を見て、「この世界的なエビデンスに基づいて、開発費のすべてを上位20%の介入策に注ぎ込めばいいのでは」と一瞬思うかもしれない。残念ながら、そして予想通り、教育システムの向上は少なくとも2つの理由から、それほど単純ではない。

まず、上位20%に入る介入策は非常に低コストで、システムレベルの改善をもたらすというよりは、特定の課題に対処するものであることが多い。たとえば、あるプログラムは、教育によって得られる利益に関する情報をマダガスカルのコミュニティに提供することで、ほとんどコストをかけずに生徒のモチベーションと成績を大幅に向上させた。しかし、一度実施したプログラムを、同じコミュニティでさらに実施しても、同様の効果は期待できないし、教育の効果をすでに認識しているコミュニティで行っても、同じ結果は期待できない。

この点を踏まえると、2つ目の理由が見えてくる。介入策の有効性に関するエビデンスは、地域の文脈を超えて一般化することが難しいということだ。子どもたちが学習するために必要な条件はおおむね一貫しているかもしれないが、対処すべき学習の障壁は場所によって異なるのが常である。専門家が「外的妥当性の欠如」と呼んでいるこの問題は、歴史的にどんな領域に投資されてきたか、内戦や伝染病などの国家形成に関わる危機、文化的規範など、国や地域レベルでのさまざまな特異性によって左右される。私たちが調査したエビデンスデータでも特定の介入策の費用対効果は国によって大きく異なっており、地域の文脈を反映させることの重要性を明確に示している。

個別に検証された結果に資金を連動させる成功報酬型投資の支持者は、このアプローチを次のような理由で支持している。「説明責任がより強く求められるようになり、受益者にとって望ましいインパクトに焦点が当たること」「柔軟性が高まり、現地の文脈下で機能しているかどうかに基づいてプログラムを改善しやすくなること」「成果の透明性が高まること」そして最終的に「資金提供者にとってより大きなインパクトと費用対効果をもたらすこと」である。

アウトカム・ファンドは、このコンセプトに基づき、共通の資金枠で複数の事業パートナーと契約することで、取引コストを削減し、複数の介入策を同時にテストすることができる。

しかし、文脈に応じたエビデンスの抽出と活用は、アウトカム・ファンドの有用性の根拠としては見落とされがちだ。アウトカム・ファンドがうまく設計されていれば、エビデンスがもたらすメリットは、単なる支払い額の決定をはるかに上回るものがある。

私は、チュニジアの元閣僚アメル・カーブール、インパクト投資のパイオニアであるロナルド・コーエン卿、英国のゴードン・ブラウン元首相とともに、エデュケーション・アウトカム・ファンド(Education Outcomes Fund, EOF)を共同創設し、世界中の政府と協力して、教育とスキルを向上させるためにアウトカム・ファンドの規模を拡大している。EOFでは全体を通して、プログラムの設計から、介入策や事業パートナーの選定、実施中のデータに基づく改善と軌道修正、そしてプログラム終了後のレプリケーション(複製・再現)と規模拡大の判断に至るまで、文脈に応じたエビデンスの抽出と活用が強く機能している。

ガーナとシエラレオネにおける初めてのEOFプログラムでは、外部の評価機関によって毎年RCTが実施される予定だ。事業者は、このエビデンスと独自の実績管理データシステムを利用して、学習力や受益者の生活を向上させるために機能していることと、していないことに継続的に着目しながら、介入策の効果を調整し、改善する。活動ではなくアウトカムに対する説明責任を持つことで、意思決定が現場に寄り添い、地域の文脈に合わせた柔軟な介入が可能となり、効果のない取り組みになりやすい硬直したトップダウン型のプログラムを回避することができる。

EOFは、事前に合意した上限を超えない範囲で、RCTによって結果が出た学習への効果に応じて支払いを行う。投資家はほとんどの場合、インパクト・ボンドと呼ばれる仕組みで介入のための資金を事前に投資し、達成されたアウトカムの厳密なエビデンスにのみ基づいて返済を受ける。事業者のインセンティブを受益者にしっかりと合わせ、インパクトを得るまでの財務リスクを民間セクターに移し、結果が出なかった場合にはコストを負担しなければならないという仕組みだ。

このアプローチを通して、アウトカム・ファンドは、どのような介入が、どのようなコストで、どのような理由で最大のインパクトをもたらしたかを示す、重要かつ新しい、文脈に応じたエビデンスを政策立案者向けに公開する。また、より広範なプログラム評価や学習アジェンダを比較することで、投資報酬指標以上の、それぞれの介入のインパクトを総合的に理解することができる。

たとえば、シエラレオネでは、アウトカム・ファンドがNGOと契約し、さまざまな介入を行って公立小学校の学習レベルの向上を支援している。政府は、EOFプログラムを利用して5つのクラスター(それぞれ約60校)において最も効果的な介入策を全国的に展開することに決めた。規模を拡大するための介入策は、政府が投資できる範囲の金額に限定されていて、エビデンスをもとに政策が実行できるよう強固な道筋があらかじめ設計されている。

データの向こうへ

すべての問題が測定できるわけではないし、データやエビデンスの活用は、プログラムのより広範な目的や、受益者の生活や複雑なニーズを認識したうえで、常にその文脈を加味して理解されなければならない。測定可能なテストの結果に焦点を当て過ぎると、子どもの発達における他の重要な側面、たとえば社会的・情緒的スキルや幸福感などの重要性を脇に追いやることになりかねない。学校は、家族、コミュニティ、社会に、幅広い価値をもたらしてくれる場所だ。

インパクト・ボンドやアウトカム・ファンドは、特定の結果が他よりも優先されるように設計されている。トレードオフの考え方によって、最も重要な問題に焦点を絞ることが正当化されるからだ。しかし、それを設計する側は投資報酬指標が重要な問題を広く確実に測定できるものになるように尽力し、それが不可能な場合には、意図しない結果が回避されるように他の方法を見つけなければならない。

この分野の発展に合わせて、限られた資金の中で最大限のインパクトを達成するためにエビデンスを活用する方法を学び続けると同時に、このアプローチのリスクと限界を積極的に管理していくことが求められる。

【翻訳】布施亜希子
【原題】The Promise of Outcomes Funds(Stanford Social Innovation Review, Winter 2022)

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