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ESG評価の高い企業は本当によき企業市民なのか?

ESG評価の高い企業は本当によき企業市民なのか?

環境破壊や社会的不公正に押されて地球が限界点に近づきつつある今、投資家がプラスの影響を確実に得るためには、より説得力のある環境・社会・ガバナンス(ESG)評価システムが必要だ。

ハンス・タパリア Hans Taparia 

フィリップ・モリス・インターナショナル(PMI)が、ESG要素で高評価されている企業の仲間入りをした。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック第2波の高まりや大統領選挙後の混乱がなければ、もう少し注目を集めていたかもしれない。

とはいえ、年間7,000億本のタバコを販売しているフィリップ・モリスが、どういうわけでダウ・ジョーンズ・サステナビリティ・インデックス(DJSI)北米指標に組み入れられたのだろうか。DJSI北米指標は、近年つくられた数百もの市場指数の1つで、製品の安全性、温室効果ガスの排出量、役員の多様性、その他のESG要素で高い評価を得ているとされる企業を追跡する。

その理由は簡単だ。良き企業市民とされる水準がとてつもなく低いのだ。その水準の低さによって、今日の投資において最も注目を集めるトレンドと言っても過言ではないESG投資活動が、社会や地球を不安定化させる大きな力になってしまっているのである。

現在のESG評価システムに潜む2つの問題

この問題の核心は、モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル(MSCI)やサステナリティクスなどの評価会社が提供するESG評価の算出方法にある。多くの投資家の予想に反して、評価項目の多くはESG要素に関連した実際の企業責任とは関係がない。実際は、ESG要素に起因するリスクに、企業の経済的価値がどの程度さらされているかを測るものとなっている。たとえば、企業が環境汚染物質の重大な排出源となっていても、その汚染行為が適切に管理されている、あるいは企業の経済的価値を脅かすものではないと評価会社が判断すれば、ESGスコアはそれなりのものになるのだ。

地球の存続に関わる脅威を与えているエクソンモービルやBPといった企業が、大手評価会社のMSCIから平均的なスコア「BBB」を得ているのはこのためである。そして、フィリップ・モリスがDJSIに組み入れられた理由もそこにある。同社は先ごろ、「煙のない未来」を明言したが、評価会社はこれを規制上のリスクを軽減していると判断したのだろう。実際には、次世代の製品にも中毒性や有害性を残しているにもかかわらず、だ。

2つ目の問題は、評価会社がそれぞれのESG要素にどれほど重きを置いているかということにある。企業のESGスコアを算出するために、評価会社はさまざまなESG要素について各企業を採点し、それぞれの要素の重要度を決め、その結果を総合してESGスコアを算出する。ESGスコアが高い企業には「AAA」、低い企業には「CCC」が与えられる。このスコアが、ESG指数やESGファンドのポートフォリオ構築の基盤となる。

一見すると正当なアプローチだが、そうではない。なぜなら、人間の判断に委ねられているからだ。ESG情報を入手する機会も一定ではないため、評価者によって非常に大きなばらつきも生じる。そのうえ、企業が複数のステークホルダーに重大な損害を与えていたとしても、ほかのすべての要素が良好であれば、高い総合点を獲得できてしまう。

ペプシコとコカ・コーラの例を見てみよう。両社は、大手評価会社から高いESGスコアを得ている。また、コーポレート・ガバナンスや温室効果ガスの排出量などの評価項目で上位にランク付けされていることなどから、常にESGファンド最大の保有銘柄にもなっている。しかし、両社の本業は、糖尿病、肥満、早期死亡の主な原因である、中毒性のある製品の製造と販売だ。ペプシコとコカ・コーラは、その財力を利用して事業に対する課税や規制を避け、多額の研究費を投じて、自社製品が健康に及ぼす影響から注目をそらせようとしている。現在、糖尿病にかかる費用はアメリカ国内だけでも毎年3,000億ドル以上に上り、両社による人的・経済的損害はその経済的貢献を上回る可能性がある。

また、ESGファンド最大の保有銘柄の常連には、アルファベット、アマゾン、フェイスブックなどのテクノロジー企業も含まれている。この3社が頻繁に高いESG評価を得るのは、温室効果ガスの排出量が少ないと予測されるからだ。しかし、これらの企業が良き企業市民であると考える人は少ないだろう。

アマゾンには、過酷な労働環境や略奪的価格設定などの問題がある。フェイスブックとアルファベットのビジネスモデルには、危険なヘイトスピーチや誤った情報をインターネット上に遍在させるアルゴリズムが利用されており、両社の製品は若者のメンタルヘルス問題を助長している。

この3社はいずれも、学者、政策立案者、ビジネスリーダー、司法当局から、自由市場制度の適切な機能を脅かす独占企業であると見なされている。企業の中核のビジネスモデルがこれほどまでに有害であれば、ほかの評価項目での「善行」で隠蔽することはそれほど容易ではないはずだ。

ESG実績と財務実績は、本当に「建設的な相関関係」にあるのだろうか?

この問題をさらに複雑にしているのが、近年、ESG評価データを用いて、ESG実績と財務実績の建設的な相関関係を示す研究が多数発表されていることだ。その多くが「ESG要素に注力する企業は、より高い利益を生み、投資家へのリターンを向上させる」と結論づけている。

ところが、これにはいくつかの問題がある。1つ目は、この「建設的な相関関係」は、利益の測定方法や該当期間によっては小さく不安定になりやすいということ。2つ目は、相関関係イコール因果関係ではないということだ。ニューヨーク大学スターン経営大学院のアスワス・ダモダラン教授(Aswath Damodaran)が最近のブログ記事で指摘しているように、「成功している企業がESG意識を取り入れることと、ESG意識を取り入れることによって企業が成功することは同じくらいあり得る」のだ。

そして3つ目、これが最も重要だ。それは、建設的な相関関係は、上述のESG評価システムに基づくところが大きく、良いスコアを出すためのハードルが非常に低いということである。実際、ほとんどのESGファンドが過剰に組み入れているテクノロジー銘柄は、何年ものあいだ、市場でより高い実績を上げてきた。これは、こうした企業の増収の多くが、社会的に有害性の高いアルゴリズムによりビジネスモデルを拡大させてきた結果であるという見方もできる。

環境破壊や不平等が明らかに限界点に達しつつあるという現実を前に、こうした問題を懸念する投資家は、自分のポートフォリオにその関心を反映させたいと考える傾向にある。こうした風潮を利用して、ブラックロックやバンガードなどの大手資産運用会社は、ESG指数を反映し、ESG評価の高い企業に投資する数百ものESGファンドを販売し、数兆ドル規模で運用している。こうしたファンドへのドル流入は、2020年の投資信託への純流入全体の25パーセント近くを占め、2018年の約10倍の規模となった。資産運用会社にとって、ESGファンドはうまみがある。その目新しさから高い運用報酬を得ることができるからだ。

「コンシャス・キャピタリズム」の信者にとって、資本の流れの急激な変化は、ビジネスが善を促進する力になり得るということを証明している。しかし、現状のシステムは、多数の有害行為を行う者に合格点を与え、彼らが低コストで大量の資金調達を可能にする。企業のCEOや金融業界の幹部にとっては、儲かるだけでなくあわよくば自分たちのイメージアップになる都合のいい話なのだ。

求められる新たなESG評価システム

こうした諸問題を解決し、企業の行動がESG要素に与える真の影響を定量化するためには、企業が引き起こす「市場の失敗」による経済的・人的・環境的コストを測定する、まったく新しい評価システムが必要だ。「市場の失敗」には、売り手と買い手がそれぞれ競争を制限したり、過剰な力をもったりする「モノポリー(売り手独占)」や「モノプソニー(買い手独占)」、事業によって第三者が直接被害を受ける「負の外部性」、森林破壊や海の汚染、排気ガスによる大気汚染などの「環境破壊」がある。

この新しい評価システムでは、1つの要素で社会的または環境的に大きな損失を出して評価が低ければ、企業は総合的に高いスコアを得られない。たとえば、人間の健康を害する食品を製造している企業は、たとえガバナンスがしっかりしていて、環境に配慮していても、評価は低くなるということだ。

現在は「市場の失敗」が蔓延しているため、この方法で評価されれば、企業のほとんどはESGスコアが低くなり、ESG投資の機会が大幅に減ることになるだろう。そうなると、ESG投資で儲けている投資会社が「コンシャス・キャピタリズム」を名目に得ている高額の運用報酬も含めて、システム全体が機能停止してしまう可能性がある。

だが、それこそが必要なのかもしれない。あまりにも長い間、企業のCEOは、株主の利益を最大化するために「何が何でも成長する」という考え方に従ってきた。壊滅的状況と不正になんら改善が見られないにもかかわらず、現在のESG評価システムによって、企業のCEOは肯定的なイメージを与えられている。このことが企業市民としての責任を曖昧にしている。

しかし、真のESGリーダーになるためには、労働者の賃金を引き上げ、中毒性の低い製品をつくり、環境保護にかけるコストを増やさなければならない。これは、利益を犠牲にすることでもある。ESGに忠実であることは、そう簡単なことではないのだ。

【翻訳協力】トランネット
【原題】The World May Be Better Off Without ESG Investing (Stanford Social Innovation Review, Jul. 14, 2021)
【写真】Sean Pollock on Unsplash

ハンス・タパリア Hans Taparia

ニューヨーク大学スターン経営大学院特任准教授。

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