ソーシャルイノベーション

Thoughts for Tomorrow(5):読書会と金平糖

※本稿は、SSIR Japan 編『スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版 05 コミュニティの声を聞く。』より転載したものです。

井上英之 Hideyuki Inoue

手前味噌だが、僕は、SSIR-Jのコミュニティが主催する、オンラインの「読まずに読める」読書会が大好きだ。本や文章をはさんで、それぞれの距離感で、ゆるやかに自由につながっていく感覚がなんとも心地よいのだ。

この会のことを、コミュニティプロデューサーの井土亜梨沙さんは、案内文でこう表現している。

・・・みんなで時間をつくって、一斉に30分間読み始める(この間、カメラオフ、ミュートになります)。どのページから読んでも、どのくらい読むのかも自由です。そこに正解はありません。その後、読書タイムで得た気づきや心に響いたことを参加メンバーとシェアしていきます。

そのリアル版を、先日、長野県立大学のみなさんと開催した。

主催してくれたのは、大学生のAくんと、大学院生のSさん。ここに、SSIR-Jのコミュニティメンバーである、大学職員のS 氏がコラボして実現した。タイトルは、「コーヒーと本と金平糖」。

金平糖というのは、僕たちが、このコラボをする最初の打ち合わせで決まった。長野の善光寺近くに朝陽館という名の、魅力的な本であふれる小さな書店がある。ここに併設するカフェで飲み物を頼むと必ず、金平糖がついてくる。この金平糖が、なんだかやはり心地よいのである。

当日は、すてきな時間だった。それまでSSIR-Jが発行した5冊の本を並べ、好きな号を選び、気になるページを開いてみる。特定の号の全体の流れを味わう人もいたし、イラストに見入って自分に反映しコメントする人もいた。10人超の学部生や大学院生たちと、地域の人たちが数人混ざっての、静かな読書時間。そして、読書後の対話の時間に、それぞれの感想や物語、浮かんだ疑問や好奇心があふれ出す。そして気づけば、本を超えて、相手の背景や気持ちを傾聴している姿がある。

準備のミーティングを重ねるなか、主催の2人に、なぜ読書会をしたいと感じたのか聞いてみた。

学部生のAくんは、こんなことを言っていた。大学でソーシャルイノベーションを学んでいる学生も、就職活動を前にすると、急に言うことが変わってしまう。ソーシャルなことは学生まで、就職したらもう別のことなんだと割り切ろうとする。でも、大学院の社会人学生や地域の人たちを見ると、身近なところにも、仕事を通じて何らかのことを実現しようと、悩みながらも挑戦している人たちがいる。学部生と彼らが話をするきっかけをつくれないか?

大学院生のSさんは言う。最近、自分が社会のことを話すとき、なんだか話しにくいと感じることがある。ただ自分が感じていることを伝えたいだけなのに、相手を批判しているように響いてしまう。でももしかしたら、本や映画のような、別のものを間に置いて話してみたら、何か変わるんじゃないか。人はもっと余白を持って、それぞれの状況から自由になれるんじゃないか。自分のことを直接話さなくてもいい。本という題材があれば、それに見立てながら、力まず自分の話を伝えたり、余裕を持って互いの話を聞いたりすることができる。

読書会という建て付けなら、誰もが、経験や立場による上下関係や、教える・教えられるという図式でもなく、ただ、自分のことや興味・関心、悩みを話せる。傾聴し、学び合える。地域に学校に、こんな人たちがいるのだとわかる。それぞれに持っている世界観に触れて、同じ題材がこのように見えているのかと、興味深く聴き合える。

本を前にして、参加者は皆、同じ読者であるというフラットな場だからこそ、肩書や立場を横に置くことができる。何より、読書会は目的にゆるさがあるからこそ、膨らみのある創造的な時間が生まれる。

だから、僕たちは、読者会のタイトルを「コーヒーと本と金平糖」にしたんだと気づいた。実は、「勉強会」がしたかったんじゃない。もっと生み出したいことがあったんだ。

大切なのは金平糖だった。この場所に用意した、小さいけれど大事な甘み。それがスペースをつくってくれる。この余白から、予想もしていないことが参加者の間から生まれてくる。それを味わいたかった。本は大切な題材であり、金平糖だった。

そんなことに気づかされる、とてもすてきな時間でした。選書にメンバーの思いがあれば、どんな内容の本を扱ってもいい。そんな「読書会」の可能性、一緒に開拓してみませんか?

「読書会では、どんな発言にも読者自身の世界観がにじみ出るものだ」 

⸻『プリズン・ブック・クラブ』( アン・ウォームズリー)

  

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