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誰が市民社会の基盤を守るのか

誰が市民社会の基盤を守るのか

フィランソロピー(慈善活動)の資金や労力の大半は、地球温暖化や極度の貧困問題など大きく報じられる問題に注ぎ込まれる。その一方で、同じくらい重要でも目に見えにくい問題、たとえばニュースメディアの衰退といった問題は見過ごされがちである。しかし健全な市民社会がなければ、他の重要な問題の解決もきわめて困難になる。

※本稿は、SSIR Japan 編『スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版 01 ソーシャルイノベーションの始め方』より転載したものです。

ブルース・シーバーズ
Bruce Sievers

21世紀における人類の喫緊の課題は何かと問われたら、多くの人は地球温暖化、過剰な人口増加、極度の貧困、核の拡散など、世界中の新聞の一面で大きく報じられる社会問題を挙げるだろう。一方で、市民社会とそれを構成する制度や機関の衰退が、早急に対応を要する緊急課題だと指摘する人はほとんどいないと思われる。

フィランソロピスト(慈善事業家)もまた、メディアで大きく取り上げられることの多い教育、医療、経済開発、環境分野の問題の解決に関心や資金のほとんどを向けている。たとえば、地球温暖化を食い止めるために毎年何十億ドルものフィランソロピー資金が費やされている一方で、民主的な市民社会の本質的な機能であり、環境の未来に重要な役割を果たす市民の意思決定プロセスの改善に向けられる金額は、相対的に少ない。

フィランソロピー資金のうち、市民社会の基礎となる制度や機関への支援、健全な市民社会の価値観や規範の普及に使用されるのはせいぜい数パーセントだ。市民社会への関心の欠如はフィランソロピーの根本的な弱点である。自由闊達な市民社会とそれに付随する要素⸺たとえば十分な情報提供の下で積極的に市民社会に参画する一般大衆⸺が欠けていれば、その他の緊急課題の解決も妨げられかねない。

なぜこのことがフィランソロピストにとってもそれ以外の人にとっても急を要する問題なのか。それは、アメリカの市民社会が加速度的にその健全性を失っているからだ。その兆候は私たちの周りに溢れている。ニュースメディアは商業化し、議会に対する一般大衆の信頼が低下し、市民組織の加入者が減少し、政治的議論においては礼節が失われる一方だ。これらはすべて、市民社会を支えてきたつながりの衰えを示している。

もし市民社会がそれほど重要ならば、その健全性に対するフィランソロピストの関心が、なぜこれほどまでに低いのかと疑問に思うかもしれない。その理由は、社会問題を解決する際に、測定可能で具体的な成果を生み出す応用科学や、投資で用いられる道具主義(インストルメンタリズム)のアプローチが主流となっているからだ。このアプローチは、手頃な価格の住宅の建設や、職業訓練の供給など、成果が測定しやすい場合には有効だが、社会参画の促進や社会的信頼の向上といった、曖昧で測定が困難なタイプの問題の解決には向かない。しかしそうした問題への取り組みこそが市民社会を市民社会たらしめるものなのである。

市民社会の基盤とは何か

フィランソロピストが市民社会に目を向けてこなかった理由と、それを反転させうる方法について掘り下げる前に、まず市民社会とは何かを理解することが重要である。市民社会という概念のルーツは古代まで遡るが、いま私たちが市民社会と呼んでいるものの萌芽は16 ~ 18 世紀の欧州に見られる。この時代は個人主義が発達し、個人の権利、特に信教と表現の自由に対する関心が高まり、国家権力の統制を受けない市民社会の領域が明確になっていった。フーゴ・グロティウス、バールーフ・スピノザ、ジョン・ロック、バーナード・マンデヴィル、アダム・ファーガスンといった啓蒙思想家が、初期の市民社会の要素について考察している。この時代に爆発的に高まった市民社会という概念への関心は、その後長きにわたって後退したが、近年になって復活の兆しが見られる。

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