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雇用における差別はなぜなくならないのか

雇用における差別はなぜなくならないのか

※本稿は、SSIR Japan 編『スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版 04 コレクティブ・インパクトの新潮流と社会実装』より転載したものです。

チャナ・R・ショーンバーガー

雇用における差別は違法である。では、いまだ差別が後を絶たないのはなぜだろうか?

ニューヨーク大学スターン経営大学院の2人の研究者が新たに発表した論文では、その理由を解明するため、偏見と「能力の認識」がどのように影響し合うのかに焦点が当てられた。

できる限り優秀な人材を採用しようとすると、人は、仕事に関連しそうな資質を重視する傾向がある。その資質がたとえ候補者本人がコントロールできるものでなく、法律によって保護されているものであっても、だ。

「我々は、能力主義という基本理念を通じてさえ、差別が強められることを明らかにした。人はそのような行動が差別的ではなく適切で正しいことだと考えるからこそ、差別をしてしまう可能性がある」と同論文には書かれている。

差別がどのように行われるのかを研究するため、テオドラ・K・トモバ・シャクール(経営学博士号候補)と、L・テイラー・フィリップス(経営学、組織学助教)は能力評価の基準となる「制御可能性」と「関連性」という、2つの要素に注目した。2人は、採用責任者が候補者を評価する際、応募者の特性を本人がコントロールできるかどうかに基づいて(体重はコントロール可能とみなされ、人種はコントロール可能とはみなされない)、また、その特性が特定の仕事や業務を遂行する技能に何らかの関連性があるとみなされるかどうかによって(幼い子どもがいるかどうかは関連性があるとみなされ、宗教はそうはみなされない)、応募者の属性を分類することを理論的に説明した。これらの要素のうち、能力主義社会では「関連性」がより重要であると考えられ、そのため大きな影響力を持つ可能性があると2 人は記している。

「仕事への『関連性』は費用対効果と直結するため、選考時に本人にはコントロールできない人口統計学的な属性を用いて判断することも問題ないとみなされる可能性がある」とし、「この論理に従って人口統計学的な属性を用いることの妥当性を判断する場合、『制御可能性』よりも『関連性』の認識が重視されると考える」と書いている。年齢や障害、妊娠、または子育てや介護の責任など本人にはコントロール不可能な「関連性」に基づいた選考は、こうした属性による差別を禁止する法律にも抵触する可能性がある。

2人は一連のオンライン調査を用いて、調査の参加者たちが15の属性をどのように評価したかを確認した。

15の項目は、「年齢、出身校、子育てや介護の責任、障害、学業成績、家柄(姓)、性別、国籍、人脈、身体的魅力、所属政党、人種、信仰、性的指向、社会経済的地位」である。この調査により、採用担当者が、候補者を採用するかしないか、またその理由についてどのように考えているかが明らかになった。

「人は能力主義によって、法律で禁止されている採用基準を用いることを適切で正しいと考えるようになり、差別の存続を許していることが判明した」という。

この研究は、シャクールが「ネットワークのえこひいき(network favoritism)」と呼んでいるもの、つまり過去からのつながりによる「身びいきや縁故主義、縁故紹介」などの差別的慣行をなぜ人がするのかという、シャクール自身の関心から生まれた。シャクールらは、このようなあからさまな選り好みという考え方を乗り越え、差別すべきではないとわかっているにもかかわらず、差別を行った場合に何が起こるかを探り当てようとしている。

「この論文の最も重要な知見は、人は能力主義などの大義名分を用いて利己的な選り好みを隠し、差別的な行動に関与している可能性があるということだ」と彼女は言う。

調査に参加した人たちは、基本的にどの属性が応募者のパフォーマンスに影響を与えるかについて独自のルールをつくり、それを自らの思考の指針とした。「人は、そのような法的に保護された特性がほとんどの仕事に強く関連していると認識しているため、そうした特性に基づく差別を適切で正しいことだと信じている」とシャクールは語る。

この論文が明らかにした驚きの事実は、差別禁止法を理解している参加者でさえ、採用候補者自身のコントロールが不可能で法的に保護されている属性でも、仕事に関連性があると考える場合は、それを重視するのは適切だと感じていることだ。「経験豊富な個人であれば偏見に気づき、それを自制する術を知っていると考えるかもしれませんが、採用担当者は、差別となる可能性のある決定を正当化することがしばしばある」とシャクールは述べている。

この研究は、人は差別をしてはいけないと思いながらもなぜ差別を続けてしまうのかというパラドックスを明らかにしたと、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン経営大学院のフェリックス・ダンボールド講師は指摘する。「これは、人が頭のなかでいかに簡単に『不適切』を『適切』に変換できるかを示しており、差別に対する明確な規範や法律があるにもかかわらず、差別が絶えない理由を説明している」。

この論文は、正義と差別に関する既存の研究に重要な意味合いをつけ加えるものだとして、ダンボールドは次のように語った。「[この2人の研究者は]長い間、公正性の判断基準であると考えられてきた『関連性』と『制御可能性』という要素が単に付加的なだけでなく、前者が後者を上回ってより深刻な結果をもたらす可能性があることを明らかにした」。

【翻訳】杉山次郎
【原文】When Discrimination Meets Meritocracy(Stanford Social Innovation Review Summer 2022)
【画像】kate.sade on Unsplash

チャナ・R・ショーンバーガー

ニューヨーク在住のジャーナリスト。ビジネスや金融、学術研究に関する記事を執筆。

参考論文:Teodora K. Tomova Shakur and L. Taylor Phillips, “What Counts as Discrimination? How Principles of Merit Shape Fairness of Demographic Decisions,”Journal of Personality and Social Psychology , January 13, 2022 (online-first publication).

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翻訳者

  • 杉山次郎
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