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男性がジェンダーバイアスに沈黙してしまう理由

男性がジェンダーバイアスに沈黙してしまう理由

男性が男女平等の支持者である場合それを公に表明しないことが多い。なぜか。

※本稿は、SSIR Japan 編『スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版 01 ソーシャルイノベーションの始め方』より転載したものです。

ダニエラ・ブレイ Daniela Blei

大学で心理学を専攻したルーシー・デ・スーザは、「男らしさ」について興味を持つようになり、文化と「男らしさ」の因果関係を明らかにしてみたいと考えた。彼女は現在、ブリティッシュ・コロンビア大学の博士課程で、男女格差の解消という困難な道のりにおいて、男性が果たす役割に関する研究に着手している。

スーザは、職場、特にSTEM分野での男女間の格差について研究する同大学心理学の教授トニー・シュマダーと共同で、何が男性のアライシップ[疎外された個人や集団を積極的に支援し、その地位を向上させるための行動]を妨げるのかについて調査した。なぜ、男性は公共の場で、女性を支援するために声を上げることが難しいのか。少なくとも個人的には男女平等を支持している男性が、あからさまなジェンダーバイアスを目にして沈黙してしまうのはなぜか?

スーザとシュマダー教授は多元的無知、すなわち「特定の集団内における言動について、自分は受け入れていないにもかかわらず集団内の他のメンバーは賛成していると認識している状態」が果たす役割を検証するために 3 つの実験を行った。

まず、STEM分野における男女格差について、男性は自分以外の男性の男女格差に対する関心を過小評価していないかどうかについて調べた。男性がジェンダーバイアスを助長または容認する元凶になっているのでは、というよくある見方を検証するためである。次に、男女共同参画について、他の男性がどのように考えているかを正確に認識できていない場合、男性(および女性)に何が起こるのかを分析した。他者の考えを誤って認識すると、アライシップを発揮しようとする意思が阻まれてしまうことがあるからだ。

そのうえで、男らしさに対する意識が、男性の行動をどのように制約するかを調べた。彼らの仮説は「男らしさへの自意識」、つまり自身の男らしさに対する他者の評価に敏感な男性ほど、アライシップの実践に消極的であるというものだった。検証の結果、男女ともにジェンダーバイアスに関する男性個人の考えを誤認識していること、それがアライシップに基づいた行動を阻害することが明らかとなった。また、この傾向は、とりわけ男らしさの評価を気にする男性に強いこともわかった。

さらに、スーザとシュマダー教授は、STEM分野で働く男女数百人を対象にダイバーシティとインクルージョンに関するオンライン調査を実施した。まず調査対象者に、自分のジェンダーバイアスに対する認識を確認してもらった後で、他の人がジェンダーバイアスについてどのように考えているか、お互いの認識を共有してもらった。そのうえで、8 つの想像上のシナリオに対して回答してもらい、アライシップの意思があるかどうかを測定した。調査の最後には、男性自身の男性性にかかわる不安の大きさも測定した。

この調査は、スーザの疑念を裏付ける結果となった。つまり、多元的無知がSTEM分野におけるジェンダーバイアスをなくそうとする男性の意欲を著しく低下させていたのである。彼女は「多元的無知の問題は、グループ内の人々が自分の信念に反した行動をとる可能性があることだ」と語る。

多元的無知に関する社会心理学の古典的著作に、大学での飲酒行動を研究したものがある。学生はしばしば、他の学生は酒好きだと思い込み、同調して飲酒するというものだ。だが、その考えは危険な結果を招くことがある。「社会心理学者は、文脈や状況が持つ力を重要視する」と、スーザは言う。「私たちの研究では、まず、人々の信念について尋ねることから始めた。その結果、ジェンダーバイアスに関心のある男性であっても、他の男性もこの問題に関心があると考えている人はとても少ないことがわかった」。自分が認識した(あるいは誤認識した)規範を守るため、男性はジェンダーバイアスの問題について、特に公共の場では他人と対立しないようにすることを選んでいたのである。

今回の研究結果は、STEM分野でより多くの男性を味方につけるための新たな方法を模索する契機となったと、インディアナ大学のレスリー・アッシュバーン-ナルド教授(心理学)は言う。「STEM分野の女性の活動がジェンダーバイアスによって阻害されているという話ばかりしていると、多くの人は男性が加害者であり、ほとんどの男性がこの問題に無関心であると思い込んでしまうのかもしれない。この調査結果が示すように、そういった考え方は逆に、他人の目に自分がいかに男らしく映るかを気にしている男性が女性の味方になろうとするのを妨げる可能性がある」。

研究者の多くは男女のアライシップを広義的に捉えているが、スーザとシュマダー教授は積極的に公表されるアライシップの意思と、個人的に表明される消極的なアライシップとを区別して考えている。アシュバーン-ナルド教授は、「このような丁寧な概念化は、男女のアライシップをめぐる理論の発展に役立つ」と評価する。「研究者は、どのような状況下でどのようなタイプのアライシップが発生するのか、より具体的に予測できるようになる。これによって、新たな味方を獲得するための、より効果的な介入方法を見つけることが可能になるだろう」

スーザらが指摘するように、女性が偏見に立ち向かうのは依然としてリスクが高い。社会を変えていくために味方は欠かせないが、男性がSTEM分野におけるジェンダーバイアスに関心を持ってくれるだけでは、味方が増えたことにはならない。アッシュバーン-ナルド教授が述べるように、「人々は、他の人が口先だけではなく、実際に行動を起こすのを見る必要がある」のだ。

【翻訳】SSIR-J
【原題】When Men Ally with Women(Stanford Social Innovation Review, Fall 2021)
【イラスト】Adam McCauley

ダニエラ・ブレイ

歴史学者、作家、学術書の編集者。

Lucy De Souza and Toni Schmader, “The Misjudgment of Men: Does Pluralistic Ignorance Inhibit Allyship?,” Journal of Personality and Social Psychology, April 19, 2021.

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