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科学の「厄介な問題」とシビックサイエンスをどうつなぐか

科学が急速に発展する時代において、フィランソロピーは「シビックサイエンス(市民科学)」文化の確立に欠かせない役割を果たすようになった。シビックサイエンスとは、科学技術が社会に与える影響について科学者と市民が幅広く対話し、共にその方向性の決定に関わっていくプロセスだ。

※本稿は、SSIR Japan 編『スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版 03 科学技術とインクルージョン』より転載したものです。

エリザベス・グッド・クリストファーソン|ディートラム・A・シャウフェレ|ブルック・スミス

科学は、フィランソロピーの資金援助に支えられながら、世界的なマラリアとの戦いを大きく前進させてきた。世界保健機関(WHO)の推計によると、科学の発展によって2001年以降680万人がマラリアによる死亡を回避した。もし、マラリアの死亡数をゼロにできるとしたら? 2015年には依然として約42万9000人がマラリアで亡くなっており、そのほとんどが子どもである。もし特定の種類の蚊を技術的に絶滅させて、さらに多くの命を救うことができるなら? あるいはその技術が悪の手にわたり、蚊を新たな疾病を媒介する新種の生物兵器に変えられてしまったらどうなるだろう?

将来、臓器移植を待つ必要がなくなるとしたら?アメリカで臓器移植を待つ人の数は、2017年の夏時点で11万6000人を超え、毎日20人が移植を待ちながら亡くなっている。もし、この慢性的に不足している臓器を、ブタの体内で育てることができたら? また、臓器を提供できるレベルまで「ヒト」に近づくよう編集された動物が、一部の倫理学者が指摘しているように脳もヒト化して人間のような意識を持つとしたら? もし、命にかかわる難病のハンチントン病を引き起こす変異遺伝子を持つ人が、その遺伝子を編集して病気を回避できるようになったら? 子どもに引き継ぐ遺伝子を編集し、病気を取り除くことができるようになったら? あるいはそこまで深刻でなくとも、害をもたらしうる特質を取り除いたり、望ましい特質を追加したりすることも可能になったら? たとえば自分や子どもの知性を高められるとしたら? それは許されるべきだろうか。誰がそれを実行するのか? 富裕層だけなのか、一部の国の人々だけなのか? 誰がそれを決めるのか?

CRISPR-Cas9(あるいは単に「CRISPR」)と呼ばれる新しい遺伝子編集テクノロジーの急速な発展に注目してきた人々は、上記すべての可能性が実現に向かっていることを知っている。実現間近なものもあるが、現時点ではまだ夢物語に過ぎないものもある。

非営利の研究コンソーシアム「ターゲット・マラリア(Target Malaria)」は、標的DNAを発見・置換するCRISPRを使って遺伝子を編集し、人間の血を吸わないオスのみを産むハマダラカを誕生させた(マラリアは、ハマダラカのメスによって人に広がる)。この特質は生殖行為を通じて集団全体に広がることになり、この蚊の個体群は最終的に消滅する。2018年初めにはサンディエゴのソーク研究所が、CRISPRを用い、マウスの胚内でラット由来の機能的な膵臓、心臓、眼球を分化させることに成功した。同研究所はさらに、ヒトの臓器の宿主としてちょうどよい大きさであるブタを使い、その胎児のなかにヒトの細胞や組織を作製した。遺伝子を組み替えて知能のような複雑な機能を持つ組織をつくり出す方法はまだわからない。しかしマウスを使った研究では、ハンチントン病の原因となる変異型HTT遺伝子を編集して、この疾患で細胞破壊を引き起こす毒性タンパク質をほぼ除去することに成功している。8月にはオレゴン健康科学大学が、ヒトの胚において、心不全の原因となる遺伝子の編集に成功したことを報告した。

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翻訳者

  • 友納仁子
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