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サーキュラービジネス4つの基本戦略

企業は自社に合った循環型ビジネスモデルを開発し賢く実行することによって環境面でも財務面でもパフォーマンスを向上させることが可能だ。

※本稿は、SSIR Japan 編『スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版 02 社会を元気にする循環』より転載したものです。

ナンシー・M・P・ボケン Nancy M.P.Bocken
サイス・H・J・ジェラッツ Thijs H.J.Geradts

過去8年間の地球の気温はこれまでで最も高く、気候変動による人類への広範な影響は火を見るより明らかになってきている。感染症や干ばつ、海面上昇による洪水の増加。世界中の国々がこうした有害な影響を緩和するための計画を打ち出している。

2019年、欧州委員会は2050年までにクライメイト・ニュートラル(温室効果ガスの排出が実質ゼロである状態)となることを目指す予算1兆ユーロ規模の「グリーン・ディール」計画を立ち上げた。その一部である「循環型経済行動計画」は、生産や工業のプロセスをより持続可能なものにし、環境に配慮した消費を促し、また、資源を可能な限り長く再利用しリサイクルすることによって、廃棄物を削減することを目指すものだ。アメリカではバイデン政権が2021年にパリ協定に復帰し、インフラと持続可能エネルギーに2兆ドルを投資することを約束した。

主要企業も持続可能性に関して、意欲的な目標を設定している。企業は循環型経済(サーキュラーエコノミー)の考え方を取り入れ、加速する気候変動に対応するため環境課題に取り組んでいる。これまでの直線型経済(リニアエコノミー)は、製品をつくるために資源を採掘し、しばらく使用したのちに製品を捨てるという、「採って、つくって、捨てる」経済だった。循環型経済はそこから離れ、製造と消費の新たなモデルを提示する。廃棄物を削減し、資源をリサイクルし、自然を再生するモデルである。

直線型経済から循環型経済への移行を実現するために、企業は次の4つのサーキュラービジネス戦略を用いている。

1.製品当たりの原材料の使用量の削減(資源ループの縮小)
2.製品寿命の長期化(資源ループの減速)
3.原材料の再利用(資源ループの完結)
4.製造プロセスで用いられる天然資源の回復(資源ループの再生)1

これらの戦略によって、企業はコストを削減し、自社の評価を高め、新製品の開発や新市場の開拓を加速することが可能になる2。しかし、サーキュラービジネスモデルに移行する際には、多くの難題にぶつかってしまう3

筆者らは10年以上にわたり、持続可能なサーキュラービジネスモデルを研究し、サステナビリティ事業をリードする企業のマネジャーたちに200回以上のインタビューを実施してきた。そうした経験から、サーキュラービジネスモデルを設計する過程にある企業は、次の3つの分野で問題に直面していることがわかった。

1.市場における付加価値
 そのビジネスモデル戦略は顧客にとって魅力的か
2.技術的な実現可能性
 その戦略は技術的、事業的に実現可能か
3.財務面での合理性
 その戦略で利益を出せるのか

ミシガン大学教授で企業の持続可能性を専門とするアンドリュー・ホフマンが指摘するように、循環型戦略の探求や導入は、従来型の事業手法によって妨げられることが多い。これはソーシャルイノベーションに典型的な課題である4

本稿では、前出の4つのサーキュラービジネス戦略を採用している企業が、どのような問題にぶつかるかを上記の3つの観点から検討したうえで、企業がサーキュラービジネスモデルを採用できるよう、それぞれの戦略の経営的な意味合いと、ベストプラクティスを紹介していく。

4つのサーキュラービジネス戦略

企業が従来から実施している環境対策は、シンプルで安上がりなものが中心だ。たとえば、紙の使用量の削減や、オフィスの照明を自動的に消すセンサーの利用などの直接的なコスト削減につながるものだ。こうした漸進的なイノベーションも必要ではあるが、企業が環境への負荷を大幅に削減するには不十分だ。政治家や環境アクティビストは、企業がより本質的な取り組みを行うよう圧力を強めている。たとえば、原材料を環境に負担のかからないものに変更する、日用品の持続不可能な使い方をやめる、製品をリサイクルする、自然環境を再生するなどである。企業が循環型経済に移行するには、「資源ループの縮小・減速・完結・再生」という、4つの戦略を含んだ、より全体を俯瞰したアプローチが必要になる。

●資源ループの縮小

この戦略は、資源の利用を減らすことによって、製造プロセスの資源効率を高めることを目指すものだ。たとえば、グローバルに展開する消費財メーカーのユニリーバは、同社の「クリーン・フューチャー」戦略で、ホームケア用品の材料となる化石燃料の削減や、再生可能資源への置き換えなどを進めている。製造プロセスからは二酸化炭素を回収して再利用し、再生不可能な化石資源は天然由来のものに切り替えた。たとえば、洗濯用粉末洗剤の材料の1つであるソーダ灰は、二酸化炭素を回収する技術を用いてつくられている。ユニリーバは、こうしたイノベーションによって二酸化炭素排出量を20%近く削減できると見ている。

資源ループの縮小戦略には、新しいデジタル技術と製造技術を活用したプロダクトデザインによって資源効率を向上することも含まれる。たとえば、トヨタ自動車はアメリカのエンジニアリング企業、スリーディー・システムズと組んで、積層造形(3Dプリント)技術を用い、軽量の自動車部品をより効率的に製造している。この取り組みは、2050年までに自動車のライフサイクル全体における二酸化炭素排出量をゼロにするというトヨタの戦略に沿ったものだ。すでに同社の二酸化炭素排出量は、1990年の水準から49%削減されている。

自動車を小型化し、水素を燃料とすることでも二酸化炭素排出量を削減することができる。イギリスのエコ自動車メーカー、リバーシンプルが開発した水素燃料電池車は、重量が590キログラムほどだ。このエコ自動車は、1キログラムの水素で走行できる距離が約320キロメートルと、トヨタの燃料電池車「ミライ」よりもはるかに長い。ミライは重量がリバーシンプル製の車の約3倍で、1キログラムの水素で走れる距離は180キロメートルだ。

●資源ループの減速

この戦略では、製品寿命を長期化することによって、過剰消費を防ぐことを目指す。イーベイ元CEOのジョン・ドナホーは、最も環境によい製品はすでに存在している製品だと主張する。これは、イーベイが創造した、中古品や修復品、ビンテージ品や未使用品を販売するグローバル市場を念頭においての発言だ。イーベイのようなEコマースのプラットフォームは、資源ループを減速させる1つの方法である。

また、企業は消費者に製品の再利用を呼び掛けることもできる。スウェーデンの家具販売会社、イケアは、家具をできるだけ長く使ってもらえるように買い取りと再販売のサービスを提供している。家具の買い取りサービスでは、状態のよい商品であれば、最高で販売価格の50%までの商品券を発行する。

その他の例としては、寿命の長い製品やサービス向けに特典をつけるプレミアムビジネスモデルがある。具体的には、無期限保証、修理サービス、サービス契約の提供などだ。耐久性がある高品質の製品は、購入時には割高でも、保証によって修理なども受けられるので長期的には割安になる。たとえば、オランダのヘルスケアソリューションとエレクトロニクス製品の会社フィリップスは、製品のライフサイクル全体を管理するサービスにより、低コストのヘルスケアソリューションを提供している。これは使用中の医療機器のアップグレードや調整、改修などを実施することで、製品を長く使えるようにするというものだ。

●資源ループの完結

使用済みの製品から原材料を再利用する戦略は、「ポストコンシューマー・リサイクル」と呼ばれることが多い。プラスチックや紙、ガラスのリサイクルは、すでに広く行われている。たとえば欧州では、包装資材の廃棄物の66%がリサイクルされている。

さらに広い範囲でリサイクルを取り入れている企業もある。イギリスの自動車メーカー、ジャガーによる「リアリティ・アルミニウム・プロジェクト」では、アルミ缶や瓶のキャップ、廃棄された自動車などをアップサイクルし、ランドローバーなどの高級車の生産に使っている。これによって同社は二酸化炭素の排出量を最大26%削減できると見ている。

ウォルマートは2025年までに、すべてのパッケージをリサイクルかリユース可能、あるいは堆肥化できるものにする計画だ。アメリカの事務機器メーカー、ゼロックスは、製品の回収プログラムを確立し、自社製品をリサイクルしてゴミとして廃棄されないようにしている。同社は外部のリサイクル会社と協力して、2018年は約27万6000トンの電子機器の廃棄を防ぎ、二酸化炭素27万4000トンの排出を回避した。

●資源ループの再生

この戦略は、企業が生産や流通に利用する環境を改善することにフォーカスする。食品業界においては、大規模で持続不可能な手法、たとえば、単一栽培(同じ土地で同じ作物を何年も続けて生産すること)や広範囲での殺虫剤の使用などによって、世界的に土壌の質が低下している。そのなかで、多国籍食品企業のダノンは、2018年に土壌健全化の取り組みに600万ドルを投資した。これは同社の「農業レジリエンスの強化」という目標達成に向けた動きの1つだ。ダノンは国際NGOの世界自然保護基金とともに、農地と生態系の改善・修復に重点を置くリジェネラティブ(再生)農業のフレームワークを開発し、それによって農家をサポートしている。

イケアも再生戦略を採用している。家具の生産工程で木材などの資源を大量に消費し、それが森林破壊にもつながるからだ。このアプローチの一環として、イケアはアメリカの5つの州で550平方キロメートル近くの森林を購入し、商業的に開発されないようにした。イケアは2030年までに、さらに「クライメイト・ポジティブ」(二酸化炭素の排出量より吸収量のほうが多い状態)になると明言している。そのために、今後も二酸化炭素の排出量削減の取り組みを進めていくことに加え、森林を開発から守るために森林の購入も続けていくという。

資源ループのマネジメント

前述したように、戦略デザインの領域では、「付加価値がある」製品を「実現可能」かつ財務面で「合理的な」ビジネスモデルを用いてつくる必要があるといわれてきた。企業がサーキュラービジネスモデルを設計するにあたって、資源ループの縮小、減速、完結、再生を考えていくときにも、これら3つの要素を検討する必要がある。

1.市場における付加価値
その戦略は顧客にとって付加価値があるか
2.技術的な実現可能性
その戦略は技術的、事業的に実現可能か
3.財務的合理性
その戦略で利益を出せるのか

以下で、4つの循環戦略それぞれについて、これら3つのデザイン要素の観点から考えていく。

資源ループの縮小

●付加価値

資源ループの縮小を通じて資源効率を高めようとする場合、その努力が消費者に知られていない、あるいは見えていなければ、消費者にとってその製品の価値は変わらないといえる。一方で、より少ない資源や異なる資源で製造するとなると費用も変わる可能性が高く、企業は価格の見直しを迫られるだろう。資源ループの縮小によって価格を引き下げられれば、製品は顧客にとってより魅力的なものとなる。あるいは、価格は変更しないものの、より持続可能な方法で製造したことをアピールすることによって、製品の価値を高めることもできるだろう。

価格を引き上げる場合、通常は価格弾力性と顧客の期待を勘案する必要がある。一般的には需要と価格は逆相関にあるが、価格を引き上げながら需要を拡大できる可能性もある。それは、顧客がその事業のミッションの根底にある社会的な目的を評価する場合だ5。一方で、サステナビリティを向上させる取り組みが顧客に容認しがたい値上げや品質低下につながると感じる場合、その取り組みをブランディングに絡めないほうがよいかもしれない。

●実現可能性

資源ループの縮小は、比較的容易に実現できる。社内の研究部門やデザイン部門を通じて、あるいは社外のパートナーと協力しても取り組むことができる。具体的には、製造プロセスの変更や、リサイクルされた原材料の活用、資源の節約につながる技術の導入などを行う。

製品ライフサイクル分析など体系的な分析をすることで、製造過程における資源のムダを削減する機会が見つかることもある。たとえば、飲料メーカーのコカ・コーラは、ライフサイクル分析を行った結果、一部に植物由来の素材を使用した「プラントボトル」を導入することを決めた。これによって非常に短期間で、石油の使用量を従来よりも30%削減することができた。

資源ループの縮小の取り組みにおいてはサプライヤーに注目することもある。アルミニウム業界は、世界的に見てもきわめてエネルギー集約的で二酸化炭素排出量の多い業界だ。アルミニウム大手のアルコアとリオティントは、ジョイントベンチャーを設立し、アルミニウムの溶解プロセスで排出される二酸化炭素を大幅に削減できる技術を商業化した。このことを知ったアップルは、自社の排出量削減のため、またコスト削減のためにこのプロジェクトに出資した。

製品デザインの見直しが必要な場合もある。アメリカのプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)と欧州のユニリーバは、それぞれに洗濯用の濃縮洗剤の開発を進めている。その理由は、濃縮洗剤であれば、小型の容器に入れられるので容器に使う材料が少なくてすみ、また、温度の低い水でも効果を発揮できるので、家庭でのエネルギー使用量を減らせる可能性があるからだ。航空会社のエールフランスKLMは、オランダのデルフト工科大学と組んで、航空機の形を流線型のV字型にしようとしている。こうすることで、飛行中に使用する燃料を20%削減でき、二酸化炭素排出量も減らすことができるという。

●財務的合理性

資源ループの縮小は、多くの場合、コストと資源・エネルギーの節約につながる。たとえば、ユニリーバは同社の工場全体でエネルギー効率を改善することによって、8億7300万ユーロを節減した。また、効率化によってサステナビリティに寄与しているという理由でその製品を従来よりも高い価格で販売することができれば、そこからも利益が得られる可能性がある。2020年にIBMが発表した研究によると、同社の顧客の80%近くがサステナビリティは重要であると認識しており、そのうちの70%以上が、持続可能な製品に対しては平均で35%を上乗せして払ってもいいと考えていることがわかった。

企業に対する評価の向上といった定量化できない効果も、資源ループの縮小戦略を正当化する理由となるだろう。使用する資源や二酸化炭素排出量の削減がただちにコスト削減につながらなかったとしても、環境面でのリーダーシップは消費者に魅力的に映る。この可能性を追求するには、事業評価において、幅広い評価指標を検討する必要がある。たとえば、アメリカのカーペットメーカー、インターフェイスは、持続可能でない原材料の使用をやめた。これによって製造コストが上昇し、短期的には損失を計上することになったが、製造プロセスをよりクリーンにすれば、長期的には企業の評価が高まる可能性が高いと見て、取締役会が承認した。

資源ループの減速

●付加価値

資源ループの減速戦略で製品寿命の長期化に取り組んだ場合、その寿命の長さが製品の差別化要因になりうる6。この戦略で、さらに製品の価値を高めるには、保証や修理、メンテナンスなど、将来志向のサービスが必要になってくる。たとえば、アウトドア製品メーカーのパタゴニアは修理サービスつきの無期限保証を提供している。このサポートは、同社の「買うことは減らし、求めることは増やす(buyless, demandmore)」という哲学に沿ったもので、修理可能な長持ちする製品を提供し、それをレベルの高いサービスで支えている。

しかし、顧客が目先の新しさを強く求める場合、このかたちでの差別化は難しくなる。顧客は最新のスマートフォンやファッションなどを求める可能性がある。こうしたニーズに応えるには、レンタルや中古品売買のビジネスモデルを通じて新しさを提供するという方法がある。レンタルのビジネスモデルでは、顧客に製品を所有してもらうことなく、バラエティに富む製品を提供することができる。2019年には、スウェーデンの小売業者、H&Mが、ファッション・レンタルを試行した。このサービスでは、メンバーは1カ月約40ドルで、同社の「コンシャス・エクスクルーシブ」コレクションのなかから3着までレンタルすることができた。

レンタルなどのサービス型のビジネスモデルは、顧客が商品を所有する必要がなく、製品寿命も延ばせる。そのため、顧客の要求に持続可能なかたちで、なおかつより効果的に応えることができる7。ベビーカーメーカーのバガブーは「バガブー・フレックス」と呼ばれるベビーカーのリース・サービスを提供している。このサービスを通じて顧客は必要に応じてベビーカーをアップグレードし、不要になったら返却することができる。返却された製品は再利用に向けて調整されるので、資源の節約にもつながる。

●実現可能性

資源ループの減速を実現するには、たとえばソフトウェアとハードウェアなどのアップグレードを通じて製品の寿命を延ばし、修理やメンテナンスができるようにする必要がある。技術的な課題やオペレーション上の課題、すなわち、アップグレードやメンテナンスがしやすい設計や、修理のために製品を回収するロジスティクスなどに関しては、社内の研究部門、サプライチェーンの専門家、あるいは社外とのコラボレーションで対応する。メンテナンスと修理のサービスを自社で提供できない場合は、社外のサービスプロバイダーと契約してもよいだろう。たとえばパタゴニアは、オンラインで提供する修理ガイドや動画を制作するため、修理プラットフォームのiFixitと組んだ。これはウィキペディアのような有志のコミュニティである。

専門的なノウハウを獲得するには、ジョイントベンチャーの設立や企業買収という選択肢もある。たとえばH&Mは、スウェーデンのオンライン中古品販売店、Sellpyの過半数の株式を取得した。これによりH&Mは、目標とする「100%循環型のファッション」の一環として、中古衣料品の事業を拡大することが可能になった。

スイスのラグジュアリーブランド・グループのリシュモンは、中古の高級腕時計の売買が行われるイギリスのプラットフォーム、ウォッチファインダーを2018年に買収した。ウォッチファインダーは年間2万個の腕時計を同社公認のサービスセンターで検査・認証し、再販市場に提供可能な状態にしている。この買収によってリシュモンは、中古品市場での事業を活発化し、製品寿命を長期化している。

資源ループの減速戦略でレンタルのサービスを提供する場合、企業は自社製品を売るのではなく所有し続けることになる。それによる法的な課題に加えて、社内のシステムやプロセス、ケイパビリティの問題に対処するため、ビジネスモデルを見直す必要が出てくるかもしれない8。その場合、小規模な実験を行うことによって新しい事業を試し、そこからサーキュラービジネスモデルのイノベーションが何をもたらすかを知ることができる9

たとえば、以前フィリップスの照明部門だったシグニファイは、RAUArchitectsのトーマス・ラウと組んで、企業に「サービスとしての照明(LightasaService)」を販売するテストをした。LED照明は蛍光灯より高額だが、エネルギー効率がはるかに高く、寿命も長い。サービス契約を結べば、顧客は高額な初期投資をせずにエネルギーを節約できる。

シグニファイはサービスとしての照明を販売するにあたって、どのようなサービス契約を設定し、どのように自社の資源計画システム(ERP)を調整すればよいかを決める必要があった。このサービスは顧客企業のエネルギー費用の節減につながるため、販売のターゲットは設備マネジャーではなく財務マネジャーだった。その結果、金融サービスとして打ち出されることになった。また、シグニファイは照明機器などの所有権を保持し続けるので、それに合わせて営業マネジャーたちの教育も行われた。一方、このサービスの提供によって在庫が増えていくことになるため、投資家の不評を買う可能性もあった。そこで、フィリップスはファイナンスの仲介や在庫削減のアドバイスを行う社内の財務コンピタンス・センターのフィリップスライティングキャピタル(現シグニファイライティングキャピタル)を通じて複数の銀行と協力体制を築いた10

●財務的合理性

企業が資源ループの減速から利益を得るためには、製品寿命の長さを根拠としたプレミアム価格をつけるというやり方がある。これによって買い替え市場の縮小というマイナスの効果を和らげることができる。つまり、最初に高めの価格をつけることで、顧客1人当たりの買い替えの回数の減少によるマイナス分を相殺できるのだ。フィリッパコーやヌーディージーンズといった北欧のアパレルブランドは、自社の耐久性の高いプレミアム商品に高めの価格を設定している。また、顧客から使用済みの服を買い取り、それらを再販することによっても、製品寿命の長期化による利益を得ている。

資源ループの減速によって将来の再販が促進される可能性が生まれる一方で、サービス型のモデルを採用すれば継続的な収入がもたらされる。サービス型モデルは、顧客を囲い込み、バリューチェーンにおける垂直統合を実現して利益を生み出す。

イギリスの自動車および航空機エンジンメーカーでもあるロールスロイスが提供する「パワー・バイ・ジ・アワー(power by the hour)」サービスは、エンジンの利用時間ごとに定額の料金を課し、航空機エンジンと部品の交換を行う。所有者が払うのは高性能なエンジンのコストだけだ。この長期のサービス契約は、メーカーとエンジン所有者の利害を一致させる。材料の約半分が新たな部品に再生可能なため製品寿命が長くなる。これは非常に収益性の高い戦略であることがわかっており、同社の売上の70%がサービス・プログラムからもたらされているといわれている。

資源ループの完結

●付加価値

資源ループの完結戦略では、製品の引き取りモデルや回収モデルを用いて製品をリサイクルし、原材料を再利用する。引き取りモデルでは、顧客が使用済みの製品をメーカーに戻すと、それが再利用、あるいはリサイクルされる。たとえば、オランダのアパレルブランド、MUD Jeansは、製品をメーカーが引き取るオプションを提供してリサイクルを促進している。古いジーンズをMUD Jeansに戻した顧客は、次のジーンズ購入時に10ユーロの割引が受けられる。

回収モデルでは、廃棄物を回収して新製品をつくる。貴重な資源を再利用することで、低価格の製品を製造することもできれば、環境問題への取り組みによる社会的評価を期待してプレミアム価格をつけることもできる。

前出のカーペットメーカー、インターフェイスと、ナイロンメーカーのアクアフィル、ロンドン動物学協会の3者によるコラボレーションから生まれたプロジェクト、Net-Worksは、回収されたナイロンの漁網などの海洋プラスチックごみを使って、新しいカーペットを製造している。Net-Worksはフィリピンやカメルーンの漁業コミュニティとも協力して漁網の海洋投棄防止に取り組んでいる。インターフェイスは意図的に自社のカーペットを海のような図柄にデザインし、このサステナビリティ事業を顧客にわかりやすいかたちで伝えている。

●実現可能性

資源ループの完結戦略では、製品のリサイクルのための技術、あるいは回収のロジスティクスにおけるイノベーションが必要になる。また、顧客やサプライヤーとの協力関係を築くなど、バリューチェーンの本質的な変革が求められる場合もある。

ジャガーは、アルミニウムのリサイクルにおいてコストとエネルギー強度(最終エネルギー消費を生産額で割った値)の削減を図り、それがアルミ・サプライヤーのノベリスとの合意につながった。この合意では、ランドローバーの製造プロセスから生じる高品質で高純度のアルミの残余物を、リサイクルできるよう別個に回収することとした。このスクラップの分別プロセスには膨大な労力と製造計画が必要で、また、パートナー企業の足並みをそろえ、品質低下を招かないよう、ステークホルダーの賛同を得ることも必要だった。

リサイクルには、物理的、現実的限界もある。モノは無限にリサイクルし続けることはできない。回収の過程で汚染されることもあるし、複数回リサイクルされれば劣化もする。加えて、回収は常に効率的なわけではない。引き取りのモデルも顧客が製品を戻してくれなければ成立せず、そのために送料を無料にしたり、新製品を割り引いたりするなどのインセンティブが必要になるかもしれない。

コミュニティの関与を通じて実現するリサイクルもある。たとえば、コカ・コーラは非営利団体のキープ・アメリカ・ビューティフル(Keep America Beautiful)、およびザ・リサイクリング・パートナーシップ(The Recycling Partnership)と協力し、クローズド・ループ・インフラストラクチャー財団(Closed Loop Infrastructure Fund)の協力を得て、過去10年間に100万個以上のリサイクル箱を寄贈し、世界で1400以上のコミュニティの住民にリサイクル教育を実施してきた。こうしたパートナーシップによって、リサイクル可能なものがゴミとして埋め立てられるのを防ぎ、その量は3600トン以上になっている。

法制化はリサイクルの普及、企業の誘導というかたちで資源ループの完結推進を支援する。日本が2001年に家電リサイクル法(特定家庭用機器再商品化法)を実施してから、日本の家電メーカーのパナソニックは、どうすればよいリサイクルができるかについて消費者に伝える活動など、リサイクルの拡大に力を注ぎ始めた。

資源ループの完結には企業のビジネスモデルの大幅な変更を伴ったり、社内の組織再編や外部パートナーとのコラボレーションが必要になったりする場合もある。

財務的合理性

資源ループの完結戦略は、直接的なコスト削減につながる。また、どんどん希少になり高価になっていく資源をリサイクルすれば、将来的にもそのメリットを享受できる。たとえば、アルミニウムの将来の入手可能性とコストについて以前から懸念を持っていたフィリップスは、サービス型モデルを拡大し続け、それによって原材料のリサイクルを可能にした。アルミニウムメーカーのノベリスは2011年に、同社の工場で使う原材料は、2020年までにその80%をリサイクルされたものにするという目標を発表した。2018年には、リサイクルされた材料が60%を占めた。アルミニウム価格が上昇していることもあり、1トン当たり推定900ドルのコスト節減が可能になった。

資源ループの完結によって、プレミアム価格をつける、コストを節約する、あるいは、企業の評判が高まることで財務的なメリットを享受することもありうる。たとえば2015年にインターフェイスの営業チームの83%が、Net-Worksのおかげで顧客との関係が強化されたことを示した。その結果、同年の売上が2350万ドル増加した。資源ループの完結は継続的な購入にもつながる。MUDJeansのように、引き取りサービスで、次の購入の際に値引きを受けられるクーポンを発行する方法がある。

資源ループの再生

付加価値

資源ループの再生は環境や社会の改善を目指すもので、これに取り組む企業の責任感を評価する人は多い。環境に配慮する企業と共通の目標を持って事業を行うことがメリットになる場合、再生戦略はBtoB(企業間取引)の場面で特に重要となるだろう。

また、資源ループの再生は、顧客やコミュニティ、NGOのあいだに信頼感を醸成することにもつながる。コカ・コーラなどの飲料メーカーは、水不足を悪化させるとして強く批判されてきた。こうした声に応えてコカ・コーラは、2030水資源保護戦略を立ち上げ、水の入手可能性や水質、エコシステム、アクセス、ガバナンスを向上し、世界中のコミュニティにおける水供給の改善を目指している。

実現可能性

資源ループの再生戦略には、新たなケイパビリティや責任の水準が求められる。そのため、同じ目標を持ち、補完的な専門能力やスキルを持つパートナーとの協働が必要となる。たとえば、スイスの食品コングロマリットのネスレは非営利団体のザーシーズ・ソサエティ(Xerces Society)と組んで、ハチの生息環境を改善し、原材料を今後も確保するため、ハチによる受粉の取り組みを進めている。

製造プロセスで使われた資源を再生するためには、この再生戦略を企業のオペレーションと統合する必要がある、たとえば、ユニリーバのクノール・ブランドは、クノール・パートナーシップ財団(Knorr Partnership Fund)を通じて、サプライヤーやパートナー企業とともに年間120万ドルを共同投資している。同財団は、花を植える、花粉を媒介するハチの巣箱をつくるなどの、持続可能な農業プロジェクトに資金を提供している。

ユニリーバはまた、スペインのトマト農家、およびスペイン鳥類学会と組んで、絶滅の危機に瀕している鳥類、158種類の生息環境の改善に努めている。トマトはクノール製品の主要な原材料で、鳥はトマトに被害を与える昆虫を食べるので、これはウィン・ウィンの戦略だ。鳥の数を増やすことが農作物の成長にも貢献し、それが消費者や消費者向け製品のメーカーにも恩恵を与えるのである。

●財務的合理性

「死んだ地球からはビジネスは生まれない(There is no business to be done on a dead planet.)」環境保護活動家、デビッド・ブローワーのこの言葉が、パタゴニア本社の入り口に刻まれている。持続可能なかたちで事業を行うという、同社のコミットメントの証しである。パタゴニアの食品部門、パタゴニアプロビジョンズは、破綻した世界の食料システムのソリューションとなるために設立された。パタゴニアが選んだ最初の取り組みは、サケの保護だった。サケは自然のエコシステムでとても重要な役割を果たしているが、乱獲によってその数が大きく減少している。環境保護活動家や地域政府との協働によって、アメリカ水域でのサケの生息数は数万匹増えていると同社は推測している。

協働による再生戦略は、新たな収入源を生む場合もある。製糖会社のブリティッシュ・シュガーは、サプライヤーの農家と土壌の改善と保護で協力し合っている。同社は、持続可能な農法に関する専門知識を広める非営利団体の、イギリスビート研究機構(British Beet Research Organization)の創設にも協力した。このコラボレーションを通じて、同社は土壌利用を改善し、テンサイの生産量を向上させ、一方で、生産プロセスで排出される二酸化炭素を使ってトマトを栽培するという、新しい事業のアイデアを開発した。これによって、補助金の削減で苦しんでいる業界で、新しい収入源を確保することができた11。現在、ブリティッシュ・シュガーはイギリスでは大手のトマト生産者となっている。

循環型経済への道

循環型経済は、企業にビジネスモデルの見直しを迫る。では、どうすれば成功するサーキュラービジネスモデルを開発し、実践することができるだろうか。

経営者は、4つの戦略の経営的な意味合いと手法を認識することで、直線型のビジネスモデルをどう変革するか、手がかりをつかむことができるだろう。そして、社会的インパクトと、新しい事業機会の両方の可能性を解き放つことができる。

戦略のなかには、比較的容易に取り組めるものもあるが、企業が十分にビジネスモデルを変革するためには、4つの戦略をすべて組み合わせる必要がある。

たとえば、イケアはその製造プロセスを改善し、再生エネルギーに転換することで、環境への負荷を減らした。これは資源ループの縮小である。また、資源ループの減速戦略として、家具レンタルの取り組みを始めた。さらには、使用済みの家具を集めて再利用、またはリサイクルし、資源ループの減速と完結に貢献している。そして、商業的に開発される可能性がある土地を購入して森林を育て、資源ループの再生に取り組んでいる。この森林は、NGOや政府とのパートナーシップを通じて大切に管理されている。

4つのサーキュラービジネス戦略すべてを同時に検討することが、消費者が望む新製品やビジネスモデルの開発につながる。この総合的な取り組みを通して資源を節約し、コストを削減することも可能である。また、利益率の高い革新的な製品の開発や将来的なサプライチェーンの確保にもつながると同時に、環境への負荷を大幅に減らし、環境にプラスの影響を与えることができる。実際、優れた企業の多くが、サーキュラービジネスモデルを自社のオペレーションに組み込み始めており、これらのメリットを実現しようとしている。

循環型ビジネスへの道は平坦なものではないが、企業がその道を進んでいくことを、未来は求めている。

【翻訳】東方雅美
【原題】Your Circular Business Model(Stanford Social Innovation Review, Spring 2022)

  1. Nancy M. P. Bocken, Ingrid de Pauw, Conny Bakker, and Bram van der Grinten, “Product Design and Business Model Strategies for a Circular Economy,” Journal of Industrial and Production Engineering, vol.33, no. 5, 2016; Jan Konietzko, Nancy M. P. Bocken, and Erik Jan Hultink, “A Tool to Analyze, Ideate and Develop Circular Innovation Ecosystems,” Sustainability,vol. 12, no. 1, 2020
  2. Mark Esposito, Terence Tse, and Khaled Soufani, “Companies Are Working with Consumers to Reduce Waste,” Harvard Business Review, June 7,2016.
  3. Eric Hellweg, “Is Your Company Ready for the Circular Economy?,” Harvard Business Review, January 25, 2013.
  4. Andrew J. Hoffman, “The Next Phase of Business Sustainability,” Stanford Social Innovation Review, vol. 16, no. 2, 2018.
  5. Omar Rodríguez-Vilá and Sundar Bharadwaj,“Competing on Social Purpose: Brands that Win by Tying Mission to Growth,” Harvard Business Review, vol. 95, no. 5, 2017. 邦訳:「社会の理想と企業の成長を両立させるブランド戦略」(ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー、2018年1月号)。
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  8. Mark W. Johnson, Clayton M. Christensen, and Henning Kagermann, “Reinventing Your Business Model,” Harvard Business Review, vol.86, no. 12, 2008. 邦訳:「ビジネスモデル・イノベーションの原則」(ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー、2009年4月号)。
  9. Ilka Weissbrod and Nancy M. P. Bocken, “Developing Sustainable Business Experimentation Capability―A Case Study,” Journal of Cleaner Production, vol. 142, 2017.
  10. Mark R. Kramer, Thijs H. J. Geradts, and Bhanuteja Nadella, “Philips Lighting: Light- as-a-Service,” Harvard Business School Case Collection, 2019.
  11. Samuel W. Short, Nancy M. P. Bocken, Claire Y. Barlow, and Marian R. Chertow, “From Refining Sugar to Growing Tomatoes: Industrial Ecology and Business Model Evolution,” Journal of Industrial Ecology, vol. 18, no. 5, 2014.


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